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第百話 アルカティアへ向けて

直哉の屋敷にパルジャン達がやってきた。


「お待たせしました。アルカティアへ行く準備が出来ました」

「ありがとうございます」

直哉は礼を言ってから、仲間を見て、

「リカード、この場を任せます。パルジャティアとアルカティアの間に拠点を構築しますので、そこへ、開放軍を集合させておいてください。後、内装の出来る職人を連れてきてください」

「内装の?」

「はい。造った後で、色々と追加注文が出るはずですので、その対応をお願いします」

「そういうことか。わかった」


「パルジャンさん。それでは行きましょう」

直哉はリリ、フィリア、ラリーナ、エリザ、マーリカを連れて第二位のアルカティアへ向けて出発した。

城からは、パルジャンとレオンハルト、そして近衛騎士達が着いて来ていた。

第二位のアルカティアまでは四日の道のりであった。

途中、大小さまざまな湖があり、要所要所には休憩所が設けられていたが、現在は使われる事無く、ひっそりとしていた。


「さっくら、さっくら! リリのさっくら!」

リリはサクラを展開しながらスキップしていた。サクラとエンジェルフェザーは、管理者の塔で手に入れたゴーレム岩を使用して完全に修復させていた。

「さすが直哉様です」

しかも、上位の魔法石を造れるようになり、新しく組み込んだ。

フィリアのエンジェルフェザーも同じく修理と補修を完了させていた。

「これが、リリ達の盾か。属性付与もあるから、なかなか使いやすいな」

同じ素材でラリーナには鋭く尖った針状の武器を造り、身体の周囲に展開させて防御というよりは、補助武器のような感じで使用するようであった。

「これで、敵の攻撃を気にせず攻撃に専念できるのじゃ」

エリザには、手のひらサイズの盾を造り、彼女の周囲に展開することで、狙撃中の防御を自動的に行うようにした。

「要望通りとはいえ、なかなか難しいですね」

マーリカには、ブロック状の塊を用意して、それぞれをくっ付ける事でどのような形にもなるものを造り上げた。


「舞い散れ! サクラ!」

「戒めよ! エンジェルフェザー!」

リリとフィリアは直ぐに全属性の使い方を覚えて、鍛練を欠かさなかった。

「貫け! シルバーニードル!」

ラリーナは回りに展開させるだけなので何の問題も無く、エリザの盾も、弓での攻撃を邪魔しないように造られていたため直ぐに慣れていった。

マーリカのは、基本のブロックは属性を付与しておらず、手元の腕輪にある八種類の属性石を操作することで各属性が付与される仕組みを付けた。その結果操作そのものは簡易であったが、使用方法が難しく、鍛練でじっくりとその使い方を研究していった。

さらに、防具にはリリと同じく、魔法を少しの間蓄えることの出来る物に変更した。

そして、各属性石を造れるようになったので、全員の足装備に風属性の石を追加した。

これにより、理論的にはリリと同じように風魔法を利用して空を飛ぶことが出来るようになった。

「よし。リリほど速くは飛べないが、上空からの援護が可能になったな」


直哉は上空からの攻撃をものにするため、鍛練に励んでいた。

「この速度では、戦闘では使いにくいな」

ラリーナも使ってはいたが、速度の面で使いにくく、直ぐに使うのを止めていた。

「そうだよね。魔法石だから、そこまでの力が出ないのだよね。俺の爆裂の指輪のように、魔力を込めれば込めるほど威力を増せるものを造るには、武具作成だけでは無理っぽいな」

