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題百十八話 混迷のバルグフル

唐突にソラティアでの活動が終了しました。

次の地域に向けた話が、数話続きますが、それはソラティア編とします。


「どういうことだ! バルグフルが攻撃を受けているというのは!」

リカードはマーリカに詰め寄った。

「お待ちください、リカード様。今、続報を聞いております」


マーリカが情報を集めている内に直哉は、

「リカード達は出発の準備を! 直ぐにでも行きますよ。もちろん、リリ達も準備を!」

「おう」

「はいなの!」


そんな様子を見ていたガンツは、

「俺達も行くぜ!」

「いや、ガンツさん達は、ソラティアの警備をお願いします。バルグフルの襲撃が囮の可能性もあります」

「しかし!」

「忍達も、アルカティア担当の者を置いていきますので、連絡はそちらにお願いします」

直哉はマリオネットを発動して魔力を回復させながら、ゲートマルチをバルグフルの直哉の屋敷に繋げるための集中に入った。


物凄い魔力が直哉の周辺に集まってきていた。


そこへ、

「ヌイグルミの魔族を三体確認、それとヌイグルミのキマイラが一体、魔物が多数。城を中心に襲いかかっています」

マーリカの報告に、

「このままでは父上が危ない! 直哉! まだか?」

リカードは焦っていた。

だが、リカードにもわかっていた、直哉がどれ程の力を使おうとしているのかを。



ビリビリビリ


と、音が出るくらいの量の魔力を、直哉は集めていた。


(くっそ。抑え込めよ俺! カソードの力があるなら、俺にだってこの位は制御してみせる! ぐぬぬぬぬぬ)


時間にして十数秒だったが、そこにいるすべての人には、数時間に感じる程、目が離せなかった。


「捉えた! ゲートマルチ!」

直哉から魔力が溢れ出す!

直哉の魔力は転移の魔方陣を造り出した。

「みんな急いで! いつまでもつかわからない」


直哉の叫びに、リカードは真っ先に飛び込み、続いてリリ達が飛び込み、アンナとゴンゾーがその後をゆっくりと進んだ。


「バルグフルのカタがついたら戻ります。その時には良い国になっている事を期待します。それでは!」

直哉が転移の魔方陣を通ると、魔方陣はその効果を無くして消え去った。


「行ってしまいましたね」

「凄い方だった」

パルジャンやジャンヌはそう言った後、直哉に託されたソラティアを良い国にするべく、行動を開始するのであった。





◆バルグフル 直哉の来客用の屋敷


バルグフルの至る所で火の手が上がり、直哉の屋敷も混乱を極めていた。

「キルティング様、難民が押し寄せています。このままでは、屋敷に被害が出てしまいます」

受付のチュニの報告を聞き、庭師のチェスターに、

「森の中へ逃げ込めるか?」

「はい。鍛練用に魔物が居る場所もありますが、それ以外は問題ありません」


「制限区域を設けて、難民を避難させよう。ミーファ様に連絡を!」

キルティングはティアに報告に行かせようとしたが、

「その必要はありません」

その、ミーファがやって来た。

「こちらも随分と騒いでいますね。制限区域についてはチェスターとカーディに一任します。なるべく早くしてください。チュニさん達は、難民たちをこちらへ誘導してきてください。森へ案内します」


ミーファの指示に、

「わかりました!」

屋敷の者達は自分の役割を果たすべく、動きだした。

(さて、戦闘を避けてせっかくバルグから逃げてきたのに、これではね)

ミーファは表に出てため息をつきながら、難民たちが混乱しないように集まる場所を決めていった。



その時、来客用の建物の転移部屋に大量の魔力が集まってきた。

(何ですかこの魔力は?)

ミーファや魔力を感じることが出来るカーディが不安になっていた。

そして、一気に転移部屋に魔力が集中するのを感じた。

(あそこは、転移部屋?)

ミーファはその様子を探るべく、屋敷に向かった。



(ここは? 転移部屋か!)

リカードはゲートマルチで飛んだ先が、見覚えのある扉の部屋だったので、

「リリちゃん。私は先に王城へ戻る、扉を開けておくと、直哉に伝えておいてくれ」

「わかったの」

ゲートマルチで移動してくる人数が多いため、部屋がいっぱいになりかけたとき、屋敷から扉が空けられた。


扉を開けたミーファが目を見開いて、

「どうやってここへ? いや、良く帰ってきてくれました。とにかくこちらへ」

と、玄関から休憩スペースの方へ案内した。

順にリリ、フィリア、ラリーナ、エリザ、マーリカ、忍達、アンナ、ゴンゾーが続き、最後に直哉がやって来た。


(さ、さすがに、厳しいな)

