第百二十九話 噴火と魔王
その日はドラキニガルの料理が振る舞われた。
「これは旨い!」
「これが、安く食べられるのか!」
避難民達から大絶賛であり、炊き出しをしていた使用人達にも好評であった。
噴火までの数日間に直哉はドームの完成や、食料問題、領地内での新事業などの対応に追われていた。
(ご主人様! 溶岩トンネルの拡張が終了しました。最初の大きさの五倍は広げました)
(ありがとうマーリカ。そこまで広げて、現在どの位の量が流れているの?)
(現在半分ほどの量で落ち着いています)
(了解した。戻って休んでくれ)
(承知)
直哉がマーリカとの会話を終わらせると、領地の奥に配置していた領民が走ってきた。
「伯爵様! オークの長がいつもより多くの肉を持ってきています。伯爵様を呼んでおります。対応をお願いします」
「わかった。今行く」
直哉は領地の南側の交易所へゲートを開いた。
直哉がゲートを潜ると、いつものようにオークの長がオークたちを引き連れてやってきていた。
「おぉ! ナオヤ! 相変わらず凄いな」
「今日はどうしました?」
「これ、俺たちからの、感謝のしるし」
そう言って、いつもの肉をさらに数頭分持ってきた。
「ん? そういうのは、実際に捕れてからで良いのに」
「俺たち頭悪い。良く騙される。騙す人間きらい。でも、ナオヤちがう。肉を増やすための、土地を広げ、守るための、力をくれた。俺嬉しい! だから感謝する!」
この間のゴブリン、コボルト、オーク達は直哉の領地と交易をすることになった。
三つの集落は肉を提供し、直哉は海鮮物を提供する。
さらに、直哉は三つの集落へ行き、巨大なイノシシの放牧範囲を広げ、魔物から守るための工夫や、武器を贈った。これにより、三つの集落は安定し、より多くの肉を生産できるようになったのである。
次に海の開発について。
先ずは、大規模な施設の建造(国営)、小型の漁船や釣り道具の開発に力を入れた。
船の耐久テスト中に、沖合いで巨大なサメもどきに襲われ、犠牲者がでた。
そう、あれはルグニアから持って来た中枢部の交換作業を終えて、動作確認している時であった。
「た、大変だ! 魔物だ! 魔物が出た! 海に魔物が!」
そう言って、両腕を包帯で固定された男が走ってきた。
「きょ、巨大な魔物に船事数名やられた」
「なんだって! ベドジフすまない。ここは任せる、俺は海へ行ってくる」
「はっ、はい! お気をつけて!」
「君は冒険者ギルドに連絡を!」
「はい!」
直哉はベドジフと近くにいた冒険者に言付けして、マーリカを呼び出した。
(マーリカ、聞こえる?)
(ご主人様、何でしょうか?)
(海に巨大な魔物が出たらしい、至急みんなを集めてくれる?)
(承知いたしました。私も直ぐに参ります)
直哉はその場で、土地タブから海岸を選び、ゲートを開いた。
◆バルグフル海岸
直哉が海岸へ到着すると、かなりの沖合いで船に、青黒い巨大な蛇が絡み付いているのを確認した。
「なんだあれは? 邪悪な蛇神みたいなやつだな」
そこへ、冒険者風の男が走ってきた。
「は、伯爵様! お助けください! まだ、あの船には俺の仲間が居ます。このままでは、船ごと海に引きずりこまれます」
「わかった」
直哉は船を目視して、ゲートを開いた。
「よし、入り口が近くて助かった。おーい! 誰か居ないのか? 生存者は?」
直哉が大声を上げると、船内から男達が這いずり出てきた。
「お、お助けください。中には動けない仲間がいます」
直哉は、男達に回復薬を渡して、
「とりあえず、この回復薬を飲んでください」
顔だけゲートをくぐり、
「船内に仲間が取り残されているそうです、動ける方は手伝って貰えますか?」
海岸のゲートから顔だけ出してそう言うと、
「わかった! 俺が行く!」
海岸で直哉に助けを求めて来た男がゲートをくぐって来た。
船内の避難が完了すると、
「これで、船内に残っていた者は全員です」
「それなら、貴方も戻ってください」
直哉は最後の男がゲートをくぐるのを確認すると、そのゲートを閉じた。
「あぁ! 伯爵様! お戻りください!」
海岸の方から大きな声が聞こえてきたが、直哉は大きなヘビを見上げていた。
「とりあえず、いつも通りにやってみますか」
直哉はマリオネットで火炎瓶を展開させると、蛇に斬りかかった。
ザシュ!