直哉はスキルを見ながら説明した。

「それが造れれば、リリと同じように飛びまわれる様になる」

「わらわは便利になったぞ。今までは、その場所にリフトを設置していたのじゃが、その手間が省け、しかも射撃場所を固定する必要がなくなったのは、滅茶苦茶大きいのじゃ」

エリザは興奮しながら風の魔法を乗りこなそうと悪戦苦闘していた。



その様子を見ていたパルジャンがやってきて、直哉に話しかけた。

「しかし、勇者様は本当に鍛冶職人だったのですね」

直哉は手を止めて、パルジャンの方を見て、

「はい。渡した装備に何か問題でもありましたか?」

パルジャンは慌てて手を横に振って、

「いえいえ、造って頂いた武具は近衛騎士達からは苦情がありません。そうだな? レオンハルト」

名前を呼ばれ、近衛騎士達と新しい武具を試していたレオンハルトは、

「何の問題もありません。ただ、使用する我々が自分が強くなったという錯覚に陥ってしまうことが怖いです」

レオンハルトの言葉に、

「それは自分たちで何とかしなさい」

パルジャンはそう答えた。


「しかし、本当に無料でよろしいのですか? 結構な額になると思うですが?」

パルジャンは冷や汗をかきながら聞いてきた。

「はい。今回は初回ということで、俺の武具をお試しとします。気に入っていただけたのであれば、他にも商品がありますので買いに来てください」

直哉の言葉に、

「なるほど。先に心を掴む戦法ですね」

「そういうことです」

パルジャンは笑いながら、

「そういう事でしたら、ありがたく頂きます。ありがとうございました」

礼を言った。




二日ほど進んだ所に、直哉は大きな拠点を構築した。

「ここが、最終拠点です。内装などは後続組みに任せましょう」

直哉はそう言って、拠点内にある設備を点検していた。

「地下鍛練場に、住居スペース。会議室など。これだけあればよいのかな?」

一緒に見ていたレオンハルトは、

「これだけの建物を建てるには、想像以上のMPを使用するのではないのですか?」

レオンハルトの質問に、

「そうですね、総合すると結構なMPになります。ですが、段階を踏んで発動させれば使用MPも抑えられるので、何とかなりますよ」

直哉が答えた。

「後は、使用してみて必要な施設は追加してくれるのだろう?」

パルジャンの質問に、

「そうですね、ものによっては一気に出来ないかもしれませんが、造り出しますよ」


「この力は、確かに欲しくなりますね」

「確かに。彼が居るだけで、都市を一気に繁栄させることが出来るな」

パルジャン達が話していると、

「レオンハルト様。怪しい集団が接触してまいりました」

近衛騎士達の後についていくと、そこには忍び装束の者が十名程待機していた。


「勇者様。長の命により、参上仕りました。今後は勇者様の手足となって働く所存であります。何なりとご用立てください」

そう言って、平伏した。

「まずは、顔を上げてください。俺にその様な事は不要ですから」

直哉の言葉を待って、全員顔を上げた。

「そして、皆さんにはソラティア地方に点在する集落に、パルジャン様からの文を届けて欲しい。そして、俺達の元へ移住したい者達を、パルジャティアの傍にある、新しい街へ案内して欲しい。そして、解放軍に加わりたい者を連れてきてほしい」

「御意」

直哉はマーリカに視線を移して、

「マーリカ来てくれ」

マーリカがやってくると、


「姫様!」

「ご無事で!」

「お美しくなって!」

「皆さん、お気遣い感謝します。ですが、今はご主人様のお言葉の最中ですよ?」

マーリカに怒られ、全員が直哉に向けて頭を下げた。

「それで、今回の任務は、刻一刻と状況が変化していく可能性が高いので、このマーリカと連絡を取り合ってもらいます」

マーリカは、忍び達に通信忍術用のアイテムを渡した。

「これを持っていれば、私からの声が心に届きます。他のものに奪われても、効果が発動しないようになっていますので、落としても安心です」

「姫様から頂いた物を落とすような真似はいたしません」

マーリカの周りに忍たちが集まっていたため、

「マーリカ、後は任せます。それと、忍びの誰かにアルカティアとソラティアへ偵察にいって欲しいのだけど」

「わかりました。手配しておきます」

「明日からで、構わないから。今日は皆でゆっくりとしていってください」

直哉はそう言って、その場を離れた。




◆最終拠点 その夜


直哉は部屋の風呂に入りながら、クエストを確認していた。


 ソラティア共和国・古都バルグの大戦

『ソラティア共和国と古都バルグの、国を賭けた戦いが始まります。プレイヤーの方々の貢献によって戦況は大きく変化します。皆様のご参加をお待ちしております』


(この、状況の変化が肝だよな。だけど、この時点でまだ宣戦が布告されてないという事は、国内をまとめてから布告するのかな? それとも、俺には思いつかない方法で攻めるとか?)

