第百三十三話 四大精霊
◆忍の里
まだ燃え残った廃材が多く残る里の入り口付近に、巨大な施設が出来、その周辺に何軒かの家が立ち並びその一室で、
「父様、ただいま戻りました」
「マーリカ! よく帰ってきた」
マーリカは久しぶりに見る父が、随分と痩せてしまっていることに驚いた。
「傷の方は大丈夫ですか?」
「直哉殿が造ってくれた治療所のお陰で、かなり楽になった」
そんな父を見て、涙が出そうであったが、
「里の復興状況は?」
「まぁ、ぼちぼちだな。里の動ける者は各地に飛んでいるからな」
「そうですよね」
マーリカの頼みで、各地に派遣してもらっていた。
「だが、各地から直哉殿の弟子達が帰ってくるので、その時には終わらせる予定だ」
「私にも手伝えることがあれば良いのですが」
「直哉殿とは上手くいきそうか?」
「大切にしてもらってます」
「そうか、それなら、孫の顔を拝めそうだな」
「えっ? 孫?」
マーリカは顔を真っ赤にして、
「ご主人様とはその様な関係ではありませんよ」
慌てて否定した。
「そうか? お前がそれで良いなら仕方がないがの。だが、良く考えなさい」
「はい。父様」
その後近況報告や今後の事などを話して、マーリカの里帰りは終わった。
◆ソラティア共和国
第二都市アルカティアの傍に造った、前線基地。
「あれ? 誰も居ないな」
「不用心なの」
「廃棄されたのでしょうか?」
直哉達は周囲を警戒後、誰も居ない事を確認した。
「とりあえず、アルカティアへ行ってみるか」
直哉がアルカティアに着くと、様子は一変していた。
直哉達が街の入り口で唖然としているのを、近くにいたおっさんが気付いて話し掛けてきた。
「ようこそ、アルカティアへ!」
「あ、あぁ、どうも」
そう、街には男が溢れていた。
「あれ? 女性達は何処へ?」「あぁ、以前のアルカティアをご存知でしたか」
「えぇ」
「女性たちも居ますよ、ほら」
そう言って、教えてくれた先には女性陣が武具を装備して巡回している姿であった。
「そうでしたか。男性が戻れて良かったですね」
「なんか、このソラティアの救世主が現れて、考え方を変えさせられたとか。良くわかりませんがね」
男はそう言って去って行った。
変わった街を見ていると、見回り中の女性が声をかけてきた。
「あなた方は勇者様ご一行ではありませんか?」
「何処かでお会いしましたっけ?」
直哉は覚えが無い様であったが、フィリアが、
「前線基地で浄化魔法を使った方ですよね?」
「はい! 聖女様には大変お世話になりました」
女性はフィリアと話せたことが嬉しいようで、笑顔でフィリアと話していた。
一通り話した後で、
「ジャンヌ様とお会いになりますよね?」
と、ようやく直哉に話しかけてきてくれた。
「はい。お願いします」
と、頭を下げると、
「わかりました、ついてきてください」
と、上機嫌のまま直哉達を案内してくれた。
◆アルカティア城
直哉達の訪問をジャンヌ達は、多いに喜んだ。
「良く来てくれました!」
「バルグフルより、親書をお持ちいたしました。お受け取りください」
直哉がかしこまって礼を尽くすと、
「勇者殿にその様な事をさせるとは、バルグフルは不遜ではないのか?」
ジャンヌは小声で耳打ちしてきたレベッカを下がらせると、直接受け取りに来た。
その場に控えていた兵士達が、
「ジャンヌ様!」
と駆け寄ろうとしたが、
「良い!下がれ。この者は我等の勇者様である」
そう言ってゆっくりと近付いてきた
「我が国の者が申し訳ない。」
「いえ、当然の判断ですよ」
直哉はそう言って、親書を手渡した。
親書を確認したジャンヌは、
「物資を運ぶ際、ゲートとやらでバルグフルと繋ぐとあるが、我々にも出来るのかな?」
(バルグフルとルグニアはルグニア鉱石で造った扉で出来たのだよな。でもこことバルグフルだと距離があるから上手くいくかわからないよな)
直哉は許可をもらい、扉にゲート付与を始めた。
(ふむ、大丈夫そうですね。足りないのは俺のMPぐらいですか)
「明日には何とかなりそうです」
直哉の回答に、
「では、明日、扉の設置を頼む」
「わかりました」
「ところで、パルジャティアやソラティアへは立ち寄られたのですか?」
「いえ、この後パルジャティア向かい、最終的にはソラティアへ行こうと思っています」
