第百十七話 新しいソラティア
◆数日後
アルカティアからジャンヌ率いる兵士団を向かえ、パルジャティアからパルジャン達が訪れるときには、直哉の新スキルも大部ましになってきていた。
中でも、ゲートマルチが有能で、土地タブと連動出来る事を発見してからは、ゲートマルチのスキルレベルを中心に、ゲートインやゲートアウトのレベルを上げていった。
ゲートセンドについては、低レベルでは、発動して周囲に異変を感じてから抵抗出来るので、重要性を感じることが出来ず、後回しになっていた。
直哉はゲートインを固定したまま、
「ゲートアウト!」
と、アルカティアの兵士達の周辺にゲートの出口を造り、肯定されたゲートインの前にいるマーリカ率いる忍達が一斉に攻撃し、ゲートアウトから武器が放出されたらゲートアウトを解除し、別の場所に設置する。
しかも、一気にではなくランダムに出現させるために、一般兵士は避けるのが精一杯で、中には避けきれない者もいた。
それを操作している直哉は、カラティナと鍛練をしていて、カラティナの剣を受け止めながら操作していた。
「はぁぁぁ!」
ガギン! ガギン!
「くっ! 本当に片手間なのかい。腹立たしいね」
カラティナはそう言って、直哉を睨み付けた。
「せぃ!」
カラティナの次にルカが飛び掛かった。
「おっと」
直哉はマリオネットで盾を動かして視線が塞がれない位置で防御した。
ガン!
「もはや、私達だけでは・・・」
自慢の兵士達もゲートの力に翻弄されて、次々と脱落していった。
「しかし、この剣は凄いな」
ボスキメラとの戦いでボロボロになった大剣の代わりに、直哉に新しく造ってもらった剣。
直哉が装備している四属性の剣に上位の魔石も組み込んだ、全属性の大剣を自分の身体の一部のように振り回していた。
「元の大剣より硬い物質なのに、軽いなんてな。普通、大剣なんて、力任せに叩き潰すように振るう物なのに、これは普通の剣のように斬る事が出来る。なんとも恐ろしい技術だよ」
そう言いながら振り回す大剣からは、ビュンビュンと風を切る音が聞こえていた。
「それに、この防具も凄いですね」
カラティナに続きルカも賞賛の声を上げていた。
「直哉殿達が強いのには、直哉殿が造り出す武具にも秘密があったのですね」
「それだけに、先の戦いで直哉殿の提案通りに、武具を造って貰えていたらと思うと、自分を許せなくなります」
カラティナは、最終決戦前に直哉から、兵士達ように武具を新調すると言われていたが、それには採寸するという恥辱があったため、怒りと共に一蹴していたのであった。
「直哉殿には厳しく当たってしまい、本当に申し訳無い」
カラティナは頭を下げた。
「あ、いや。あの時はなんで急に怒り出して断られたのか判らなかったのですが、こちらこそ不快な思い和させてしまって申し訳無い」
直哉達は謝りあっていた。
そんな直哉達から少し離れた所で、リリとラリーナ、そしてレオンハルトが三つ巴の鍛練を行っていた。
リリは直接の攻撃魔法を封印して、三人ともほぼ肉弾戦で戦っていた。
「ちぇっすとー!」
リリは空から二人を強襲し、
「そらぁ! 瞬迅殺!」
ラリーナは速度で、
「それは、甘いです!」
レオンハルトは防御しながら、
攻撃していった。
そんな三人の方にもゲートアウトを出すのであったが、魔力を展開すると判るらしくほとんど奇襲にならなかった。それでも、回避しにくい場所へ展開させ嫌がらせをする直哉であった。
鍛練の結果、ゲートマルチのスキルレベルが上がり、パルジャンが到着する前に、リカード達がソラティア城に到着するという、逆転現象が起こっていた。
やってきたのは、リカードとアンナ、そしてゴンゾーであった。
「ゴンゾーさん、お身体は大丈夫ですか? それに、アンナさんも、大丈夫なんですか?」
リカードだけが来ると思っていた直哉は、ゴンゾーとアンナに声をかけた。
「そうですな。無理な動きをしなければ、問題ないです」
「私も、激しい動きをしなければ、普通に動く分には問題ないです」
二人の回答に、
「アンナは、気持ち悪くなったら直ぐに言うのだぞ!」
リカードは釘を指した。
アンナは料理の匂いを嗅いだり、刺激臭を嗅ぐと気持ち悪くなってしまうのであった。
「はい。その時はお願いします」
アンナは素直に従った。
「ゴンゾーも、無理だけはしないでくれ」
「心得ております」
二人に釘を刺したリカードは、直哉達の鍛練を見て早速リリ達に合流して四つ目の勢力として加わった。
アンナはそんなリカードに見とれていた。
「リリ殿! 攻撃が大降りですぞ! それでは、リカード様を捕らえるのは無理ですぞ!」
ゴンゾーも4人の鍛練を見て、口を出していってくれた。
「ありがたい。そちらを見ていてくれるなら、俺はこちらに専念しよう」
直哉は気合を入れなおすと、
「バラバラではなく、連携して攻撃してくれても平気ですよ」
と、ルカ達に言った。
「わかりました」
「後悔しないでくださいね」
二人は、直哉に後悔させようと踊りかかった。
「はぁぁぁぁ!」
「せぃ! やぁ!」
ルカが左から、カラティナが右から攻撃し、しかも、ルカは首を攻撃し、カラティナは腰をなぎ払おうとしていた。
直哉はマリオネットを展開させ、
「よっと!」
キン! キン!
