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第百十二話 エルムンドの真意

フィリア達が大きな扉をぬけると、そこは城の通用口に直結する通路であった。

周囲は高い城壁に囲まれ、城下町へと繋がる門まで一直線であった。


「こんな所で囲まれたらひとたまりも無いな」

レオンハルトが呟くと、

「それならここへ誘い込みましょう。ラリーナ、周囲に敵の気配は?」

フィリアの声に、

「いや、この辺りからは、何の気配も感じられない。むしろ、町のほうから恐ろしい量の敵対する気配を感じる」


「ガンツさん達は、城壁を登って上から魔法で攻撃してもらえますか?」

「やって見よう」

ガンツはリンダたちと共に、城壁についているはしごを上り始めた。

「城下町へと続く門と、先程の部屋の門を権威拠点として、遠距離攻撃で戦います」

フィリアの言葉に、

「委細承知」

レオンハルトは部下達の陣形を変更しに行った。


「マーリカは、私の傍で各忍からの情報を届けてください」

「わかりました」

マーリカに指示を出した後で、ラリーナを見ると、

「私が敵陣へ切り込んで、掻き回してくるとしよう」

「お願いします」

フィリアは、ラリーナを送り出した。



「みなさん。キメラ達を一箇所にまとめて下されば、破邪魔法で一網打尽にします」

フィリアの声にカラティナが、

「それが、この通路って事ですね」

「はい。皆さんが登る城壁と先程の部屋への門は光魔法で押さえますので、この通路へ誘い込んでください」

フィリアは、光の精霊に祈りを捧げた。




「では、誘い込んでくる、みなは準備を!」

ラリーナは銀狼に変身して、一声吼えてから城下町への門を飛び越えて行った。

「貫け! シルバーニードル!」

銀狼となったラリーナの身体の周囲に細い針状の武器が展開した。


「ギギギ」

「ガガガ」

「グググ」

ラリーナの姿を見つけたキメラ達が、奇声をあげ始めた。

「ふん。喋る事も出来ないとは、そこまで下等生物に成り下がったか!」

ラリーナは銀狼のまま、キメラ達の間をすり抜けた。



「ギャーッス」

「キエー」

「ガガがが」

ラリーナが走り抜けた後には、足をズタズタに千切られたキメラ達が這いずっていた。


「ぬっ!」

ラリーナが走り抜けていると、中心にキメラの力とは違うエネルギーを感じ取った。

(あれがキマイラか。中々楽しめそうだが、今はキメラを誘い込むか)

そう思いながら、出るときは閉まっていた搬入用の門をくぐり抜けた。



「ガギョー」

「ギャー」

「ゲギョ」

足の無事なキメラを筆頭に、かなりの数のキメラが雪崩れ込んできた。


フィリアはラリーナの成功を確認すると、

「攻撃開始! 動けないほど痛め付けてください」

と叫び、さらに光のエネルギーを集めていった。


「放てー!」

「射てー!」

レオンハルトとカラティナは部下達に射撃命令を出した。

部下達が装備しているのは、直哉が造った小型の連弩であった。


シャッ! シャッ! シャッ! シャッ! シャッ! シャッ!


物凄い量の矢がキメラ達に降り注いだ。

(この攻撃力は凄いですな)

(まぁ、これだけの敵がいるなら、狙いを付けなくても当たるから楽ですよね)

レオンハルトとカラティナはお互いにそう思いながら射撃していた。



「姫様、そろそろ頃合いかと思われますが、派手に行きますか?」

ガンツはリンダに聞いていた。

「かなり優勢に戦いを進めています。この状況であれば、無理をすることは無いでしょ」

そう言いながらも爆発の精霊とコンタクトを取り始めていた。


(ふむ。中々良い作戦ですね。あの門の内側にいる女がこの作戦の要という訳か)

キメラ達の戦いを見ていたキマイラはそう思いながら、

(だが、護衛は一人か。それにキメラ達の真の力はこんな物ではないからな)

キマイラはニヤリと笑っていた。



(おかしいですね。これほどのダメージを負わせているのに、浄化出来るほど弱ったキメラが居ないなんて)

「聖女様! まだでしょうか?」

城壁から撃ち続けていたレオンハルト達であったが、矢の残りが少なくなってきていた。

「敵がそれ程弱っていません。このまま破邪魔法を放っても効果は薄いです」



その時、リンダから魔力が溢れ出した。

「爆発を司る精霊達よ、我が魔力に呼応し敵を蹂躙せよ!」

爆発のエネルギーが辺りに充満する。

「エクスプロージョン!」

リンダの放った爆発の魔法は通路の真ん中で爆発した。


ズガーン!


