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第百二十四話 一難去ってまた一難

直哉はバラムドから家出した商人、バルザダークから話を聞いていた。

「直哉様は魔物と生物の違いがわかりますか?」

「どういう事ですか?」

「魔物は倒すと消滅しますが、生物は死体が残ります」

直哉は考えて、

「人間が死んでも消えないという事ですか?」

「はい。それだけではなく、我々の食料も生物から取るものが多いのです。もちろん、魔物からのドロップアイテムの方が旨いのですが、量を得るのであれば、通常生物を捕獲するほうがコストがかかりません」


「なるほど。今回、カニの魔物を倒して手に入れたドロップアイテムがこれなのだが、これにも生物版がいるのか?」

バルザダークは、直哉の出したカニの足を見て、

「綺麗な身ですね。生物のカニですともっと不ぞろいになりますが、身体全部を食用として使えます」

「ドロップアイテムはこれ一本とたまにカニ味噌が出たくらいだな」

バルザダークは目を見開いて、

「魔物から出たカニ味噌ですか? それは、滅多に取れないかなりの高級品ですよ!?」


普通に考えれば、強力な溶解液持つ海岸に生息する魔物のレアドロップなのだから当たり前なのだが、

「旨いのか?」

「天にも昇る旨さです」

自信満々に答えた。

「なるほど、良い事を聞いた」

「出来れば、私にも卸して欲しいものですな」

「さすが、商売人だな、そういえばバルザダークさんは、これからどうするつもりなのですか?」



「私は祖国を捨て、新しい商売を始めるためにバルグフルまで来たのですが、商人ギルドに登録は出来たものの、先立つものが少なく、なかなか売り上げが伸びませんでした。そして、今回の襲撃で殆どの商品が駄目になってしまったので、直哉様の避難民宿舎へ逃げてきました。もし良ければ、直哉様の土地で商売を始められたらと思うのですが」

「それですね。販売については以前から考えてはいたのですが、私自身冒険者なので、この領地に居ないことが多いのですよ。それで諦めていたのですが、バルザダークさんが我が領地の商店を見ていてくれるのであれば、販売を始めてもよいですね」

「ありがとうございます」

バルザダークは頭を下げた。

「幸い、働き手は一気に増えたので、彼らに継続的に食べていける流通を考えていたところでした」


「何をしようとしていたのですか?」

直哉はバルザダークに考えていた事を話した。

「ルグニアやソラティアとの交易ですか? しかし、輸送コストが莫大になりますよ?」

「その辺は、俺のスキルで何とかしようかと。まぁ、その第一歩は失敗したのですが」

「ここに来るときに潜った、ゲートですか?」

「そう。それを使えば楽になると思ったのだけどね」

「ですが、それでは直哉様が何時まででも輸送用にゲートを使うことになるのですが?」

バルザダークは当然の疑問をぶつけた。

「それが問題なんですよ」

直哉はそう言って肩をすくめた。


「まあ、それは追々考えましょう」

直哉がそう締め括ると、

「そうですね。私は商売について案を出しますのでご覧ください」

そう言って、漁業の方を見に行った。



「これが、生物の巨大ガニか。たしかに魔物のカニに比べ色が明るいし、動きが遅いし泡による攻撃もないから、捕らえるのは楽だな」

漁獲量はかなりのもので、それでも豊富に資源はありそうであった。

「ここは、宝の山ですな」

「しかし、このままでは新鮮な魚が腐ってしまうぞ。捕り過ぎるな!」

「折角の宝の山なのに!」

難民達は頭を抱えていた。


「森を普通に抜けたら何日もかかるし、魔物も出るだろうし」

「かといって、直哉様が居ないと運べないのであれば意味が無い」

難民達は直哉の方を見た。

「だよねぇ。俺が居ればアイテムボックスとゲートで問題ないけど、俺が居ないとここに来るのも一苦労だよな。よし! リカードに新しく転移石を貰えるか聞いてみよう」

直哉はマップで周囲を確認して、『安全地帯』をセットしていった。




砂浜の部分から、崖の上までを横として、森の一部を含む範囲を直哉の新しい領地とした。

『安全地帯』をセットして、小屋や保存用の蔵を建てたりしていると、

「だ、大王イカだ!」

海で漁をしていた者から叫び声があがった。

「総員、退避! 砂浜まで逃げろ!」

ワァワァ!

