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第百十三話 イノシシの魔族

レオンハルトは窮地に立たされていた。

「ここまでか」

最後の兵士も倒され、残りは無数の傷を負ったレオンハルトだけとなっていた。



同じくカラティナも追い詰められていた。

急降下してくる敵にカウンターを決めるも、決定打にならず回復されてしまっていた。

「このままでは、厳しいぞ」

こちらもカラティナ以外の者は倒されていた。



周囲に展開した闇の衣からの攻撃に、フィリア達は追い込まれていった。

「ブレイクウィケンネス!」

フィリア達の周囲に展開していた闇の衣を打ち消すと、

「これなら! エクスプロージョン!」

リンダの爆発魔法が炸裂した。


「よし! 姫の魔法が直撃した!」

ガンツ達が気を抜いた瞬間、

「馬鹿野郎! 敵を前にして気を抜くな!」

ラリーナを回復していたジャスが、ガンツの前に立ちはだかり、持っていた軽量級の盾を構えた。

「ぐはっ!」

キマイラから伸びてきた闇の衣の攻撃は、リンダに当たる前にジャスの身体を貫いた。


「きゃぁ」

ジャスの身体を貫く事で、リンダの身体には届かなかったものの、ジャスが目の前で串刺しにされる光景に悲鳴を上げていた。

「ジャス!」

「よくもジャスを!」

ガンツとバールがジャスを貫いている闇の衣を攻撃した。


「ぐっ」

ジャスは闇の衣から解放されたが、急所を貫かれていたため虫の息であった。

「直哉さんから貰った、回復薬なら!」

リンダは慌てて駆け寄って、振りかける回復薬を掛けようとしていたが、ジャスはそれを止めていた。

「も、も・・れは・・だ。ごぼぁ。それ・・・の・めに」

そう言い残すと、息を引き取った。

「ジャスー!」

敵が目の前に居るのにも拘わらず、リンダは泣いた。


「あの野郎を殺らないと、気が済まねぇ」

ガンツは怒りを露わにした。

「本当に良い奴は早死にするって事か? 冗談じゃねぇ! 俺もあいつを許さねぇ!」

ハルパも持っていたアイテムを確認して、キマイラを倒すために飛び出した。



「くっ、回復しきっていない身体では、厳しいぞ」

ラリーナも愚痴をこぼしながらキマイラに躍りかかっていった。

「フルリカバリー!」

既に何度目かわからない回復を放つフィリアも疲労困憊であった。

(このままでは、全滅する可能性が出てきた。城の中に立て籠もる方が良いのかな?)

フィリアは疲労困憊な頭で、考えていた。



その時、城壁の上の戦いが終わった。

「兵士達のカタキは討ったぞ!」

レオンハルトは満身創痍な身体を剣で支えながら、切り刻んだボスキメラを見下ろしていた。

「これを掛ければ消えて無くなるのだったな」

そう言って、直哉に渡されていた聖水を取りだして切り刻んだボスキメラに振りかけた。

聖水が触れた瞬間、どす黒い煙が吹き出してきて焦ったが、しばらくするとその煙も収まり、ボスキメラは跡形もなく消え去った。

「ふぅ。回復したら他の所に援護に行かなくては」

レオンハルトは回復薬を飲み干して、城壁を降り始めた。





その頃、直哉達は。

「エルムンドさん、その首を貰います」

直哉はリカードに教わった、正式な戦いの時にする礼をしてからエルムンドに斬りかかった。

「すまぬ。後は頼む」


ズシャ!


その言葉を最後に、エルムンドの首は胴体と離れる事になった。

だが、胴体は倒れることなく、黒い衣を纏っていた。

「居るんだろう? 出てこいよ!」

直哉の言葉に従ったのかどうかはわからないが、エルムンドの身体を纏っていた衣の形が変化していった。



(直哉殿・・・。父上の無念を晴らしてくれて。ありがとうなのじゃ)

エリザは身体が動かせないだけで、意識はあった。

エルムンドの言葉を聞き、直哉との会話も聞いていた。

(直哉殿には、辛い役目を押しつけてしまった。せめて、この身体が動かせれば手助けする事が出来るのに、情けないのじゃ)

エリザは金縛りのまま、ひっそりと涙を流していた。



「お兄ちゃん!」

リリが直哉のそばへ来て、エルムンドからの本を渡した。

「ありがとう。とりあえず、あいつを倒すよ?」

「はいなの!」

リリは魔力を練り始めた。


エルムンドは巨大なイノシシの形になっていた。

「それで、今回はイノシシという訳か」

直哉は剣を構え、

「マリオネット!」

イノシシの周りに、防衛網を配置していった。



その時、直哉はイノシシの後ろに何かある事に気が付いた。

(ん?あのイノシシから糸が出てるぞ。しかも、空中で消えている。さらに、その空中から数本出ているな)

