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第百二十一話 十二魔将トラ型のヌイグルミの魔族

リカードを中心に近衛騎士や近衛兵は、組織的に街へ救援に向かうのであった。


(母上の捜索はマーリカさんが自ら行ってくれるらしい。力仕事は時間がかかるとの事で、近衛兵を三名ほど合流させた。フィリアさんは父上を見て蘇生は無理ですと言ってから一度戻り直哉の様子を見てくると出発していた。我々は城から出て、周囲の魔物を掃討しながら、最前線である冒険者ギルドへ向かう)

「近衛騎士、近衛兵は二名一組となり、街に入り込んだ魔物を討伐せよ! 冒険者と連携して民を守れ!」

「はっ!」

「リカード様、我々も急ぎましょう」

リカードはアレクとシンディアを引き連れて、冒険者ギルドへ向かっていた。




◆冒険者ギルド前


「まだ、生きている奴はいるかい?」

ラリーナの質問に、

「あぁ、かなりの人数が命を散らしたが、なんとか」

ヘーニルは青白い顔でそう答えると、その場に倒れ込んだ。

もちろん、光の障壁は消え、ダークタイガー達が躍りかかる。

「相手の強さも判らん雑魚供が!」


ラリーナは横にいるシロを見て、

「行くよ!」

「わん!」

銀狼の姿に変身して、針を周囲に展開させた。

「わおぉぉぉぉぉぉぉん!」

ラリーナが一吠えすると、シロが巨大化してラリーナと同じくらいの大きさになった。


二匹の銀狼がダークタイガーへ襲いかかる。

ダークタイガーとラリーナの突撃は、ラリーナに軍配が上がる。

(どうしたどうした! その程度か!)

ラリーナは次々と、ダークタイガーの喉を噛み千切り、爪で致命傷を与えていく。

数は多かったが、ラリーナとシロの連携の前に、逃げるどころか回り込む事すら出来ずに数を減らしていった。


そんな様子を見ていたトラのヌイグルミは、

(なんなんのだあれは? 魔王様に頂いた我が軍団があっという間に消えていく)

逃げるためのアイテムを使おうとした。

「な、何故だ! 何故、ゲートが使えないのだ?」

狼狽したトラは、

「はっ! まさか、まさか、魔王様は私達を捨て駒にするつもりなのか?」

そう呟いた時に目の前にラリーナの姿があった。


「これで、終わりだ!」

「くっ!」

ラリーナの攻撃を受け、致命傷は避けたものの、左腕が肩からぶらんと垂れ下がるほどの重症を負った。

「くそう! こうなれば、あの力を使うしかないな」

トラのヌイグルミは、口の中に仕込んでおいた魔王の力を吸収した。


「うぐぐぐぐぐぐぐ。ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ」

トラの身体から黒い霧が噴き出した。

「おらぁ!」

ラリーナはお構いなしに殴りかかるが、


ガン!


と、黒い霧に攻撃がはじき返された。

「なに!?」

トドメの一撃を弾かれたラリーナは驚いたが、次の攻撃を繰り出した。

「リズファー流、第一奥義! 大地割り」

普段は長巻を使って放っていたが、今回は銀狼化していたため、前脚で放った。


ドゴッ!


分厚いタイヤを殴ったような音が響いた。

「くっ! 堅いな。一人だけでは、大きなダメージを与えられぬな」

ラリーナは距離を取ろうとしたが、すぐ横にいるシロが目に入った。

「お前が私の分身ならば、お前もリズファー流を使えるのでは?」

「判らぬが、やってみよう」


「リズファー流、第一奥義! 大地割り!」

ラリーナよりも弱いけれど、奥義が発動した。


「何か、納得がいかないのだがな。あれだけ苦労して修得したのにお前はコピーするだけか」

ラリーナはそう言いながら、

「同時に行くぞ!」

シロと動きを合わせて攻撃した。


右からラリーナ、左からシロの鏡に写したような攻撃で、トラの周囲にある黒い霧を剥いでいった。

トラのヌイグルミも黒い霧をどんどん発生させていき、ラリーナ達の猛攻を防ぎつつ内部では闇のエネルギーによる強化を行っていた。


(だいふ剥いだが中々姿を現さないな。一気に行こう!)

(おぅ)

「リズファー流、第一奥義! 大地割り! ダブル!」

ラリーナとシロは同時に奥義を放った。


二人の攻撃はトラのヌイグルミを直撃し、黒い霧を全て吹き飛ばした。

そこに居たのは、真っ黒な人型の身体を持ち、真っ黒なトラの顔が付いた魔族であった。

今まででヌイグルミとは違い、異様な波動を放っていた。

(凄い威圧感だな。だが、アレで最後だろう)

ラリーナは冷や汗をかきながらも攻撃を再開した。


何度か攻撃を仕掛けたが、

(本当に堅いな。大地割りが防がれたということは、ただ堅いだけでなく物理攻撃が無効なのか?)