「ぎゃーっす」
身体を斬られるとは思っていなかったヘビから苦痛の悲鳴と、怒りの視線を感じた。
直哉が斬りつけたヘビの身体から血が出ていたがすぐ止まり、船を巻いている力が強まった。
「凄い回復力だな、それなら焼くか」
直哉はいつも通り、剣で斬った傷口に火炎瓶を投げつけた。
「ぎぎぎゃーっす」
さらに痛みを感じ、それが強烈になった。
船に巻き付いていた身体が緩み、蛇と船の間に隙間が出来た。
「よし、これならダメージを蓄積させられそうだ!」
直哉は更なるアイテムを造り出していた。
蛇は怒りながら直哉を見て、小さき者と判断し丸飲みにするため、口を開けて狙いを定めていた。
そして、直哉めがけて口を大きく開き襲いかかってきた。
「コレでも喰らえ!」
直哉は硬い木で出来た大きな樽を造り出し、それをヘビの口に押し込んだ。
ヘビは、樽を口にはめたまま、直哉に襲いかかった。
「あ、やば!」
直哉が避けると、ヘビが船の甲板を突き破り船内に頭を突っ込んだが、その勢いで樽が口の中に完全に収まってしまい、それが引っかかって、甲板から顔が取れなくなっていた。
「ふぅ、危なかった。じゃぁ、後は仕上げかな」
直哉は靴に仕込んだ風の石を起動させ舞い上がった。
「この位離れれば良いかな?」
そう言って、ヘビの頭にある樽の中にゲートを開いた。
「ゲートイン、ゲートアウト!」
樽の中には火炎瓶の中身だけが詰め込まれていた。
「おぉ、やはりこっちだと中身が出てこないのだな」
そう言って、火の石を取り出して火種を造りゲートに投げ入れた。
直後、もの凄い爆発がヘビの頭から起こった。
「うわー」
その勢いで、直哉は空高く舞い上がった。
「予想外の威力だな。だが、完全に撃破したな」
吹っ飛びながらも、キラメキながら消えていくヘビを見届けていると、信じられない光景を目にした。
「あ、あれは!」
今まで、ヘビが襲いかかっていた海域に新たなヘビが数匹泳ぎ回っているのが目に付いた。
(あれほどいては、漁にならないのではないのかな?)
直哉は吹き飛びながら考えていた。
(むっ? そろそろ最高点だな)
直哉は下方向に風の石を起動し、平行移動を保つ事に成功した。
(後は、方向転換して戻るだけだな)
直哉が海岸へ戻ろうと方向転換しようとした時、北の山のほうに煙が上がっているのを確認することが出来た。
(あれは、噴煙? まさか、早まったのか?)
そう考えながら海岸へ戻って行った。
「あー、お兄ちゃんが帰ってきた!」
「直哉様! ご無事ですか?」
「ようやく帰ってきたか!」
「あぁ、直哉殿! 本当に良かったのじゃ!」
「ご主人様!」
直哉は仲間に迎えてもらった。
「みんな、心配かけたね。でも、俺は平気だよ。それより、敵が大量に居たのだけどどうなった?」
「お兄ちゃんが戦っていた海域に居た蛇達は、リリとエリザお姉ちゃんで全部殺ったよ!」
直哉は呆れながら、
「まじか・・・」
周囲を見ると、救出した船員たちをフィリアが治療していたようで、みんな動ける様になっていた。
「伯爵様。ありがとうございました。数名は海に飲まれてしまいましたが、救出していただいた者達は、皆回復いたしました」
「あっした!」
船員たちが頭を下げてきた。
「よかった。それで、何があったのですか?」
「漁船が完成したので、耐久度のテストを兼ねて沖へ出たのですが、沖で加速や旋回のテストをしていたら、突然あの蛇に攻撃されました」
「と、言う事は、あの海域は危険と言うことですね」
「はい。ですが、危険と言ってしまえば、どの場所でも危険なので変わりませんよ」
「そうですか。わかりました、ですが無理はいけませんよ。冒険者ギルドの方で調整してもらいましょう」
直哉はそう言って、その場を離れた。
◆バルグフル 直哉の屋敷
直哉は風呂に浸かりながら、ここ数日の成果を振り返っていた。
(やれる事は全てやった。だけど、本当にこれで防げるのか、そしてバルグに関しては何も出来なかった。これがどういう影響を及ぼすのかそれだけが不安だな。とりあえず、噴火から守るクエストが終了したら、クエストを確認しよう)
直哉は風呂から上がり、明日の噴火に備え、早めに寝ることにした。
◆?????
