第十三話 戦力増強
◆コテージ内
今回片腕となったのは王子であった。
「私はバルグフル第一王子のリカードだ、今回の水質調査の責任者をやっている」
リカードの横の最後まで戦っていた鎧の男が話し始めた。
「拙者はリカード様の指南役であるゴンゾーである、拙者の不手際でリカード様の右腕を失ったこと万死に値します。どうか切腹の機会を!」
「ならん! 魔族があそこまで強いとは私も思わなかった、これは私の落ち度だよ」
そう言って、ゴンゾーをなだめた。
二人の世界が終わったところで直哉たちが話し始めた。
「私は、バルグフルの冒険者で鍛冶職人の直哉です」
「リリは、リリなの。魔術師やっています!」
「私はフィリアと申します、直哉様のところでご厄介になっております」
三人の挨拶が終わり王子の方から話し始めた。
「後は負傷した、二人だな」
「お二人の怪我の治療は完了しております。後は目を覚ますのを待つだけです」
フィリアが報告すると、リカードは安堵のため息をついた。
「しかし、今回の作戦で大勢の近衛兵候補が亡くなってしまった」
「残念でございますな。ですが、近衛兵としての勤めである王族を守護できたのです幸せであったであろう」
ゴンゾーが語り始めると、
「それは違うの、人は生きていてこそ幸せなの」
「リリ、ゴンゾーさんは生き様を話したんだよ」
リリは難しいという顔をしていた。
「リリさんには少し早いお話でありましたかのう」
「さて、話を戻しても良いかな?」
リカードが話し始めた。
「我々は我が領地に流れ込む川の水質が悪化して来ていた、そこで上流にあるこの湖の水質の調査に来ていたのだ」
「拙者達は、湖を汚染している原因が湖の上流にある小屋にあることを突き止めそこを破壊したのじゃ」
「すると、汚染物質の流出は止まったのだが、代わりに先ほどの悪魔族が出てきて我々を攻撃してきたのだ」
「拙者は以前にもあの化け物と戦ったことがあり、その時も数人の犠牲を出し何とか依り代を破壊したのじゃ」
「それで、汚染は除去できたのですか?」
昔話になりそうだったので、直哉は話を止めた。
「それを、一緒に調査して欲しい。出来れば完全に除去する方法を見つけて欲しい」
リカードの言葉に直哉は首を傾げて、
「それが依頼内容の全てですか?」
「そうだが、何か問題があるのかい?」
「その湖って、蛇神の湖なんですよね? 蛇神はどうしたのだろうって思いまして」
その場に居た全員が、そういえばどうしたのだろうという顔になり、
「それも含めて調査しよう」
リカードが締めくくった。
「でしたら、本格的な調査は明日にしましょう。まだ目覚めぬ方も居ますし、既に満身創痍ですから」
直哉がそう言うと、リカードは笑顔になって、
「よろしく頼む」
と、頭を下げた。
「王子! 軽々と頭を下げてはなりませんぞ! 軽く見る輩が出てきますぞ」
ゴンゾーは王子を諌めたが、リカードは聞き入れなかった。
「直哉君たちは我々の命の恩人だぞ、それこそ、頭を下げなくては無礼であろう?」
と言って頭を下げ続けたが、直哉は、
「いえ、頭をお上げくださいリカード王子。俺達はあなたの国の冒険者ですから」
「しかし、それでは私が納得できない」
リカードは頭を上げたが、そう言いながら考えていた。
「とりあえず、飯にしましょう。腹が減っては戦が出来ぬとも言いますし」
そう言って、直哉は暇そうにしていたリリと、魔法を使いすぎて半分眠っていたフィリアを促した。
「ねぇ、お兄ちゃん。リリね後でお風呂に入りたいの」
直哉は手持ちの石を確認しながら、
「わかった、造っておくよ。ご飯の後なら、お湯も溜まっていると思う、ただシャワーは無いよ?」