直哉はマップを見ながら答えた。
「先にパルジャティアへ行けばよかったのでは?」
「そう思ったのですが、パルジャティアの近くに造った屋敷は土地が俺の物になって居なかったので、ゲート先に指定できなかったのです」
「なるほど、では、これから徒歩で行くのですか?」
「いえ、数名で空を飛んでいきます。残りはこの街で買出しをしてもらう予定です」
直哉とジャンヌの打ち合わせは続き、その間にささやかながら宴会の準備をしてくれていた。
◆数日後
アルカティアで無事にバルグフルへ繋げる事が出来、リカードの私室ではなく倉庫入り口にだが、パルジャティアへリリとエリザと共に向かい、同じようにバルグフルへのゲートを繋げ終えた。
「そういえば、新しい街が無くなっているのですが、どうしたのですか?」
「民たちと話した結果、ソラティアへ移住した。今はソラティアは移民の街になっておる」
と、良く見ると、直哉の屋敷も解体されていた。
(なるほど、どんなに探しても無いはずだ)
直哉は納得した。
ソラティアへ向かう途中で、水と雷の精霊を見つけてリリと共に究極魔法を刻み込んだ。
心なしか、カソードの腕輪が熱くなった気がした。
ソラティアまで精霊たちを探していたため、結構な日数がかかってしまったが、マーリカとは定期的にやり取りしていたし、ゲート扉を使ってバルグフルに戻ったときなど、フィリアたちと話していたためにそこまで心配されなかったが、苦手とか言ってないで飛ぶ方法を覚えておくのだったと後悔していた。
◆ソラティア国
ソラティアに到着すると、街を守る壁は完全に破壊され、現在は堀だけで守っている。
櫓が申し訳無さそうに建っていたが、何処まで防衛力があるかは謎であった。
街に入るためには橋を渡る必要があるのだが、昼間の時間は設置された状態のままで、夜間になると、その橋が町側に収納される。
直哉達は端の手前に降り、そのまま渡って行った。
「おっ? 旅人かい? 珍しいな」
直哉達に気がついた町の人が声をかけてきた。
「こんにちは! 結構栄えてますね」
男は周囲を見渡し、
「これでですか?」
確かに男が言うように、道はデコボコだし、建物も統一感が無い。
「はい、以前来たときは、人が誰もいなかったので」
それを聞いた男は、後ろに控えていた男に合図すると、後ろの男は上空に向かって音の出る矢を放った。
ピュュュー
「お前たちは何者だ?」
男がドスの聞いた声で聞いて来た。
「俺は直哉、勇者直哉です」
「お前たちも勇者直哉を名乗るのかい。まぁ、今本物を知っている者を呼んでいるから、逃げるのであれば今のうちだ」
男の周りには、周囲に隠れていた男たちが数名集まってきていた。
(この程度、突破するのは容易だけど、騒ぎを大きくする必要はないか)
直哉は、
「それでは、その者たちが来るまで、待たせてもらうとしますか」
そう言って、街の外にコテージを造り出し、そこで休憩することにした。
「ちょっ!? あれ、本物では?」
「本物だったらやばくない?」
「お、おらしらね」
集まっていた男たちの数名は去って行った。
直哉達が旅の疲れを取っていると、
「この非常識な建物は直哉さんですよね?」
外から女性の声がした。
直哉が扉を開けるとそこにはリンダが立っていた。
「あなたは、リンダさん?」
「はい。お久しぶりです。直哉さん。フィリア様はいらっしゃらないのですか?」
「相変わらずですね。彼女はアルカティアかパルジャティアで買い物中か、バルグフルに居る」
「そうですか、残念です」
「ところで、ソラティアの代表に会う事は出来ますか?」
「はい。直哉さん本人である事は私が保証しますので大丈夫です」
そう言って、案内してくれるようであった。
直哉は、コテージを片付けてリンダの後に付いて行った。
橋の周辺には直哉の足を止めた男たちの変わりに、物をねだる人々の列が出来ていた。
「酷い状況ですね」
「はい。定期的に物資が届くのですが、やはり足りないのです」
直哉は周囲を見て、
「何か特産物は無いのですか?」
「まだ、そこまでの研究はしておりません。私たち自身この辺で何が取れるのか等解らない事だらけなのです」
リンダは落ち込んでいた。
「そうですか」
(マーリカ、リカードに繋いでくれる?)
