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第百二十二話 復興への第一歩

◆冒険者ギルド


「これは、予想以上に酷いな」

直哉が呟いた。

「私は負傷者を見てきます。魔族の攻撃を喰らったのであれば、浄化をしておかないと危険ですので」

フィリアの言葉に直哉はうなずいて、

「頼むね。俺は、街を見てくるよ」


直哉はフィリアと別れて、冒険者ギルドの前に出てくると、リリとラリーナが休んでいた。

「リリ、ラリーナ。お疲れさん」

直哉が来たことに気がついたリリは、

「あー、お兄ちゃんだ! やっと来てくれたの!」

そう言って、直哉に飛び込んでいった。

「直哉のほうはもう良いのか?」

ラリーナの問いに、

「あぁ。何とか回復し終わったよ。ん? 隣に居るのはシロか? 随分と大きくなったな」

「わん!」

シロも立ち上がり直哉に擦り寄ってきた。



「俺は、街を見に行ってくる、リリたちはどうする?」

直哉が聞くと、

「リリも! リリも行くの!」

「私達は、もう少し休んでおこう」

「そうか、わかった。では、ラリーナここは任せるよ。リリ、一緒に行こうか」

「はいなの!」

直哉はリリを連れて街の被害状況を確認していった。



「結構酷い状況だな」

街の至るところに怪我人が居て、助けを求めていた。

「この辺には騎士団は来ていないのかな?」

直哉はそう思い辺りを見回すが、騎士団の姿は見られなかった。

(しかたがないか。マーリカ、今話せるか?)

しばらくして、慌てたマーリカの声が聞こえてきた。

(ご、ご主人様!? し、少々お待ちください。現在フィリア様に王妃様の治療を行って頂くために、案内していますので)

そんなマーリカに、

(いや、わかった。そっちに集中してて。こっちはこっちで何とかするよ)


「リリ、みんなの怪我の具合を見てきてくれる? 俺は回復薬の用意をするよ」

直哉がリリに言うと、

「わかったの!」

リリは直哉にお願いされて喜びながら走っていった。

(何処まで行くのだろう?)

直哉は呆れながら回復薬を用意していた。


直哉は周囲の負傷者を手当てしていると、リリが帰ってきて、

「あっちの路地に、変な娘が倒れているの」

と、報告してきた。

直哉は、今いる場所での治療を終え、リリの言った変な娘が倒れている場所まで急いだ。



直哉達がその路地へさしかかると、

「魔物め! その娘をどうするつもりだ!」

「その娘を離せ! 化け物め!」

という、声が聞こえてきた。

直哉は武器を持ち周りを囲んでいる男達に声を掛けた。

「どうかしましたか?」

「誰だ? ・・・・・まさか、直哉伯爵?」


(ん? この人、誰だっけ?)

直哉は首をかしげていたが、

「私は商人ギルドの者で、伯爵様には素材アイテムを良く買って頂いていた者です」

直哉は、

「あぁ! このドライアイスを売ってくれた人か!」

そう言って、アイテムボックスから冷気の塊を出した。

「まだ、持っていらしたのですか!?」

「えぇ。こいつは役に立ってますよ。ところで、どうしたのですか?」


「そうそう、そこのイヌ型の魔物が女の子から離れないのですよ」

そう言って、直哉に路地を見せた。

路地の壁に女の子がぐったりして座り込んでいて、それを守る様にイヌ型の魔物が威嚇していた。

ただ、いつもの真っ黒なヌイグルミではなく、闇のエネルギーが抜け、さらに黒い色素が抜けて灰色になっていた。

(ふむ。あれはたぶんイヌ型のヌイグルミで魔族だな。けど、何故こんな所に居るのだろう)

「よし、俺が話してみます」

「危険ですよ!?」

「大丈夫ですよ。いざとなったらリリも居るので」

商人達は止めたが、直哉は気にすることなく近づいた。




「止まれ! それ以上我々に近づくな!」

直哉が近寄ると、イヌは威嚇してきた。

「言葉を喋れるみたいだね。俺は直哉。この先の管理を任されている伯爵だ。君に聞きたい事がある」

直哉はそう言いながら、女の子と、このイヌの関係を考えていた。

このイヌは、女の子と繋がっているようで、女の子からあまり離れる事が出来ないようであった。

「五月蠅い! 人間と話す事など無い!」

イヌの魔物は拒絶した。

「後ろにいる女の子は具合が悪そうだよ。もし、その子が亡くなったら、君も危ないのでは?」


イヌの魔物は驚いた顔で直哉を見ていたが、

「だからなんだ! お前には関係ないだろう!?」

直哉は状況を確認するために質問していった。

「君がその娘を食べたのではないのだね?」

「そんな事をする訳がないだろう!」

イヌの魔物は激高していたが、

「でも、君たちは身体が繋がっているね」

「これは、我が主が望んだ事だ!」


直哉は魔物の言葉を聞いて考えた。

(フムフム、魔物を従わせる力という事かな? という事は、この女の子はテイマーだな。でも、魔族をテイムするなんて聞いた事無いな)

