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第百七話 襲いかかる魔の手と開放した力

リカードとアンナは、お互いを見つめながら魔力をあげていった。



(む。どちらから来るか分からないのは危険ですね)

ソラルドはどちらが先に来ても良いように、身構えていた。


「いくぜ!」

リカードはアンナの剣と鍛練するうちに、自分の剣にも伸び代がある事に気が付いた。

アンナが始めて焔火を放った時は魔力が足りないのか、可愛らしい炎が巻き上がるだけでした。

だが、剣と同期した時には激しい炎が辺りを焼いた。

リカードはそれを見ながら、自分も剣と同期出来るかやってみた。

「この感じか!」

今までは、武器としてしか見ていなかった剣と同期する事により、剣の全てを引き出す事に成功した。


「風よ!」

リカードの剣に嵐が巻き起こる。

「炎よ!」

アンナの剣が炎を纏うと、

「アンナ! 付いてこい!」

「はい! 何処までも!」

二人の持つそれぞれの剣から、強力な風と膨大な炎が巻き起こりそれぞれがお互いを取り込み始めた。

そう、リカードの風とアンナの炎が融合した。

リカードとアンナは見つめ合いながら頷き合って、



風火絶焔斬(ふうかぜつえんざん)!」



二人の魔力が融合し、二つの剣から同時に一つになった属性の攻撃が繰り出された。

「おぉ! ようやく出来ましたな。このゴンゾー、嬉しく思います」

荒い呼吸をしながら、ゴンゾーはその光景を目に焼き付けた。


「チッ! 同時というか、融合したから新しい属性かよ! 借り物の防御じゃ間に合わないぞ?」

ソラルドはそう呟きながら、防御体勢を取っていた。

(この身体では無理か)

ソラルドの中で何者かが呟いた。

「ぎょえー! 僕ちゃんの身体が! 痛い! 痛い! あいつ騙したなー! 契約したのに痛いじゃないか!」

それが、最後の言葉だった。

ソラルドの上半身は完全に消し飛んだ。



「終わった?」

「終わったな」

リカードとアンナはその場に座り込んだ。


「まだ、終わってはいません!」

そのフィリアの警告と共に、ソラルドだった物から黒い霧が吹き出し、リカード達に襲いかかった。

「プロテクションフィールド!」

フィリアは詠唱破棄でリカード達の前に光の盾を造り出した。



ドガン!



闇のエネルギーと光のエネルギーがぶつかり合った。


「マリオネット!」

「ちぇっすとー」

「おらおらおらおら!」

直哉達はフィリアを援護するべく、突撃して行った。

「えぃ!」

「やぁ!」

エリザとマーリカも遠距離から攻撃して援護していた。



ソラルドだった物から吹き出した黒い霧は、だんだんと形を変えていった。

「この身体に戻されるとはな」

蛇の様な竜の形に変化した者が話し出した。

(このままでは、この地方の粛清が大幅に遅れてしまう。魔王様に何と報告すれば良いのか?)

そう言って、直哉を睨み付けた。

(あのイレギュラーさえ倒せば、全て解決するはずだ! 今この場で倒すことにするか)