通路の中心が灼熱地獄と化した。

「ぎゃぎゃぎゃ!」

「ブラバラブリバレ!」

「ぎゃーっ!」

キメラ達は焼かれながらも回復していた。


「な、何という回復力なのですか? この回復スピードでは、破邪魔法で倒しきれるかわからない」

フィリアは恐怖に駆られた。

その様子を横で見ていたマーリカは、

(こんな時、ご主人様ならどうするのでしょうか? ご主人様なら・・・・地下牢? 私の忍術で出来るかどうかわからない。・・・いや、こんな時ご主人様ならやってみる。考えるのはそれからで良いか)

マーリカは直哉の事を考えながら、忍術を発動した。

「土遁! 土石波壁!」

マーリカが忍術を発動して、地下にあった土を押し流して直哉が造った様な地下牢を造った。

まぁ、天井が無いので這い上がれるのだが。


その穴に次々とキメラが落ちていった。

(何と! あの様な罠が仕掛けてあるとは、中々やりますな)

キマイラが感心していると、

「これなら、これが有効だろう!」


ハルパが、持っていた油瓶を投げ込んだ。

それは、直哉に火炎瓶の材料として取引しようとして、可燃性が高すぎて火炎瓶としては使いにくいといわれた油であった。

「おら! みんな、火だ! 火をつけろ!」

そう言いながら、どんどん油瓶を投げ込んでいった。



「火を司る精霊達よ、我が魔力に呼応し敵を焼け!」

リンダは咄嗟に火の魔法を詠唱した。

「ファイアボール」

小さな火の玉が、キメラに向かって飛んでいった。

空気中に気化した可燃物が漂い、火の玉がそれに引火した。


ボン!


先ほどのリンダの魔法よりも大きな爆発が起きた。

マーリカの掘った穴は、一瞬にして溶鉱炉並の温度になってキメラ達を焼き始めた。

「あーーーー」

「ばーーーー」

「ぼーーーー」

再生しては焼かれ、再生しては焼かれを繰り返して、ようやくフィリアの破邪魔法が有効になるほどのダメージを与える事が出来た。



「コレなら浄化出来ます!」

フィリアは即座に魔法を唱えた。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に邪悪な力を祓いたまえ!」

フィリアは黄金色に輝くほど、魔力を高めて、

「ブレイクウィケンネス!」

一気に放出した。

穴の中で焼かれていたキメラ達は為す術無く浄化されたいった。



「よっしゃー!」

「やったー!」

レオンハルト達が喜んでいると、マーリカが怯えだした。


「ま、まだ何かが来ます。もの凄く、強い・・・・」

そのまま意識を失った。

「後続の敵が来ます! 用心を!」

フィリアの言葉と同時に、


バリン!


