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第九十八話 ソラティアの管理者

直哉は作戦の段取りを、さらにあれこれ細かく決めようとしていた時、業を煮やしたリカードは立ち上がり、

「直哉! あれこれ考えすぎだ! 嫁達も少しは直哉を諌めなさい」

そう言って、闘気を練りながらガーゴイルに向けて走り出した。

「キィー!」

侵入者を見つけて飛び上がろうとしたところへ、

「絶空!」

「ギェー」

一体は台座から数センチ飛び上がったところを、容赦なく切り裂かれた。

もう一体は、無事に飛び上がり、侵入者を排除するために行動を起こそうとしていた。


「・・・・・俺って、考えすぎ?」

「そうですな。今回はリカード様の言っている方が正しいですな」

直哉の呟きにゴンゾーが頷いた。

「さて、エリザさん。上空に上がったガーゴイルに、飛び道具をお願いしますぞ。他の者は足止めを!」

ゴンゾーはそう言って、リカードの後を追いかけた。


「直哉様! きっと、お母様の言葉を実践しようとなさったのですよね。申し訳ありません。後で、ゆっくりと話し合いましょう。ですが今は、リカード様の援護をするのが先決です!」

リリは、魔法を唱えようとしていたが、リカードが突撃してしまいその期を逃していた。

「リリは? 何をすればよいの?」

「直哉! リカード達は既に戦闘に入っているぞ!」

嫁達の声に、直哉は深くため息を吐いた。

「ふぅー。よし! リカード達の援護をするぞ!」

直哉の心から迷いが消えた。


「リリはリカード達が逃したガーゴイルへ突撃! フィリアは、光の加護を! ラリーナはリカード達の援護を! エリザはリリと連携してガーゴイルの撃破、最悪でも地面へ叩き落して! マーリカとアンナさんはフィリアの護衛と周囲の警戒を!」

