第百三十話 火山の主
「まずは、この身体の現在の力を試して見るか」
魔王は闇の衣から闇の剣を造り出し、冒険者たちに踊りかかった。
「速い! 散開!」
リーダー格の戦士の前に盾役の二名が立ち、防御した。
残りの戦士は魔王の周りを囲むように立った。
さらに、その周囲にハンターが、最後方に魔法使いが立ち詠唱を開始していた。
魔王はお構い無しに盾役に突っ込んだ。
「ふん!」
ガン!
魔王の攻撃は弾かれ、その隙を付いてリーダーを含む戦士たちが連続で攻撃を仕掛けた。
「うりゃ!」
「そりゃ!」
「とりゃ!」
周囲から連続で切り裂かれる魔王。
「うざいな」
たまらず上空へ飛ぶと、そこに矢と魔法が飛んできた。
「ふむ」
魔王は闇の衣を濃くして、全ての攻撃を受け止めた。
「威力は弱いが、なかなかの連携だな。次はもう少し強く行くか」
魔王はもう一度突っ込んだ。
「何度やっても同じだ!」
リーダーが叫ぶと、盾役が前に出た。
魔王は気にせずもう一度突っ込むと、
ドガン!
「ぬぐっ」
盾役が、体制を崩していた。だが、抑えることには成功していたので、戦士達は攻撃を開始していた。
「甘いわ!」
だが、今度は魔王がその攻撃に対応してきた。
「ぐぁ!」
「ぎゃぁ!」
「ふぁべっ!」
一瞬で五名もの戦士が吹き飛び、包囲に穴が出来た。
魔王は闇の剣を振り、
「この程度か?」
と、挑発した。
リーダーは冷静に周りを見て、吹っ飛んだ戦士達は全員無事で回復薬を使用しているのが見えた。
「ならば、私が行くぞ!」
剣と盾を構えていたリーダーは、盾を捨て、剣を両手持ちに切り替えた。
「ほぅ」
魔王は目を細めて、
「その構えは、剣聖か?」
リーダーはニヤリと笑い、
「知っていたか。お前たちはあっちを殺れ、こいつは俺が殺る」
リーダーの命令に、
「はっ」
残りの者はガナック達の方へ行った。
魔王はそれを無視し、
「これなら、少しは力を出しても良いかな?」
魔力を体内で濃縮させ、身体強化を図った。
「はぁ! 行くぞ!」
リーダーも自らの気を全身に纏い、己の身体強化を図り魔王へ突撃した。
ガン! カン! スカ! ザシュ! ガン!
剣と剣がぶつかる音、攻撃が避けられる音、身体を斬られる音が続いていた。
攻撃を避けているのはリーダー、斬られているのは魔王。これだけであれば倒されるのは魔王であったが、
「なかなか楽しませてくれるな」
魔王は斬り合いを楽しんでいた。
「ふむ。なかなか手強いな」
リーダーも感じていた。今まで剣の道を突き進み、幾度と無く居た強者たち。だが、魔王はそれをも上回るほどの何かを秘めていた。
「剣術は未熟、だが、それ以外の未知なる力で総合力では、お主が上か」
「ほぅ、我の本質を見抜くか。面白い。なれば一気に決めさせてもらう」
魔王は内包していた魔力を解き放ち、今までの中で一番の速度で突撃を開始した。
「迎え打つ!」
リーダーも剣を構え、迎撃体制に入った。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ザシュッ!
二人の剣はお互いを貫いていた。
魔王は貫かれた自分の身体を見て、
「ほぅ、我に傷を付けたか、ますます面白い」
リーダーはニヤリと笑い、
「かはっ」
大量の血を吐いた。
「ここまでか。だが、楽しかった・・・・ぞ」
リーダーは気絶した。
「このまま殺すのは惜しいな」
魔王は、闇の力を使い傷を塞いだ。
「まだ、息はあるな? ガナック! ゲートを開け、この者を我が駒とする」
ガナックはそれを見て、
(ちっ、厄介な者を引き入れる気か)
「はっ! ゲート!」
魔王の傍にゲートを展開した。
それを見た冒険者達は、
「待て! 逃げるのか!」
「リーダーを置いて行け!」
それを聞いた魔王はニヤリと笑い、
「光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、永遠の闇へ誘う死の霧を!」
物凄い闇の力がバルグの街を襲う、
「デスクラウド!」
その闇の力は、死の雲となりバルグの町を襲い掛かった。
魔王の魔力で放った死の雲は、力なき者達を飲み込み、一気に死へ誘った。
冒険者たちも抵抗虚しく、魔王の魔力の前にひれ伏し、そのまま息絶えた。
この日、噴火の被害が来る間も無く、全ての生命が消滅した。
「流石は魔王様です」
(冥福を!)