前面の門と、壁を守っていた光の壁が打ち破られた。

「まさか、光の壁を打ち破るほどの敵?」

前面の門があった所に、キマイラとボスキメラが二体立っていた。



「随分と派手にやってくれましたね。あなた達は、キメラの代役になって貰いますか!」

キマイラがそう叫ぶと、ボスキメラがレオンハルトとカラティナの部隊に向けて突撃を開始した。

「させるか!」

ラリーナが飛び出すと、

「それはこちらのセリフです」

キマイラがその大きな闇の力を使いラリーナを包み込んだ。


「くっ! なんだコレは!」

ラリーナは闇の衣に包まれながらも、取り込まれないように内側から銀狼の力を振り絞っていた。

「ブレイクウィケンネス!」

そこへ、フィリアの破邪魔法が、ラリーナを包み込んでいる闇の衣に炸裂した。

「この、野郎が!」

シルバーニードルを衣の中で展開して、内と外から闇の衣にダメージを与えてようやく打ち払う事が出来た。


「くっ。結構ダメージがでかいな」

ラリーナは闇の衣に触れられた部分にダメージを負っていて、直哉の造った回復薬をがぶ飲みしていた。

「闇のエネルギーは浄化して貰ったけど、傷が多くて治りきるまで時間がかかるな」

「私の方も、MPの消費が大きすぎる。もう一度結界を張るのは厳しいです」

フィリアもMP回復薬を飲みながら、ラリーナと話していた。



その頃、城壁の上ではボスキメラとレオンハルト・カラティナの各部隊が戦闘を開始していた。


レオンハルトの方へ向かったボスキメラは、ソラティアの近衛騎士団長とボストロールを掛け合わせたキメラであった。

ソラティアの近衛騎士団長は、疾風の異名を持つ剣士であったが、ボストロールが混ざり、そこそこ早くなったボストロールになっていた。

レオンハルトは、直哉達と鍛練をしてから、飛躍的に戦闘能力が向上していて、ボスキメラの攻撃を見極める事が出来ていた。


「その程度の攻撃ならば、受け止めてみせる!」

ボスキメラの攻撃をレオンハルトが受け止め、兵士達が切り刻んでいった。

「そのまま、慎重に攻撃せよ!」

順調にダメージを与えているように見えたが、ボストロールの驚異的な回復力がレオンハルト達を苦しめていった。


しばらくして、レオンハルトがボスキメラの攻撃パターンが変化した事に気がつき、

「散開して距離を取れ!」

と、兵士達を下がらせたが、真後ろから攻撃していた兵士は、攻撃した所から急に生えてきた剣を持った腕の攻撃により、一撃で倒されていた。

「ぎゃぁ!」

「何だ、今のは?」

レオンハルトはボストロールの攻撃を兵士に任せ、近衛騎士団長の攻撃を対応する事にした。




その頃、カラティナ達の部隊にはワイバーンの羽根を生やした剣士が立っていた。

その剣士は、近衛騎士副団長で、豪腕の持ち主であった。

カラティナは兵士達を下がらせ、槍を持たせて援護させた。

「そりゃ!」

ボスキメラと正面から打ち合うカラティナ。

「ほらほらほら!」

手数も力もカラティナが上で、一人で押し切りそうになった時に、大空へ待避した。


「くそぅ! 連弩はもう撃てないのか!?」

「矢が、ありません」

兵士達の報告に舌打ちしながらも、

「さて、どうするか」

と、考え始めると、上空に待避したボスキメラが急降下して来た。


「避けろ!」

カラティナが声を上げるが、咄嗟に動けなかった兵士数名がその攻撃に巻き込まれ、命を落とした。

「このやろぅ! 降りてこい! 降りて来て、正々堂々と勝負しろ!」

と大声を張り上げていたが、ボスキメラは相手にせず急降下を繰り返し、兵士の数を減らしていった。




その頃、正面の門ではキマイラとフィリア達が戦っていた。

「リズファー流、瞬迅殺!」

銀狼が銀色の矢となってキマイラと交差した。


ドガン!


「フム、周りの針にも攻撃判定があるのですね」

キマイラはそう言って、武器を取り出した。

リリが装備しているようなナックルを大きくした物を両手にはめ込んだ。

「武器を今取り出すって事は、先ほどの攻撃は何で防いだんだ?」

ラリーナは少しの間考えたが、頭を切り換えた。

「いや、今は攻撃に専念しよう」


そう言って、更に力を溜めて、

「リズファー流、瞬迅殺!」


ガン!


