第百二十八話 直哉の領地を発展させる
「魔法に強いですか? 魔法防御が高いとか、攻撃魔法を放つ扉ですか?」
(何それ、無駄に格好いい)
爆発系の攻撃魔法を放つ扉を想像した直哉は、全身で否定しながら、
「いえいえ、扉にゲートの魔法をエンチャントしようと思うのですが」
メントールは首をかしげ、
「ゲート? エンチャント? 何ですかそれは?」
「ゲート魔法をエンチャントで扉に付与するのですよ」
メントールは身を乗り出して、
「それは、親方様しか使えないのですか?」
直哉は考えて、
「俺が使っているだけで、他の人が使えたという情報は無いですね」
「そうですか」
メントールは残念そうに項垂れた。
「それで、何か思いつきませんか?」
直哉が促すと、
「うーん、これなんかどうですか?」
そういって、何種類かの素材を提示した。
「これは、見たこと無いのですが、どのような物なのですか?」
メントールは色々な鉱石を見せながら、
「これらはこのルグニアの採掘場でしか手に入らない特別な鉱石です」
「なるほど」
直哉はそう言って、組み合わせなどを試していった。
試行錯誤中にマーリカから声がかかった。
(ご主人様、お忙しいところ申し訳ありません)
(ん? どうしたの?)
(実は、リカード様から連絡がありまして、後どのくらいゲートが開けるのか聞いて来ています)
直哉は残りのMPとマリオネットでのMP回復量を見て、
(ルグニア領内であれば、休憩を挟めば何度も開けると思う。ただ、バルグフルへはもう少し休憩しないと厳しいですね)
(わかりました。そうお伝えいたします)
(よろしくね)
それから、直哉はリカードに呼び出され、ルグニア城へ戻り、アシュリーの執務室からリカード達を連れて、ルグニアの直哉の屋敷へ戻った。
◆直哉の屋敷
「やはり、直哉の屋敷は快適だな」
リカードは直哉の造った家具に魅了されていた。
アンナも旅で直哉の造る家を使っていたので、やはりこの家具に魅了されていた。
シンディアは、リリの前に来て深々と頭輪下げた。
「リリさん。申し訳ありませんでした」
「ん? 何のことなの?」
「海で、恐怖のあまり逃げ出してしまったことです」
リリは少し考えて、
「リリね、悲しかったの。でも、お兄ちゃんやお姉ちゃんが居てくれるから今は平気なの。だから気にしなくて良いの!」
「本当に申し訳ありませんでした」
シンディアは頭を下げ続けていた。
途中で、リリが直哉に何とかしてと目で訴えてきたので、
「シンディアさん、リリもこう言っているので大丈夫ですよ。もちろん、謝罪は受け取りました。これからは普通に話してあげてください。リリは小さな女の子ですから」
「あー、リリはもう大人だもん!」
と、頬をプクーっと膨らませて抗議してきた。
「ふふふ、そうだね。リリはもう大人だよね」
リリの抗議があまりにも可愛かったので、笑いを堪えるのに一生懸命になっていた直哉であった。
「それじゃあ、大人のリリにシンディアさんの案内をお願いしようかな?」
「わかったの! 任せるの!」
突然の事に驚いているシンディアであったが、そんなことはお構いなしにリリはシンディアを連れて室内を案内していった。そんなシンディアは直哉が造った施設をあまり使用する機会が無かったので全てが新鮮で、あちこちで驚きの声を上げていた。
そんな二人を見ていた直哉に、
「それで直哉よ、バルグフルに戻るためのゲートは何時開けるのだ?」
「あと、一、二時間ですね」
リカードは腕を組みながら、
「そうか、ならばそれまでは休憩だな」
「リカード待ってくれ。相談したいことがある」
リカードは今度は何を言い出すのか楽しみな表情で、
「どうした? 言ってくれ!」
「この屋敷とバルグフルの屋敷をゲートを付与した扉で繋げたいのだが、どうだろう?」
「それが出来るのであれば、最高ではないか! だが、無理だったのだろう? 何か解決する方法があったのか?」
リカードはゲートを付与しようとした扉が砕け散ったと報告を受けていたのを思い出した。
直哉は興奮しながら、
「そうなんだよ! ここ、ルグニアの採掘場でしか手に入らない鉱石を、製錬することで出来る金属を使用するとかなりの威力の魔法を付与できました。ゲートを付与出来るまで、あと少しです」
「何が足りないのだ?」
「純度です。職人たちがどんなに頑張っても、二〇%を超えることが出来ないのですよ」
直哉は考えていた。