ガナックは魔王に従い、四天王を連れてゲートを潜った。
◆バルグフル
各方面の報告を受けていたリカードは、
「あの噴火はいつまで続くのだ? このままでは、民が不安がってしまう」
既に、噴火が始まり三時間が経過していた。
「火山弾、さらに接近! 観測によると着弾予定は数分後! 一つは異常に大きいが、これはバルグフルの手前に落下する模様。残りは、ドームで防げるとの事です」
「わかった、引き続き報告を頼む」
「はっ!」
この時、城に詰めていた者達は直哉を除き気を抜いていた。
直哉は何かを察知したようで、エリザとマーリカを北側に動かし、飛来する巨大な火山弾を見てもらうことにした。
「リカード、嫌な予感がする、いつでも動ける様にしておいてくれ」
直哉の言葉に周りの兵士達がざわついた。
「なっ! 王様に何と言う言葉を!」
「王様に対して、不敬であるぞ!」
(今は有事でしょ、そんな事言っている場合ではないと思うのだけどね)
直哉は兵士達の叫びに、心の中で反論しておいた。
「構わぬ、彼は私の友で、勇者である直哉だ。お前たちのその発言こそが不敬である」
リカードの言葉に直哉は、
(そういう問題でもないのだけどね)
「ともかく、飛来している火山弾で巨大なものがあると聞きました。それを調べてもらっています」
「何か、問題なのか?」
「火山から来る大型の生命体に心当たりがある」
直哉の発言にリカードは、
「生命体だと!?」
「違ったら良いのだけどね」
(予想以上の事態になりそうだな。このまま何も無ければ楽だったのにな)
直哉がそう考えていると、
(ご主人球!)
(あぁ、その慌てようは悪い予感は的中してしまったかな)
(巨大な火山弾の正体は、ドラゴンです! 真っ赤な!)
(やっぱり来たか)
「リカード、来たぞ。レッドかファイアのドラゴンだ」
直哉の報告に、リカードよりも周囲の兵士たちが騒ぎ出した。
「ド、ドラゴンだと?」
「物語に出てくる、空想の魔物ではないのか?」
「か、勝てるわけが無い」
「リカード、俺は行ってくる。後は任せるよ」
直哉はそう言ってゲートを造り、仲間の待つ屋敷へ戻った。
◆直哉の屋敷
直哉はみんなを呼んでマーリカからの報告を伝えた。
「ま、真っ赤なドラゴン??? リリが行かなくちゃ駄目なの!」
直哉の思った通り、リリが暴走し始めた。
直哉は今にも駆け出しそうなリリを抱きしめて、
「リリ、勿論来て貰う、だが、俺の指示通りに動いてくれ。悪いようにはしないから」
リリは直哉の匂いをかいで、
「わかったの。お兄ちゃんの指示に従うの」
と、力を抜いた。
「まずは、先行しているエリザとマーリカに合流する。その後、俺、リリ、エリザで上空からドラゴンを叩き落します。その後ラリーナは地上にて攻撃を、リリを追撃してもらい二人でドラゴンを食い止める。俺とエリザは上空から援護射撃を、フィリアとマーリカは地上から二人を援護する。大まかな作戦は以上! 何かある?」
「リリは問題ないの!」
「街からの援護が来た場合はどういたしますか?」
「かなりハードだが、何とかなるかな?」
「街からの増援があった場合は、その場で指示を出します」
直哉は、ミーファにもドラゴン襲撃の事を伝えておいた。
「最悪は、海岸のほうへ逃げておきます」
「皆さんを頼みます」
直哉は出来だけの指示を出してから、小刻みにゲートをつなぎマーリカ達に合流した。
◆対ドラゴン戦
直哉はエリザ達に合流すると、飛来する火山弾を見た。
「あれは・・・、リリのドラゴンよりも大きいな」
それは、四足で長い首と尻尾を持ち、背中から大きな翼が生えていてそれで飛んでいるようであった。
「パパの仇? 何か違う気がするの」
「直哉様の身は私が守ります」
「相手にとって不足無し!」
「わらわの力その身で味わうが良いのじゃ!」
「ご主人様は必ず守る!」
かなりの距離があったが、物凄い速度で襲撃してきているために、戦いは始まった。
「みんな作戦通りに!」
「はいなの!」
「行くのじゃ!」
リリとエリザが空を行き、ラリーナ達が地上を走っていった。
「まずは、わらわから行くのじゃ!」
エリザは飛びながら矢を放った。
トストストストス!
エリザの力で放った矢は通常の矢よりも強く、ドラゴンのウロコを貫通していた。
「グルゴォァァァァァァァァァ!」
ドラゴンにとって、人間は食料同然だと思っていたが、予想外に痛みが走ったため、目の前に飛んできているピンクの物体に憎悪のエネルギーをぶつけた。
「ちぇっすとー」
だが、リリは止まらない。
ドラゴンはもう一度咆哮を上げた。
「ガァァァァァァァァ!」
咆哮の直撃を喰らったリリであったが、
「そんなの効かないの!」
ドラゴンの記憶では、咆哮を浴びた人間は恐慌をきたし、戦闘どころか行動不能に追いやれるハズであった。
リリは氷の魔法を拳に纏い突撃すると、ドラゴンが右腕を振って攻撃をしてきたので、その腕に攻撃を仕掛けた。
「ちぇっすとー、氷結クラッシュ!」
ドゴッ!