「ありがとうなの。湯船に浸かりたかったから大丈夫なの」
直哉の言葉にリリは喜んでいた。
「お風呂とは何だい?」
リカードは興味津々な表情で聞いてきた。
「お湯を張った大きな池に浸かる施設ですよ、まぁ、百聞は一見にしかずですよ、後で一緒に入りましょう」
そう言って、ご飯の用意を始めた。
テーブルと椅子はあるので、後は料理を出すだけだったので、購入した料理のメニュー表を出してみんなに見せた。
「リリは、モーモーとブーブーのハンバーガー!」
「私は、野草のおうどんにしますわ」
「俺は、焼き魚の定食だな」
三人は思い思いの料理を選んだが、リカードとゴンゾーには良くわからない料理が多かった。
「直哉様、お料理の説明をお二方になさった方がよろしいのではないでしょうか?」
キョトンとしている二人に直哉は料理を取り出しながら説明に入った。
「リリが選んだハンバーガーはこれで、焼いたお肉を柔らかいパンに挟んだ料理です」
「肉汁がパンに染み込んで美味しいの!」
「フィリアが選んだうどんはこれで、小麦を食塩水と混ぜ合わせ棒状に造った料理です」
「俺のは焼いた魚がおかずの料理です」
直哉の説明が終わると、
「私はガッツリとした料理が食べたいが、肉は勘弁して欲しい、何かあるか?」
直哉は少し考えたのち、
「酒場に行けば色々と出来ますが、手持ちの料理となると、俺と一緒に焼き魚の定食にしますか」
そういって、もう二本焼き魚を出してご飯と味噌汁とお漬物を二人分出した。
「拙者は、軽くつまめるような料理があれば、これを飲むのでな」
ゴンゾーは秘蔵の酒を懐から出した。
「わかりました。定食のおかずを数品出しておきましょう」
こうして、夕食の準備が終わり皆で食べ始めた。
「まさか、冒険に出て旨い料理にめぐり合えるとは思わなかった」
リカードは焼き魚を頬張りながら、英気を養っていた。
「直哉殿、少しよろしいですかな?」
「何でしょうか?」
ゴンゾーは直哉のことを警戒していた。
「直哉殿の考え方は実に現実離れしておりますな、数百年後に魔法石が無くなった世界でも使えるアイテムを造っている気がします」
「いや、過大評価ですよ」
直哉の造り出している武具やアイテムの大半はスキルの選択肢の中にあるアイテムだったので、厳密には直哉自身の考えではなかった。
「そこで、我等が王子リカード様の専属鍛冶職人になってもらえるかのう?」
突然の申し出であったが、直哉はためらわず、
「大変ありがたいお話なのですが、辞退させてください」
ゴンゾーは少し驚いた顔をしたが、平静を取り戻して、
「訳を聞かせてもらえるかの?」
「私は鍛冶職人である前に、冒険者なのです。ですので、この王国だけではなく色々な町や国へ行くことになります。専属になってしまうと、冒険事態が困難になってしまいます。それだけはご勘弁ください」
直哉は頭を下げた。
「将来この国を出て行くのか?」
顔を上げながら答えた。
「冒険に出るというのは、そういうことではありませんか?」
ゴンゾーはしばらく直哉の目を見ていたが、
「直哉殿を疑うような発言の数々、申し訳ない」
頭を下げた。
直哉は驚きながら、
「どういうことですか?」
「直哉殿がリカード様に取り入ろうとする輩かどうか確認させていただきました」
そこへ、リカードがやってきた。
「こんな所で、何をやっている?」
ゴンゾーが直哉に頭を下げている所を目撃し、リカードは何があったのかを察した。
「ゴンゾー、私に断りもなく探りを入れたな?」
「申し訳ございません」
ゴンゾーはリカードに頭を下げた。
「それで、直哉君の疑いは晴れたのか?」
「は、リカード様に害なす者では無いようです」
リカードは少し考えていた事を直哉に聞いた。