(はい、ご主人様。今なら大丈夫だそうです)
直哉はソラティアの現状を伝え、ソラティア国内のネットワークにゲートの使用許可を得た。
(これで、少しはマシになると良いな)
◆ソラティア城
直哉が城の私室に通されると、そこには爺さんが居た。
「キシリスさん?」
「おぉ、直哉殿ではありませんか! 今度は本物だったようですね」
キシリスは立ち上がろうとしたが、傍に居たガンツが止めていた。
「無理するなよ爺さん」
「ふぉっふぉっふぉ、まだまだ現役じゃよ。お主達が一人前になるまではな」
そう言って、ガンツとリンダ、そしてバールと直哉の知らない数名の男女を見た。
直哉はバルグフルからの親書を渡し、ソラティア国内のネットワークについても打診した。
「それが出来るのであれば、非常にありがたい。我々にとっても物資が不足している事はどうにも出来ないのでな」
キシリスは直哉に頭を下げた。
直哉はソラティア国内のネットワークについて、パルジャンやジャンヌと話をつけ、バルグフルと繋いでいる部屋を繋げることで合意した。
これにより、ソラティア国内は強固な絆で結ばれ、各地方の特産品が次々と産まれるのは、もう少し先の話である。
直哉達は合流したフィリア達と共に、ソラティアで出来ることをやりながら、風の精霊が居るはずの塔を探していた。
フィリアとラリーナ、マーリカはソラティアに残り、リンダたちと共に、炊き出しを手伝っていた。
そんな中、直哉はソラティアよりはるか西の地にその塔を発見した。
「これが、風の精霊が居る塔だな」
直哉はその場所にゲート用の印を刻み、マーリカを通してこの場所へ集合させた。
◆風の塔
塔の周辺には物凄い風が吹き荒れていた。
「凄い風なの!」
「進むのも難しいですね」
「リリは制御できる?」
リリが風の魔法を使おうとすると、
「わぁ!」
一気に暴発した。
「危険ですね」
「まぁ、行ける所まで行ってみるか」
直哉は、巨大な盾を装備して、前に進んだ。
「うわぁ!」
だが、上下左右全ての方向から風が吹き荒れ、盾が吹き飛ばされてしまった。
「うーむ。盾じゃ意味無いな」
「地下から行きましょうか?」
マーリカの力で、地下トンネルを造り進んでいった。
「これなら、楽勝なの!」
リリがそう呟いた瞬間、トンネルの内部に風が吹き始めた。
「まずい、崩されるぞ!」
直哉達は、トンネルを引き返すことにした。
「危なかったの」
直哉達が脱出した後で、トンネルは無残に崩れてしまった。
「どうしましょうか?」
「そう言えば、直哉の先祖はどうやって辿り着いたのだ?」
「うーん、風の塔はどうやってクリアしたかな」
直哉は昔を思い出していた。
◆カソード時代
「やっと見つけた。ここが風の塔か!」
カソードのストレスはマックスであった。
「偽物の塔を造り過ぎだろ!」
あちこちにあった、偽物というか類似の塔はカソードの魔法によって、木っ端微塵になっていた。
「しかし、強い風だな。だが、この程度の魔法なら、俺が制御してやるぜ!」
カソードは魔力を展開して、周囲の魔法と同化させていった。
「ふむ、中々荒々しいな。だが、俺を舐めるなよ!」
カソードがさらに魔力を同化させると、塔の周囲を守っていた風が止んだ。
「ふっ、所詮この程度か」
