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第百二十話 バルグフルの戦い

◆リリの戦い


リリの前にはウシのヌイグルミが、ミノタウロスの集団と共に待ち構えていた。

(まずいの。あっちのトラをやっつけられる人が居ないの。お兄ちゃん何とかしてなの)

リリはそう思いながら魔力を集中し始めた。



直哉の屋敷では、その知らせを受けた直哉が、ミーファに止められていた。

「リリが困っている。助けないと!」

「そんなMPの状態の直哉さんが行って何が出来るのですか! 今は、回復に専念してください」

そう言って振り掛けるMP回復薬を使って直哉のMPを回復していた。

「ぐぬぬ。マリオネット!」

直哉は世界が自分中心に回っている状態で、マリオネットを発動し、MP回復用の球の数を増やしていった。

(回復しろ! 回復しろ! 回復しろ! 回復しろ!)

直哉は心の中で回復を念じていた。

ゲートマルチ分のMPが消費されたのは、もう少し後であった。



「普通のミノタウロスよ、あの小さなビンクを潰しなさい!」

ウシのヌイグルミの命令に、ミノタウロス達は吠えた。

「ガォー」

ミノタウロス達は喜びの叫びを上げた。


左右からリリを目指して挟み込もうとしたミノタウロスは、角を下げて一気に突進してきた。

「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

それを見たリリは、魔力を少し解放して、

「スライスエア!」

風魔法を唱えた。

「よっと!」

リリは、風魔法を使い浮かび上がった。


「ギァオス」


ミノタウロスはお互いに角を絡ませる形で、突進が停止した。


「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

リリは一気に倒せると確信し、魔力を少し解放し、

「クールブリザード!」

と、氷魔法を展開し、

「氷結魔神拳なの!」

氷を拳に集めて、殴りかかった。

一ヶ所に集まった二体の頭に炸裂した。


「先ずは、二体なの!」

ミノタウロス二体は頭を粉砕されキラメキながら、消滅した。



「まさか、ミノタウロスが一撃とは恐れ入った」

ウシ型のヌイグルミはリリを見ながら呟いた。


「お前達、四体の同時攻撃を行いなさい」

ウシ型のヌイグルミはミノタウロス四体に命令した。


「ガォー」


ミノタウロス達は、命令を実行するべく、それぞれの位置に別れて行った。

その様子を見て、リリはまた魔力を少し解放しようとして、まだ身体の周りに風の魔法と氷の魔法の効果がある事に気が付いた。

(あれ? 効果時間が延びた?)

リリはいつ効果時間が切れても良いように詠唱だけ済ませて、四体のミノタウロスに躍りかかっていった。


「ギューン」

リリは低空で別れたミノタウロスの一体に、その背後から躍りかかった。

「おらおらおらおらおらなの!」

無限氷結拳を繰り出して、叩き付けた。


「ギャオ?」


ミノタウロスは何が起こったのか判らないといった表情で、凍り付きキラメキながら消滅した。

「えぃなの!」

リリはミノタウロスが消滅する前に、その身体を蹴って次のミノタウロスまで飛んで行き、同じように倒した。

四体全てを倒すのに一分かからなかった。


「まさか、これ程の殲滅力があるとは、夢にも思いませんでしたよ。ここにいる、雑兵では歯が立ちませんね」

そう言って、大きく息をすいこんで、

「モー」

と、叫び声を上げた。


その叫びは、バルグフルに響き渡り、散開していたウシ型のヌイグルミの配下を呼び集める合図であった。

(置いていかれるぞ!)

(戻れ戻れ!)

いろんなミノタウロスはガオガオ言い合いながら、街から引き上げていった。


街ではミノタウロスの代わりに、タイガー系の魔物が蹂躙を開始した。

「今まではウシのやつらに譲っていたが、あいつらは帰るみたいだから、俺達は残りを貰うぞ!」

と、トラ型のヌイグルミは自分の配下の魔物を鼓舞していた。

「ガオー!」

「ガオガオ!」

と、返事をしながら、町中へ散っていった。




リリは、ミノタウロスを倒し、ウシ型のヌイグルミに肉薄していた。

「これで、お仕舞いなの!」

そう言って、魔力を解放しようとした時に、リリに向かって斧が飛んで来た。

「よっと! 危ないの!」

リリは後ろに飛び退いた。


斧は、リリとウシ型のヌイグルミの間に落ちた。

「ナイスタイミングです!」

ウシ型のヌイグルミは斧を飛ばした赤いミノタウロスに声を掛けた。

普通のミノタウロスは緑色で、二つ目、二つ角のウシの顔をした魔物であった。

「がぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

声を掛けられたのが嬉しかったのか、大きな叫びを上げて喜んだ。



その後、ウシ型のヌイグルミから斧を受け取りリリの前に立ちはだかった。

「後から後から面倒なの! コレで終わりなの?」

リリは後一歩という所で邪魔が入った事に腹を立てていた。

(でも、リリの魔力じゃ魔族を消滅させる事が出来ないの。あっドラゴンさんになれば消滅させられるけど、お兄ちゃんの許可が無いからなぁ)