そのまま口を開き、ブレスを吐き出した。

「まずい! リカード達に直撃するぞ!」

直哉はマリオネットで盾を操作して、リカード達の前に展開した。

直哉の盾は、少しの間ブレスを防いでいたが長くは保ちそうになかった。

「何だ? このブレスは? 盾が破壊されていくぞ?」

直哉が驚愕していると、攻め込んでいたリリ達からも困惑の叫びが聞こえて来た。



「何だ? この膜は?」

その時、ラリーナの攻撃を黒い膜が完全に防いでいた。

「魔法が効果無いの!」

リリの氷結魔法や風魔法もその膜がしっかりと、受け止めていた。

「わらわの矢も止まっておるぞ」

ラリーナ達は一度フィリアの傍へ集合した。


直哉は弱まる気配を見せないブレスに向かって走り出し、リカード達を助け出した。

「すまん、直哉」

「アンナさんは意識を失っているようですねの」

直哉は二人をかつぎ上げて、フィリアの元へ引き返した。

その後方では、直哉の操作するマリオネットが次々と新しい盾を使い壁を形成していった。



フィリアの元へ戻ってきた直哉は、その場にリカード達を降ろして、

「レオンハルトさんとルカさんは、皆を連れて拠点へ待避してください。リカードもゴンゾーさん達を連れて下がってください。ガンツさん、リカード達を頼みます」

「直哉はどうするのだ?」

「何とかアレを止めてみます。恐らく、竜のぬいぐるみである魔族です」

直哉の言葉に、

「それなら、ゴンゾー達を安全な所へ待避させたら、私だけでも参加する!」

リカードの言葉に、

「リカードには、拠点防衛をお願いしたかったのですが。恐らく、ここで足止めしているうちに、拠点を突破してアルカティアやパルジャティアへ攻め込む部隊がいるはずですから」

そのとき、マーリカから報告が来た。


「ご主人様。防衛拠点の忍びより緊急連絡です」

「内容は?」

「我等、敵別働隊と交戦中! 至急救援を求む。です」

マーリカの報告にリカードは、

「わかった。拠点は私たちに任せてくれ」

「もちろんお願いします」

直哉はリカードに言うと、

「直哉、死ぬなよ?」

「リカードも!」

二人は拳と拳を軽くぶつけてから、それぞれの戦場へ向かった。




「お兄ちゃん! フィリアお姉ちゃんが!」

リリの悲痛な叫びを聞いて直哉はフィリアの方を振り向くと、フィリアは顔面蒼白で倒れていた。

「これは?」

「リリ達が来てから魔法を数回使ったら倒れちゃったの。リリの振りかけるMP回復薬だけじゃ回復しきれないの。お兄ちゃん、助けて」

直哉が見る限り、魔力欠乏症を起こしている状態で、ある物を装備している事に気がついた。

「コレを外しておこう」

そう言って、【魔畜棺】を強制的に解除した。

すると、フィリアの身体を銀色の光が包み込んだ。

「これで、時間が経てば意識を回復するな」

さらに、MP回復薬を振りかけておいた。



この時点で、リリもラリーナも傷だらけで満身創痍であり、直哉も超魔法を使った反動でかなりの無理をしていた。エリザとマリーカは怪我はしていないが、エリザは飛び道具の大半を使い切り攻撃が出来なくなり、マーリカは攻撃に援護に多用していた忍術を使うのがMP的に厳しい状況に追い込まれていた。

(不味いな。みんな無理してるな、何か逆転出来る物を探さないと)