カソードが鼻歌を歌いながら中へ入ると、中には疲れきった精霊が居た。
「お前が風の精霊か?」
「そうだよ」
「よし、魔法をよこせ!」
「えー、どうし・・・」
いつも通り、おちょくろうとした精霊に、
「いいからよこせ!」
カソードは巨大な魔力で精霊を押さえつけた。
「あいたたたたたたたたた」
風の精霊がジタバタするが、全く抜け出すことが出来ずにいた。
「どうだ、よこす気になったか?」
「わかった、わかったよ」
風の精霊は泣きながら謝った。
「一つ聞くが、本来の強さは、もっと強いのか?」
リカードの言葉に最初意味が解らなかったが、
「勿論! 解放してくれればもっと力が出せる!」
「そうか。その時はまたやろう!」
そう言って、究極魔法をもらった。
◆現在の直哉
(魔力の同化か)
「リリ、魔力の同化は出来る?」
「同化?」
「そう、こんな感じで!」
直哉は、火の精霊のところで覚えた、魔力操作を使い、風の魔法と同化していった。
「す、凄いの! お兄ちゃんが風になっていくの! リリもやるの!」
そう言って、リリも真似し始めた。
昔はカソード一人で何とかなった風の試練も、今ではリリと二人なら何とかなりそうであった。
「そのまま一気に同化するよ!」
「はいなの!」
二人の魔力を受け、風が収まった。
「おぉ!」
「風が収まった!」
「これで、クリアのはず、中に入ろう」
直哉達が中へ入ると、つかれきった精霊が佇んでいた。
「貴方が、風の精霊ですね」
「そうだよ」
「よろしければ、究極魔法を教えていただけないでしょうか?」
「えー、どうしようっかなぁ」
風の精霊はいつもどおり、おちょくることが出来て、内心喜んでいた。
直哉はカソードの腕輪を見せて、
「俺は、カソードの意思をついで来ています。是非その力をお授けください」
「な、何だって!?」
風の精霊はその腕輪をじっくりと見て、
「確かに、カソードの腕輪、と、言う事は、貴方があのカソード様?」
「えぇ」
直哉が微笑むと、
「ひぃぃぃぃぃぃぃ。直ぐにでもお渡しするので、潰さないで!」
風の精霊は泣きながら、直哉とリリに風の究極魔法を伝授した。
(これで、ようやく四大精霊が揃ったか)
直哉がカソードの腕輪を見ると、光り輝いていた。
「お兄ちゃん、腕輪が光っているよ!?」
「これは、カソードの腕輪?」
直哉が触れて見ると、
直哉の頭に替えが響いた。
「ようやく四大精霊と契約したな、俺の知識を継承する準備が出来たわけだ」
「お前は、カソードか?」
「そうだ、我が意思を継ぐものよ。と、その前にお前は魔法職ではないな?」
「はい」
「嘆かわしいことと、言いたいが、鍛冶職人みたいだな」
「良く解りますね」
「俺の究極魔法に足りなかったものが、鍛冶職人なら作成することが出来る」
「ですが、俺は魔法を使えませんよ?」
「ん? 何を言っておる、俺の腕輪の力で解放すればよい。《カソードの記憶》を解放できれば俺が覚えた魔法やスキルを全て使えるはずだ」
「そんな項目無いのですが」
カソードは直哉を見て、
「ちっ、システムの横槍か」
「システムの?」
カソードは直哉に手を当てて、
「少し荒療治になるぞ、周りの時間は止めておくから心配するな」
そう言って、物凄い魔力を直哉に流し始めた。