そんな事を考えて、頭に血が上りきるのを防いでいた。


そんなリリの様子を見ていたウシ型のヌイグルミは、

(なかなか理性が働いて居るようですね。長期戦になりそうだ)

何かの策があるようであった。

リリは、埒が明かないと判断し、詠唱を開始した。

「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力と共に不可侵の領域を造りたまえ!」

リリは周囲を確認して、

「インバイラボウシールド!」

赤いミノタウロスを切断する魔法を使った。



魔力が集中する所で、赤いミノタウロスは素早く身を躱し、魔法の効果範囲外へ逃げ出した。

「えっ?」

リリはその姿を見て、驚いてしまった。

それを見ていた、赤いミノタウロスは持っていた斧を投げつけた。

「あ、危ないの!」

一瞬遅れたリリであったが、何とか回避する事が出来たが、風の魔法は完全に消滅していた。

「失敗したの」

リリはそう呟きながら、どうするかを考えていた。


赤いミノタウロスは、緑のミノタウロスに比べ三倍の速度で動いていた。

リリも風の魔法を身体にまとい、速度には速度として、赤いミノタウロスの攻撃を避けながら氷結クラッシュを当てていた。

何回かの攻防の後、赤いミノタウロスの武器を破壊することに成功し、赤いミノタウロスの武器は自身の腕になっていた。

「しぶといの!」

一気に勝負をつけるために魔力をさらに解放して、拳に冷気を溜めていった。


「これで、止めなの!」

「ぎゃおぉぉぉぉぉぉ!」

ミノタウロスも最後の攻撃とばかりに叫び、両腕を握って振りかぶって、一気に振り下ろした。

「見えるの!」

リリはその攻撃もかわし、集めた冷気を一気に解き放ち

「魔神氷結拳!」

リリの拳は赤いミノタウロスにクリーンヒットした。

「ゴルァ?」

ピキピキピキ

赤いミノタウロスは、それが最後の言葉になり、キラメキながら消滅した。



「なんだと!? レッドミノですら一撃だと!」

ウシのヌイグルミは驚愕した。

(これは、一度撤退するしかないですね。ネズミは何をやっているのですか?)

そう思ったとき、城の方から巨大な闇のエネルギーが溢れ、その後物凄い衝撃音と共に、その闇のエネルギーが消滅したのを感じた。

(何ですか今のは!? ネズミのエネルギーを一瞬感じたのですが、それが消滅したように感じたのですが・・・)


「それは、悪手なの!」

ウシのヌイグルミはほんの少しの間、リリの事を忘れてネズミの方へ気を取られた結果。

「しまっ・・・・」


ドグシャ! ピキピキピキピキ


魔神氷結拳が、ウシのヌイグルミに炸裂して、その身体を氷が覆いつくし、身動きすることが出来なくなった。

(くそ、一生の不覚だ)

ウシのヌイグルミはそう思ったが、自分では何も出来ないので配下の者に任せようとしたが、状況を判断出来る程の知能を持ったものが配下に居ないことにため息をついた。

(我が配下の者では、役に立たんな。後は、トラの奴が気がつくかどうかだな)

そう思い、その時点で考える事も止めた。



「ふぅ。何とかなったの。光魔法の破邪魔法が使える人を呼んで欲しいの」

リリは近くに居るであろう忍に声をかけた。

「近くの冒険者ギルドから来てくれるそうです」

と、回答があったので、リリはその場で待機することにした。




◆冒険者たちの戦い


冒険者ギルドの周辺でも大きな戦闘が行われたいた。

「ここを突破されると、商店に被害が出るぞ! ここで押さえ込みなさい!」

「魔法の防御壁を張り続ける事は出来ません。冒険者の皆さんに敵を押し返して貰います」

冒険者ギルドでは、緊急クエストを発行してバルグフルの冒険者達をかり出していった。


「ザッコ! 離れるとやられるぞ!」

「ウルセエよ! ゴッミ」

「ケンカはそこまでにしてくださいよ、ヨッワが泣いています」

「はっ、ヨッワの事は頼むぜ、お目付役さんよ!」

バルグフルの冒険者ランク3のパーティもこの緊急クエストに参加していた。


「とにかく死ぬなよ! 緊急クエストだから、生きてさえいればそれなりの金額が貰えるはずだ!」

「それは、ぶっちゃけ過ぎでは?」

「いや、みんなそう思っているさ!」

ザッコが周囲を見ながら言ったが、他の冒険者達は既に民が暮らす地区や、商店街の方へ魔物を倒しに出かけていた。

「俺達しか残ってないのか!? ならば、俺達がこの場所を守る!」



ザッコがそう言いきった時、目の前の光の障壁が消え去った。

「なっ!?」

「うわぁぁぁぁ! 魔物が来るぞ!」

「冒険者達よ、迎撃開始!」

冒険者ギルドのマスターであるヘーニルが、奧から出てきていて、ギルド職員達もそれぞれ武器を持っていた。


「ちっ! 予定が狂ったが、後ろでギルドマスターが援護してくれるなら大丈夫だ! みんな行くぞ!」

ザッコの号令に、

「おぅ!」

ザッコの仲間達は、魔物の群れに突撃していった。



「せりゃ!」

「えりゃ!」

ザッコ達はダークタイガー達相手に良く戦っていたが、数が多くギルドの方へかなりの数が抜けてしまっていた。

職員達の応戦もあり、ヘーニルの援護魔法により何とか押さえているという感じであった」

(こ、このままでは)

(死にたくない!)