分厚いタイヤを太い金属の棒で殴ったような音が響き、
「ガァァァァァァァ!」
ドラゴンが悲鳴をあげていた。
ドラゴンの右腕は砕けなかったものの、完全に凍りつきなかなか回復できないでいた。
「もう一丁なの!」
リリが氷の魔法を使い、さらに追撃しようとした時、ドラゴンは進行方向を上空へ変化させ、距離を取ろうとした。
「甘いのじゃ!」
そこへ、エリザが放った矢がドラゴンの翼に集中してその翼を傷つけた。
「グルガァァァァァァァ!」
翼を傷つけられても痛いようで、大きな叫び声を上げながら落ちていった。
「よし、このまま地上に押さえ込む!」
直哉は上空からマリオネットを展開させ、大量の防衛網をドラゴンへ向けて放ったいった。
ドラゴンは、防衛網という未知の攻撃を見て、慌ててそれにブレスを吐き付けた。
「ガァァァァァァァァァァ!」
ドラゴンのブレスは強力な火のブレスで、防衛網を軽く焼き払い直哉に肉薄していた。
「やばっ!」
咄嗟に盾を取り出し、防御したが、
「まじか、盾が解けてやがるし、あちこち熱くて痛い。まずい、ゲート!」
直哉は、身体中に火傷を追いながらゲートを開き、フィリアの元へ逃げ込んだ。
「直哉様!」
「ご主人様!」
直哉にフィリアとマーリカが駆け寄り、マーリカは土遁で障壁を作り、フィリアは治療を開始した。
「お兄ちゃん?」
「よくも、直哉殿を!」
ドラゴンはようやく一人倒したと思い、少し気が晴れていて、リリに対して同じようにブレスを吐きかけた。
「それは、もう見たの!」
拳に纏っていた魔力を周囲に展開して詠唱を開始した。
「氷を司る精霊よ、我が名の下に集いその力を示せ! 我が名はリリ。ここに集いし精霊に命ずる! 目の前に広がる色彩豊かな世界を白銀に変えよ! 全ての動きを止める輝きを!」
リリの魔力によって、周囲の温度が一気に下がっていった。
「アブソリュートゼロ!」
ドラゴンのブレスに向かい、リリの氷魔法が炸裂した。
ドラゴンは驚いていた、自分のブレスがたかが人間一人の魔法で防がれるとは思ってもいなかった。
「落ちるのじゃ!」
リリとの攻防が互角でも、その間にエリザから恐ろしい数の矢を放たれ、翼の再生が間に合わなくなっていた。
ドラゴンは、一時撤退しようと思ったとき、周囲に変な魔力を感じていた。
もちろん、直哉の開いたゲートである。
「リズファー流、瞬迅殺からの、第一奥義、大地割り!」
ドラゴンの死角に造ったゲートからラリーナが飛び出し、一気に尻尾を切断した。
「グルガァァァァァァァァァァァ」
ラリーナはドラゴンを蹴り、ゲートに退避した。
ドラゴンが痛みによってブレスを中断した結果、リリの氷魔法がドラゴンに襲い掛かっていた。
「ガガガガァァァァァァ!」
激しい痛みが身体中を襲うドラゴン。翼が完全に破壊され、尻尾も切られた今、飛ぶことも出来ずにこのまま押し切れるかと思ったが、先にリリの魔力が尽きた。
「まずい、ゲート!」
直哉は、リリが落下しているところにゲートを開き、リリを回収した。
「ならば、とどめ!」
落ちてくるドラゴンにラリーナが走っていった。
「援護するのじゃ!」
エリザは槍を装填して、弦を引いていた。
落ちているドラゴンは、地上から近づく影を発見し、最後の力でブレスを放った。
「何!?」
ラリーナは来ないと思っていた反撃に、対応が遅れた。
「ちっ!」
慌てて飛び上がったが、両脚を酷く焼かれていた。
そこへ、エリザから放たれた槍がドラゴンの口を塞ぐように突き刺さった。
ラリーナは、気力を振り絞り銀狼化して、回復しきらない足を使いながらドラゴンに飛び掛った。
「リズファー流、第一奥義! 大地割り!」
ラリーナの長巻はドラゴンの首を完全に切断した。
ドラゴンはそのまま地上に落下して、その生涯を終えた。
それを見ていた、バルグフルの民達は、
「ド、ドラゴンを倒したぞ!」
「いやっっったーーー!」
「さすが勇者様だ!」
「我々の希望だ!」
大騒ぎであった。
ここに、バルグフルにおこった【火山の噴火による被害を最小限に抑えよ!】に対するクエストは終了した。