剣で受け流した。
「まさか!」
「マリオネットでここまで強度を増すことが出来るなんて!」
驚いている二人に、追加の剣で攻撃を開始した。
「行きますよ!」
二人の周囲には十数本の剣が舞い踊った。
「くっ!」
「やぁ! はぁ!」
避けても弾いても襲いかかる剣を、何とかしようと頑張っていた。
そこに、
「これも、追加するか?」
直哉はそう言って、ゲートアウトをこちらにも出現させ、二人に攻撃を開始した。
「くぅっ!」
「しまっ!」
二人は驚愕して、固まってしまい、
バシ! バシ!
攻撃を喰らい、その場に倒れこんだ。
「まいりました」
「まいった」
二人は動けなくなっていた。
「これは、凄いですね」
直哉に頼んでおいた鍛練を見に来たジャンヌは、その鍛練に驚いていた。
それ以上に、直哉の強さに驚いたようであったが。
「これ程強い男性は始めて見ました。よろしければ、私の技を見てもらえますか?」
そう言って、腰に下げているレイピアを直哉に見せた。
「わかりました。お願いします。ですが、その前に、皆さん! 一旦休憩にしましょう」
直哉はそう言って、ゲートを閉じた。
「はぁ」
「やっと、休憩」
「・・・・」
アルカティアの兵士達は、その場に崩れ落ちた。
「みなさん、はしたないですよ」
ルカが注意するも、動ける者は少数であった。
「はぁ、これでもアルカティアの精鋭なんですがね」
カラティナがぼやいたが、
「まぁ、私たちも座り込んでいるのだから、大差ないか」
そう言って、寝転がった。
そんな様子を見ていた直哉は、
(始めの頃に比べて、打ち解けてくれたな。会った頃はこんな姿を見せてくれる事は、絶対なかっただろうし)
そう思った。
「ごめんなさいね、直哉さん」
ジャンヌが謝ってきたが、
「いえいえ、俺を信頼してくれてありがたいです」
そう言って、礼を述べた。
そんな直哉に驚いていたジャンヌに、
「さて、それでは技を受けて見ましょう」
そう言って、盾を二つ取り出して両手に装備した。
「また、特殊な装備ですね」
ジャンヌは驚きながらも、腰のレイピアを右手で抜いて構えた。
「行きます!」
ジャンヌは深呼吸をしてから、一気に襲い掛かってきた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
鋭い突き。
ただそれだけであったが、直哉は、
(嫌な予感がするな)
そう思い、盾で受け止めるのではなく、弾き飛ばそうとした。
「はぁ!」
ガン!
重金属同士が激しくぶつかる音がして、直哉とジャンヌは体勢を崩していた。
「なっ! だが!」
ジャンヌは何度目かの驚きと共にニヤリと笑い、体勢を崩したまま更に突きを繰り出してきた。
「おっと!」
直哉はその突きを見て、先程の嫌な予感がなかったため、今度はしっかりと受け止めた。
「しまっ」
ジャンヌは素早くレイピアを引き戻したが、体勢が崩れているので追加で攻撃することも、直哉からの反撃を防御することも出来なかった。
「ここまでですね」
そう言って直哉に待ったをかけた。
「ふぅ。最初の突きは受け止められませんでした。受けると言いながら申しわけない」
直哉が謝ると、
「いや、受けなくて正解ですよ」
「どういう事ですか?」
直哉が質問すると、
「あの技は貫通力高い突きで、今まで防がれたことがなかったのですよ」
「何と!」
「ですので、弾かれたときは驚きました」
直哉は冷や汗をたらしながら、
(受け止めなくて良かった)
と、心から思っていた。
「さて、パルジャンさんもいらっしゃった事ですし、ソラティアの今後について話し合いましょう」
「そうですね」
到着したパルジャン達は、レオンハルトに連れられてソラティア城のパルジャティア王国用の部屋に案内されていた。
(さて、ここから先は、ソラティアの皆さんに任せますか)
直哉はそう考えて、パルジャティアとアルカティアの方々の後を追いかけて行った。
◆ソラティア城 謁見の間
(何でこうなった?)