薄暗い部屋に真っ白なワンピースを着た一〇歳位の女の子が、部屋にある大量のモニタを見ながら怒っていた。
「全く、何なのあの男! こっちの予定が狂いっぱなしじゃない! あー、頭くるな! 私の造った世界なのに、ここまで思い通りに行かなかったのは初めてよ。うーむ。直接操作するにはエネルギーが足りないのよね。南の島をもっと改良しようと思っているのに、エネルギーをまわせないじゃない! 魔王がもっと使えると思ったのに、もっと人口を減らさないと資源が無くなっちゃうよ。全く使えないんだから」
ぶつくさ言いながらコンソールを操作していた。
◆魔王城
「何故だ! 何故ここまで劣勢なのだ!」
(ふふ、直哉のやつめ、ここまでやるとは意外だった)
ガナックはほくそ笑みながら、
「如何いたしますか?」
魔王は爪をかみながら、
「こうなれば、余が出よう!」
「私も出てよろしいのですか?」
魔王は容器に入った四天王を見ながら、
「今回は、許す。どこまで使える?」
「四天王は使えます、魔族長は九分九厘です」
魔王はニヤリと笑い、
「よし、四天王を出すぞ」
ガナックは最敬礼し、
「ははっ!」
「目標はバルグだ! ゲートを開け!」
火山が噴火したその日、バルグの街を魔王以下数名の魔族が攻め込むのであった。
◆バルグフル
直哉は城で待機していた。
そこへ、近衛兵が報告にやって来た。
「ドームの展開を完了しました。問題ありません」
「わかった。冒険者ギルドに通達、これより噴火時の突発的な魔物の攻撃に備えよ!」
「ははっ!」
近衛兵は伝令として走り去った。
そして、その時はやって来た。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、ドーン!
物凄い地響きと共に、爆音が響きわたった。
「始まった! リカード!」
「おう、総員! 作戦通りに!」
「はい!」
大きな揺れと共に、噴煙と火山弾が飛んできた。
ルグニアの技師たちが造ったドームはその力を存分に発揮した。
「おぉ! 火山弾も噴煙も怖くないぞ! ルグニア万歳! バルグフル万歳! 直哉様万歳! リカード様万歳!」
バルグフルの民達は、ルグニアの技師たちが造り上げたドームに陶酔していた。
「溶岩が流れてくるぞ!」
バルグフルに向かって、大量の溶岩が流れてきていた。
「シンディア! 対応策は?」
「あのルートであれば、地下へ落とせます」
全てが上手くいっているようであった。
◆バルグの街
「なんだあれは!?」
「人だ! 人が空を飛んでいるぞ!」
バルグの民達は上空に浮かんでいる魔王を見て驚いていた。
「何であんなところに!?」
騒然としているところに、魔王は手を上げて指示を出した。
その瞬間、四天王がバルグの地へ降り立ち攻撃を開始した。
全ての属性の魔法が飛び交い、バルグは大混乱に陥った。
「に、逃げろ!」
「死にたくない! 死にたくないよ!」
「おかぁさーん」
その様子を見ながら、魔王はほくそ笑んでいた。
「ようやく邪魔が入らず、予定通りの作戦が出来たな」
「はい。さすが魔王様です」
魔王は気を良くして、
「このまま蹂躙せよ!」
四天王は魔王からの闇の力を受け、さらに威力を増していった。
「冒険者を! 冒険者を出せ!」
バルグの評議会は冒険者を前面に押し出して対抗しようとした。
「おぉ! 勇者の卵たちだ!」
バルグには名のある冒険者たちが集まっていた。
「いくぞ!」
「おっす!」
冒険者達は死力を尽くして戦っていた。
戦士タイプが十名、ハンタータイプが五名、魔法使いが二名のパーティであった。
「ふむ、これ程の冒険者が育っているとはな」
魔王はニヤリと笑い、
「ここで、四天王を使い捨てるわけにいかんか」
ガナックが戦闘準備をしながら、
「私が出ましょう」
「いや、ガナックには、四天王の回復をしていろ。私が直々に相手をしておく」
「ははっ」
ガナックは四天王の元に飛び、回復をし始めた。
冒険者達は回復するガナックを見て、
「回復させるな! あいつからやるぞ!」
「了解!」
「おっす!」
攻撃目標を四天王からガナックに変更した。
そこへ、
「そこまでだ!」
魔王が冒険者たちの前に降り立った。
「なんだ、こいつは?」
「子供は帰って寝ていなさい」
「邪魔!」
冒険者達は魔王を見て怒鳴った。
だが、魔王から強大な力を感じると距離を取った。
「なんだこいつ?」
「物凄い魔力だ」
「これは、やばい?」
それでも、冒険者達は武器を構え戦闘体制をとった。
「ふむ。この私の力を感じることが出来るか。その辺のぼんくらでは無いのだな」
魔王と冒険者たちの戦いが始まった。