第十一話 フィリアの強さ
◆直哉の家 鍛練場
「まずは、お互いの職業と攻撃スタイルの確認からですね」
直哉がそういうと、リリが手を上げて話し出した。
「リリは魔術師なの。水・氷・風の魔法が使えるの。戦い方は前衛でボコスカ殴るの!」
リリは小さな胸をそらし、フィリアは唖然として問いかけた。
「リリさんは魔術師なのに、前衛なんですか? しかもその装備、とても魔術師とは思えないのですが」
「リリはお父さんのカタキをこの手で討つの!」
リリは拳を握り、シャドウボクシングをしながら答えた。
「それに、この装備はその願いを聞いてお兄ちゃんが作ってくれたの!」
そう言って、新しくなったナックルを装着した。
「今回は、クツに使用した鉱石を流用して、ナックルでも魔法に乗ることができるように考案したよ。まぁ、例によって慣れるのは大変だろうけどね」
直哉は、リリと自分の装備を大幅に強化していた。リリの武器は魔法を押さえる効果を追加した。防具には、魔法をある程度無効化する鉱石と衝撃を吸収する鉱石を使用して魔法にも物理にも耐性を追加した。リリはピンクを基調にしたミニローブとスパッツで直哉は黒を基調にした冒険者の服と長ズボンそしてマントを付けていた。初級程度の魔法や物理攻撃はほとんど効かなくなった。鉱石に含まれる効果の含有率が低いため、ヘーニルが使ったような障壁には遠く及ばない代物であった。それでも、前回のようにオークの矢で大ダメージを負う確立は一段と低くなった。
フィリアは呆気にとられていた、これが本物の冒険者なのだろうか。今までの人たちと違いすぎる二人を見て、初めて興味がわいた。
「わたしは光魔法師です。見た目が戦士風なのは母いわく父の影響らしいです。父は偉大なアークロードだったと聞きました」
直哉はフィリアの話に耳を傾けていた。
「だから、わたしは人々を守る盾になり敵を倒す矛となりたい」
直哉は頷いて、
「志はわかりました。では、その実力を見せてください。リリ、模擬戦の準備を!」
「はいなの!」
直哉は、リリとフィリア双方にスキルで作成した回復薬とMP回復薬を渡し、
「危ないと感じたら、ストップを掛けます。それ以外は自分の意思で薬を使ってください。スキルの上達のためにやっていますのでガンガン使ってくれて大丈夫です」
フィリアとリリの準備が整ったのを確認して、
「では、位置について、開始!」
合図と同時に、リリが飛び出した。
「ちぇすとー」
魔法を使わずに、部分の力のみで突っ込むリリにフィリアは対応できず、直撃をくらう。
「きゃー」
踏ん張りが効かず吹っ飛ぶフィリア。
「まずい!」
直哉はとっさに衝撃吸収剤で造った分厚いマットを壁に配置しフィリアを激突から守った。
ぼふん! 大きな音で受け止められたフィリアは気を失っていたものの、大きなダメージもなく一安心であった。
「ありゃ、一発で終わっちゃったの」
リリは物足りないらしく、不満の声をあげた。
「魔法を使ったようには見えなかったけど、こっそり使った?」
「使ってないよ」
リリは首を横に振った。
直哉は即席のベッドを配置しそこにフィリアを寝かせてリリの相手をした。
「お兄ちゃん相手なら魔法使っても良いよね?」
直哉はOKを出しながら新しい武器を取りだした。
長さの違う四本の鎖が腕輪に接続されていて、反対側の一つには直径50cmの大きな鉄球が残りの三つにはこぶし大の鉄球が付いていた。
「鎖で出来たムチ?」
リリは直哉の武器を観察していた。
「これは、鉄球をぶつける武器さ」
そう言って左腕に腕輪で武器を固定し、右手で小さな鉄球の付いた鎖を一つ持ち、左手に大きな盾を装備した。
「よし、準備OK!」
リリは気持ちを切り替え、
「じゃぁ、行くの!」
リリは詠唱を始めた。
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
リリは風魔法を操り、飛んできた。
「ちぇすとー」
直哉は迎撃を開始した。
「ふん、ふん、ふん」
縦斬り、横斬りを繰り出し鎖の弾幕を張る。
「すごい波状攻撃! でも、ここなの!」
鎖の合間を縫って肉薄してきた。
