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第百二話 防衛拠点

「私は民達にこの事を告げてまいります。直哉さん達はどうなさいますか?」

「俺たちは、ここアルカティアとソラティアの間に防衛拠点を築きます。その許可と、物資の販売をお願いします」

直哉の申し出に、

「拠点の構築にはもちろん許可を出しますが、明日までに間に合うのですか? それと、物資は販売でよいのですか?」

「もちろんです。場所を提供していただければ、すぐに拠点を建てますので問題ありません。ただ、足りない物資があるので、それを売っていただければ助かります」

直哉の返事に驚きながら、

「では、拠点の建築中、お連れの兵士達の宿などは?」

「今はこれだけですが、後から解放軍がやってきますので、彼らにはそのまま防衛拠点に来てもらってください」

ジャンヌは更に驚いて、

「そんなに早く建つのですか? 建築の間、兵士たちの相手や、おもてなしをする必要はないのですか?」

「特別、必要ありませんよ。全て上手くいったときに、宴会でも開きましょうか?」

「何故ですか?」

直哉はしっかりとジャンヌを見て、


「俺達は、俺達の目的のために戦っているのです。あなた方も、あなた方の目的のために戦うのですから、その関係は対等ですよ」

「男の方にその様に言われたのは初めてのことです。直哉さんは本当に不思議な方なのですね」

ジャンヌは微笑んだ。

「そうですか? よく言われますが、自分ではわかりません」

照れていた直哉に、

「それでは、対等な立場の者として質問します。何かお手伝い出来ることはありますか?」

直哉は少し考えて、

「それでは、睡眠スペースのベッドメイクと、食事スペースの調理、入浴施設等の掃除等の仕事を手伝って貰えますか?」

「まるで、宿屋みたいですね」

「ただ、最前線での仕事になりますので、その覚悟をお願いします」


二人の話を聞いていたレベッカは、

「そうなると、お給金が高くなるので、直哉さんの方からも援助していただかないと、アルカティアの財政では厳しいですよ?」

続いてルカが、

「私は兵士達を防衛拠点に置いていただけるのであれば、それらの仕事を割り振りますよ?」

「そうですね、給金に対してはその全ての金額をアルカティアへ報酬としてお支払いいたしますよ。俺に請求してください」

ジャンヌは、

「わかりました。それでは細かい事は二人と話してください」

それからルカとレベッカと直哉で防衛拠点での連携や、防衛拠点で使用する物資の販売について話した。

話がまとまると、レベッカは部下に指示を出し直哉から貰ったお金を使って、物資の買い出しに行かせ、ルカも部下達を荷物持ちとして同行させていた。


物資も集まり、直哉は支払いを済ませ建物を新しい場所用に改築しようとしてステータスを開くと、土地タブが反応していた。

(なんだこれ?)

それを開くと、ジャンヌに許可された拠点構築用の敷地が表示されていた。

「これなら、建築が更に楽になるし、管理も楽だ」

直哉の言葉にジャンヌは、

「どうかしましたか?」

直哉は自分の特殊能力である土地管理のことを話して説明した。


「何と! その様なことが出来るのですね! 確かに今回許可した場所は、私達アルカティアの土地です」

「おかげで楽にやれそうです」

直哉はそう言って、土地タブを操作し始めた。整地などは行わず、MPを確認しながら建物の登録を開始した。

操作に慣れてきたのか、全ての登録はものの数分で終わり、あとは実際にその場所へ行ってからの作業となった。


「では、民達に話をしてきます。直哉さんは城前広場にいてください。民に紹介します。ルカ、レベッカ行きますよ!」

すべての作業が終わり、ジャンヌは二人を伴って謁見の間を後にした。

直哉達は途中で別れ、城前広場でジャンヌを待っていた。

その広場では大勢の女性が待っていた。

「ジャンヌ様が演説なさるそうよ!」

「ジャンヌ様を拝見する事が出来るなんて!」

民達はジャンヌが出てくる事を楽しみにしている様であった。


「やっぱり女性が多いですね」

「何処に男性が居るのかわからないのぅ」

フィリア達は、女性だらけの光景に驚いていた。

「ジャンヌ様よ!」

「ジャンヌ様ー!」

ジャンヌが現れると、黄色い声援に包まれた。

ジャンヌは民に向かって手を振りながら、

「このアルカティアに住む全ての民よ! ソラティアの現状を話す。心せよ!」

ざわめいていた民達はその言葉を聞いて静かになった。


「現在、ソラティアに人々を魔物に変えて支配しようとする、悪の手下が潜り込み、残念な事ながらソラティアは魔物の手に落ちた」

民達はざわざわとざわめきだした。

「しかも、このアルカティアの民達も同じように魔物にするべく、侵攻を開始した。魔物として戦うか、魔物の手下として戦うか。いずれにせよ我等には生存の可能性は低かった」