直哉がじっと見ていると、リリがイノシシのヌイグルミに殴りかかっていた。


リリは、いつも通り風魔法を唱え、

「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

次に氷魔法を唱え、

「氷を司る精霊達よ、我が魔力にひれ伏しこの大気を凍結させよ!」

二つの魔法を放出した。

「スライスエア!」

風魔法に乗り、

「ちぇっすとー」

そのまま、自身の両手に凍り魔法を展開させた。

「クールブリザード!」


さらに、そのまま闘気をため、

「無限氷結拳!」

目に見えないほどの連続拳を叩き込んだ。

「あたたたたたた!」


闇の衣に包まれたイノシシは、平然と受け止めながら、

「ふっふっふ。効きませんな」

不敵な笑みを浮かべていたが、攻撃をしてくる事はなかった。


リリは、連続拳を諦め、風魔法で闇の衣を吹き飛ばそうとした。

「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」

風のエネルギーがイノシシに襲いかかる。

「こんのー! バーストトルネード!」

暴風がイノシシの闇の衣を吹き飛ばそうと吹き荒れた。


「効きませんなぁ」

だが、やはり笑みを浮かべるだけで、効果はないようであった。


そんな様子を見ていた直哉は、イノシシから出ていた糸からエネルギーを受け取っている事が確認出来た。

(あの糸から闇のエネルギーを貰っているみたいだな。つまり、アレを切断すれば倒せそうだな)

「マリオネット!」

直哉が剣を操り、空間から出ている糸を切断した。



「何ですと? あれが見えて、切断できるのですか? 予想外過ぎですよ」

イノシシのヌイグルミは、滅茶苦茶慌てていた。

「魔王様、お助けを! 私一人では、何も出来ませんよ!」

(やっぱり、そうか!)


「リリ! 一応気をつけて!」

「はいなの!」

リリは、一気に決めようと魔法を唱えた。

「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力と共に不可侵の領域を造りたまえ!」

リリの周囲に濃密な風の魔力が満ちてきた。

「インバイラボウシールド!」



リリの魔法は、イノシシの身体を二つに切り裂いた。

イノシシのヌイグルミは、上半身がスライドしながら落ちていきながら、

「かはっ! まさか、この私を見捨てるのですか! くそぅ、せめてイヌの奴が居れば攻撃出来たものを・・・無念」

イノシシのヌイグルミはキラメキながら消滅した。



直哉は周囲に気を配りながら、

「リリ、大丈夫? きっともう一戦あるよ」

リリは、大量の魔力消費による目眩と戦いながら、

「お兄ちゃんの造ってくれた回復薬で回復するの。少し休むの」

そう言って、MP回復薬を取りだし、ガブガブと飲んでいた。



直哉は、糸が出ていた空間から、もの凄い力が溢れ出そうとしているのを確認していた。

(あのままこちらに来られるのは不味いな。そう言えば、エルムンドが俺に渡した本って何だろう?)

直哉が本のタイトルを確認すると、背表紙には【転生の書】と【転移の書】であった。

「これは!」

直哉が転移の書を読むと、

「これなら、空間転移の魔法を使う事が出来る。まずは、転移門の切断を試してみよう」



(なになに? 一番早いのが、物理的に破壊する事? いやいや、転移魔法関係無くね?)

そう言いながら、空中に出来た魔方陣を書き換えた。

(これで、上手くいったのかな?)

それまで、膨大な闇の力が溢れていたゲートは、その魔法の効果を失い、ゆっくりと閉じ始めた。

(よし! 上手く行きそうだ)

直哉が考えた通り、ゲートを物理的に書き換えると、その効果を失うようであった。

(普通に考えてみれば、当たり前の事か?)