直哉はにやりと笑い、大きな鉄球の付いた鎖を引っ張った。
リリはハッとして後ろ見ると後方から鉄球が突っ込んできていた。
「なんの!」
リリはほんの少し考え、直哉へ直進した。
「やっぱり来たね、これならどうだ!」
直哉は大きい盾を構え迎え撃った。
リリはこのままでは勝てないと悟り、最後の抵抗を試みた。
「大気に宿る風の精霊たちよ! 我が魔力にひれ伏しこの大地を震撼させよ!」
「バーストトルネード!」
直哉の周囲に激しい嵐が襲い掛かった。
「ま、まさか風の中級魔法を使えるようになったのか」
直哉は踏ん張っていたが、鎖部分は吹き飛んでしまい鉄球もはじけ飛んでいった。
リリは勝負と思い踏み込もうとしたが、予想以上に魔力を消耗したため、大きな目眩に襲われていた。
「これで、チェックメイトかな」
直哉は取り出していた四属性の剣をリリに突き付けた。
「参りましたなの」
リリは、負けを認めた。
「あそこで、中級魔法が来るとは予想外だったよ」
「でも、動きを止め切れなかったの、何をしたの?」
直哉は空になった回復薬をリリに見せた。
「流石に中級魔法は食らうと予想外のダメージがあるからね、いち早く動けるように回復薬を数本飲んだよ」
「ほら、まだあちこち傷だらけだよ」
直哉は装備をはずすと、黄金色に光っている身体を見せた。
リリは落ちた鉄球を装備して、振り回し始めた。
「さて、そろそろ大丈夫ですか?」
直哉はフィリアに声をかけた。
「私は一体何を・・・」
フィリアは朦朧としていた意識を徐々に覚醒していき、
「そうだ、リリさんの一撃で」
殴られたところを確認してみると、見事にリリの拳の型が鎧に残っていた。
「あぁ、お母様に買っていただいた大事な鎧に傷がついてしまいました」
泣き崩れるフィリアに、直哉は、
「その鎧を直しますので、脱いでください」
フィリアは驚いた顔で、
「直るのですか?」
「本職は鍛冶職人ですから、楽勝ですよ」
そう言って、鎧を受け取り、スキル武具修正で何も追加せず修理した。
「えっ? もう直ってしまったのですか?」
フィリアは驚き受け取った鎧を何度も見直していた。
「さて、あの戦いじゃあなたの実力がさっぱりわかりませんので、私と模擬戦をしましょう」
そう言って、盾を二つ取り出した。
「好きなように打ち込んできてください」
直哉は二つの盾を構えた。
フィリアは律儀に鎧を装着して殴りかかってきた。
「せい! やぁ! とぅ!」
大槌を器用に振り回しダメージを与えようとするが、直哉も器用に盾で受け止め攻撃を防いでいた。
「この、この、この」
リリにやられた分も返すかのごとく殴りかかっては来るものの、攻撃は単調で威力も武器の重さだけというお粗末なものであった。
「ぜい、ぜい、ぜい」
疲れてきたのか、次第に攻撃速度も落ちてきて、もはや、攻撃をしているのかじゃれ付いているのかわからなくなっていた。
「ちょっと喰らってみるか」
ボコ。と、いい音がして、槌の根本の部分が曲がってしまった。
声にならない声を上げ、フィリアは座り込んでしまった。
「ふむ、装備している武具の質が悪いですね。それと、魔法は使わないのですか?」
「お恥ずかしながら、戦闘中に魔法を使うのには不慣れで、始まる前に掛けられればよいのですが」
「そんな状況は、あまりないですね」
直哉は、フィリアの問題点を解決すべくスキルを発動させようとした時、
「あーぶーなーいーのー」
もの凄く間延びした危険を知らせる声がした。
直哉はとっさに、リリ戦で使用した大きな盾を装備し声のする方へ向けた。
「げ!」
直哉は焦った。先ほどまで回っていたリリが鉄球と共に飛んできていた。
「リリ、鉄球の装備を解除してあっちへ飛んで!」
先ほどフィリアを受け止めたマットを指さした。その後ちらっと後ろを見て、
「鉄球は受け止める」
「了解なの!」
リリは腕輪を外しながら詠唱していた。
「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」
「スライスエア!」
リリはマットへ向かい飛んでいった。
直哉は盾を構え踏ん張った。ドゴン!