ジャンヌは民達を見渡しながら、

「だが、この困難な状況の中、立ち上がる者がいた。それが、そちらにいる勇者直哉殿だ!」

「勇者?」

聞き慣れない単語に訝しみながら、直哉の方を見た。


「男?」

「男ね?」

「男よ!」

「信用出来ないわ」

「汚らわしい!」

「無理ですわ」

直哉を見て、男だと判断すると、口々に悪口が飛び出してきた。


そこへ、先ほど治療を終えた女性が、直哉の前に出て叫んだ。

「みなさん!」

その姿を見た民達からは悲鳴が上がった。

「この身体を見てください。これは、ソラティアで魔物にされかけた影響です」

民達からの動揺は消えなかった。

「私は身体を切り捨て、逃げてきましたが、出血が酷く死を待つだけでした。ですが、こちらにいる勇者様の命令で聖女様が助けてくださいました」

民達は女性の訴えに耳を傾けていた。

「そして、私の故郷であるこのアルカティアを守ってくださると言ってくれました。みなさんは私のように魔物にされたいですか? 魔物になれば後は死ぬまで戦うだけしか出来ません。私はそんな事はしたくない、魔物にはなりたくない、そう思います。だからここにいる勇者様にお願いしようと思います。このアルカティアを救ってくれと、魔物ではなく、人間として暮らしたいと。そのためなら、この残った半身を勇者様に捧げます」


女性の澄んだ声は周囲に響き渡り、皆の視線が直哉の方へ集中した。

「身体を差し出す必要はありませんよ。というより対価を支払う様な言い方は止めましょう。俺は俺自身のために敵を討ちます。その敵が、今回人間を魔物にしている者だっただけですから。それにどうしても何かを支払いたいと言うのであれば、すでにジャンヌさんから近くに防衛拠点の建築を許可して貰いました。それが支払いだと思ってください。俺にとって、その許可があるだけで随分と楽なのですから」

この時の、直哉の言葉は嘘ではなかった。

拠点構築の許可を得るということは、その場所は直哉の管理下に入ると同等の効果をもたらしてくれて、土地タブで管理することが出来る様になるのであった。


「勇者様! ありがとうございます!」

「ありがとう!」

民達は、直哉の事を理解出来たようで、お礼の言葉が多く飛んできた。

そこへ、ジャンヌが防衛拠点での仕事について説明した。

「我こそは! という者がいればこちらのレベッカに申し出よ。雇用形態や給金の事等を話し合うことが出来る」

続いてルカが、

「私の部隊は既に防衛拠点に行くことが決まった。もちろん強制ではなく立候補制で集めた、やる気のある者達だ。その者を手助けしたい、という名目でも良いぞ」

そういうと、ルカの部隊の者に駆け寄る姿が見え、その後お城へ向かっていくのが大半であった。


(そんなに非戦闘員が来られても、守りきれるかどうか不安なんだよな)

直哉はそう思っていたが、顔に出すこともなく心の底に仕舞い込んだ。

そこへマーリカから連絡が入った。

「御主人様、聞こえますか?」

「どうだった?」

「主軍はキメラです。ほとんどのキメラは以前見た下級の者です。ただ、森で休憩していたため、全体の確認が出来ません」

「場所は?」

「アルカティアから見て二つ目の湖の畔です」

直哉は情報を整理して、

「二人は一つ目の湖まで引き返してきて」


「リリさんが、今なら不意討ち出来ると駄々をこねているのですが」

直哉はタメ息をつきながら、

「言うことを聞かないと、晩ご飯のお肉は無しだよって伝えてくれる?」

「今から向かいます」

「俺達も行くから、着いたら教えて! 拠点を建てる範囲に柱を建てたから安全を確認して欲しい」

「承知致しました」


マーリカとの話が終わり、いまだに民から黄色い声あげられているジャンヌと、志願者の対応に追われているレベッカに目で合図を送り、開放軍に参加する準備をしていたルカに話しかけた。

「俺達は拠点構築のために一足先に行くことにします」

ルカは驚いて、

「もうじき日が暮れます。夜は魔物が活発になるために危険です。明日の朝から進軍するのが良いと思いますよ」

と、忠告してくれた。

「忠告ありがとうございます。俺も出来ることなら明日の朝から出たかったのですが、現在敵はここから二つ目の湖の畔で休憩中です。恐らく夜に進軍を再開するのでしょう」

「そうなると、何処まで攻め込んで来るのかわからないというわけですね?」

「はい。ですから、今のうちに拠点構築して、足止め、もしくは撃破したいと思います」


「わかりました。我々もと言いたいのですが、夜の進軍は実力不足なので明日の朝から向かいます」

直哉はホッとしながら、

「わかりました」

そう言って、その場を後にした。




直哉は追加の肉を買い、防衛拠点予定地へ向けて夜の街道を進んでいった。

先頭はラリーナ、中盤はフィリアとエリザ、後方に直哉とその肩にシロが乗り、後方を警戒していた。


「貫け! シルバーニードル!」

「おらおらおらおら!」

群がる雑魚をラリーナが蹴散らしながら疾走していて、その後ろを必死に付いていくフィリアとエリザ、後方の直哉は走りながらマリオネットを展開して、フィリアとエリザを護り、さらに後方からの追撃を防いでいた。