船で海に出ていたもの達は大慌てで砂浜へ戻ってきた。



幸いなことに、死者は無く、怪我人も少なかった。

「さて、あれはどうやって倒せば良いのかな?」

そう考える直哉の元に、バルザダークがやって来た。

「直哉様、あれを釣り上げてもらえませんか?」

直哉は槍の先に返しをつけて、槍の反対側には蜘蛛の糸を中心に、釣糸をつけて切れにくくした。

「エリザ、これを大王イカに撃ち込んでくれる?」

「わかったのじゃ」

そう言って、空に舞い上がっていった。



大王イカは大量の魚を順番に味わっていた。

他に大王イカや巨大なタコがその様子を伺っていて、安全であったら横取りしようとしていた。

エリザは上空からその様子を見ていて、

「何匹か、一度にいけそうじゃな」

狙いをつけながら、強力な弦を引き、その時を待っていた。

そして、その時が来た。

大量の魚を奪おうと他の大王イカ達が群がって来たのであった。



「ふん!」

エリザは槍を放った。

槍は寸分たがわず最初のイカの目の間を貫き、次のイカの口を貫き、さらにもう一匹のイカの身体を貫いた。

最初と次のイカは即死し、最後のイカも瀕死のダメージをおって気絶した。

エリザは釣り糸を引きながら直哉の元に降りていった。


「おぉ! あの娘が引いてるぞ! 降りてきたらみんな手伝え!」

エリザが地上に着くと、男たちが集まり釣り上げる手伝いをした。

「せーの! せーの!」

エリザも直哉もバルザダークも手伝い、大王イカ三匹を引き上げた。

「やったぞー!」

「大きいぞ!」

「ささっ! 今のうちに捌いてしまいましょう。新鮮なうちに直哉様のアイテムボックスへ収納してしまいましょう」


バルザダークは直哉に処理用の小屋を造ってもらい、数名の者で食用に処理して、どんどん直哉にしまってもらっていた。

「これも、魔物ではないのか」

直哉が呟くと、

「そうですね、この大王イカはイカが大きくなっただけなので、普通に美味しいですよ」

「他にも大きくなった生物はいるのですか?」

「勿論です。タコやカニ、魚も白身や赤身などいますよ」

直哉は改めて海を見て、

「ここなら、バルグフルの食を賄えるかな?」

「森のほうが気になりますが、海に関して言えば大満足ですよ」

バルザダークの太鼓判を貰った。



「後は、輸送の問題だな」

直哉は目を閉じて、マーリカを呼び出した。

(マーリカ聞こえる?)

(何でしょうか?)

(リカードに時間が取れるか聞いてくれる?)

(かしこまりました)

少しして、


(ご主人様)

(どうだった?)

(用件によるそうです)

(食料問題についてと伝えてくれる?)

(かしこまりました)

先程より長い時間待つと、


(ご主人様!)

(どうだった?)

(ご主人様のお屋敷に、リカード様以下、お城の方々、そして伯爵のお二方がいらっしゃっております。ゲートで繋いでください)

(早いな)



直哉は急ぎゲートを開き、リカード達を砂浜に呼んだ。

「こ、ここは何処だ?」

直哉は地図を開き、場所を教えた。

「この辺りですね」

「こんなところに海があったのか!」

アレクを始め、ヘレネ、ダイダロスの各伯爵、シンディアも驚いていた。


「こちらをご覧ください」

直哉がリカード達を大王イカを処理している小屋へ案内した。

中では、リカード達が来る前にさらに数匹のイカを釣り上げ捌いていた。

「こ、これは!?」

「イカじゃないですか!」

「しかも物凄く大きい!」

「こんなイカ見たこと無い!」

「イカだけでもかなりの食を賄えるな!」

「まだいるのだろう?」

「えぇ、海にはまだまだ居ますね。イカだけでなくタコもいました」

食料に困っていたバルグフルの者達は大興奮であった。



「それで、今回は無料で差し上げますが、次回からは自分達で獲りに来てください。リカード様、転移石をお願いしたのですが、それがあればあの小屋に転移施設を作り、ここを解放したいのです」

リカードは考え、

「わかった。二組用意しよう。一つは城とここを、もう一つは直哉伯爵とここを繋げる様にしてくれ」

「わ、我々には無いのですか?」

「他の伯爵や、漁に出たい者は城に来てくれ。漁獲量のチェックをしたい」

二人の伯爵は安心したようで、

「ここを使わせてもらえるのであれば、それだけで満足ですよ」

そう言って、下がっていった。


シンディアを残してリカード達を返した直哉は、

「さて、巨大な生物が戻ってくる前に漁を再開しましょう」

そう言って、集まってきていた者達に声をかけた。




リカードから転移石を準備してもらい、直哉は崖の上に建てた小屋に転移部屋を設置して、城と屋敷からの扉を設置して、輸送を簡略化することに成功した。


そんな直哉にシンディアが声をかけてきた。

「直哉伯爵、少しよろしいでしょうか?」

「何でしょうか?」

「この一体をバルグフル王家の直轄地にしたいのですが」

直哉は少し考え、

「別に構いませんが、転移扉はどうしましょうか?」

「勿論そのままで構いません」

直哉はアイテムの事を思い出した。


「この周りに、我が領地として魔物から守るアイテムを設置しているのですが、王家の直轄地にした場合、上手く動作するかわかりませんが良いですか?」

「それなら、この領地はそのまま直哉伯爵に貸したままにしますので、漁業権だけください」

「その分、我々の税が減るのは良いですか?」

「それは勿論です。漁獲量から一定の量を税として収めたことにします」

直哉はさらに考えた。

「他の場所に漁港や、俺たちだけの狩場を造るのは良いですか?」


ここで初めてシンディアが即答できなかった。

「うーん。何故と、お聞きしても良いですか?」

「我が領民を食べさせるためです。今回難民の殆どが我が領地に残るという選択をしてくれました。ですが、私が居ない間、あれだけの人間の分の食料を賄えるの生産力がありません。ですので、生産力を高めるために新しい畑を造り、新しい狩場を探していたのです」

