第百十話 ソラティアの開放に向けて その2
直哉は、四肢造りを再開して、全ての人の四肢を造り終えた。
「おぉ! 動く! 動くぞ!」
「思い通りに動く!」
「熱さも冷たさも感じられる!」
「痛みもあるのか!」
解放軍で四肢を失った者は、偽物であるが四肢が戻ったことを喜んだ。
そこへ、リカードがレオンハルトとルカを伴ってやって来た。
「直哉さん。ありがとうございました」
「皆、解放軍に参加した事を後悔せずにすみました」
二人の言葉に、
「お役にたてたのであれば、幸いです」
直哉の言葉にリカードが続いた。
「私はしばらく新しい街に滞在しているので、四肢を新調したい場合は訪ねてきてくれ」
「わかりました、兵達に伝えておきます」
レオンハルトとルカはリカードの言葉を伝えるため、その場を去った。
「直哉よ、また顔色が悪いな。しばらく休むとよい」
直哉は、リカードの警告通り、ひどい顔をしていた。
「うん。そうするよ。大量出血の後、MPを大量消費するのは、負担が大きいですね」
「そりゃ、そうだな」
リカードは直哉を送り返した。
直哉が部屋に戻ると、フィリアが眠っていた。
直哉は、フィリアを起こさないようにその横へ滑り込んで、意識を手放した。
直哉が心配で後を付いてきていた、リリとラリーナは二人の寝顔を見ながら、
「お兄ちゃんも寝ちゃったの」
「そうだな。二人は倒れるまで無理をするからな」
「本当に凄いの!」
しばらく二人の寝顔を見ながら幸せを感じていたが、ラリーナはリリに聞いてみた。
「リリは、直哉の元の世界に着いていくのだろう?」
「ん? 勿論なの」
「その世界がリリにとって住みにくい世界でもか?」
睡い眼を擦りながらリリは答えた。
「当たり前なの。どんな世界でもお兄ちゃんと一緒にいるの!」
「そうか。試すような事を言ってすまなかったな」
「ラリーナお姉ちゃんは一緒に来てくれないの?」
リリは心配になって聞いてみた。
「もちろん、一緒に行くぞ」
「お姉ちゃんにとって住みにくい世界でも?」
「あぁ。私はこの人と共に生きていくと決めたからな」
リリは嬉しくなって、
「それなら大丈夫なの! きっとお兄ちゃんが何とかしてくれるの」
「そうだな。私達の直哉だからな!」
「はいなの!」
その頃、マーリカは忍び達から聞きたくない情報を手に入れていた。
(黒豹一族が生きていた。ですが、キメラにされている。私はどうしたら・・・ご主人様・・・)
マーリカは迷っていた。このまま一族を助けに行くか、直哉に相談して助けを借りるか。
(一族を助けたいけど、ご主人様を裏切りたくない)
この考えている時間が、マーリカの明暗を分けた。
◆ソラティア城 実験室
「ふふふ、ふはははは、はーっはっっはっははー」
エルムンドは高笑いを始めた。
目の前には、数体の黒豹族をつなぎ合わせたキマイラが居た。
「ついに、ついに究極のキマイラが完成した。やはり、同じ種族同士は拒絶反応が少なかったか」
そう言いながら、最後の仕上げとばかりに魔力を込めていった。
(これで、長年の夢が叶う・・・・)
その時、エルムンドの時間が止まった。
最後のキマイラは起動することなく、死亡したエルムンドと共に実験室で静かに起動してくれる人が現れるのを待っていた。
ところが、実験室に魔方陣が浮かび上がり、そこから若い男が現れた。
「ふふふ。エルムンドよ。お主の死と共に、最後の契約を果たそうぞ」
死亡したエルムンドと、起動していないキマイラに何かを呟くと若い男は魔方陣の中へ消えていった。
残されたエルムンドは黒い霧を纏いながら、
「俺は? 死んだはずでは?」
と、首をかしげていた。
◆防衛拠点 次の日
直哉が目を覚ますと、傍にフィリアが待機していた。
「おはよう」
「あ、おはようございます。もう起きられますか?」
直哉が辺りを見ると、ベッドには直哉しか寝ておらず、
「あれ? リリとラリーナは?」
「あの二人なら、食事を終えて、周囲の探索に向かっています」
フィリアの答えに、
「何か進展があったの?」
「はい。詳しくはマーリカの方から報告があります」
「わかった。それなら起きよう」
直哉はそう言って、フィリアに手伝って貰いながら準備をした後一階へ降りていった。
直哉を見つけたマーリカが寄ってきた。
「ご主人様おはようございます」
「おはようマリーカ。何か情報を掴んだと聞いたのだが、何を掴んだのだい」