ラリーナは首をふり、

(それはないか。ダメージは与えた感触があるからな。ただ、傷が見えないのは魔族だからか? それとも秘密があるのか?)

そう考えているとトラの魔族に変化が現れた。

手に黒い剣を生やしてラリーナに攻撃を開始した。


「くっ! 早い。そして、重い!」

ラリーナが防御に徹していると、トラの動きに合わせてシロが後ろから飛び掛かった。

(!?)

トラの魔族は一瞬驚いたようであったが、ラリーナへの攻撃を緩めることなくシロにカウンターをいれようとしていた。

シロはそれを感じたので、カウンターを警戒しながら攻撃を続けるとトラの魔族はイライラし始めた。


ラリーナはトラの魔族の猛攻を防ぎつつ観察していると、シロの攻撃が命中する際に身体を覆う黒い膜が濃くなることに気が付いた。


(それが無傷のネタか?)

ラリーナは防戦一方の状況を何とかしようと試みたが、下手なことをすれば、自分が致命傷を受ける危険があるので自重した。



そこへ槍がトラの魔族へ向けて飛んできた。

トラの魔族はそれに気付かず直撃を喰らった。


ザシュ!


「何!? 何処から?」

(やはり、物理攻撃無効では無さそうだ)

トラの魔族は驚き、ラリーナへの攻撃を中断してしまった。

(チャンス!)

ラリーナはシロに合図を出して反撃に出た。


「リズファー流、第一奥義! 大地割り! ダブル!」

ラリーナはトラの魔族の右腕を、シロは左腕を切断して吹き飛ばした。


「ぐおおおお」


激しい痛みにさらされ魔族は雄叫びを上げた。

そして、闇の力を解放すべく最後の攻撃に出た。

(まさかこの状態で一人も倒せないとは思いませんでした。これが、私の最後の攻撃です。受けきれますか?)

