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第百九話 ソラティアの開放に向けて その1

泣きつかれたリリを背負い、傍ではフィリアが待機している直哉の所に、次々と四肢を失った人が運び込まれてきた。

リカードが見守る中、直哉がスキルを使い義手・義足をどんどんと作り疑似部位連携で接続していった。

「この様な秘術までお持ちとは、改めて驚きました。リカード様が見守っておられるということは、これはバルグフルの秘術なのですか?」

「はい。バルグフルの王様より、お礼として頂きました」

「お礼ですか?」

「そうですね。何しろこの直哉は、私の命の恩人ですから」

直哉とレオンハルトの会話にリカードが混ざってきた。


「ほほう。リカード殿も直哉殿に助けられたのですか?」

「ええ。彼なしではここまで来れませんでしたよ」

そんな話を聞いていた直哉は、

「助けられたのは俺の方ですよ、リカードが居なかったら俺なんてバルグフルの片隅で怯えていただけでしたから」

「いやいや、普通にリリちゃんと冒険に出ていたよね」

直哉は、背負っているリリを見て、

「あの頃は、まだ、この世界に居場所を探している最中だったな」

昔を思い出しながら、四肢を作成していた。



次に運び込まれたのが、兵士達であった。

「リカード、こちらの方は兵士のようだが、同じバランスにして良いか?」

「あぁ、現在の能力に合わせてよい」

直哉は、残った部分から失った部分の推測をして四肢を造り出した。


四肢を接続してもらった兵士が聞いてきた。

「この身体は、成長するのかな?」

「残念ながら、強さは変わりません」

直哉の答えに、

「それでは、鍛練の意味がないではないか!」

「そうですね。今までは通りの鍛練では意味がないですね」

「どういう事だ?」

「鍛練はただやるのではなく、今の自分を強くするためにやるのではないのですか?」

「そ、それは」

「何となく身体を動かすのは、鍛練とは言わないはずですよ」

「ぐぬ」

「ですが、ちゃんと鍛練を積んで、その上での強化であれば問題ないですよね?」

「そうだな。その時は、我がバルグフルに許可と見守るために来てもらうがな」

兵士は渋々納得したようであった。


リカードは義手を外し、

「私も直哉に腕を造ってもらいました。それから、ここまでの強さになるのですから、貴方も頑張りましょう」

兵士を励ました。

「リ、リカードさんも義手だったのですか!? それで、あのような力を出せるまで鍛えられたのですね。私も頑張ります!」

兵士は意気込みながら帰って行った。

「流石ですね」

直哉はリカードにそう伝えて、作業を再開した。



しばらく作業に没頭していると、ラリーナが近づいて来た。

「直哉よ」

「どうしたの?」

「これから、見回りに出てくる」

そういって、ラリーナは直哉にハグをした後、

「かなり疲労が顔に出ているから、倒れぬように気をつけて。フィリア、後は任せる」

そう行って、見回りに行った。


「俺、そんなに顔色悪い?」

横にいたフィリアに聞くと、

「はい、今にも魂が抜けそうな顔をしています。朝食を取って、休んだらどうですか?」

「しかし、まだ四肢を失った方がいらっしゃるのに、俺だけ休むなんて」

直哉は立ち上がろうとして、フラっとフィリアの方へ倒れ込んだ。

「ほら、身体は正直ですね。少し休憩にいたしましょう、直哉様には栄養のある食事をしてもらって体調を整えていただかないといけません」

直哉は予想以上に消耗している身体に驚いた。

「確かに、今朝流した血の量も大量だったし、そうすぐには回復しないか」

「はい。傷は塞がりましたが、痛みや失った血液はどうしようもありませんから」


直哉はリカードに一時休憩をすると伝えて、食事へ向かった。

直哉が立ち去った後で、ルカがリカードに聞いてきた。

「リカードさん、直哉さんは昔からあのような考え方だったのですか?」

「あのようとは、自己犠牲のことか?」

「はい。私には、死に急いでいるようにしか見えません」


「これは、内緒にしておいて欲しいのだが」

リカードはフィリアに支えられながらフラフラと歩く直哉を見て、

「始めはもっと薄情だったらしい」

「えっ?」

リカードの言葉に耳を疑った。

「はじめてこの世界へ飛ばされた時、この世界を破壊してでも帰ると思っていたらしい」

「・・・・・・」

「それが、リリちゃん達に出会い、その他大勢の人々に会い、この世界を壊すことは、ここにいる全ての人の生活を破壊することになる。そんな事はしたくないと言っていました」