「先ほどの、フィリアさんは元第一王女かな?」
直哉は、ピクッと反応した。
「やはり、そうか。ならば、直哉君は冒険者ギルドと鍛冶ギルドのマスターから信頼を置く者だな」
「なんと! そのような人物を我輩は不審者扱いしてしまったのか。直哉殿介錯をお願いしますぞ!」
そういって、懐から短刀を取り出した。
「待て待て、すぐに腹を切ろうとするな」
リカードがゴンゾーをなだめた。
「リカード王子、先ほどのフィリアの話は内密にしてもらえますか?」
「そのくらいは、わかっている」
直哉は頭を下げた。
「そうだ、直哉君に鍛冶職人としての依頼があるのだが、やってくれるか?」
唐突に話題を変えたリカードに感謝しながら、
「なんでしょうか?」
「うちの、若い近衛兵見習いたちの武具を新調して欲しい」
リカードは、直哉の強さを正確に見抜いていた。
「ここには、炉も槌もありませんよ?」
リカードは直哉の言葉にニヤリとわらい、
「直哉君なら何とかする術があるのだろう?少なくとも両ギルドマスターが一目おく存在なんだし」
直哉はため息をつきながら、
「わかりました、これも内密でお願いします」
直哉の言葉に満足したリカードは、
「よし、男同士の内緒話はこの辺で終わりにして、風呂とやらに行こうではないか」
リカードは風呂に興味を持っていた。
直哉に風呂の作法を教えてもらい、リカードとゴンゾーは戸惑いながらも湯船に浸かる事ができた。
「はぁ。湯船に浸かるというのは気持ちよいな!」
「拙者もこの様な感覚は始めてなのじゃ、直哉殿に感謝しなくてはな」
「直哉君には本当に感謝しているよ」
直哉は照れながらも二人にお願いをした。
「お二人にお願いがあります」
「ほぅ」
「お願いですか?」
「俺のことは直哉で良いですよ。君も殿も俺には不要ですよ」
リカードとゴンゾーはお互いを見て
「わはははは」
「くっくっく」
と笑い出した。
直哉は頭をひねりながら、
「何が可笑しいのでしょうか?」
「あーすまんすまん。もっと凄い事をお願いされるのかと思ったぞ」
「そうですな」
「えーっと?」
ますます困惑する直哉に、
「私は一応王族だからな、それを利用しようとする輩がいるのは話したな」
「ええ、確かに」
「そうじゃないとわかってはいても、やはり警戒してしまうのだ、すまんな」
「あぁ、そういえばそうでした。回りくどくてすみません」
直哉は頭を下げた。
「よし、わかった。私は直哉と呼ぶ、だから直哉も私のことをリカードと呼ぶがよい」
「えっ?」
「えっ?」
直哉とゴンゾーは見事にシンクロした。
「王子! それは、なりませんぞ!」
ゴンゾーが唾を飛ばしながら猛講義した。
「いや、俺もゴンゾーさんと同意見です」
直哉は、ゴンゾーに同意した。
「そもそも、どういう経緯でそう思ったのですか?」
「私は、恥ずかしながらこの歳になるまで友を得たことが無い、直哉のように王族に拘らない人物はわが友としての第一条件だからな」
「うむむ」
直哉は考え込んだ。
「それにな、友となっておけば、武具が安く手に入るだろう?」
リカードはウインクしながら言ってきた。
「わかりました。そこまで仰ってくれるのであれば、リカード王子の希望にお答えしましょう」
ゴンゾーは直哉を威嚇している。
「ただし、いついかなるときも呼び捨てにするのはさすがに無理なので、今のように冒険に出ている間、しかも親しいものたちのみの時やお目付け役がいない時に限る、これでいかがでしょうか?」
「うむむ」
リカードはそれでは意味が無いと思っていると、
「親しい仲にも礼儀ありという事です。普段は呼び捨てにさせて頂きますが、それ以外はご勘弁ください」
