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第百一話 ソラティア地方、第二位の都市アルカティア

直哉は朝の鍛練を終えて、汗を流していた。


「ふぅ。今朝は予想以上に動けたな。やっぱり上空から戦えるのは良いな」

昨日から悪戦苦闘していた、風の魔法での飛行を、初歩段階の魔法に乗る所までは習得することが出来た。

(だけど、別の問題が出てきたな。着地をどうするかという問題がな。さっきは下にマットを出して事なきを得たけど、実戦で出している暇はないだろうし、何とかしないといけないな)


と、直哉が反省点について考えていると、

「とりゃ!」

と、言いながら、リリがクルクルと回転しながら降りてきた。


着地の瞬間、地面に小さな風が巻き起こり、フワリと降り立った。


「なるほど。降りる時も風を使うのか」

そんな呟きの直哉に、

「何の事なの?」

「リリは、風の魔法で飛んだとき、着地はどうするのか見てみたのだよ」

リリは首をかしげながら、

「良くわからないの」


直哉は笑いながら、

「そうだろうと思ったから、見ていたんだよ」

「むー」

「きっと、リリは考えるより先に身体が動いているのだろう。だから、人に教えるのが難しいのだよ」

リリは顔を直哉のお腹にすり寄せながら、

「良くわからないの」

そう言って、甘えていた。



「リリは、私と同じで戦闘特化型だからな。考えるより先に直感で殴ってしまうからな」

そこへ、鍛練を終わらせたラリーナがやってきていた。

「むー」

リリは頬を膨らませて抗議していたが、ラリーナは取り合わなかった。

「まぁ、色々試してみるか」

直哉は鍛練メニューに飛行訓練を追加した。




朝食が終わると、マーリカの忍達がソラティア中へ散っていった。

「これで、少しは状況がわかると思うのだけど、上手く行ってくれるかな」

直哉は心配していた。


その日の夜、最終防衛拠点とアルカティアの中間にある休憩所で、夜営の準備をしていると、マーリカがやって来た。

「何かわかった?」

直哉の質問に、

「まずは、アルカティア方面に行った者からですが、特に不穏な動きは無いとの事」

「なるほど」

「次に、最終防衛拠点ですが、リカード様達が到着したと報告がありました。現在は、リカード様を中心として、拠点の再構築をしています」

「なるほど」

「以上になります」

「良くわかったよ。アルカティアの情報は随時受け取ってくれる?」

「動きが無くてもですか?」

「そう、さらに毎回違う言い回しにして貰ってくれるかな?」

「よくはわかりませんが、そう伝えておきます」

「よろしく。ソラティアへ向かった忍からの連絡は?」

「まだ、確認がとれていないので、移動中かと」

「そうか。わかった。ありがとう」


直哉はマーリカの肩を叩いて労った。


(今のところは、俺が考えている通りに進んでいる。このまま、思い通りになるなんて事は無いだろうから、気を引き締めておかないといけないな)


直哉は両頬を叩いて気合いを入れた。


次の日の朝、朝食を取りながら、パルジャンと話していた。

「本日中にアルカティアへ到着する予定です。問題はありませんか?」

「昨晩の報告では、まだ、異常は無いようです」

「そうですか。このまま、何も起こらなければ良いのですが」

パルジャンは心配そうに話した。

「そうですね」

直哉は本当にそう願っていたが、その願いはその後の出来事により、叶わぬ願いとなった。


それは、アルカティアが見え始めた頃、唐突に起こった。

上空が眩い光に包まれ、そこに一人の男が現れた。


「ソラティアに住む全ての民よ! 我々ソラティアに危機が訪れておる。その危機を回避するために、隣国であるバルグを打倒する! 繰り返す! これは、祖国を守るための闘いである!」

直哉達は黙って聞いていた。

「これより、各国に徴兵を開始する! 共に祖国を護るため、立ち上がってほしい! この演説をもって古都バルグへの宣戦を布告するものとする!」

少し間を開けた後、

「我等が祖国のために!」


そうして光が収まっていった。




「大変な事になりましたな。ソラティアに危機が訪れているみたいですな」

レオンハルトはパルジャンと話し出した。

「そうだな。このまま、アルカティアへ行っても良いものかの?」

二人と近衛騎士達がざわめき始めた。

「我々も、祖国のために戦ったほうが良いのではないのか?」

「そうだ! 祖国のために!」

「ソラティア国内で争っている場合ではない!」


パルジャンはレオンハルトと共に、直哉の所に来て、

「勇者様。大変な事になりました。我々も祖国のために闘いたいのですが、良いですか?」

直哉は、

「もちろんですよ。ですが、祖国のためにと言いますが、祖国の何のためですか?」

「もちろん、危機回避です」

「その危機とは何ですか?」

直哉の質問に、

「それは。バルグからの侵略ですか?」

疑問系で答えた。

「先程の話だと、侵略するのはソラティアの方ですね。もちろん、攻められたから攻め返すという事もありえますが、その事を言わないのは不自然ですよ」

「確かに」

パルジャン達は、反論できなくなった。

「ですが、祖国のために闘うのは止めませんし、止める権利もありません。ただ、どの様な危機を回避するために闘うのか、その相手が何故バルグなのか? それがわかってからでも、良いのではありませんか?」