直哉は魔蓄棺を解除して、マリオネットの本数を減らした。

そして、みんなの後に付いて行くと、

「懐かしいな」

と、呟いた。



「お母様!」

「ママ!」

フィリアとリリがミーファに抱きついていた。

「二人ともこんなに綺麗になって、うれしいわ」

ミーファも抱きしめていた。

ラリーナは里が心配でウズウズしていた。


「ここが、バルグフル? 直哉殿、ここが・・・ 直哉殿?」

エリザが直哉に確認しようとして振り返ると、直哉がぐったりとしていた。

エリザの声に、

「お兄ちゃん?」

「直哉様!」

「直哉!」

と、嫁達が駆けつけ、


「お願い、ご主人様を休める所へ」

マーリカが忍達にお願いをした。

「姫のためなら!」

忍達は、ゆっくりと直哉を担ぎ上げ、テーブルで造った簡易ベッドに横たわらせた。


「これは、魔力欠乏じゃないか」

直哉の顔色を見たミーファがフィリアに言うと、

「はい。直哉様はバルグフルが攻撃されていると知らせを受け、ソラティアから、ここまでゲートを繋げました。その際大量の魔力を消耗したので、そのせいです」

フィリアはそう説明しながら、振りかけるMP回復薬を直哉に振りまいた。


ミーファはリリ達以外の顔を見ながら、

「ちらほらと、見た事無い方が居るね。フィリア紹介してくれる?」

「はい。こちらはルグニア国、王女アシュリー様の妹君でエリザ様」

エリザは前に出て、

「わらわはエリザと申す。直哉殿に世話になっておる」


「こちらは、ルグニア国、忍びの里の方々と、その姫君でマーリカさん」

マーリカは前に出て、

「マーリカです。ご主人様をお守りするのが我が使命」


「そして、ゴンゾーさんの隣にいらっしゃるのが、ルグニア国、近衛騎士の一人アンナさん」

アンナは前に出て、

「アンナです。それと、ルグニア国での地位は捨てました。今はリカード様にお世話になっております」

「その顔色は、身重(みおも)だね」

ミーファの指摘に、

「はい。リカード様との御子を授かりました」


ミーファは驚いていたが、

「そうか、身体を大切にしなさい。私はミーファ、このフィリアとリリの母親で直哉さんの屋敷を管理しているメイドです。以後、お見知りおきを」

そういって、バルグでの礼を完璧にやって見せた。

「王族専属のメイドみたいじゃな」

エリザが呟いた。

「お褒めにあずかり光栄です」


そんなミーファは、

「アンナさんは、こちらで休むように。フィリアとリリ、そしてラリーナさんとエリザさん、マーリカさん達は、このバルグフルの為に戦ってくれるのかい?」

「もちろん」

語尾は違うが全員の答えは一致した。

「わかりました。直哉さんが起きていれば彼に任せるのですが、今は動けない様ですし、私が指示を出します」



ミーファは皆をみて、

「そういえば、直哉さんはどうやって、バルグフルが攻め込まれている事を知ったのだい? 攻められてからそんなに時間が過ぎてないのだけど」

マーリカが、

「私の忍術で、忍達から情報を得られました」


ミーファは考え、

「なるほど、ならば、マーリカさんはこの場で私の補佐を、リリは街に出ている魔物の討伐、補佐で連絡用の忍びを!」

「はいなの! 全部やっつけるの!」

リリは飛び出していった。

「ちょっ!」

マーリカに指名された忍びは、慌ててその後を追っていった。

「相変わらずですね」

ミーファは微笑みながら呟いた。


「次に、ラリーナさんは銀狼の里へ戦力をかき集めて来てくれる?」

「良いのか?」

ラリーナの問に、

「えぇ。直哉さんが目覚めるまでに帰って来てくれる? もちろん、無理に戦力を集めてこなくて良いので」

その言葉で、ラリーナはミーファの言いたい事が判った。

「ありがとう。行くぞシロ!」

「ワン!」

ラリーナはそんなミーファの心遣いに感謝しながら銀狼の里へ急いだ。


「さて、エリザさんは何が得意なのかしら?」

ミーファの質問に、

「わらわは、弓じゃな」

そう言って、各種弓を取りだした。

「これも、弓なの?」

巨大な物体を指さして聞くと、

「そうじゃ、この専用の矢を放つのじゃ」

そう言って、槍を取りだした。


「そ、そうなのね」

(また、規格外の娘が現れたわね)

