第百二十六話 下水道再び
◆バルグフル下水道
隠し通路の場所がわかる直哉を先頭に、進んで行くと細工のある場所に着いた。
直哉は、予め借りておいた指輪を使い隠し通路に出ると周囲の温度が一気に上昇した。
「これは!?」
「熱気が充満していますね」
「快適のマントを装備してもこれだけ暑いとは」
「外したら火傷しそう」
物騒なことを呟きながら先へ進んだ。
上空からのジャイアントバット、地上からジャイアントラットが襲い掛かってくるが、直哉達の敵ではなかった。
(そういえば、初めて入ったときは、ジャイアントバットにビビったよな。それに、ジャイアントトードを倒した時はレベルが上がったよな。懐かしいや)
そう考えて剣を振ると、襲い掛かって来ていたジャイアントバットがキラメキながら消滅した。
「そういえば、ここの敵は魔物なんだな」
「キラメキながら消えるの!」
リリが、ゴブリンの里で聞いた事を思い出していた。
「でも、魔王が劣化コピーを作ったとして、こんなところに配置するか? クエストのジャイアントトードも消滅していたよな。魔王が作ったとは思えないんだよな。何か裏がありそうだ」
直哉はそう思いながら剣を振り続け、ジャイアントバットを撃退していった。
「直哉様、正面に何か居ます」
フィリアの忠告に直哉は考えを止めて、注意を向けると、正面に真っ赤なゴーレムが四体、待ち構えていた。
「この前来た時は、あんな敵いなかったぞ?」
直哉がそう言った時、敵が襲い掛かってきた。
リリとラリーナに一体ずつ、直哉、フィリア、エリザ、マーリカに一体、ラナ達に一体が回り込み、
「さらに何か来たの!」
リリが叫ぶと、赤くなったゴブリン、コボルト達と、赤いオークが集団でやって来た。
「まだ居るぞ!」
ラリーナの方からは、巨大なオーガ達が行く手を阻んだ。
直哉が改めて周囲を見ると、
「結構居るね。ラナ? そっちはゴーレム一体任せてよいか?」
「お任せください。撃破後、援護に向かいます」
「よろしくお願いします」
直哉は襲いかかるゴーレムの攻撃を、マリオネットで増やした盾で防ぎながら、
「エリザは上空へ、まずは俺の前のを、フィリアは全員に加護を!」
「わかったのじゃ」
「承知いたしました」
エリザとフィリアは配置に付いた。
「マーリカはリリの援護を」
「はっ!」
直哉の言葉に、
「リリ、一人で出来るよ!」
「二人で、ゴーレムを倒してから、マーリカはリリの周りに土の結界を、リリはその中から群がる雑魚に範囲魔法を!」
「ラリーナは無理せず、抜かれないように戦ってくれる」
「こっちは任せな!」
直哉が全方位に戦闘指示を出した。
◆レッドゴーレム対ラナ達
「うぉぉぉー!」
ラナが盾を構えレッドゴーレムの前に出て、雄叫びを使いターゲットを固定していた。
ラナの雄たけびの効果でターゲットを取られたゴーレムの両脇に、ルナとミシェルが回り込み左右から攻撃していた。
デイジーとヘレンは離れた位置に下がってから攻撃を開始した。
「そりゃ!」
「えぃ!」
ルナとミシェルの同時攻撃で、両脇の石を削り、
「やぁ!」
「火を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏し敵を撃ち抜け!」
「フレイムアロー!」
デイジーとヘレンはそれぞれ弓矢と魔法で攻撃した。
カン!
ボコ!
矢は弾かれ、火の矢も殆どのダメージを無効化された。
「そんな!?」
「私の魔法ではダメージが与えられない」
二人がショックを受けている間にもレッドゴーレムの攻撃は続き、ラナの盾を持つ腕が痺れてきていた。
ラナは気合いを入れ直し、
「セイントシールド!」
盾技を使い防御力を上げた。
さらに、
「うぉぉぉー!」
さらに雄叫びを使い、両脇に気を取られがちだった、目の前のレッドゴーレムのターゲットを取った。
「ルナとデイジーはゴーレムの頭を集中的に攻撃、ダメージではなく攪乱を!」
ラナの指示を受けたルナはゴーレムの死角に潜り込み、デイジーは人間だったら嫌がるであろう目や口、鼻と言った場所に矢を放った。
ラナは二人の動きを見た後でミシェルとヘレンに指示を出した。
「ヘレンは火だけでなく他の魔法も使い、削り続けをお願い、ミシェルは手数ではなく一撃必殺を!」
ヘレンとミシェルは、ラナの指示を受け攻撃を再開した。
ヘレンの魔法で少しずつ削り、ルナとデイジーで攪乱し、全ての攻撃をラナが受け、ミシェルが力を溜めていた。
ラナはゴーレムのパワーに圧倒されていたが、徐々に動きがわかるようになり、先回りして防御出来るようになっていた。
(ここまでは何とかなった。あとは、核がわかればミシェルの一撃で破壊してくれるはず)
「ヘレン! 単発呪文ではなく、範囲魔法でゴーレムを満遍なく攻撃してくれる?」
火の玉や爆発魔法で攻撃していたヘレンは、
「大地に宿る土の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏し立ちはだかる者に礫の洗礼を!」
土魔法を展開する。
「シャープグラボゥ!」
大量の砂利がレッドゴーレムに向けて襲いかかった。
ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカン
一粒ではほとんどダメージが無いが、コレだけの数を連続で喰らうと、流石のゴーレムでも亀裂が入り始めた。
「グガガガガァ」
ゴーレムは両腕を首の前で交差して首へのダメージを防ごうとしていた。
「ミシェル! 首よ!」
「あぁ! 見えてる。だが、あの腕が邪魔だ!」
ラナはゴーレムの腕を盾で下から弾き上げた。
「盾攻撃!」
ドカッ!