トラの魔族は槍に貫かれたまま、ニヤリと笑い、闇の力を解放した。

「ダークサウザンドニードル!」

トラの魔族の身体から無数の闇の矢を全方位に飛ばしてきた。


「なっ!? 全員避けろ!」

ラリーナはその攻撃を回避及びはじき返しながら叫んだ。


シロも同じように避けていたが、冒険者や冒険者ギルドの職員達は無理であった。


「ぎゃー」

「マスターをお守りしろ!」

「痛い痛い」

まさに、阿鼻叫喚であった。



そんな中、トラの魔族は闇のエネルギーを使い果たし、完全に消滅した。

「し、消滅してくれたか? だが、こちらの被害も甚大だな」

ラリーナはトラの魔族からの攻撃が完全に終了した事を確認し、トラの魔族が消滅した事も確認した。


「ふぅ。さて、もう一仕事だな」

ラリーナは銀狼化を解除して、怪我人達に回復薬を渡していった。

周囲に居た冒険者たちの怪我の程度は軽かったが、冒険者ギルドの職員たちの怪我が酷かった。

ラリーナは手当ての終えた冒険者たちの力を借りて、冒険者ギルドの職員たちを運び込み、ギルドの奥に居た光魔法師が治療していった。

「さて、ヘーニルにはMP回復薬を振り掛けたから、しばらくすれば目を覚ますだろう。それと、光魔法師は他にいないのか?」

ラリーナはヘーニルにMP回復薬を振り掛け、手当てを担当してる職員達に回復薬を配っていた。


「高位の光魔法師様はリリさんのところへ向かいました」

職員の回答に、

「リリの所に? 怪我でもしたのか?」

「いいえ、ウシの魔族を捕らえたので、浄化して欲しいと依頼がありました」

それを聞いた、ラリーナは、

「わかった。私が迎えに行って来よう。リリの所だな?」

「はい」

ラリーナは銀狼へ姿を変え、

「あっちか。ついでに魔物も刈って来よう。行くぞシロ!」

「わん!」

ラリーナとシロはリリが居る方向へ走り去った。



それから数分後に、

「これは、酷いな」

冒険者ギルドへ到着したリカード達は、半壊した建物を見て呟いた。

「リ、リカード様?」

比較的怪我の軽かった職員がリカード達を見て驚いていた。

「ヘーニルは居るか?」

リカードの質問に、

「ギルドマスターは、奥で眠っておられます。先程の戦闘で負傷され倒れられた後、意識が戻りません」

「中へ入るぞ? アレクとシンディアはここを拠点として、街の救援を続けてくれ」

「わかりました」



リカードが中へ入ると、怪我の手当てを終えた冒険者たちが、怪我人の手当てと光魔法師の手伝いをしていた。

「ヘーニルはどこだ?」

「リ、リカード様!?」

回復魔法を掛けていたギルド職員が驚いていた。

「こ、こちらです」

奥でヘーニルが静かに横たわっていた。


「ヘーニル!」

慌てて駆け寄ると、看病をしていたギルドの職員が話しかけた。

「リカード様。ヘーニル様なら大丈夫です」

「どういう事だ?」

「先程、ラリーナ様がMP回復薬をかけてくれました。しばらくすれば目を覚ますはずだと」

リカードはヘーニルの顔を見て、

「確かに魔力欠乏症のようだな」

リカードは安心したようで、さらにギルド職員に聞いてみた。

「それで、ラリーナは何処へ?」


「ラリーナ様なら、リリさんの所に行った光魔法師を連れ戻しに行きました。ついでに残っている魔物を駆除してくるとおっしゃっていました」

職員の説明に、

「なるほど、という事はもう少ししたら戻ってくるのか。そういえば、イリーナはどうした?」

「イリーナですか? イリーナならそちらで治療を受けています」

そう言って、軽症者がいるエリアへ案内した。



「イリーナ、お客様です。では、私はここで失礼します」

職員はリカードをイリーナのところへ案内してから、仕事へ戻っていった。

「リ、リカード様? いつお戻りで?」

「つい先程。ラリーナが居ただろう。彼女たちと一緒に戻ってきた」

リカードの説明に、

「つまり、直哉さんも戻ってきているのですか?」

「もちろん。直哉が居なければ、私も戻っては来られなかった」

「そうでしたか。それで、直哉さんは今何処に?」

イリーナは直哉ならこの状況を何とかしてくれると信じていた。


「直哉なら、直哉の屋敷に居るはずだ。フィリアも直哉の元へ戻っている」

「では、直哉さんの屋敷への扉を開放します。それで、来てもらいましょう」

イリーナはギルドマスターの部屋へ行き、扉を解放した。

(よかった。私だけでも使えるようにしておいて貰って)

イリーナは直哉の屋敷へ飛んだ。




◆直哉の屋敷


直哉はだいぶMPが回復し、眩暈もなくなってきていた。

「そろそろ、俺も救援に向かうか」

そこへ、ミーファが立ちはだかった。

「直哉さん。決して無理をしてはいけませんよ! それに、バルグフルから魔物が一掃された後に、直哉さんには真の仕事をやってもらうことになります」

直哉は後ずさりながら、

「わ、わかった」


その時、転移部屋からイリーナがやって来た。

「直哉さん!」

直哉が呼ばれた方を見て驚いた。

「イ、イリーナさん?」

イリーナはボロボロの装備であちこち怪我をしたままやって来たのであった。


フィリアが素早く駆け寄って、

「とにかく治療を。直哉様、大量のお湯を! お母様はイリーナさんの着替えなどをお願いします」

直哉とミーファはフィリアの頼みごとを実行するために、屋敷の中を走り回っていた。

「あぁ、フィリアさんも戻ってきていたのですね」

「話は、後にしましょう。防具が強力だったようで、身体の主要箇所は守られていますが、末端に大量の闇のエネルギーが蓄積されています。このままでは非常に危険ですので、一気に浄化して治療しようと思います。少々痛いですが我慢してくださいね」

フィリアの説明に、イリーナはつばを飲み込んだ。

「よ、よろしくお願いします」


フィリアは、直哉とミーファが準備を整えてくれたのを確認して、

「では、治療を開始します」

と、宣言をして、浄化と回復をイリーナに施した。

浄化の魔法で、鋭い痛みに襲われたイリーナは悲鳴をあげ、その後回復魔法によりその傷が完全に塞がっていった。

「本当に痛かったです。今も痛い気がします」

イリーナはそう言っていたが、身体から闇のエネルギーが抜けたのでかなり楽になっていた。



「本当にこの防具のおかげですね」

イリーナそう言いながら直哉にその防具を見せた。

「それは、俺が造った兜と鎧? 盾もあったはずですよね?」

直哉はその防具を見て驚いていた。

「えぇ、盾もありましたが、マスターを守っていたら完全に壊れました」

イリーナの言葉に、

「何だって? あの盾が壊れるほどの衝撃だったのか・・・」

「ですので、私と一緒に冒険者ギルドへ来てください。負傷者の回復をお願いします」

と、イリーナは頭を下げた。



直哉はミーファを見て、

「ミーファさん、フィリアと共に冒険者ギルドへ行ってきます。ここを任せて良いですか?」

「もちろんです。貴方のやるべきことをして来なさい。ただし、無理は禁物ですよ」

ミーファは快く送り出した。

イリーナは直哉とフィリアを連れて冒険者ギルドへ戻るのであった。

冒険者ギルドでは、ラリーナがウシの魔族を浄化し終えたリリ達を連れ帰っており、リカード達は、他のギルドの状況を確かめに行っていた。

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