「最後に、君はイヌのヌイグルミかい?」

直哉の小声の質問に、イヌの魔物は驚いた表情で、

「何故それを!?」

「やはりそうか。とりあえず、俺の屋敷においで、その娘の治療をしないと駄目だし、君の話しも聞きたいし」


イヌの魔族は迷っていたが、直哉にこの事は今のところ黙っておくと言われ、渋々ついていく事にした。

「伯爵、危険ですよ!」

路地の入り口にいた商人達が直哉を心配していたが、

「大丈夫ですよ。元々、我が領地には魔物が数多く住んでいますので、この程度の魔物であれば問題ありませんよ」

と、微笑んだ。

「そうでした。辺境地伯爵様ですから、魔物の扱いに掛けてはバルグフルで右に出る者はいませんよね」

そう言って、安心して帰って行った。




◆直哉の屋敷


屋敷に到着する前に、長蛇の列が出来ていて、それを避けながら帰ってくると、その列は屋敷の入り口に続いていた。

「なんだコレは?」

直哉はそう思って居たが、

「旦那様! お帰りなさいませ! 奧でミーファ様がお待ちです」

と、キャミが声を掛けてきた。

「わかった、ありがとう」

直哉はそう言って、ミーファの元へ行くと、


「やっと帰って来ましたね。早急に、難民達用の仮住まいを造って欲しいのですが・・・、って、その娘は誰ですか? 二人の子供?」

「大きすぎでしょ。俺がこの世界に来る前に産まれてますよ」

「それもそうね。で、造ってくれるのかしら?」

直哉はミーファからの依頼で、敷地内の一部に、難民用の集合住宅を造り、一時避難してて貰った。



難民達の件が落ち着いてきた頃、フィリア達も戻って来ていて女の子について話し合っていた。

「さて、この娘についてですが、説明して貰えますね」

直哉はリカードが居ない事を確認して、この娘の事を話し始めた。


話を聞き終えたフィリアは、

「とにかく診てみましょう」

女の子の身体を調べ始めた。

直哉はイヌのヌイグルミに話しかけた。

「さて、お前には聞きたいことがある」

ラリーナやエリザにも囲まれ萎縮したヌイグルミは、

「何でしょうか?」

「単刀直入に聞く、お前の目的は何だ?」


「今となってはこの娘の幸せだけだな」

予想外の回答に首をひねった直哉は、

「どういう事だ?」

「既に魔王様からの庇護はなく、この娘からの魔力が頼りだからな」

「それで、闇のエネルギーを展開出来ないのか?」

「あぁ」


直哉は納得したので、

「この娘を解放できるのか?」

「こちらには、その権利がない。この娘次第です」

「では、この娘が目を覚ましてからだな」

そう言って、フィリアの方をみた。



フィリアは頷いて、女の子を起こした。

「こ、ここは?」

女の子は、周囲を見渡して、

「ワンスケは?」

「ワンスケ?」

直哉達はイヌの魔物を見た。


「おぅ! 俺がワンスケ様だ!」

「・・・・・・・・」

「何だよ! 何か文句あるのかよ! つか、文句があるなら魔王に言ってくれ」

そんなワンスケを守るように少女は立った。

「ワンスケを苛めないで。確かに魔物で悪いことをしていたのかもしれないけど、今は私の家族なの」

直哉はテイマーについて思い出していた。


(確か、自分の魔力を使って、魔物の魂を自分の魔力を繋げる事で仲間にするのだったかな)