ミーファは心の中で汗をかきながら、

「と言う事は、高い所からの狙撃が有効ね。この辺にあったかしら」

ミーファが直哉の敷地内を思いうかべていると、

「それも大丈夫なのじゃ、直哉殿から空を飛ぶ靴を貰ったのじゃ」

「・・・・・・・もう、何でもありね。それなら空からの遊撃をお願い、出来ればリリを助けてあげて」

「わかったのじゃ」

エリザは意気揚々と外へ出た。



「さて、アンナさんは休んで貰って、ゴンゾーさんには・・・・、体調が優れませんか?」

ミーファはゴンゾーの動きがおかしい事に気が付いた。

「はい。リカード様のお役に立てない自分が不甲斐ないです」

そう言って落ち込んだ。

「あら? そのリカード様は?」

「あれ?」

「そういえば?」



「あー、ごめんなさいなの! お城に行くって言ってたの!」

と、連絡を受けたマーリカは、ミーファを見て固まった。

「あの子は! 帰って来たら拳骨ね!」

その場にいる、フィリア以外も固まった。


「さて、フィリアにはこの場を任せようと思ったのだけど、リカード様が城へ行ったのであれば、あなたも先行して城へ行きなさい。直哉さんが目覚めたら後を追わせますので」

「わかりました。直哉様をお願いします」

フィリアはそういって、転移扉から城へ向かった。




◆バルグフルの城下町


「冒険者の意地を見せろ!」

「あのくらいの魔物は、楽に倒せる!」

「おかーさん! おかーさん!」

「うわーーーん」

「民の避難を援護しろ!」


城下町は大混乱であった。

「雑魚ばっかりなの!」

リリは上空から風や氷の魔法で、手薄な所で暴れている雑魚に攻撃してその数を減らしながら、エリザの射撃を待っていた。

リリの攻撃の後、混乱した魔物にエリザからの矢が到達して殲滅を完了する。

「流石なの!」

リリはそう言って捜索を再開すると、


「あそこにちょっと強いのがいるの!」

そう言って、殴りかかっていった。

「ちぇっすとー!」

シルバータイガーが倒した男の内臓を食べていると、上空から魔力を感じ取った、

「ガルルル」

と、威嚇しながら上を向いたのが、シルバータイガーの最後であった。


ドゴン!


パリン!


リリの一撃で粉々になってキラメキながら消滅した。


「あれ? 思ったより弱かったの」

そう言いながら新たな敵を求めて、飛び立った。


その裏路地で小さな女の子がその身を抱えて震えていた。

(こわい。私の中で黒い何かが目覚める)

(主よ。我を解き放て。さすれば恐怖が収まるぞ)

(ダメ。今貴方を解き放つと、混乱が大きくなる。それはダメ)

(そうか。ならば我を押し込めるのだな)

(頑張る!)

少女は自分の身体をきつく抱きしめた。




◆銀狼の里


「このままでは、この里まで戦乱に巻き込まれるぞ!」

「やはり、人間なんかと交流を持つべきではなかった!」

「代理よ! 若長は、若長はまだ戻られぬのか?」

一人の若い男の銀狼に皆が殺到していた。

ラリーナはそんな様子を影からこっそりと見ていた。


「なるほど。では、普段は人間達に守って貰い、その人間達が危険に合えば、縁を切って隠れると言うのかね」

若い男の問いかけに、

「そ、それは!」

「もはや、代理の様な戦闘を出来る者がおりません。ですが、代理であれば」

里の者が口々に言う。

「俺しか勝てぬのであれば、隠れていても魔物に蹂躙されるのを待つだけではないのか?」


「若長に守ってもらいましょう。人間なんかを守らず、我らを守ってもらうようにお願いしてきてくだされ」

結局自分たちでは何も使用としない里の者に、

「そんな真似が俺に出来ると思うか?」

「そうですよね、代理は若長に惚れていましたからな」

若い男は、

「俺は、確かに若長にあこがれていた。だがそれは、俺が長になりたかったからだ」

「えっ?」

里の者は代理の言葉に驚いた。


「そうだったのか、ワシらはてっきり」

「仕方ないさ。それより、里の意見としてどうするかだな」

代理の言葉に、

「代理のお考えをお聞かせください」

里の者が聞いた。

「俺は、銀狼の代表として人間からの恩を返しに行ってくる。皆は隠れていてくれ」

その言葉に里の相談役であるおじいさんが、

「代理にその大役が務まるのか?」


その質問に、里の者が騒ぎ出した。

「そうだそうだ!」

「若長の方が良いに決まっている!」

「若長を探しに行こう!」


代理は俯きながら、怒りを溜めていった。

それに気づいたラリーナは、

(まずいな、シロ、あれをやるぞ!)

(ワン!)

ラリーナは銀狼へ変身し、さらにシロと同化した。

(くぅ、この状態はかなりきついな。持って数分か)

(頑張れ娘よ)

ラリーナの弱音にシロが励ました。



そのエネルギーは傍に居た銀狼の里の者全てが感じ取れた。

「なんだ、この力は?」

「まさか、魔物?」

と、混乱しているところに、ラリーナが飛び出した。

「あれは!? 若長!?」

銀狼が飛び出してきたのでそう思ったが、

「いや、尻尾が二本あるぞ!」

「まさか」

「初代、銀王様?」

ラリーナの姿は、銀狼の初代、銀王と同じく二本の尻尾を持ち、神々しい気を発していた。


「我が末裔達よ。己の身体に流れる我が血を思い出せ。決して屈服することのないその血を」

ラリーナは代理を見て、

「おぬしの身体に流れる我が血を感じよ、さすれば我が姿に近づけるであろう」

代理は、

(若長、俺のためにここまでしてくれるなんて)

そう思いながら己の身体に流れる銀狼の血を感じ取ろうとしていた。


(まずい、そろそろ限界が近いな)

ラリーナが焦りを感じたとき、代理は銀狼の血を活性化させた。

「ワオーーーーーン!」

そして、見事な銀狼に変身する事が出来た。

「それこそ、我が末裔の証! この者に従い、我を感じよ」

そう言うと、ラリーナはその場から立ち去った。

(後は任せるよ、代理!)

ラリーナは後顧の憂いをないようにして、直哉の元へ戻るのであった。

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