ルカは、背負っていたリリと肉の争奪戦を開始した直哉を見ながら、

「あの姿からは想像も出来ません」


「でしょうね。直哉は常に鍛練し、選択肢を増やすと言っていました」

「選択肢ですか?」

「そう。あるとき知り合ったエルフが闇に囚われ、敵対してきたことがあって、その時の直哉の力では倒すことでしか救うことが出来なかった。結果、直哉はそのエルフを倒したのだが、その日以来、直哉は何かを背負ったように鍛練をするようになった」

ルカは、明るく振る舞う直哉を見て、

「産まれた時から、勇者としてチヤホヤされていた訳ではないのですね」

「そんな風に思っていたのですか?」

ルカの言葉にリカードは驚いた。



「私は産まれも育ちもアルカティアでした。母は立派な兵士でした。アルカティアでは女性が強く男性は弱いのでほとんどその姿を見せません」

「弱いと姿を見せないのはどういう事だ?」

「属国に排斥されるのです」

ルカの言葉に、

「過激だな」

リカードは驚いた。

「ですので、アルカティアの者が男を見ると、自分より弱いので嘲笑するのがほとんどでした」

「それで、あの発言になるのか」

「はい。ですので、はじめて直哉さんがアルカティアへ来ると聞かされた時、どこの道楽男が自分を勇者と名乗らせて来たのかと憤っていました」

「ふむ」

「始めて直哉さんを見た時も、その強さが分からず、暴言を吐く者もおりました。ですが、強さは本物でした。私達では相手にならないような敵にも立ち向かい、自ら最前線に立ち戦い続けるその姿に私達は感服し、そして奮い立ちました。あの姿こそ勇者なのだと」


「まぁ、直哉は始めはもの凄く弱かった。持っていた剣は強かったが、剣術に関してはその辺の村人の方がマシなレベルだった」

「えっ? そうなんですか?」

ルカは驚いた。

「あぁ、それが、今では俺よりも強いからな」

「それ程昔から、切磋琢磨されていたのですか?」

「いや。出会ってから100日は経ってないと思う」

「・・・・・」

ルカは絶句してしまった。

「それほどの覚悟でこの世界に生きようとしてくれているのだよ」

「そうだったのですね」

ルカは改めて直哉を見て、

「本当に凄い方ですね」



そんな直哉は、リリと肉料理の取り合いで、何とか一割ほど確保して食べていた。

「こらこら、リリ殿、それは直哉殿の食事じゃぞ。だいたい、リリ殿の食事は別にあるではないか」

エリザの突っ込みに、

「これは、別皿なの!」

「いや、まぁ、そうなのじゃが。良いのか? 直哉殿」

「まぁ、仕方ないよ。リリだもの」

直哉は諦めて、少なくなった肉料理を食べ、別に魚料理を頼んでいた。

リリが取っていた別皿には、モーモーキングの串焼きが10本ほど並んでいた。

直哉の肉料理はJTステーキだった。一口大に切ってそれを持ったとたん、残りをリリに攫われた訳だが。


先ほど肉料理を持って来てくれたアルカティアの女性が、笑いながら魚料理を持って来てくれた。

「あらら、残念でしたね。魚料理の方は、フィリア様によると味噌とバターという調味料を加えたものだそうです」

「なるほど。それで、フィリアは?」

「フィリア様は現在、リリ様とエリザ様のお食事を作っておられますよ」

そういって、直哉の前に出されたのは、熱せられた鉄板の上に葉物野菜や彩りの良い野菜が敷き詰められ、その上にさかなの切り身が乗っかり、味付けに味噌を使い、バターの香りが漂う料理が出てきた。

「あー! 美味しそうなの!」

リリが味噌とバターの匂いにつられやってきた。

直哉は、魚を一口大に切って、味噌バターの味が付いた野菜と共に口に放り込んだ。

「うん。美味しいですね」

気が付くと、リリも手を伸ばして、魚を奪おうとしていた所を、エリザに止められていた。


「リリも! リリも食べたいの!」

直哉は苦笑いを浮かべながら、

「エリザ、離してあげて」

「直哉殿が良いというのであれば」

エリザは渋々と離した。

「それと、コレと同じ味付けで、肉を入れることは出来ますか?」

直哉の言葉に、リリの眼が輝いた!

