第百八話 激しい戦闘の後で
◆次の日の朝
直哉が目を覚ましたのは次の日の朝であった。
「あれ? 俺はどうしてここで寝てるのだろう?」
ベッドの上で嫁達と共に寝かされていた。
「うぐっ」
起き上がろうとして、身体中が痛い事に気が付いた。
「ありゃ? 回復してない?」
闇のエネルギーを受け続けた身体は、回復を少ししか受け付けなかった。
「それでも生きているのだよな」
直哉はリリ達に触れながら、生を実感していた。
「んー! お腹すいたの!」
と、寝言を言いながら直哉の腕をしゃぶっていたリリが目を覚ました。
「あれ? お肉からお兄ちゃんが出てきたの! わーい!」
そう言って、抱きついてきた。
「いたたたた」
直哉は痛みに顔を歪めながら受け止めていた。
「あれ? 傷が治ってないの?」
リリは不思議そうに直哉の傷を見ていた。
「リリの方は大丈夫だった?」
直哉の質問に、
「ドラゴンになったら、全部治ったの!」
「ん? ドラゴン?」
直哉は戦闘中の事を思いだし、
「そうか! リリに助けてもらったのか! ありがとうリリ。リリのおかげで助かったよ!」
と、全てを思い出していた。
リリは直哉の顔色をうかがっていたが、拒否や恐怖等の負の感情が見られないので安堵していた。
「リリね、ドラゴンさんだったの。でも、ママは人間なの。だから、リリは半分は人間なの」
直哉は気になっている事を聞いてみた、
「そっか。いつでもドラゴンになれるのかな?」
「うーん。それが、どうやってドラゴンになって、どうやって戻ったのかよく覚えてないの。あの時は、リリはどうなっても良いからお兄ちゃんを助けたいって、そう思ったの。・・・・・あっ、そうか。・・・・そういう事か」
リリは何かを思い出したようだった。
「思い出したの。お兄ちゃんの事を助けたいって思ったとき、心の奥底にある強大な力に手を伸ばしたの! そこにはパパとママが居て、二人に力を分けてもらったの! だからドラゴンに戻れたの!」
リリの答えに、
「その力は今でも感じるの?」
直哉が聞くとリリは胸に手を当てて、
「感じるの! 大きな力を! これを掴めば、ドラゴンになれそうなの!」
リリがそのままドラゴンになりそうなので、
「リリ、待って。ここじゃ試さないで。部屋が壊れちゃうよ」
「あ、そっか」
リリは納得したようだった。
「やっぱり、皆が助かったのはリリのおかげだよ。本当にありがとうフィリアもラリーナも無事みたいだし。本当に良かった。でも、二度とリリがどうなっても良いなんて思わないでくれ。俺には、いや、俺達にはリリが必要なんだから」
「お兄ちゃん! 嬉しいの!」
直哉は涙を流して、リリと共に喜んでいた。
「うーん」
その声に、フィリアが目を覚まし、さらにラリーナも目を覚ました。
「二人とも、おはよう」
直哉の挨拶に、
「おはようございます」
「おはよう」
と、返して身体の状態を確認していた。
「私は、MPがなくなっただけみたいなので、問題ありません」
「こっちはかなり闇の攻撃を受けたけど、銀狼の力を使って何とか持ち直したよ」
そう言って、身体を動かし始めた。
「それなら、この中だとお兄ちゃんだけが、治ってないの」
三人は直哉を脱がして確認すると、
「これは、心臓の辺りが酷く闇に穢れていますね」
フィリアの見立てに、
「破邪の魔法で吹き飛ばせるかい?」
闇の汚れ具合を見ていたフィリアは、
「今ならまだ間に合います! 直哉様はマリオネットで回復を常時使っていてください」
そう言って祈りを捧げ、
「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に邪悪な力を祓いたまえ!」
「マリオネット!」
直哉が回復用に珠を装備したのを確認して、
「かなり痛いですが我慢してくださいね。みんなで直哉様を支えましょう。ブレイクウィケンネス!」
直哉に食い込んでいた闇の穢れを吹き飛ばした。
「かはっ」
直哉は大量の血を吐いて、その場に倒れそうになったが、嫁達がその身体を支えた。
「フィリアお姉ちゃん? お兄ちゃんが死んじゃうの!」
フィリアは、直哉が用意した振りかける回復薬をかけつつ、直哉のリジェネが正しく動いているのを確認していた。
「大丈夫です。全ての部分が穢れていたのではないので、直哉様の回復で間に合いそうです」