「ワンスケは、魔物ではないと思って良いのだね?」

「もちろんです!」

少女は自信を持って言った。



「そうだ。俺は直哉。バルグフルの辺境地伯爵で、勇者をやっている。君は?」

直哉は自己紹介した。

「私はアイリ。モンスターテイマーのアイリ。この子はワンスケ。魔犬族だそうです。聞いたことなかったのですが」

アイリに続きリリやフィリアたちも自己紹介をした。


ワンスケはシロとじゃれていた。

「それで、アイリはこれからどうするの?」

「うーん。今まで暮らしていた場所は壊れちゃったし、この子を連れて行けるところ少ないし」

直哉はテイマーのことを思い出して、テイマーは腕輪にテイムしたモンスターを保管していたことを思い出した。

「そういえば、ワンスケはしまう事は出来ないの?」

アイリは腕輪を見せて、

「もう、この腕輪には入らないのです」


直哉は目を見開いて、

「そんなにテイムしているの?」

「これは、初心者用なので殆ど入らないのです」

直哉はスキルを発動して、テイマー用の腕輪を造り出した。

「これで、容量が増えると思うのだけど、どうかな?」

アイリは腕輪を受け取って、装備した。


「これは、凄いですね! 今までの三倍は保管できます。凄いです!」

アイリは喜んでいた。

「それじゃぁ、それをあげるよ」

アイリは目を見開いて、

「えっ? 良いの?」

「うん。もっと造り慣れれば良い物が出来ると思うけど、今はそれが精一杯だな」


アイリは直哉から受け取った腕輪を装備して、

「モンスタームーブ!」

元々の腕輪から直哉の造った腕輪にモンスターが移動していった。

「凄い! こんなに沢山! まだまだ仲間を増やすことが出来る!」

アイリは喜んでいた。そして、最後にワンスケを前にして、

「腕輪に帰れ! モンスターリターン!」

ワンスケは腕輪に吸い込まれた。



直哉はその様子を見て、

「これで、普通に生活することが出来るね」

「はい。このご恩は一生忘れません」

アイリは礼を言って出て行った。



「良いのですか?」

フィリアのささやきに、

「良いよ。他にもやるべき事は沢山あるからね」

「そうですね」

「これから、もっと忙しくなるね」

直哉は、フィリア達を抱き寄せ、束の間の休憩を味わっていた。




◆バルグフル城


「母上!」

リカードは病室で横たわるテテュースの元に居た。

テテュースは、左腕と左足を潰され現在は無くなっていた。

「命があっただけでも、幸いですから。民達の多くが亡くなったと聞きます。そして、あの人も」

テテュースは目を伏せた。

「申し訳ありません。この様な時に、旅に出ていただなんて」


「いいえ。リカードが助かったのは不幸中の幸いですよ。今こそ、王位を継承するときですよ」

そう言って、シンディアとアレクを促した。

シンディアは王を失い、弟子であるクロスを失い、悲しみに沈んでいたが、アレクの心で何とか平静を保っていた。

「シンディア。貴方はオケアノスの宮廷魔術師ではなく、バルグフルの宮廷魔術師なのですよ。今は多くの者が悲しみに打ちひしがれています。このような時は、貴方だけでも冷静で居るところを見せてあげてください。後で、私の元へ来なさい。その時に全てを吐き出されて挙げますから」

シンディアは涙を堪えながら。

「テテュース様。テテュース様こそ、お辛いのに温かいお言葉をかけていただいて。もったいなきお言葉ありがとうございます」

シンディアはアレクに支えられながら病室を出て、部下達に指示を送っていった。



「リカード。貴方にはこれからバルグフル王として、この地を治めてもらいます」

「はい」

「私から、何かを言うつもりはありません。ただ、世継ぎの問題があるので、早く嫁を取なさい。それだけです」

テテュースの言葉に、

「そうでした。実は紹介したい娘が居ます」

そう言って、アンナを紹介した。


「そうでしたか。この様な姿で申しわけない。リカードの事、そして、このバルグフルをよろしくお願いします」

アンナはテテュースの傍によって、

「私の全力を尽くします」

そう言って、リカードと共に民へ紹介されるために出て行った。



そこへ、近衛兵が入ってきて、

「テテュース様、直哉伯爵とその奥方様をお呼びいたしました」

直哉達を連れ込んだ。

「これは」

直哉は息を呑み、

「フィリア、テテュース様のお身体はどういう状態なのだい?」

フィリアは怪我と治療の具合を説明してくれて、テテュースから義手義足の作成依頼を受けた。


直哉は、その場で義手義足を造り、テテュースの身体に疑似部位連携で接続していった。

テテュースは手足を動かし、

「これは、本当に凄いですね。自分の手足のように動かせるのですね」

感動しているテテュースに、

「違和感などはありませんか?」

と、尋ねると、

「全くありません。この技術は凄いですね」

そう言って、直哉の事を褒め称えていた。

テテュースは治ったのだから、寝ている場合ではないと、近衛兵を引き連れてリカード達の元へ向かうのであった。

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