「ナイスラナ! 死にやがれ! 魔神断罪剣!」
ミシェルはバットをフルスイングするようにゴーレムの首へ剣を叩きつけた。
バキン!
ミシェルの剣がゴーレムの首を半分ほど食い込むと、ゴーレムの核が砕ける音とともにキラメキながら消滅した。
「よし!」
「あまり、出番がありませんでした」
「何とかなった!」
「矢が無くなりそう」
「MPが厳しい」
口々に言っていたが、ダメージはラナが引き受けてくれたので、ミシェルとルナは攻撃をしたときのカウンターでのダメージが、ヘレンとデイジーは無傷の勝利であった。
「この盾は修理に出さないと割れそう」
ラナは傷を手当てしながら装備を確認していった。
◆レッドゴーレム対直哉
直哉の元に来たゴーレムは両手を使い、順番にストレートパンチを繰り出していた。
時々振り下ろしを混ぜたりしていたが、
「よっ! ほっ! はっ!」
ストレートは回避して、振り下ろしは受け止めていた。
「こんなもの?」
そう言って、振り下ろしを受け止めた状態で力比べが始まった。
ゴーレムの動きが完全に止まったので、直哉はニヤリと笑い、
「終わりだ!」
と、同時に上空から槍が放たれた。
「ギギギ?」
ゴーレムが危険を察知した時には、
ドゴン!
頭上から槍で貫かれ地面に張り付けられた。
「いたたた」
横にいた直哉に、ゴーレムと地面の破片が飛んで来ていたが、大したダメージでは無かった。
「さて、核は何処かな?」
直哉がゴーレムの核を探すためにマリオネット展開させると、目の前のゴーレムが貫かれたまま器用に口を開けた。
(まさか、ミサイル?)
遺跡にいたロボットを思い出した直哉は、咄嗟に盾を構えた。
レッドゴーレムから飛び出したのは、真っ赤な火山弾だった。
(ちょっ! ミサイルよりはましだけど、洒落になってないよ)
直哉は盾で防いだ時の周囲への影響を考えて防御を止めた。
「ゲートイン、ゲートアウト!」
入り口を火山弾の進路上に、出口をゴーレムの身体に向けて出した。
(あちあちあちあち)
火山弾が近付く度に温度が上昇して行き、ゲートにすいこまれた。
ドカッ!
ゴーレムに直撃して、当たった部分を破壊した。
(ふむ。結構なダメージになるのだな)
直哉は感心していた。
(しかし、あれでは素材が残るのかな?)