シンディアは考えて、

「それは、税を納めたことにするお金で何とかすれば済む話ではないのですか?」


「それも、そうですね。では、新しく漁業の場を見つけたら、今回と同じように王家へお渡しします」

直哉が納得したようなので、シンディアは安心して、

「そうですか、よろしくお願いします。直哉伯爵のおかげで、新しい産業が産まれそうです。後ほどリカード様から話があると思います」

「わかりました」

直哉が頭をさげた。




その時、森の方から大きな声が聞こえてきた。

「グギャァァァー」

その直後。


ズドーン!


と、大きな物が倒れる音がなり響き、地面が軽く揺れた。

「な、何だ?」

「何が起こったのでしょう?」

「何かの前触れですかね?」

「エリザ! 様子を見てくる、上空で射撃準備だ!」

直哉はエリザにそう言うと、靴に仕込んだ風の石の効果で空へ舞い上がった。

「わかったのじゃ、みんな、漁は任せたのじゃ!」

「姉さん! 行ってらっしゃいませ!」

エリザはその場で上昇を始め、臨機応変に攻撃できるように、連射タイプの弓に切り替えていた。



「直哉伯爵! 私も行きます!」

シンディアが下から声をかけた。

「飛べませんか?」

「大丈夫です。飛べますよ!」

シンディアは魔法の詠唱を始めた。

「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力と共に我が身体を自由に飛ばせ!」

魔法が完成し、魔力を放出する、

「フライ!」


シンディアの身体がフワリと浮いて来たが、直哉の速度よりも遅かった。

「それは、風魔法!? 普通の魔法ですか?」

直哉の質問に、

「いいえ、私のオリジナル魔法です。それに、直哉伯爵の靴の方が速いですね」

「確かに」

直哉は、頭を切り替えて、音のした方向を見ると、



「おにーちゃーん!」

リリが飛んで来ていた。

「ん? リリか?」

「手伝って欲しいの! 私とラリーナお姉ちゃんだけじゃ動かせないの!」

そう言って、指差した方向には、巨大なイノシシが数体倒れていた。

「な、何だあれは?」

驚いた直哉に、

「巨大なイノシシだったの。まだまだいっぱい居たけど、とりあえず数体は仕留めたの。でも、運べなくてどうしようか悩んでいたの」


直哉達は、ラリーナの待つイノシシの所へ行き、イノシシをアイテムボックスへ収納した。

「流石、お兄ちゃんなの!」

リリは感激し、

「しかし、出鱈目な収納ですね」

シンディアは呆れていた。

「さて、帰りますか」

直哉が帰ることを言うと、森の奥から(この場合、直哉の屋敷の方になるのだが、直哉の屋敷までかなりの距離があるため、森の奥とします)何かがやって来た。



「直哉、何か来るぞ」

ラリーナとリリが前に出て警戒を始めた。

直哉はマーリカを通して、エリザに状況を伝えた。

(毎回思うけど、マーリカを通すのは効率が悪いよな)

そんな事を考えていると、森からゴブリンの集団が大きなゴブリンに率いられてやってきた。


「魔物!?」

「ゴブリンなの!」

リリとシンディアが攻撃を開始しようとした時、大きなゴブリンから声が聞こえてきた。

「この森を荒らす者達よ! 我らが捌きを受けよ! 行け、勇敢な戦士たちよ!」

ゴブリンたちが襲い掛かってきた。


直哉は、ゴブリンが話したことに驚き、

「リリ! ラリーナ! 待ってくれ!」

そう叫んで前に出た。

「お兄ちゃん危ないの!」

「直哉! 何のつもりだ!?」


二人の声を無視し、大きなゴブリンの元へ飛んで行った

「貴方は話が出来るのですか?」

「当たり前だ。盗人よ裁きを受ける覚悟があるのか?」

周囲のゴブリンたちが直哉を攻撃していたが、直哉はそれを器用に避けながら話を続けた。

「盗人とはどういうことだ?」

「とぼけるな! 我らが食べるために大切に育てた肉を奪い取ったではないか!」

直哉は驚いた。話をするだけでなく、畜産する能力のあることに。


「待ってくれ、これらが、貴方たちの食料だとは知らなかったのだ。返すと共に、お詫びとして他の食料を提供したい」

ゴブリンキングは手を上げて、ゴブリンを制した。

「お前は私の言葉を信じるのか?」

「無条件にとはいきませんが、それなりには信じます」

ゴブリンキングはニヤリと笑い、

「わかった、では案内しよう、我らが里へ」

そう言って、直哉達を招待した。

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