直哉がそう考えていると、

「回復役が倒れたのであれば、好都合だな!」

黒い竜はブレスを止めて、魔法に切り替えてきた。


「光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、永遠の苦しみを!」

竜の元に膨大な魔力が膨れあがり、

「インテンスペイン!」

赤い色の霧が直哉達を包み込もうとする。

「リリ! 風魔法を!」

「はいなの!」

リリは一気に魔力を増大させ、

「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」

魔力を凝縮させ、黒い霧に向かって解き放った。

「バーストトルネード!」


お互いの力が拮抗している時に、直哉とラリーナとエリザは動き出した。

直哉は剣と盾を、ラリーナは長巻とシルバーニードルを展開させて、黒い竜へ突撃していた。

「マリオネット! からの、四連撃!」

直哉は周囲に火炎瓶などのアイテムを飛ばしながら、自らの剣で攻撃していた。

「リズファー流! 月牙双輪!」

素早い攻撃で、複数方向からの連撃をお見舞いしていた。

「これが、最後の矢じゃ!」

エリザはそう言いながら、強力な弓からエリザの持てる最大の攻撃を行った。

黒い竜が黒い膜を展開して迎撃してきた。


直哉はその防御をしっかりと見て、その膜にムラがあることに気が付いた。

「ここだ!」

直哉は飛ばしていた火炎瓶や冷凍瓶などを、薄い膜へ叩き付けた。

「ちっ! やるな!」

直哉のもくろみ通り、薄い所の防御力は並以下になっていて、火炎瓶や冷凍瓶などの大半が黒い竜に突き刺さった。

直哉はチャンスとばかりに攻め込もうとしたが、後方から悲鳴が聞こえてきた。



「お兄ちゃん、魔法が保たないの!」

リリの悲痛な叫びと共に、

「きゃぁぁぁぁぁ」

マーリカの叫びが加わった。

黒い竜が放った魔法が、リリの風魔法に打ち勝ったのだった。

「リリ! マーリカ!」

直哉は敵との交戦中に後方を見るという失態を犯した。

「直哉殿! 敵から眼を離すな!」

エリザの注意も虚しく、黒い竜からエネルギー波が放たれた。

「直哉!」

傍にいたラリーナが直哉を突き飛ばし、ラリーナがそのエネルギー波の直撃を喰らった。

「ぐっ」

ラリーナは一瞬で昏倒した。



「ラ、ラリーナ」

直哉はラリーナに駆け寄りたい衝動を抑え込み、黒い竜と対峙した。

だが、それをあざ笑うかのように黒い竜は魔法を詠唱する、

「光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、敵を封じ込めよ!」

闇の力が更に増し、

「ダークプリズン!」

エリザの周囲を漆黒の檻が取り囲んだ。

「何じゃコレは?」

「お前は、エルムンドへの土産だからな、そのまま転送してやる」

エリザの周囲に現れた檻を壊すべく体勢を立て直したリリが、

「このー! エリザお姉ちゃんを離せ!」

氷を拳に纏いながら、檻を殴り続けたが、傷一つ負わすことが出来なかった。



直哉は、さらに詠唱を始めようとした黒い竜に斬りかかり、その口に剣や火炎瓶などのアイテムをぶつけまくり、詠唱の邪魔をしていた。

「えぇい! うざい!」

黒い竜は衝撃波をはなち、直哉を吹き飛ばした。

「ついでに、コレを喰らえ!」

黒い竜は、自らのウロコを数枚飛ばして、直哉とリリを攻撃した。

「この程度!」

直哉は盾を使って防ごうとしたが、どうやら実体を持たない武器のようで、盾を貫通しそのまま盾を装備している左腕を通過している時に実体化した。


「ぐぁ!」

直哉は急に来た左腕の痛みに顔をしかめ、さらに飛んで来たウロコにはじき飛ばされ、後ろにあった木に貼り付けにされた。

「お兄ちゃん!」

直哉のピンチにリリが駆けつけようとしたが、リリにも同じようにウロコが飛んで来て、リリも違う木に両手両足を貼り付けにされていた。

「直哉殿達を、離すのじゃ!」

エリザは何も出来ない自分が悔しくて、叫んでいた。

「五月蠅いですね。光無き世界に居る闇の精霊たちよ! 我が魔力と共に、永遠の苦しみを!」

竜の元に膨大な魔力が膨れあがり、

「インテンスペイン!」

赤い色の霧が檻の中に居るエリザを包み込んだ。

「うぎゃぁぁぁぁぁ」

エリザは絶叫と共に意識を失った。

「ようやく静かになりましたか」

そんな黒い竜に、

「この!」

直哉は動ける右腕で持っていた剣を飛ばしたが、

「ふん。悪あがきは止しなさい」

そう言って、直哉の右腕も貼り付けた。



「やはりあなたは、あのお方にとって邪魔な存在ですね。今、ここで、止めを刺させていただきます」

黒い竜はそう言いながら、闇の力で造り出した剣を直哉の胸に食い込ませていった。

「ぐぁー」

直哉は苦しみながら悲鳴を上げた、何とかしようとしていたが、身体を動かす事が出来ず命を削られていた。

(父さん、母さん、ゴメン。俺はここまでのようだ。みんなを紹介したかったなぁ)