少し不安になったが、核を取り除くと、結構な数のゴーレム岩と念動石を見つけて大満足であった。
◆魔物達対リリとマーリカ
リリの正面にレッドゴーレムが、ゴーレムの後ろには数十体の魔物の群れが行進して来ていた。
「拡散すると面倒なの!」
リリはボヤキながらゴーレムの攻撃をかわしながら攻撃をしていた。
「あちゃ!」
右ストレートをしゃがみながら前進して、右足を氷結クラッシュで攻撃して後ろに回りこんだ。
「おちゃ!」
ゴーレムが左回りで回転しながら、左足でまわし蹴りを繰り出すと、股の下を潜って右足を氷結クラッシュで攻撃して元の位置に戻った。
そうしているうちに、ゴブリン達が回り込もうとしていたので、
「土遁! 土石波壁!」
マーリカの土遁で、リリに向けて向かってくるように壁をハの字型に造った。
「ナイスなの!」
リリはさらにゴーレムの右足に氷結クラッシュを喰らわせて右足を粉砕した。
「ギギギギギ」
身動きの取れなくなったゴーレムが後ろに倒れると、ハの字型の壁の出口を封鎖するように倒れこんだ。
「チャンスなの!」
リリは一気に決めるべく魔力を練っていった。
「氷を司る精霊よ、我が名の下に集いその力を示せ! 我が名はリリ。ここに集いし精霊に命ずる! 目の前に広がる色彩豊かな世界を白銀に変えよ! 全ての動きを止める輝きを!」
膨大な魔力がリリに集結する。
ゴブリン達は、慌ててリリに攻撃しようと持っていた剣や、槍を投げたが、入り口を塞いでいるゴーレムに邪魔されて、リリに届く事は無かった。
「アブソリュートゼロ!」
リリが魔力を解放すると、冷気がゴーレムを包み込み一気に凍結させ、勢いの衰えない冷気はハの字型の壁の中を進みながら、中に居た魔物たちを次々と凍結させていった。
「はぁはぁはぁはぁ」
リリは肩で息をしていたが、
「やったの!」
全ての敵がキラメキながら消滅していったのを確認して、喜びの声を上げた。
(これで、リリのストレスが発散されたら良いのだけど、無理だろうな。思いっきり甘やかしてあげないと駄目だろうな)
直哉はそんな事を考えながらラリーナの援護に向かった。
「エリザ、残りはラリーナの所だ! 一気に決めよう」
「わかったのじゃ!」
エリザは上空からラリーナと対峙するレッドゴーレムとオーガ達に狙いを定めた。
◆レッドゴーレムとオーガ対ラリーナと仲間たち
「ゴーレムは後の楽しみに取っておいて、まずは、デカ物からだな」
ラリーナは、群がるオーガ達を順番に倒していっていた。
「瞬迅殺! 大地割り!」
ザシュ!
「グァァァァァ!」
オーガは何も出来ないままラリーナの斬撃によって一体また一体と倒されていった。
「おらおらおらおら、どうした! 図体がでかいのは見せ掛けだけか!」
ラリーナは相手を挑発しながら突き進んでいった。
(ラリーナだけで何とかなりそうな気がしちゃうのは、気のせいだよな。恐らく疲労が溜まっていると思う)
「ラリーナ! 少し代わろう、回復して!」
直哉が呼びかけると、
「すまない。助かる」
そう言って、直哉の位置まで下がってきた。
(やはり、疲労が溜まって、動きが鈍くなっているな)
直哉は剣と盾を手に構え、さらにマリオネットで大量の剣と盾を浮かばせて、ラリーナの代わりに敵の動きを止める作業に入った。
「エリザ! 頼む!」
直哉は、先程と同じようにゴーレムを捌いていき、群がるオーガ達をマリオネットの剣と盾で縦横無尽に狩っていった。
「この程度なら、何とかなるな」
オーガの棍棒での攻撃を盾で弾きながら、剣でオーガを斬っていく。力は小さいため一撃で倒せないが、何度も繰り返すうちに、徐々にオーガの動きが鈍くなってきていた。
「おっと」
ダメージが蓄積したオーガが火の玉を投げたため、肝を冷やしたが、マリオネットの盾で弾き飛ばせる程度の威力であった。
「ビックリしたよ」
ラリーナが疲労を回復し終わる頃には、串刺しになったゴーレムが残るのみで、オーガはキラメキながら消滅していた。
「あぁ、私のお楽しみが!」
ラリーナはガッカリしていたが、直哉は気にせず、
「アイテムを回収しちゃいましょう」
そのままゴーレムの核を取り出して、ゴーレムを倒した。
「しかし、何でここにこんな魔物が居たのだろう」
そう言いながら進むと、
「溶岩が流れているね」
以前鉱石を取りまくったホールは殆どが溶岩で埋まっていた。
「これは、かなり危険ですね」
「このままでは、バルグフルの下水道に溶岩が流れてきてしまうね」
直哉は少し考えると、
「マーリカ、土遁でトンネルを広げることって出来る?」
マーリカは少し考えて、
「土を退かすスペースがあれば出来るかもしれません」
「よし、とりあえず、ここを土遁で封鎖して町に戻ろう」
「良いのですか?」
「あぁ、海岸に溶岩の流れ出る場所があったから、そこから土遁で溶岩のトンネルを広げていこう」
そうと決めると、直哉達はホールの出口を土壁で封鎖して海岸へ急いだ。
◆バルグフル 海岸
マーリカが崖の上から、溶岩の出口を確認して、
「土遁! 防火土流!」
溶岩の下側の土を薄皮一枚残して海へ流すと、溶岩の重みで薄皮一枚の下が崩壊して、トンネルの大きさが広がった。
「よし! 後は、マーリカの魔力と相談して、広げていこう」
マーリカは直哉達の護衛の元、数日でトンネルの巨大化を成功させ、バルグフルに溶岩が流れ込む可能性が少なくなった。