(純度といえば魔石についても謎だよな。魔岩石を製錬して出来た魔晶石の純度によって、同じ要素を素材として造っても出来上がる魔石が変わるのだよな。純度が低いと火の魔石、純度が高いと爆発の魔石になったのだよな)
「直哉なら超えられるのではないのか?」
直哉は鉱石を持ちつつ、
「勿論魔力を込めれば、それなりの純度になると思います。ですが、バルグフルへのゲート用に魔力を溜めている現状では、試すことが出来ません」
リカードは腕を組みなおして、
「そうか。それは難しい問題だな」
「えぇ、今回の訪問の目的は部品を取りに来たことですから、これを最優先にします」
「そうだな。扉の研究はバルグフルに帰ってからだな」
「はい。そうなります」
バルグフルに帰ると聞いた使用人達は焦り始めた。
「バルグフルに帰ると言うことは、私達は解雇ですか? 現状でもやることが少なすぎて心苦しいのですが」
「いいえ。皆さんを解雇することはありません。このままこの屋敷の管理をお願いします」
その言葉に使用人達は安心した。
「それと、まだ決まってはいませんが、バルグフルの我が領地に新しく店を造る予定です。そこで食事処を造ろうと思うのですが、ドラキニガルさんを中心にやってみませんか?」
ドラキニガルは喜び、そして質問した。
「それは物凄く嬉しい提案ですね。ですが私達がバルグフルに行ったらこの屋敷はどうするのですか? さらに私達だけでは、長時間店を開けてられませんよ」
「皆さんの住む場所は、このままこの屋敷にする予定です。俺がこことバルグフルの間を繋げることが出来ればの話です」
「そ、そんなことが出来るのですか?」
「まぁ、細かいことは、実際に繋げてみてからですね」
「繋げることが出来た場合、バルグフルの方がこちらに押し寄せて来る事があるのですか? 難民が大量にいると、お聞きしたのですが」
「それについては、バルグフルの屋敷を任せている方や、役職持ち等は来るかもしれませんが、基本的に使用しないようにしたいですね。あくまでも、皆さんの移動用にと考えてます」
その回答にリカードが、
「それなら、王城同士にもう一組造ってもらえれば良いのでは? お前たちは屋敷の扉を、役職持ちは城のゲートを使用するとすれば、使用人達に余計な負担をかけることが無いと思う」
「そうですね。まずは、出来るかどうかを試して見て、その後アシュリー様に許可を取ってから造る感じかな?」
「許可は先に取っておこう」
リカードは直哉のMP回復中に許可を取りに行った。
リカードが去った後、ルグニアの使用人たちが集まってきた。
「それで、私たちはどうしたら良いですか?」
「そうですね、とりあえずは今まで通りでお願いします。ドラキニガルさんは一緒に来ませんか?」
ドラキニガルは、
「もちろん、喜んで行きます。私の夢が叶うかもしれないので」
「他の方々は、このままルグニアに残ってもらっても構いませんし、バルグフルで新事業を手伝ってくれても構いません」
「私達は何かお役に立つのですか? ドラキニガルさんは料理が出来ますが、私たちは特筆すべきものが無いのですが」
「それは、大丈夫ですよ。バルグフルのメイド長はバルグの王宮で働いていたメイドなので、直ぐに色々と教えてもらえますよ。まぁ、強制ではないし急いでいないのでゆっくりと考えていてください」
その後、十分にMPが回復した直哉は、帰ってきたリカードや、換えの中枢部を持ったベドジフ、そしてドラキニガルを連れてバルグフルへ帰っていった。
◆バルグフル 直哉の屋敷
「私たちは城へ帰るぞ」
リカードとアンナとシンディアは城へ帰っていった。
「ぼくも仕事に戻ります」
ベドジフは作業場へ戻った。
その場にリリ達とドラキニガルが残った。
「直哉さん、お帰りなさい」
「ミーファさん、ただいま戻りました」
ドラキニガルを見たミーファは、
「それで、そちらの方は?」
「こちらは、ルグニアの俺の屋敷に勤めているドラキニガルさん。料理が得意で自分の店を持ちたいとの事だったので、今回の新事業で食事処を任せようかと思いまして」
ミーファは目を瞑り、腕を組んで直哉の案を考えていた。
「そうですね、直哉伯爵領の民は独自の通貨を使う予定ですので、それに対応して安く食べられるようにするのも良いですね」
直哉は初耳だったので、
「独自の通貨?」