「食べたいの!」

逆にエリザはげっそりしながら、

「まだ、食べるのか?」


「食べるの!」

「エリザの分も頼んだら? 俺は白米を頼む」

リリは自分の分が来るまでに、肉を食べきり、直哉の魚も食べ尽くした。

「リリ、野菜は食べないの?」

「それは、お兄ちゃんにあげるの!」

「そっか」

直哉は米を受けとると、味噌バターの野菜を絡めて食べ始めた。

「むー。お兄ちゃんが食べてると美味しそうなの! それも欲しいの!」

リリが直哉のご飯に手を出そうとしたとき、


「いい加減にしなさい!」

調理場の出入り口からフィリアの怒鳴り声が聞こえてきた。

「ひぃ」

リリは慌てて自分の席に戻ったが、そこへ怒り心頭のフィリアが料理を持ってやって来た。

「リリ! 直哉様の肉料理を奪い、魚料理も奪い、野菜を残したあげく、ご飯まで貰おうなんて、なんて行儀の悪いことをするのですか!」

「まあまあ、フィリアも落ち着いて。リリは甘えているだけなん・・・・」

直哉がリリを庇おうとすると、矛先が直哉に向いた。

「直哉様も直哉様です。どうして人前でリリを甘やかしているのですか? 直哉様がしっかりしないから、リリが付け上がるのです」

「はい。スミマセン」

直哉は素直に謝った。

「珍しいな、フィリアさんはもっと大人しい方だと思っていたのだがな。あれほど感情的になれたのだな」

リカードは眺めていた。




そこへ、数名の女性がフィリアの元へやって来た。

「聖女様」

怒り心頭だったフィリアは、にこやかな表情を造り、

「どうかしましたか?」

女性達は、少し怯えながら、

「地下牢を掃除したいのですが、このままでは綺麗になったかわからないので、何とかなりませんか?」

女性達の願いに直哉を見た。

「わかった。天井を透過性の高い素材に変えるよ。一応地下牢の範囲内に人が入らないようにしてくれる?」

「かしこまりました」

フィリア達が出て行くと、



「こ、恐かったの」

リリは震えながら直哉に擦りよった。

「うん。大迫力だったね。まるでミーファさんみたいだったね」

「あー。確かに新しいママと同じなの」

リリは納得した。

その後リリは大人しく料理を待ち、直哉はゆっくりとフィリアの料理を堪能することが出来た。



直哉が食べ終わる頃に、フィリアとラリーナと先ほどの女性達が帰って来た。

「直哉様。安全の確認をして参りました。問題ありません」

戻ってきたフィリアの報告を受け、

「それなら、今のうちに変えてしまいましょう」

直哉は土地タブから地下牢を選択して、天井部分の素材をノーマルからポリカーボネートに変更して、上から見る事が出来るようにした。

「これで、見えると思う。一緒に居る方々は、破邪魔法を使える方?」

「ありがとうございます。そうです、パルジャティアとアルカティアから来て貰いました」

直哉は女性達に頭を下げて、

「ありがとうございます。助かります」

と、伝えた。



「私達でもお役にたてるので、嬉しいのですから」

「聖女様の負担を少しでも減らします」

破邪魔法を使える女性達は意気込みながら出て行った。

「私も浄化してきますので、直哉様はゆっくりと休んでいてください。ラリーナ、リリが暴走しないように見ていてください」

「あいよ」

フィリアはラリーナにその場を任せて、浄化作業に向かった。


直哉が一息ついていると、エリザが話しかけてきた。

「直哉殿は大変じゃの」

「ん? 何の事?」

「リリ殿に振り回され、フィリア殿に怒られ」

「あぁ。まぁ、馴れてますので。それに、ようやくフィリアが地を見せてくれるようになって、嬉しいですよ」

「そんな物かの?」

「そんな物ですよ」


直哉はそう言うと、食後のお茶を飲みながら、

「そうだ、新しい武器の事ですが」

「おっ? 待っておったぞ」

直哉の言葉に食いついた。

「ただ、言った通り、巨大な武器なので、近接された時の対応策を講じている最中です」

「見せてもらえるか?」

「皆さんの四肢を造り終えたら、鍛練がてら外で見せますよ」

「リリも! リリも鍛練する!」

「そうだね。リリのドラゴンになった姿も見てみたいし」

「はいなの!」


「直哉様、地下牢の掃除は終わりました」

フィリアは数名の神官と共に、運ばれてきた。

「皆さんお疲れ様でした。確認はこちらでしますので、ゆっくりと休んでください」

直哉の言葉に、神官達とフィリアは席に座り一息つくことにした。

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