「直哉殿の仰るとおりですぞ」
「そういう、ゴンゾーさんは殿を使うのですか?」
「ふむ、これは一本とられましたな」
三人は笑いながらお風呂を楽しんだ。
結局敬称は、直哉がリカードさん、ゴンゾーさん。リカードは直哉、ゴンゾーは直哉殿で落ち着いた。
◆次の日 コテージ
朝、いつも通りリリとフィリアと朝練しているとリカードとゴンゾーが二人の近衛兵見習を連れて出てきた。
「三人とも朝が早いのだな」
リカードが気さくに話しかけた。
「おはようございます、リカードさん」
「うむ、おはよう直哉」
皆の挨拶が終わると、ゴンゾーが前に出て、近衛兵見習の二人を紹介した。
「この右側の金髪の娘がラナ、黒髪の娘がルナじゃ」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人はシンクロして挨拶した。
「こちらは、直哉殿とリリ殿、フィリア殿じゃ、昨日我々が危険な時助けに来てくれた冒険者達じゃ」
三人は順番に挨拶した。
「さて、ラナ、ルナよ。こちらの直哉が武具を新調してくれるから、希望を言いなさい」
二人が首をかしげているので、
「軽い防具が良いとか、剣じゃ無くて槍が良いとか」
直哉は具体例を挙げていった。
「リリは初めて会った俺に、殴っても壊れない杖が欲しいって言ってたね」
リリがナックルを見せながら、
「出来上がったのがナックルで、どこに杖が? って思ってたの。でも、このナックル自体が杖だなんて誰も思わないの」
二人は目を丸くしながら、
「このナックルは杖なのですか?」
リカードは直哉達の武具を見ながら、
「直哉の造る武具の品質は保証する。彼らの着ている防具はお前たちの正装である、プレートメイル一式より防御が高く対魔法用のコーティングもされているようだ」
直哉は二人から聞き取った結果、フィリアの防具に近い形になった。
「基本はハードレザー系ですが見た目を正装に近づけますね。ここに、紋章を入れて出来上がりっと」
直哉は二人分の防具を造り出した。
「ほほぅ。やはり何かあると思ったが、高速作成か。実際に見たのは初めてだ」
リカードが目を細めながら感心していた。
「代金は、リカードさんが払ってくれるのですか?」
直哉が聞くと、
「いくらになるのじゃ?」
ゴンゾーが聞き返してきた。
「使った素材がレザーの素材と銅・鉄・鋼・銀で魔法石が防御追加・魔法反射・衝撃吸収だから、全部で約100Sですね」
直哉が金額をはじき出すと、
「それでは、直哉の儲けが無いではないか。我々としては嬉しいが、それは駄目だ」
そう言いながら、500Sを出した。
「武器を二本入れて、この価格でどうだ?」
直哉は、二人に言われていた武器、『ハルバード』を造りだし、
「武器の方は、魔法石を組み込んでいないので二本で約10Sですよ、ですので儲けを入れても200S頂ければありがたいです」
「うむ、わかった」
リカードはそう言いながら直哉に200Sを渡し、
「これで、商談成立だな」
笑顔で締めくくった。
二人は、新しい装備を身にまとい、腰には今までの剣を下げ、ハルバードは背中に括り付けた。
開けた場所ではハルバードを使い、狭いところでは剣を使うようだ。
「この防具軽すぎです。本当に防御が上がるか心配でしたが、元の防具の二倍以上になってますね」
二人は新しい防具が気に入ったようで、お互いに防具を確かめ合っていた。
「それでは、これより直哉達を含め七人で蛇神の湖から汚染を除去出来るかを確認しに行くぞ」
リカードはそう言って、先頭を歩き出した。
ゴンゾーが続き、二人の見習いもワタワタしながらついていった。
直哉たちは、コテージの片付けと、周囲の警戒を行いながらついていった。