「ふんぬー」
数歩分押し出されたが何とかこらえた。
「ふぅ。ビックリした。リリ、何をやったの?」
リリは怯えながら、
「ごめんなさい。お兄ちゃんが使っていた鉄球が楽しそうだったので装備してグルグル回していたの、そしたら止められなくなってパニックになって、でもお兄ちゃんなら何とかしてくれるって思ったら」
「飛んできていたと」
「ごめんなさいです」
リリは小さな身体をさらに小さくしながら謝ってきた。
「俺やフィリアさんに当たらなかったから良かったけどさ」
「あの!」
フィリアが直哉の装備した盾と、鉄球を触りながら、
「この鉄球が私の鎧に当たったら、この盾みたいに傷一つ無く受け止められますか?」
綺麗になった鎧をさわりながら聞いてきた。
「無理ですね。完全な強度不足で最悪は鎧が破壊されますね、運良く防げたとしてもフィリアさんの力では、吹っ飛んで壁に鉄球でプレスされますね」
直哉は正確に状況を分析し厳しいようだがそのまま伝えた。
「そうですか」
フィリアが項垂れていると、
「フィリアお姉ちゃんもお兄ちゃんに、武具を造ってもらえばよいの!」
フィリアは一瞬ハッとなって直哉を見たが、首を横に振って、
「いや、甘えるわけにはいかない」
直哉は少し考えて、
「では、私のスキルの練習台になってもらえませんか? 報酬はスキルの練習過程で出来てしまった武具というのは如何ですか?」
少し詭弁を弄し過ぎたかなと思っていると、
「しかし、それではあなたの負担が大きすぎる!」
至極正論で返されてしまった。
「それでは、安心を買わせてください」
商人時代に良く使ったフレーズをアレンジして使った。
「鍛練が終わったら冒険に行きますが、今の装備では安心出来ません。ですので、私たちの安心のため武具を造らせてください」
フィリアは、
「わかりました、そこまでおっしゃるのなら、よろしくお願いします」
直哉は礼を言って、防具の作成に入った。
「力は並、体力は低い感じだったので、基本はハードレザー系で行きましょう」
直哉は、ハードレザー系の防具を選択し、使用素材に防御力を上げる石や直哉達の装備と同じ素材から造った皮を使用した。
「見た目はアークロードみたいな、ごついのが良いですか?」
フィリアがうなずくのを見て、直哉はオプション選択から、見た目を変更した。
実行を押すと、目の前に黄金の全身鎧が出現した。
「見た目は全身鎧ですが、カテゴリーはレザー系の集合体です。装備する時はそのまま各部位毎に付けて下さい」
フィリアに鎧を渡しながら説明した。
「もの凄く軽いですね」
渡された瞬間、フィリアは戸惑っていた。
「そうですね、重さは約十分の一で防御力は三倍ぐらいになっていますよ」
フィリアは順番に装備していって見た目は全身鎧を着ている感じになった。
「どうですか? 動きにくいところとかありますか?」
身体を動かしていたフィリアは、
「恥ずかしい話なのですが、胸が少々窮屈です」
直哉は微調整して仕上げていった。
鎧が出来たころ、ラウラとミーファがご飯を作りに転移してきた。
「あら、みなさんお揃いで、そちらの黄金色の全身鎧の方はフィリアさんですか?」
ラウラさんは確認するように聞いてきた。
直哉は鎧作成の経緯を説明すると、
「そんなに良いなら、私とミーファさんにお揃いの防具を造ってもらおうかしら」
「材料さえ揃えてくれれば造りますよ」
そう言いながら、みんなで一階へ向かった。
◆直哉の家 リビング
ラウラとミーファは連携しながらご飯を作っていた。
その間に、リリとフィリアは汗を流しに風呂に行き、直哉は家庭菜園を造っていた。
(ここに新しく扉を造って、そこに外からは入れない土地を菜園にして、回復薬やMP回復薬の原料である『薬の元』となるハーブを育てまくろう)
「直哉さん、手ぐらい洗ってきなさい」
ミーファに怒られながら、手を洗い席に戻ると、みんな座って待っていた。
この世界に来る前の食卓は、両親が共働きで、一人で食べる事のほうが多かった。
直哉は感激しながら席に着き、みんなでご飯を食べた。
「そういえば、直哉さんはご飯の前に何を造っていたのですか?」
「家庭菜園を造ってみました。現在は薬用のハーブしか植えてないので、空いている区画に好きなものを植えて育ててください」
食後のお茶を飲みながらラウラの依頼をこなしつつ、今後のことを話し始めた。
「リリとフィリアさんと俺とで、オークの森でレベルを上げてきます。目的は全員の戦闘位置の確認や連携等、特にフィリアさんの戦闘経験を中心に稼ぐ予定です」
「よーし! 頑張るの!」
リリは興奮して拳を振り回し始めた。
フィリアは若干涙目になりながら聞いていた。
「もちろん、十分に鍛練をしてからだけどね」
そういって、直哉とリリはハイタッチをして気合を入れた。