「はい。昔バルグで流行っていた方法で、うちの領民になれば他より安く商品が買えると謳い領民を確保する方法ですが、今回は単純に領内の物価を下げないと生活出来ない人が多いからです」
「許可は取った?」
「勿論です。これが、王城からの許可証です」
ミーファの手際の良さに感服した直哉であった。
直哉の領地に来た難民は三一〇名。そのうち、家族やグループが八八組二二三名、残りの八七名がソロであった。
直哉は、領地に出来た新しい施設を見て回った。
まずは表の通りに出来た、家具・アクセサリーの店
バルザダーク監修で、難民数名で製造から販売までを行っている。
店の前に差し掛かると、店番をしていた女性が話しかけてきた。
「直哉伯爵様!」
「売れ行きはどうですか?」
店の中には家具やアクセサリーが所狭しと展示されていて、意外にも人が入っていた。
「今のところ、家具を中心に売れていますね」
直哉が商品をチェックすると、
「ふむ、確かにこのレベルならこの価格ですね」
お世辞でも良品とは言えないレベルであったが、その分価格設定が低く、安かろう悪かろうの典型的な商品であった。
「おやっ?」
その中で、直哉の目に止まった商品があった。
「これは、良いものだね」
それは、小物入れだった。
「触っても良いかい?」
「どうぞ」
直哉は開け閉めを繰り返し、使い勝手を確認していった。
「うん。これは良いね。誰が作ったの?」
「これは、うちの息子ですね」
そう言って、奥で職人から作り方を教えてもらっている子供を指差した。
「なるほど。なかなか光るものがありますね。後で声をかけて見ます」
女性は驚いて、
「あ、ありがとうございます。息子も喜ぶと思います」
喜びながら仕事に戻っていった。
同じ通りに、肉屋と魚屋と八百屋が並んでいて、その近くに食事処を建設していた。
「ドラキニガルさん、あそこが食事処です」
「ふむ、メイン通りに面しているのですね。しかも食材屋と同じ通りとは、斬新ですね。まぁ、食事処という店自体が斬新ですがね」
食事処は、屋台か酒場として存在し、こういったメイン通りではなく、裏路地に入ったところや、宿屋の一階や、冒険者ギルドの一階などにある程度であった。
「まぁ、新しい試みですから。勿論お酒の提供も許可しますよ」
直哉の提案にドラキニガルは大きくうなずいた。
ドラキニガルを食事処において、次に畑を見に行った。
今までチェスターとカーディが細々とやっていた農園は、完全にハーブ園となっていた。
「あれ? 食材は?」
直哉が悩んでいると、難民たちの暮らす集合住宅のほうからカーディがやって来た。
「直哉伯爵様、どうかしましたか?」
「あ、いや、畑を見に来たのだけど、いつの間にか、全部ハーブにしちゃったのだね」
カーディは笑いながら、
「難民たちが大勢来たので、この大きさでは全く足りないので、ミーファ様の指示で南の森を少し開墾して大きな畑を造りましたよ」
カーディに連れられ、直哉はその畑を見に行った。
「おぉ! これは凄い!」
今までの数十倍の大きさの畑が耕されていた。
「今までの野菜は、そちらです。新しく耕した畑には数種類の野菜を植えました。エルフの特性肥料を使っているので、数日後には収穫できる野菜もあります」
カーディの説明に、
「数日って・・・。薬草用のハーブなんか一日で出来るものもあるから、そういうものなのかな?」
「本当は、自然のままに育てるのが良いのですが、今回は時間と量を優先しました」
驚きを隠せない直哉に、
「そうだ、こちらの近くに倉庫を建てて欲しいのですよ。収穫後の保管用と、苗を育てる施設用。今までの直哉様と繋がっている倉庫も大きくしていただけると、ハーブの最後が溢れそうですよ」
と、注文を付けられた。
直哉は、カーディの願いを聞き、倉庫を造り大きくしてその場を任せた。
次に、畜産施設を見に来た。
そこはチェスターが中心となり、モーモーキングやブーブーキングが柵の中を所狭しと走り回っていた。
「伯爵様!」
「結構な数ですね」
「はい。東の草原で大量に確保しました」
チェスターがそう言うと、難民たちも大きく頷いていた。
(きっと、みんなで確保しに行ったのだな)
と思いながら、
「増やせそうですか?」
チェスターは渋い顔になって、
「やって見なければ、わからん」
「そうですよね。ですが、定期的に一定量を供給できるようになれば、この領地の大きな戦力になりますから頑張ってください」
直哉は領地での新事業を確認してから屋敷に戻るのであった。