「ぐふぅ」

下から弾き上げる力をもろに喰らって、ラリーナははじき飛ばされた。

「よっと」

フィリア達の後ろにはガンツ達が控えてくれていて、ラリーナをしっかりと受け止めてくれていた。

「結構ダメージを受けていますね」

そう言って、直哉から貰っていた振りかける回復薬を使って回復していった。



「フィリア様、私も援護します」

リンダはそう言って、フィリアの傍へ行った。

ジャスはラリーナを回復していて、それ以外のガンツ、バール、ハルパがリンダに続いた。

「俺達が攻撃を受け止めるぜ!」

「聖女様に指一本触れさせねぇ!」

ガンツ達はいつもリンダを守るようにリンダとフィリアの周りに陣取った。


「それでは、お願いしますね。リンダは自分のタイミングでアレに魔法を打ち込んでください」

フィリアはそう言ってガンツ達に光の加護を掛けると、キマイラの方へ集中した。

「はい!」

そこへ、キマイラから黒い塊が襲いかかってきた。

ガンツとバールがその攻撃を盾で防ぎ、ハルパが斬りかかっていたが、

「俺一人じゃ、攻撃が遅すぎる!」

ハルパは泣き言を言っていた。


「ジャスが戻ってくるまでの辛抱だ! 今は殲滅するよりも守る事を優先しろ!」

ガンツの指示に、

「わかったよ」

ハルパは素直に聞き入れた。



リンダは、爆発の魔力を貯え、いつでも放てるようになったが、周囲に敵が多く中々打ち出せないで居た。

フィリアは光の魔力を貯えるべく、一心不乱に祈っていた。

(中々打ち出せない。このままではじり貧です)

リンダは内進焦っていた。

「リンダ。心を乱さないでください。こちらに影響しますから」

フィリアの注意に、顔を赤くしながら、

「申し訳ありません」

と、言うのが精一杯であった。





その頃、城内では。

「お兄ちゃん! この先から大きな魔力を感じるの!」

小さな扉から出た直哉とリリは、魔力を頼りに地下室へ向かって足早に歩いていた。

どんどん進んでいくリリを追いかけて、たどり着いたのは沢山の檻がひしめき合う区画であった。


「中心にエリザお姉ちゃんがつながれてる!」

リリの叫びに、直哉とダークエルムンドは同時にその存在を確認しあった。


「お前はイレギュラーか? ようやく来たか」

「そう言うあなたは、エルムンドさん?」

直哉とダークエルムンドはお互いを見て時を止めた。

その間に、リリは中心部へ向けて走り出していた。


直哉は、その行動を見てもエルムンドが動かない事を確認して話が出来そうだと感じていた。

そして、闇の衣に包まれたエルムンドを見て、もはや助からない事を知った。

エルムンドも、自分の娘がこの男の何に引かれているのかを知った。

「不思議な男だ」

「エルムンドさん、あなたは!」

エルムンドは直哉の言葉を遮る様な動きをしてから、闇の魔力を高め自らに打ち込んだ。



「な、何を?」

驚愕する直哉を見ながら、

「こうしないと、融合した魔族が我が身体を乗っ取ろうとするのでな」

直哉とエルムンドが話している間に、リリがエリザの元へたどり着いた。

「小さき娘よ、そこの机に鍵がある、それでエリザを連れて行け。それと、その机の上の本も二冊とも持って行け。イレギュラーの役に立つだろう」

リリは、肯いてエリザを解放して本と共にエリザを直哉の元へ連れてきた。


「良いのですか?」

直哉の問いかけに、

「あとは、お主に託す事にする。儂は研究一筋に生きてきた。キメラ(合成生物)についての研究じゃ」

直哉は、エルムンドの目をしっかりと見ながら聞いていた。

「じゃが、ルグニアに居た頃に一度つまずいたのじゃ」

エルムンドは遠い目をしながら、

「どの文献を読んでも、研究対象を変えようとも、合成は上手くいかず頓挫していたのじゃ。そんな時、アシュリーが目に付いた。そういえば、この子も大きな分類で言えばキメラとなるな、と」

直哉は驚愕しながら続きを聞いた。

「そこで、ハーフという種族について徹底的に調べ上げた。自分でも試してみたくなりこの子を産ませたのじゃ」

「そんなことで・・・」

「だが、想像を超えていた。ハーフとキメラでは大きな違いがあったのじゃ」


エルムンドが身を乗り出して話し出すと、

「それは・・・・うぐぅ! しまった!」

黒い霧がエルムンドを包み始めた。

「エ、エルムンドさん?」

「逃げろ、イレギュラーよ! 儂の力では魔族の力を押さえ込めなかったようじゃ。イノシシの魔族が我が身体を乗っ取るのは時間の問題であろう」


「あなたを魔族にさせる訳にはいきません。このまま、エルムンドさんとして倒させて貰います」

直哉はエルムンドを倒す事でしか救えない事に心を痛めながら、エルムンドを倒す事に全神経を費やした。

「リリ! エリザを安全な所まで下げたら行くよ?」

「はいなの! エリザお姉ちゃんのパパさんを魔族にしないために殴るの!」

エルムンドはそんな二人を見ながら、意識が闇の底へ沈んでいくのを感じていた。

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