パルジャン達は、近衛騎士を含めて直哉の話に耳を傾けていた。



「そうですな。では、我々はパルジャティアへ戻り情報を収集したいと思います」

「アルカティアの方へは?」

「申し訳ないが、勇者様達だけで行ってほしい」

「わかりました。道中お気を付けて」

パルジャン達は、慌てて帰って行った。




パルジャン達を見送った後、

「よろしかったのですか?」

フィリアの問い掛けに、

「仕方がないよ。戦いを止めるために、パルジャンさん達と戦うのは、変な気がするよ。俺達の敵はエルムンドだからね」

「今回の演説も、エルムンドが関わっているとお考えですか?」


「まぁね。やり方が狡猾過ぎるからね。ソラティアにその様な頭脳が合ったなら、ここまで、国力を落とすことは無かったと思うよ」



そう話していると、マーリカがやって来た。

「御主人様。ソラティアに向かっていた忍からの連絡です」

「どうだった?」

「ソラティアは大規模な軍を作り、それを二つに分けて進軍中」

「何処へ向かっているの?」

「アルカティア方面とバルグ方面です」


「不味いな。バルグへ直接向かうのは止めないと」

直哉は、アルカティアとバルグのどちらを取るか考えていたが、

「まずは、アルカティアの動きを見よう。パルジャティアの様に迷走していたら、手の差しのべようがないから」

直哉がその判断を下したとき、アルカティアから使者がやって来た。



「勇者様御一同ですか? パルジャティアの者が同行していると聞いたのですが?」

「はじめまして。俺は勇者直哉です。パルジャティアの方は、祖国を護るためにパルジャティアへ戻りました」

使者は大変驚いて、

「そうなると、開放軍というのは消滅ですか?」

「いいえ。開放軍自体は俺達が中心なので、消滅はしていません」


「そうでしたか。それは、とても良かったです」

「何があったのですか?」


「ソラティアから徴兵令が出たのですが、私達アルカティアにはそれに答えられないと返答したのですが、その場合は反乱と見なし制圧すると言われたのです。詳しい話は、城で女王であるジャンヌ様がお話しますので、お城までご一緒ください」


「わかりました。それで大変申し訳ないのですが、貴方のお名前を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」

「これは、失礼いたしました。わたくしは、アルカティア地方の防衛担当のルカと申します」

「防衛担当のルカさんですね? よろしくお願いします」

直哉に続いて嫁達も自己紹介をした。



アルカティアに到着すると、驚いたことに殆どの住人が女性で、男性の姿を見ることが出来なかった。

「女性が多いですね?」

直哉はルカに直接聞いてみると、

「そうですね。この国の九十五パーセントは女性です。残りの五パーセントも数年後には属国に送り出されます」

「つまり、アルカティアは女性の国ということですか?」

「そうなります」


ルカは毅然と言った。


「俺が入っても問題ないですか?」

「もちろんです」

直哉は居心地の悪さを覚えながらも、ルカの案内でアルカティアの城へ到着した。




◆アルカティア城


大きさは城というより砦くらいであった。

直哉は興味深く観察していると、ルカから声がかかった。

「やはり、小さいと感じますか?」

直哉はさらに回りを見て、

「小さいというか、機能的だと思います」

と、答えると、ルカは驚いた表情を浮かべ、

「何故、そう思うのですか?」

と聞いてきた。



「まずは、死角の無い通路と、一方向の警戒を強めている兵士ですかね」

直哉が思った事を言うと、

「なかなか、そこに目が行く人はいませんです」

「扉の数は少ないし、装飾品も小さい。それでいて、通路はこれだけ響くのに、部屋からの音は聞こえないから、中々の造りです」

直哉は感心していた。



直哉達が謁見の間に到着すると、宝塚の男性役の様な、格好よく綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。