「お兄ちゃん、何か来るの!」

リリの警告に、

「そんな馬鹿な!」

慌てて閉じた空間を見ると、

「空間に亀裂が入って、しかも魔方陣が修復して行ってる? そんな事が出来るのは、相当な魔力の持ち主か?」


「ふっふっふ」

亀裂の入った空間から、何者かが出ようとしていた。

「こうなれば、俺も書き換える!」

先程習得した、魔方陣書き換えを使い、移動の妨害を試みていた。

魔力と魔力のぶつかり合い。

「ぐぬぬぬぬ」

リリは直哉の背中に両腕を付けて魔力を送り込んだ。



二人の魔力を使い何とか押さえ込むことに成功した。

「ふぅ。こっちは何とかなったな。エリザも助けたし、エルムンドも送ることが出来たし」

直哉は、MP回復薬と回復薬で傷を癒していった。

「お兄ちゃん。エリザお姉ちゃんが泣いてるの!」

直哉がエリザの傍に行くと、泣きながら震えているエリザが居た。

「意識が戻ったのかい?」


だが、エリザは動くことが出来なかった。

「これは、身体を強直させる魔法? そんなの聞いたこと無いけどな。フィリアに聞いてみればわかるかな? マーリカ?」

直哉はそう言って、マーリカと連絡を取ろうとした。

「あれ? マーリカ?」

呼びかけて見たが、反応が無いので、

「ラリーナ?」


「おぉ! 直哉!」

ラリーナは切羽詰った声で返事をしてきた。

「こっちは、ようやく片付いた。そっちは、まだ厳しそうだね?」

「出来るだけ早く来て欲しい。さっき、闇の力が弱まって、死者の追加は無くなったが、酷い有様だ」

直哉は、リリに目を合わせ、

「わかった直ぐ行く。リリ、今どの位の魔力が残っている?」


「最後ので結構使っちゃったの。今回復中なの」

直哉は、回復薬系を取り出し、

「そういえば、魔蓄棺は?」

「もう空なの」

直哉はリリの魔蓄棺と、自分の魔蓄棺を交換した。

「俺はだいぶ残っているから、それを使ってくれる?」

「これは、凄いの!」


リリは、一気に魔力を回復させた。

「さきに、飛んでいってフィリアたちの援護を頼む。俺は、エリザを担いでいく」

「わかったの!」

リリは風魔法を唱えて一気に上に上がり、

「魔神拳!」

天井をぶち破って飛んで行った。

(おいおい)

直哉は冷や汗をかきながら、エリザを担ぎ、エルムンドをアイテムボックスへしまって、元来た道を戻っていった。




レオンハルトが中央に戻ると、ガンツ達が突撃していた。

「どういう事だ?」

レオンハルトが辺りを見ると、中央に敵は一人、城壁に一人いるのを確認した。



「レオンハルト! 反対側の城壁にいる敵を頼む。真ん中のは私が押さえる」

そう言いながら、銀狼が走り抜けていった。

「承知した」

レオンハルトはカラティナを救出しに城壁を登り始めた。


その時キマイラに突撃していたガンツとハルパは、キマイラの闇の衣で作った大量の槍攻撃を受け、吹き飛ばされていた。

当たり所が悪く、ガンツは左腕を、ハルパは頭を切断されていた。

「ガ、ガンツ! ハルパー! もう、止めてー!」

リンダは力の限り叫んでいた。



その時、カラティナは最後の賭けに出ていた。

(普通にやっては攻撃が届かないから、スレ違い時にカウンターを仕掛けるしかない。だが、彼奴もそれがわかっているみたいで、中々懐に入らせてくれないな。それなら!)

武器を横に突き刺して、左腕を前にして半身になりボスキメラを待ち構えた。


「ほら、来いや!」

ボスキメラを挑発して呼び込んだ。

ボスキメラは怒りながら突撃して来た。

「ギャーッス!」

カラティナは左腕に力を溜めて、急降下してくるボスキメラを殴り返した。


「くっ!」

左腕は砕けたが、ボスキメラの突撃は完全に押さえ込まれた。

「こんのぅ!」

横に突き立てておいた武器を横薙ぎして、ボスキメラの身体を引きちぎることに成功した。

「はぁはぁはぁはぁ。ちきしょう、左腕が完全に逝かれてしまったな」

そう言いながら、懐から聖水を取り出して、目の前にあるボスキメラの下半身を浄化していた。

どす黒い煙が充満して視界が悪くなった時、ボスキメラの上半身が動いていた。



「危ない!」

城壁を登り終えたレオンハルトが見た光景は、何かに構っているカラティナの背後に忍び寄る上半身のボスキメラであった。

「ちっ!」

カラティナは警告を聞くと、振り返らずに横っ飛びをした。


「ズシャ!」


その攻撃がカラティナの左足を貫き、完全に切断した。

「うぁぁぁぁぁ」

痛みによる叫びを上げたカラティナに、ボスキメラが襲いかかろうと羽根を広げたときに、

「させぬ!」

レオンハルトの攻撃がボスキメラを捕らえた。


「ゲギョーーーー!」


大きな叫びと共に、ボスキメラはその場へ倒れた。

「これで、止めだ!」

レオンハルトは持っていた聖水をふりかけ、完全に消滅するまで集中していた。

カラティナの方を見ると、気を失っているだけのようなので、応急手当をした後で、フィリアの元へ連れて帰った。



リリが最初の部屋に戻ると、フィリアとマーリカ、リンダと左足と左腕が無いカラティナが倒れていた。それを護るように右腕が無いガンツと一見無傷のバールが盾を構え、その前にレオンハルトが立っていた。

外を見るとラリーナが全身に闇の衣で作られた槍が刺さり、動きにくそうに戦っていた。


リリは直ぐに飛び出し、

「ラリーナお姉ちゃん! 下がって回復を!」

そう言って、キマイラに氷結クラッシュをお見舞いしていた。


「ふふふ、ようやく役者が揃いましたか、いや、イレギュラーがまだですか。ふふふ」

キマイラは不気味な笑いを浮かべながら、リリの攻撃を受け続けていた。

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