「タグも拾っておかないと勿体ないな」

直哉はドロップアイテムを拾っていたが、ついでに魔物のタグも拾っていった。

「直哉殿は意外と余裕なのじゃ」

「直哉様はマリオネットの訓練とおっしゃっていました」

「走るだけでも辛いのじゃ」

フィリアとエリザは、直哉の身体能力の高さに改めて感心していた。


「ホラホラ! 遅れているぞ! 私が道を切り開いたのに後ろで壁が再生しているではないか!」

ラリーナとフィリア達との速度が違いすぎたため、ラリーナが蹴散らした後ろで、新しく魔物が襲いかかるスペースが出来ていた。

「流石にラリーナが早すぎですよ」

「ラリーナ殿は、直ぐに周りが見えなくなってしまうのですな」

二人のダメ出しに、

「直哉、何とか言ってやってくれ」

直哉に丸投げした。



「そんな事を言い合っている場合ではないのですが、敵が来ますよ。ほら、シロが滅茶苦茶吠えていますよ」

そう言って、後ろを振り返ると、今まで全力で駆け抜けて無視していた魔物たちが集合していた。

「流石に数が多いな」

ラリーナは冷や汗をかいた。

「守りきれるかどうか、わかりません」

フィリアはそう言って、魔力を高めだした。

ラリーナが前に出て、エリザが後方から弓で援護をして敵を近づけさせないでいた。

「くそう、ジリ貧だな」

何匹目かの首を弾き飛ばしたところで、ラリーナが呟いた。


(この場所なら、爆発魔法で吹き飛ばしても大丈夫かな?)

「フィリア、魔法を使うから、巻き込まれないように防御して」

「わかりました」

そう言って、高めていた魔力を開放した。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に敵よりの攻撃を防げ!」

光が周囲を包み込む。

「プロテクションフィールド!」

周囲を包んだ光の幕を見て、

「これなら大丈夫だな」

直哉は指輪を取り出して魔力を込め始めた。

(今までは、限界まで魔力を注いでいたけど、今回は雑魚を蹴散らすだけだから、抑えて見るか)

直哉は魔力を解き放った。

「エクスプロージョン! ゼクス!」


周囲の地形が変わらない程度の爆発が、敵が密集しているところの六ヶ所で巻き起こった。

雑魚敵は、直撃を喰らったものや、爆心地に近くにいたものは、キラメキながら消滅した。

「ふむ。今までにないくらいの小さな爆発だったな。意図したものか?」

「そうだね。あれを相手に、全力を出しても仕方ないからね」

ラリーナの質問に答えた直哉は、周囲を警戒していた。

魔物達は、連続で起きた爆発に恐れおののき、逃げ出していた。

「ふむ。これで、大丈夫かな?」

直哉はそう言ってラリーナ達に、

「今度はしっかりしてね」

と言って、先に進んだ。



「ご主人様」

マーリカからの連絡に、

「着いた?」

「はい。リリさんと周囲の安全を確認いたしました。例のスキルを使っても問題ありません。それと、そちらの方で爆発があったようですが、大丈夫ですか?」

マーリカの指摘に、

「拠点を構築しても大丈夫なら、建てちゃうね。少し離れてくれる? それと、爆発は俺が放ったもので、敵を蹴散らすのに使ったものだよ」

「予定地から離れるように、リリさんにお伝えします。敵襲ですか? お怪我はありませんか?」

直哉は、スキルを起動しながら、

「それじゃぁ、建てます。怪我は無いよ。あってもスキルで治っちゃうし。あっ、シロ。スキルに集中するから、警戒を頼むね」

「わん!」

そう言って、スキルに集中した。


(さっきの爆発魔法の威力を抑えたおかげで、まだMPに余力があるな。要塞を建てても大丈夫そうだ)

直哉のスキルが終了すると、リリ達の前に大きな防衛拠点が出来上がった。

「わーい! 凄いの! 流石なの!」

リリは大はしゃぎで、拠点の中に入っていった。

「ご主人様。先に中に入って準備をしています」

「よろしく頼む」

直哉はマーリカにそう伝えると、みんなを見て、

「みんな、拠点は今造ったから、そこまで急ぐよ?」

「了解!」

みんなは拠点までの道を急いだ。

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