ザッコ達の心に焦りの感情が膨らみ始めていた。



そんな焦りは隙を生み、

「しまった! 越えられた!」

ザッコの声に、ギルド員達は武器を構えた。

だが、飛び越えたダークタイガーは冒険者ギルドのバリケードも飛び越え、そのまま街の方へ行ってしまった。

「不味い! 至急街に入った魔物を追いかけなくては」

冒険者ギルドの職員が叫ぶと、

「大丈夫です、向こうは鍛冶ギルドの方です。ヘーパイストス達が何とかしますよ」

ヘーニルはそう言って、目の前のダークタイガー達に攻撃を集中した。


(私は防御特化型なので、攻撃は殆どおまけみたいなものなのですよ。もう少し、冒険者たちが戻ってきてくれないと、ここを維持出来ませんね)

ヘーニルもやや焦りを感じていた。

その時、ザッコ達四名はダークタイガーの連携攻撃の前に、なすすべもなくその命を散らすことになった。

(しまった。ほかの事に気を取られすぎましたね)


ヘーニルは光の障壁を張りなおし、防衛に徹することにした。

その時、城の方から巨大な闇のエネルギーが溢れ、その後物凄い衝撃音と共に、その闇のエネルギーが消滅したのを感じた。

(何ですか今のは?)

ヘーニルは首を傾げたが、目の前のダークタイガー達の攻撃が熾烈で、それどころではなくなっていた。

(しかし、このままではジリ貧です)

そこへ、一匹の犬を連れた女性が舞い降りた。

街に入り込んだであろうダークタイガーを持って。




◆バルグフル城での出来事


ネズミ型のヌイグルミを倒したリカード達は、キマイラと対面していた。

ただ、キマイラは槍に貫かれ身動き出来ない状態になっていた。

「グルルルギャァァガルラァギョリス」

色々な泣き声が混ざっているキマイラに向け、呼吸を整えたフィリアは浄化の魔法を使用して、串刺しのまま消滅させる事に成功した。

「さて、フィリアさん身体は大丈夫ですか? 辛いようでしたら休憩していてくれて構いませんよ」

リカードの言葉に、

「それでは、MP回復薬を飲んで回復していたいと思います」

と、回復を申し出た。

リカードはフィリアをその場に残し、王の執務室へ急いだ。


執務室の入り口は開いており、中に数名の人が居る事が判った。

その内の一人が近衛騎士団長のアレクだったので、そのまま部屋に近づいた。

「誰だ!」

アレクから警戒されたリカードは、

「私ですリカードです」

と、剣をしまって部屋に入った。

「リ、リカード様!? いつお戻りに? 申し訳ありません、閣下が」

そう言って、目を伏せた。


リカードは驚いて、

「親父? 親父がどうかしたのか?」

といって、アレクに詰め寄った。


「陛下はネズミのヌイグルミの攻撃を受け、ほぼ即死でした。現在は陛下の寝室に寝かせております」

アレクは掌から血がにじむほど、自分の手を握りながらリカードに報告をしていた。

「判った。知らせてくれてありがとう。誰か、アレクに手当てを!」

リカードは国王の寝室へ急いだ。


リカードが国王の寝室に着いたとき、中にはシンディアしかいなかった。

「報告ですか?」

と、振り向いたその目には涙が溢れていた。

「リ、リカード様! この様な姿で申し訳ありません」

「いや、良い」

リカードは室内を見て、


「母上は?」

「現在捜索中です」

「捜索?」

「はい。敵の攻撃により、お妃様が休んでおられた塔が崩壊致しました。現在捜索中です。ですが、城も街も大混乱で人手が足りません」

「判った」


リカードは後ろを向いて、

「マーリカさんの忍びよ。聞いているならマーリカさんに救援要請を出してくれるかい」

リカードの願いに、

「御意。探索の人員を直ちに送るとの事」

その言葉を聞いたリカードは、

「すまない。感謝する」

頭を下げた。


「シンディア。この場とアレクが居た執務室を部下に任せ、会議室へ集まってくれ、今後の事を話し合う」

「リカード様? この場を他の者に任せるのは・・・」

国王の身を心配するシンディアに、

「父の事を思ってくれるのは嬉しい、だが、今、俺達のするべき事は父の死を悲しむことではない。まだ、魔物の侵攻は止まっていない。民たちが危険にさらされている状態なんだ。こちらの問題を解決するのが我々の役目であろう」

リカードの強い口調に、

「リカード様。貴方は強くなられましたね」


シンディアは涙を拭い、

「誰かあるか!」

近くを哨戒していた兵士にこの場を任せ、アレクを呼びに行くのであった。

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