「良く来てくださいました。私はアルカティア地方の女王、ジャンヌです」

「はじめまして。俺は直哉、勇者と呼ばれています」

直哉の挨拶に続き、リリ達も挨拶をした。

続いてルカが挨拶をして、最後に杖を持った大柄な女性が挨拶をしてきた。

「私は、アルカティア地方の魔術師連合の長で、レベッカと申します」


挨拶が終わると、ジャンヌが聞いてきた。

「早速ですが、開放軍とは何ですか?」

直哉は、開放軍を組織するに至った経緯を説明した。


「何と!」

「その様な事があったのですか?」

「俄には、信じられないですね」

「ですが、筋は通っています」

城側の三人は直哉の話を聞いて、その内容を吟味していた。


そこへ、マーリカが直哉に言った。

「御主人様、忍からの緊急連絡です」

「どうしたの?」

「ソラティアからこちらへ向かっていた一軍が加速しました。この速度だと、明日の夜にはアルカティアへ到着する可能性が出てきました」

「そうか。わかった。忍には、無理をしないように伝えてくれる? それと、進路上の近くの忍に監視を追加するように伝えてくれる? リカード達にも連絡を!」

「かしこまりました」



直哉達の会話に、

「今のはどういう事ですか?」

説明を求めた。

直哉はマーリカからの連絡をそのまま伝え、ルカは確認するために謁見の間を出て行った。

「これは、大変困りました。ルカの報告待ちですが、国の一大事です。レベッカは属国への対応を!」

ジャンヌはルカとレベッカに指示を出した後、直哉に問いかけた。

「さて、直哉さんはどう対応するのですか?」

直哉は、

「そうですね。まずはアルカティアとしてどうするかを決めてください。それによって戦う場所を変えなくていけません」

「どうするというのは、ソラティアとして手を組むのかどうかという事ですよね?」

「そうです」

「わかりました。ルカ達の報告を待って決めたいと思います。直哉さん達は控え室の方でおくつろぎください」



直哉は下がり、嫁達と共に控え室へやってくると、

「リリ、マーリカを連れて、上空からの偵察に出てくれる?」

「わかったの!」

「敵の編成を見てくれば良いのですね?」

「頼む」

直哉の言葉と共に、リリはマーリカを乗せて飛んでいった。



「敵の編成によっては、リカード達を待たずして突撃します」

直哉の言葉に、

「腕が鳴るな!」

「任せるのじゃ!」

「お任せください」

残りの三人は意気込んだ。



「お待たせしました。謁見の間までご案内いたします」

ルカが直哉達を呼びに来た。

「ありがとうございます」

直哉は、ルカに礼を言ってその後をついていった。


謁見の間へ到着すると、ジャンヌ達は慌ただしく動いていた。

「あぁ、直哉さん。貴方の話していた事は本当でした」

大けがをした女性達を必死に治療している姿が見えた。

「フィリア! 怪我人の治療を!」

「心得ました」

フィリアが駆け寄ると息を呑んだ。

「これは!?」

フィリアが見た女性は、左腕が吹き飛び、その左腕から魔物の触手が伸びて、残りの身体を飲み込もうとしていた。


フィリアが治療に入る前に、既に左足に触手を伸ばされていたため、

「させません!」

フィリアは魔力を練り始め、

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共に邪悪な力を祓いたまえ!」

さらに、左腕に寄生していた魔物を打ち破るため、

「ブレイクウィケンネス!」

破邪魔法を放ち、左腕に寄生していた魔物を消滅させた。

その後、左腕があった部分と、侵食されて膝下まで欠損した左足の治療に入った。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力と共にこの者を癒したまえ!」

欠損部分は治らないとしても、命を救うため、

「フルリカバリー!」

回復魔法を行使した。

フィリアの治療のおかげで一命をとりとめた女性は、詳しい話を始めた。


「私と姉は、ソラティアの内部を偵察していたのですが、ソラティアの民が次々に半魔物となり、我を失っていくのを見て、これをジャンヌ様にお伝えするためにソラティアを脱出してきました。ですが、その時、民を魔物に変えていた男に見つかり、姉はその場で半魔物にされ、私にもその魔物を植え付けられました。私は腕を捨てる事で、魔物から逃れ、ここまで必死に逃げてきました」

女性は涙ながらに語っていた。

「直哉様」

フィリアの眼差しを受け、

「いや、お姉さんはもう無理でしょう。この方の目に触れる前に浄化するほうが良いですね」

女性に聞こえないようにフィリアに語った。


「これで、私たちの進むべき道は決まりました。民をこの娘と同じ目にあわせるわけには参りません。徹底抗戦に入ります。もしよろしければ、直哉さんのお力をお借りしたいのですが、良いですか?」

ジャンヌの訴えに、

「もちろんです。俺達の力で良ければ、喜んでお貸ししますよ」

そう言って、今後を話し合うことにした。

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