「お兄ちゃん!」

リリは直哉を助けようとしたが、両手両足に刺さったウロコは抜けることは無かった。

「そのまま、そこでこの男が果てるのを見ているが良い」

「このままじゃ、お兄ちゃんが死んじゃうよ!」

リリは辺りを見回して、

「フィリアお姉ちゃん! ラリーナお姉ちゃん! エリザお姉ちゃん! マーリカ!」

全員の名前を叫んでみたが、誰一人動ける者はいなかった。



「ふはははは! 魔王様! 不穏分子直哉はこの私、十二魔将の竜が討ち取りましたぞ!」

直哉の動きが遅くなり、リリは直哉の死が近いことを感じ取った。

「もう、大切な人を失いたくない! リリは、リリは諦めないの!」

その時、リリの感覚が研ぎ澄まされ、心の底にある力が有ることに気がついた。

(あの力があれば、大切な人を助けられるの!)

リリは咄嗟にてを伸ばしてその力を得ようとした。


その時、その力の前に、二つの鍵穴と二人の人物が現れた。

(パパ! ママ!)

リリの父親が話しかけてきた。

「リリ! この力を得るという事は、今まで築き上げてきた関係を壊す事になるかもしれない程の強大な力だ。この力を使う時は姿もドラゴンに変化し大切な人たちに恐怖を与える事になる。それでも手にするか?」

リリは父親の方を見た後で、母親を見た。



「パパ。そしてママ。リリは二人を守れなかった。そして今また、大切な人を失いかけている。どんな事をしても、どんな代償を払ってでも守りたい人が出来たの。それがお兄ちゃん、直哉さんなの。だから、リリは、リリはこの力を使って直哉さんを守るの!」



そこまで聞いて、母親は笑顔になって、

「偉いわよリリ。こんな身体でなければ抱きしめてあげたのに」

そういって、封印の鍵を解除した。

「リリにもそういう男性が出来たのか。それなら俺たちが居なくなっても安心だな」

そういって、封印の鍵を解除した。

二人の声が調和した。

「大切な人を守っておいで! 私たちのリリ!」



リリは父親から竜の力を、母親から愛の力を注ぎ込まれ、心の奥深くに封印されていたドラゴンの力を解放した。

「ぐぅぅぅぅぅ」

リリの身体が膨れあがり、拘束していたウロコがはじけ飛んだ。その身体はまばゆい光に包み込まれた。

「何事ですか? この膨大なエネルギーは!」

黒い竜は直哉への攻撃を忘れるほど恐怖した。

「ガオー」

まばゆい光の中から、真っ白で綺麗なドラゴンが姿を現した。

全長は五メートルほどでドラゴンの中では小型だが、戦闘能力は確かなものだった。

「お兄ちゃんから、離れろ!」

リリは直哉に襲いかかっている黒い竜を払った。

黒い竜にとっては、強靭なドラゴンの爪による攻撃が繰り出された形になった。

ズバッ!

鋭い音と共に黒い竜の腕は武器から切り離された。

「くそぅ。私もドラゴンの端くれである竜だぞ! それなのにこれほどの戦闘力の差があるのか!」

呪いの言葉を吐きながら、リリに向けて魔法を撃とうと詠唱しようとした。

「これでも」

そこへ、リリのブレスが飛んできた。光輝く氷のブレス。爪の攻撃により、直哉から離れた黒い竜に容赦なく降り注いだ。

「ぎゃー」

何とも冴えない断末魔をあげて、黒い竜は闇の霧を吹き飛ばされ、竜のぬいぐるみとなった後でキラメキながら砕け散った。


リリ(白いドラゴン)は直哉の横に降り立ち、拘束しているウロコから直哉を解放した。

リリは優しく受け止め、直哉を両手で包み込んだ。

リリが直哉に造ってもらった回復薬を使い直哉の傷を癒すと、

「ううう。俺はどうなった?」

直哉は意識が朦朧としていたが、一命を取り止めた。

直哉の様子を確認した後で、エリザを閉じ込めていた檻を強靱な一撃で破壊して救出した。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん」

その後、リリはドラゴンの姿のまま、直哉やフィリア達を守るように、その巨体で包み込んだ。

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