直哉の質問に、
「はい。ソラティア城に忍び込んでいた者からの報告です」
「ふむ」
「ソラティアの実験室に数体の皮を剥がれた、辛うじて生きている者たちが運び込まれました」
マーリカは涙を浮かべながら直哉を見た
「続けて」
「恐らく、黒豹の一族です」
「そうか。それは、いつの事?」
「昨日です。御主人様がお休みになられた後で報告が来ました」
「そうか。マーリカ。よく我慢したね」
直哉は、そう言ってマーリカを抱き締めた。
「も、申し訳ありません。御主人様のお召し物が汚れてしまいます」
「気にすることはないさ」
「はい」
マーリカは声を出さずに、直哉の胸の中で静かに泣いた。
そんなマーリカを直哉は優しく包んでいた。
◆ソラティア城
黒い霧を纏ったエルムンドは、キマイラと共に城に造った民を捕らえておく檻の前にやってきた。
「はて、死人がおるな。ここは墓場か? 墓場? 墓場とは何だ?」
エルムンドはそう言いながら、杖を振るった。
「我が先兵となれ!」
すると、事切れた人々が一斉に起き上がった。
「あーーー」
「うーーー」
「お主達に力を授けよう」
闇の衣に包まれたエルムンドが闇の魔力を振るうと、周囲に魔物達が召喚された。
「ふむ」
さらに、魔力を込めると、その魔物達はゾンビ達と融合した。
「マーリカ様! 一大事です!」
ソラティアに潜伏していた忍びはマーリカにこの事を伝えようとしていた。
◆防衛拠点
落ち着きを取り戻したマーリカに、忍びからの連絡が入った。
「ご主人様、大変です」
直哉はマーリカから状況を聞くと、
「直ぐさま、忍びを安全圏まで脱出させて、出来ればこちらの方へ逃げるように」
「はい」
マーリカは忍びにその事を伝えて、離脱する事を専念させた。
「状況は悪い方向へ傾いたな、とにかく防衛の準備だ!」
「攻め込まないのですか?」
直哉は遠い目をして、
「もう、間に合わないよ。ここで食い止める」
直哉がソラティアの方を見ると、昼間なのに真っ暗な空間が出来上がっているのが見えた。
「リカード!」
直哉はリカードの元へ急いでやってきた。
「どうした?」
「エルムンドが最後の兵を連れてここへやってきます。非戦闘員を連れて新しい街へ逃げてください」
リカードは驚いて、
「私も戦うぞ?」
「はい。期待していますが、まずはゴンゾーさんやアンナさんの安全確保が第一です」
そこへ、ガンツ達が話しに入ってきた。
「俺達はやりますぜ!」
「かなり危険だよ?」
「それでこそ、冒険のしがいがあるって事ですよ」
直哉は頭を下げた。
「お願いします」
さらに、レオンハルトやルカ達も参加してきて、
「私の隊とルカさんの隊を二つに分け、ここに残る者とリカードさん達を護衛する者にしたいと思います」
「私はレオンハルトさんの隊の者と私の隊の者を連れて、新しい街の防衛任務に入ります」
直哉は、
「わかりました。今度の敵が最後になるはずなので、がんばりましょう」
その後、拠点の修理をしながらエリザを呼んだ。
「エリザ、コレを見てくれる?」
そう言って、拠点の塀の上に設置したバリスタを見せた。
大きさは弦の部分が四メートルを超え、全長七メートルもある巨大なクロスボウであった。
「これは、前に造ってもらった弓をさらに大きくした物かえ?」
「そう。この大きさになると、持つことは出来ないと思うのだけど、もし持てるのであれば、台座から外れます」
そう言って、外し方を教えると、
「うむ。重いのじゃ」
エリザは抱えるように持ち上げた。
直哉は驚きながらも、
「流石ですね。矢は、後ろに立てかけてある槍の様な物を使います」
そう言って、槍を指さした。
「これか?」
エリザはそう言いながら槍をセットして、弦を引いた。
「まじか。その弦を弾くことが出来るのか!」
直哉は更に驚いた。
「ふむ。コレならば今までの数倍の威力で撃てそうじゃな。そう言って槍を外して元の位置へ戻した」
「撃ってみないのですか?」
「試し打ちをすると、何かしら壊れるので最近は、矢を飛ばさないように撃つのじゃ」
そういって、空になったバリスタを撃った。
「うむ、しなりなど、申し分ないの。あとは、持ち運びだけじゃ」
エリザはそう言って、どうやって持ち運ぶかを考えていた。
「何か思いついたら言ってくれる?」
「わかったのじゃ」
直哉はエリザを置いて、庭に出た。
「さて、リリの力を試します」
リリは腕を回しながら