しばらく苦しそうにしていたが、次第に安らかな寝顔に変わっていった。
「この方法なら、ゴンゾーさんも治せるのでは無いの?」
リリの質問に、
「ゴンゾーさんの場合、何個かの臓器を失うことになります。さすがに臓器を失った状態では長く生きていけません」
「でも、お兄ちゃんなら臓器も造れるのでは?」
リリの質問に、
「確かにそのような事を仰っていましたね。それなら、治せるかもしれません」
「直哉はこの状態だけどな」
ラリーナの言葉に、直哉が目を覚ますまで、嫁達は直哉の傍で見守っていた。
直哉が目を覚まし、フィリア達から状況を聞いた直哉は、リカードの元を訪れていた。
直哉は血が足りないらしく、真っ青な顔をしていた。
「どうした直哉? 顔色がすこぶる悪いぞ? 休んでいた方が良いのでは?」
リカードの心配を嬉しく思いながら、
「リカードありがとう。でも、ゴンゾーさんも俺と同じように治せるかもしれません」
「何!? ゴンゾーを治せるかもしれないって!?」
「はい。以前頂いたサイボーグの書には、擬似臓器作成のスキルがあります。これを使って、フィリアが浄化した臓器を造って移植できれば、助けることが出来ます」
直哉の言葉に、
「移植? 移植とはなんだ?」
「俺も詳しくは解らないのですが、身体を開いて入れ替える事です」
リカードは直哉が何を言っているか解らないといった表情で、
「それで、直哉は移植とやらは出来るのか?」
「いや、俺には出来ません」
リカードは落胆しながら、
「誰か出来る者はおらんのか?」
「俺の父なら出来るけど、どうやって会えばよいのかわかりません」
リカードは少し考えてから、
「フィリアさん、ゴンゾーはこのままでどの位、保ちますか?」
「先程闇に穢れた臓器の様子を見てきましたが、このままでも数年は大丈夫です。ですが、戦闘など激しい動きは厳禁です」
リカードはフィリアの説明を受けて、
「これで、直哉の帰還を手伝う理由が増えたな。ゴンゾーを直哉の父上に治療してもらえるように頑張るよ」
「上手く行く保障はありませんよ?」
直哉の言葉に、
「大丈夫! 直哉となら、何とかなる気がする」
「そうですね。何とかしましょう。それと、フィリア」
直哉に呼ばれ、
「何でしょうか?」
「フィリアの破邪魔法は、徐々に強くしていけるの?」
直哉の言葉の意味がわからず、
「どういう事ですか?」
「例えば、俺の身体から闇のエネルギーを除去した時の破邪魔法を100として、5とか10とかの威力で破邪魔法を撃っていくことは出来るの?」
フィリアは考えながら、
「やったことはありませんが、出来ると思います。ですが、何故その様なことをするのですか?」
「ゴンゾーさんの身体を徐々に浄化して貰って、回復と浄化を繰り返せば良いのでは?」
直哉の答えに、
「それは、厳しいですよ。闇に汚れた部分は回復魔法の効きが非常に悪いです。完全に除去出来れば、その部分は回復出来ますが、完全に闇に汚れた臓器は中途半端に破壊されてしまい、完全に浄化するのとさほど変わりません」
「そうか。これなら、この方法は使えないと説明出来るな」
直哉はそう言って、一階へ降りていった。
そこへ、ゴンゾーがリカードとアンナに付き添ってもらってやって来た。
「直哉殿! お願いがあります」
「何でしょうか?」
「わが身体も、直哉殿と同じ様に治しては貰えないだろうか?」
ゴンゾーのお願いに、
「もちろんです。ですが、それにはゴンゾーさんの身体に新しい臓器を埋め込む技術が必要になります。俺の場合、一部だけの汚染だったので、欠損ではなく傷として回復しましたが、ゴンゾーさんの場合は欠損になります」
「と、言うことは、リカード様の義手の様になるのですか?」
直哉は首を振って、
「リカードのように四肢でしかも末端であれば、俺でも対応出来るのですが、ゴンゾーさんの場合のように内臓を繋げる技術はありません。スキルレベルを上げれば新しく覚えるかもしれませんが、現状ではありません」
「ぐぬぅ。しかし、このままでは儂は足手まといでしか無いではないか」
そんなゴンゾーに、
「何を言っているの。ゴンゾーさんには私達の子供の世話を頼みたいのだから、今は大人しくしていてください」
アンナが言った。
「うむぅ。アンナ様にそう言われてしまっては、このゴンゾー断れませんな」
そう言って、大人しくなった。
「えっ? 子供?」