直哉が難しい顔をしていると、嫁達が心配して風呂へ押しかけてきた。

「お兄ちゃん大丈夫?」

「折角のお風呂なのですから、何も考えず、ゆっくりと入りましょうよ」

「眉間にしわが寄りすぎてるぞ?」

三人に微笑みながら、

「そうだね。どうしても色々と考えてしまうよ」

「その、特別な力でしたっけ? 今回の戦いを予言しているのは?」

フィリアの質問に、

「そう。これだけの情報でみながここまで動いてしまっている。これで良いのかな? って考えちゃって」

「間違えかも知れない、と言うことか?」

ラリーナの質問に、

「それは、考えた事は無かったよ」

「では、何が悩みなのだ?」

直哉は答えを導き出せないまま、

「エルムンドがどのようにして、バルグを攻めるのかな? と思ってね」

「エルムンドが? ソラティアが、ではなくて?」

と、二人がヒートアップしてきたので、

「ほらほらラリーナ、何のために風呂へ乱入したのか解らないでしょ? そういう話はお風呂を出てからにしましょう」

「そうなの! お風呂は楽しく入るの!」

と、リリが直哉にくっ付いてきた。

「そうだね。悪かったよ。この話はお風呂の後、他の皆を呼んで話そう」

そう言って、夫婦水入らずの時間を過ごした。




お風呂の後、直哉の呼びかけにエリザとレオンハルトが同席した。

マーリカは忍びの者と過ごしており、パルジャンは疲れが溜まり眠ってしまっていた。

「さて、直哉殿。この様な時にどのようなご用件かな?」

レオンハルトは警戒しながら聞いてきた。

「レオンハルトは、ソラティアがバルグへ攻め込むとしたら、どの様にして攻め込むと思いますか?」

「国の威信を賭けてでしたっけ?」

「その様な感じです」

レオンハルトは少し考えてから、

「やはり、バルグへ対して宣戦を布告して、それから堂々と攻め込むと思います」

直哉はレオンハルトの言葉を聞いて、

「そうなりますよね」


「ですが、それがどうかしたのですか?」

レオンハルトの問いに、

「いえ、俺のところにこの情報が来てから、随分と立ちますが、未だに宣戦が布告されないのはどういうことなのかと思いまして」

「そういえば、そうですね」

レオンハルトも悩みこんだ。

「直哉は既にソラティアはエルムンドの手に落ちたと考えているのか?」

ラリーナの問いに、

「うん。全員がキメラになった、という事は無いだろうけど、王を含めて操れる体制を整えているのかな? と考えてる」

「そ、そのような恐ろしいことを」

エリザが愕然とした。

「いやいや、見て来たわけではないし、実際は違うかもしれない。俺の考えなだけだよ」

「しかし、おぬしの考えは、よく当たるからな」

エリザの言葉にみなが言葉を飲み込んだ。


「では、直哉殿の考えが当たっているとして、次はどのような手に出ると思いますか?」

レオンハルトの問いに、

「まずは、国内へ向けて臨時徴兵を行います。扱いやすいものはそのまま、面倒であればキメラにしてしまい、全てを自分の手駒にしてしまう。そうすれば、余計なことに気を取られないし、忠実な手駒の出来上がりだよ」

「そ、そのような事・・・。パルジャティアの塔での戦い方を見れば、それも納得ですね」

レオンハルトは頷いた。

「それなら、なおさらアルカティアへ急がないと、危険ですね」

「はい。明日には忍び達を使って、情報収集をしますので、移動しながら判断する形になります」

直哉の考えに、

「わかりました。明日はその様に行動しましょう」

レオンハルトは同意して去って行った。



直哉は残っていたエリザに声をかけた。

「エリザ、君にはもう一つ伝えておきたいことがある」

「何じゃ?」

「エルムンドの事だけど、俺の考えを聞いて欲しい」

エリザは直哉の話し興味を示して、

「わかったのじゃ」

「俺の考えでは、エルムンドは自分では制御しきれないほどの大きな力を与えられ、現在に至ってしまったのだと思う」

エリザは、直哉の言葉に静かに耳を傾けていた。

「だから、エルムンドを助け・・」

「それは、ならんのじゃ!」

エリザは直哉の言葉をさえぎった。


「直哉殿。それは、ならんのじゃ。我が父というだけで、制御しきれない力があろうがなかろうが、人を傷つけ利用してきた者を助けていては、本末転倒であるぞ?」

直哉はエリザの言葉に耳を傾けた。

「しかし、お主の心遣いは感謝するぞ。じゃが、ケジメはちゃんと付けないといかんのじゃ」

エリザは声を震わせながら言い放った。

「そっか。ごめん余計なことを言ったね。あやまるよ」

直哉は、エリザに頭を下げて部屋を出て行った。

エリザは、

「誤るのはわらわの方じゃ。要らぬ手間をかけさせてしまってすまぬ」

誰にも聞こえない声で謝っていた。

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