「待ってたの!」
「じゃぁ、ドラゴンになってくれる?」
「はいなの」
リリは己の内側にある強大な力を解放した。
「がおー(できたの!)」
直哉の前に五メートル程の白いドラゴンが姿を現した。
「おぉ! なかなか大きいね。触っても良いかい?」
「がおお(いいよ!)」
直哉はリリの承諾を得てその足に触った。
「がおー(くすぐったいの!)」
「思ったより暖かいな」
直哉がリリの身体を堪能していると、ドラゴンの姿を見つけたレオンハルト達がやってきた。
「直哉さん、危険です!」
「我々が時を稼ぎますので、拠点まで下がってください」
緊迫した二人に、
「あれはリリですよ。武器をしまってください。それとも手合わせでもするのですか?」
「えっ?」
レオンハルトとルカは呆気にとられていた。
「がおー(リリなの!)」
「ほら、リリなのって言ってるじゃないですか」
直哉の言葉に、
「いや、がおーとしか聞こえなかった」
「私もです」
レオンハルトとルカには聞こえないようであった。
「ん? まぁ、それでも、このドラゴンはリリなので敵対しないでいただきたい」
「直哉さんがそう言うのであれば」
レオンハルトとルカは下がって直哉達を見守った。
「リリ、大丈夫?」
「がおー(平気なの!)」
直哉はリリを見て、
「綺麗な白色だね。見とれちゃうよ」
と、リリのドラゴン姿を見ていた。
「がおーん(あのね、この姿だと物凄くエネルギーを使うから、長くこの姿を維持するのは厳しいの)」
直哉はそんなリリの足を撫でながら、
「それが狙いだよ。どのくらいの時間、ドラゴンで戦えるのかを知らないと、作戦を立てる事も出来ないよ。さて、動いてもらいますか!」
直哉はそう言いながら巨大な盾を取り出して、パイクを使いその場に固定した。
「マリオネット!」
さらに、直哉の後ろに防衛網とマットで作ったクッションを何重にも並べた。
「よしリリ、盾を攻撃してみてくれる?」
「がおー(はいなの!)」
直哉が全身を使って盾を押さえていたが、
どごっ!
物凄い音と共に、直哉は弾けとんで行った。
(鳥だ。俺は鳥になったんだ)
直哉はハッとして、
「いや、違う! マリオネット!」
直哉は飛んでいく方向にクッションを並べて、ダメージを抑えようとした。
バシッ! バシッ! バシッ!
「痛てっ。痛てっ。痛てっ」
クッションを貫いても収まらない勢いに、直哉は恐怖を感じながら、
「これなら!」
靴に仕込んだ風の石を発動させた。
「くぅぅぅ」
直哉は両足で踏ん張り、何とか勢いを抑える事に成功した。
「あぶねぇ。危うく殺られる所だった」
「がお?(大丈夫?)」
リリが心配しながら聞いてきた。
「おうよ! 何とか耐えたぜ」
そう言いながら盾を探すと、
「何だあれは!」
綺麗に四当分された盾が地面に埋まっていた。
「まさか!」
直哉は自分の身体を確かめると、
「何処も斬れてないな。良かった」
と、安心した。
「しかし、すごい攻撃力だな。俺本体じゃ保たないか」
直哉は数体の熊のヌイグルミを出して、
「リリ、次はヌイグルミを捕まえてごらん」
そう言いながらマリオネットで操作した。
リリは両腕をブンブン振り回したがヌイグルミを捕らえられず、
「がおー(えいなの!)」
そう言って、ブレスを吐いた。
「うわっ」
咄嗟の事に直哉はマリオネットの細かい操作が出来ずに、ヌイグルミに直撃を喰らってしまった。
ヌイグルミは凍り付いて粉々になった。
「あちゃー」
「がおー(やったの!)」
と言った途端、リリはドラゴンの姿が解除された。
「あぅ。これが今の精一杯なの」
そう言って、その場に座り込んだ。
「そうか。ブレスは今のリリだとかなり厳しいみたいだね」
直哉はリリを抱きかかえた。
「そうみたいなの」
「それでは、MPが回復したら次はブレスなしで、どの位活動できるかを試して見よう」
「はいなの!」
その後、ブレス無しや、飛行しながら、攻撃をしながら、防御力は? サクラを展開しながら等、色々な条件を試してデータを集めていった。
「やっぱり、ドラゴンになって、そのまま戦うのは厳しそうだね。ここだと言う時に変身して戦うのがよさそうだ」
「うーん。お兄ちゃんに任せるの」
直哉は疲れてぐったりとしたリリを抱えながら。
「わかった。リリの力を頼りにするよ」
「はいなの!」
直哉はリリをベッドに運んでから、決戦に備えて拠点の最終調整を入念に行っていた。