直哉は初耳だったようで、聞き返してしまった。
「はい。リカードの子供を授かりました」
「そうなんだよ。長い間、城を留守にしているのに、嫁と子供を連れて帰ることになるとは、思わなかった」
直哉は呆気にとられながらも、
「おめでとうございます。そういう事なら、アンナさんも安静にしていた方が良いのですよね」
「そうなるな。だから、私の方も戦闘に出る回数が減ると思う。三人を守っていたいからな」
リカードの言葉に頷き、
「わかりました。コレより先は、俺達で攻略することにします」
「残りはエルムンドという者だけか?」
「恐らく。ソラティア城に籠もっているそうです」
直哉の言葉に、
「そうか。まぁ、直哉達なら大丈夫だろう、私達は新しい街でアンナが落ち着くのを待つよ。その間に全てを終わらせて帰ってきてくれることを願うよ」
「ご期待に据えるように頑張りますか」
「まぁ、その前に、その顔色をなんとかする事をお勧めするけどな」
リカードの助言に、
「そうですね、肉料理をしっかりと食べようと思います。それと、ゴンゾーさん用の臓器を作るので、その材料集めをお願いしますね」
「うむ。ゴンゾーのこと、よろしく頼む」
リカードは頭を下げた。
さらにレオンハルト達が直哉を見つけて、挨拶をしにやって来た。
「おはようござい・・・大丈夫ですか?」
直哉の顔を見て心配そうに聞いてきた。
「はい。闇のエネルギーに汚染した部分を除去した時に、大量に血を流したので、今は顔色が悪いですし痛みがありますが、傷は塞がりました」
「そうですか。とにかく座りましょう」
直哉は促されるまま、一階の食堂に集まった。
一息つくとレオンハルトが話し出した。
「丁度、皆さんお集まりのようなので、昨日の話をしませんか?」
その言葉にリカードが、
「確かに、我々がこの拠点を守っているときに、直哉達がどうなっていたのか気になるな」
直哉は、
「そうですね、それでは、俺達の方から話しますね」
戦っていた時の状況を詳しく説明していた。
「なんと! 直哉殿でもその様な絶体絶命の危機に見舞われるのですか?」
レオンハルトは驚いていた。
「はい。俺は良く倒されてますよ」
「その様な強敵を相手にしていたとは、我々だけではソラティア軍という名の魔物の群れに取り込まれていたな」
レオンハルトの言葉にルカが続いた。
「そうですね。直哉さんが来てくれなかったらと思うと、ぞっとしますね」
「それで、最後はどの様にして倒したんだ?」
リカードが聞いてくると、直哉はリリを見た。
リリは頷いて、
「みんなが倒れて、お兄ちゃんが倒されそうになったのを見て、お兄ちゃんを助けたいって思ったの。そしたら、パパとママの力を借りてリリはドラゴンになったの!」
「はっ?」
「えっ?」
「なんと!?」
リカード達は驚いていた。
「ドラゴンとは、あの伝承にあるこの世界の大いなる災いを退けたというドラゴンか?」
リカードの言葉に直哉は、
(そんな伝承があるのか。詳しく聞けるのかな?)
と、思っていた。
「いいえ、リリはそんな昔からドラゴンじゃないの。ママは人間だから、今までは人間として生きていたの」
「それなら、リリのお父さんがそのドラゴンなのかもしれませんね」
「でも、そのパパも死んじゃったの」
リリは涙を溜めながら話していた。
直哉はそんなリリを抱き寄せて、頭を撫でていた。
「もう少し詳しく聞きたかったが、無理そうですね」
リカードはそう言って、リリに頭を下げた。
「それで、そちらはどうだったのですか?」
直哉の質問に、
「そうだな、こっちに着いた時はかなり悲惨だったよ」
「はい。逃げ遅れた者達が、キメラの元を植え付けられて、四肢を切断したものが多く居ます」
直哉は驚き、
「死者は出てしまったのですか?」
レオンハルトは首を横に振り、
「今のところは死者は出ていません」
「そうですか」
直哉はホッと胸をなでおろした。
「リカード、あれを使っても良いかい?」
直哉の問いに、
「義手作成か?」
「はい」
リカードは少し考え、
「私のような戦闘用ではなく、一般用は造れるのか?」
「もちろん出来ます」
直哉の答えに、
「それなら、一般用なら許可しよう」
直哉は笑顔になって、
「ありがとう、リカード!」
直哉は擬似四肢作成で、失った四肢を擬似的に作り出せることを伝え、今回の解放戦で四肢を失った人に身体を造って行った。