直哉は何故が玉座に座らせられ、その横に、嫁達やエリザ達が並び、反対側にはリカード達が並んでいた。
謁見の間にはパルジャティアとアルカティアの者が左右に別れ、それ以外の部族の代表としてキシリスが入り口付近にいた。
「まずは、このアルカティアについてどうするかを決めようではないか」
ジャンヌが議題を出した。
「そうですな、城下町も人が住まなくなってから、荒れ始めておる。このままでは魔物の住処になってしまうからな」
パルジャンが慌てて同意した。
その後は、何故か二人とも直哉の方を何かを期待する目で見てきた。
(いやいやいや。そっちで決めてよ)
直哉は冷や汗をかきながら、
「そうですね、それが良いと思います」
と、同意しておいた。
まずは、アルカティアのレベッカが話し始めた。
「この地は、我らがアルカティアに近い。それならば我らが治めるのが自然ではないですか?」
パルジャティアのステファニーは反論する。
「確かに距離からいえば、そちらの方が近いでしょう。ですが、我々は難民を受け入れる土地が必要なのです。このアルカティアを解放するのに、我々も尽力したので、最低でもその分は頂かないと民が納得しません」
その後も、色々な意見が出ていたが、
「それなら、勇者様に統治してもらえば良いのでは?」
と、誰かが言ったこの発言に、パルジャティアとアルカティアの者は全て納得し直哉を見た。
(いやいやいや)
「うーん。俺には無理ですね」
「何故ですか? 理由をお聞かせ願いますか?」
直哉の発言に食い下がる。
「俺は、元の世界に帰る方法を探して世界を旅しています。もちろん、立ち寄った国が困っていれば手を貸しますが、その国を統治したり管理するのは難しいです」
直哉の発言に、
「直哉さんは、この世界の人間では無いという事ですか?」
「はい。魔法が無く機械文明が発達した世界から来ました」
直哉の異世界発言に、謁見の間は大混乱になった。
「まさか、予言の書の通りなのか?」
「なんと、伝承の通りになるとは!」
ステファニーとレベッカが何かを思い出すように呟いた。
二人は同時に声を上げた。
「それならば、難民達をこの国に集め、現ソラティアの全ての垣根を無くす!」
その声に、謁見の間の者は二人に詳細を促した。
「我らパルジャティア王国の予言の書に、異世界の勇者が現る時、古より伝わる悪しき制度は滅び、新たな国に生まれ変わるであろう。全ての国が纏まり新王国が誕生する、と」
「こちらの、アルカティアに伝わる伝承も同じです。つまり、このアルカティアに難民を集め、アルカティアに点在する全ての部族を含めた王国に、生まれ変わるということです」
「今と、何が違うのだ?」
「現在は、複数の国が集まり、その上で国力が高い国が利権を貪るシステムでした。ですが、新王国は全ての国が集まって一つの国なので、利権などはその国のものとなり、今ある納税制度も第一国に支払うのではなく、各国毎に管理するシステムになると言うことです」
レベッカの説明に頭を悩ませたレオンハルトは、
「難しいですね。ステファニーはわかりますか?」
「はい。言いたい事はわかります。私も予言の書を読んで、同じことを思いましたから」
「それなら、話は早いな」
ジャンヌは、
「各国から代表を出してもらい、ステファニーさんとレベッカの話を聞いてもらい、どうするかを考えよう。草案は二人に任せる。と言うのはいかがですか?」
パルジャンに聞くと。
「それが、良さそうですね」
と、同意した。
(これで、上手く行きそうですね)
直哉はホッと胸を撫で下ろした。
そこへ、マーリカが慌てて直哉を呼んだ。
「ご主人様、大変です!」
「どうしたの?」
「バルグフルに着いた忍びからの連絡で、バルグフルが攻撃を受けているそうです」
マーリカの報告に、
「何だって!?」
直哉だけでなく、リリやフィリア、ラリーナはもちろん、リカード達も驚いた。