「わかったの!」

「了解です!」

それぞれが直哉の指示を受け、それぞれの行動を始めた。




「大気に宿る、風の精霊達よ! 我が魔力に呼応し敵を絶て!」

リリの周囲に風の力が巻き起こる。

「スライスエア!」

風の力はリリの足元で炸裂して、リリはその力に飛び乗った。

「ちぇっすっとー」

リリはエリザの射線を確保しながら、上空のガーゴイルへ踊りかかっていった。


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏しその加護を仲間に与えたまえ!」

フィ英愛の周囲に光の力が巻き起こり、フィリアが金色に輝き始めた。

「そ、その力は? まさか、聖属性?」

直哉の呟きを聞きながら、

「ディバインプロテクション!」

今までの魔法とは比べ物にならない加護の力と、その範囲で、直哉達はもちろん、上空のリリや前線のリカード達にも加護を届けていた。

「すごいな」


「行って来る!」

ラリーナは長巻を持って走り出した。


「流石リリちゃんじゃの。敵に当てやすいのじゃ」

エリザはそう言って、矢を連射していた。


「皆さん。一段と強力になりましたね。私も頑張らないと」

アンナは、武器を構えなおしフィリアの護衛にはいった。


「土遁! 透土眼!」

マーリカはもしものために、地下の状況を探っていた。




リカードに叩き落されたガーゴールは、

「ギョェー!」

一際大きな叫び声を上げた。

「叫んでも、終わりですぞ!」

そのガーゴイルへ風となったゴンゾーが攻撃を開始した。

「第二奥義! 突刺牙崩!」

物凄い速度で、ガーゴイルの右半身を吹き飛ばした。

そこへ、更に遅れてきたラリーナが攻撃を開始していた。

「リズファー流、瞬迅殺!」

ガーゴイルは回避をする暇を与えられず、左半身も吹き飛ばされ、キラメキながら消滅した。


上空から攻撃しようとしていたガーゴイルは、リリとエリザの連携攻撃により、何も出来ずにキラメキながら消滅していた。



リリが飛んで行って直ぐに、直哉は周囲に異変が起こった事に気がついた。

「何か、変だな?」

その呟きと同時に、フィリアの魔法が直哉を包み込んだ。

改めて周囲に気を配ると、湖に何か居ることに気がついた。

「湖に何かいる!」



直哉の警告に、マーリカとリンダが対応した。

「女の人?」

リンダの声に直哉が湖を見ると、裸の女が上半身を出して微笑を浮かべていた。

「何だ?」

直哉は初めのうちは何も感じなかったが、裸の女が集まってくると、頭の中がモヤモヤし始め、何も考えられなくなっていた。


「ご主人様!」

「直哉殿!」

湖に向かって歩き出した直哉を、マーリカとアンナが両脇から押さえ込んで止めようとしていたが、その二人ごと直哉は裸の女に向かって歩いて行った。

「人の夫に色目を使っているんじゃないわよ!」

そこへ、フィリアの魔法が飛んできた。

「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力に呼応し穢れを祓い給え!」

「ピュアリフィケーション!」

直哉の頭を支配していた裸の女からの精神攻撃は打ち消された。


「天より来たりし光の精霊よ、我が魔力にひれ伏し邪悪なる者に裁きの鉄槌を!」

さらに、裸の女達に向かって光のエネルギーが弾き出された。

「エンジェルフィスト!」

無数のエネルギー弾をまともに食らった裸の女が正体を現した。

下半身の部分はタコで、その頭の部分に裸の女性が生えている様な生き物であった。

「あ、あれは、スキュラ?」

直哉はゲームでの知識を思い出していた。

「フィリア、ありがとう。あの、精神攻撃は厄介だな。マーリカ、アンナさんお願いします」

直哉は気をしっかりと持ちながら後方へ下がった。


「お任せください!」

マーリカは魔力を溜めて、忍術を発動させた。

「土遁! 土石波壁!」

湖の底から土砂が吹き上がり、地面が広がっていった。

「キー! キー!」

土の上で泳げなくなったスキュラは、頭に響く高音で叫びながらジタバタしていた。

「今だ!」

アンナはジタバタしているスキュラへ突撃していった。


何所を攻撃すればよいのか分からなかったので、とりあえず人型の部分を切り刻んでいった。

「やぁ! はぁ!」

剣が振るわれるたびに、人型の部分がバラバラになっていった。

「ここではないのですか?」

アンナは、動きが衰えないスキュラを見て、他の場所を攻撃する事にした。

「それなら、つなぎ目!」

人とタコの間の部分に剣を突き刺すと、

「キー!」

甲高い声がより大きくなった。

「ここですか!」

アンナは重点的につなぎ目に剣を突き刺すと、スキュラの動きがどんどん遅くなっていった。

「これで、トドメです!」

最後は勢いよく突き刺すと、剣は口の方まで貫いた。

スキュラはピクピクと痙攣した後、キラメキながら消滅した。


全てのスキュラを倒すと、ドロップアイテムのスキュラの足が数本と、スキュラの声帯を手に入った。

「これは、たこ足? 声帯は? っと」

直哉がメガネで確認すると、

【スキュラの足】食用。タコの足。

【スキュラの声帯】強力な超音波を出すことが出来る。受け取る事が出来れば遠く離れたところでも受け取る事が出来る。

「ふむふむ。面白そうだ」

直哉はバルグフルで見せて貰った、アイテムを思い出していた。



アイテムの回収が終わると、みんなが帰ってきた。

「終わったの!」

「ほら、ドロップアイテムだ!」

そういって、爪と牙を渡してきた。

直哉はそれを受け取ると、

「リカード、ありがとう! おかげで楽に倒せたし、他に気を回せたよ。助かった」

直哉はリカードに頭を下げた。


「いや。しかしお前らしくなかったな。一体どうしたんだ?」

リカードの質問に、

「数日眠っていた時があったと思うのだけど、その時に夢で色々言われたのだよ」

そんな直哉に、

「一体誰に?」

「始めは両親や向こうの世界の人たちから、お前はいらない子だと。存在価値の無い人間だと、その様な感じの事を言われ続けていた。目を瞑り耳を塞いでいるといつの間にかこっちの世界に居て、安心したのだけど。初めのうちはやはりみんなに用無しと言われ続けて、俺がもっと指示出来ていればこんな事言われないのかな? って思った時に、世界が一気に光に包まれて気が付いたら目を覚ましたんだ」


リカードは腕を組みながら話を聞いていて、

「恐らく、その光が包み込んだというのは、リリちゃんが魔族を倒したからだと思う。しかし、寝かし続けてしかも精神を削っていくとは、恐ろしい魔族だったのだな」

リカードの推測に、

「それなら、あの言葉は?」

「直哉、お前が一番気にしている事なのだろう。この世界にとって必要なのか、と」

直哉は、

「そうだね。間違いないよ。俺はいつでも考えているよ」



「私は、必要だと思うけどな。確かに直哉が来てから色々なことが変化していった。だがな、コレだけは間違いない。お前がこの世界に飛ばされてこなければ、俺はあの蛇神の湖で魔族に負けて、バルグフルも汚染された水が押し寄せ、腐敗していただろう。だから、ありがとう。この世界に来てくれて。俺の友となってくれて!」

リカードは手を差し出した。

直哉はその手を掴みながら、

「俺の方こそ、ありがとう。俺のような、何所の誰とも分からない者を友と呼んでくれて。リカードのお陰で、どれだけこの世界で過ごしやすくなった事か。もし、リカードに声を掛けて貰えてなかったら、未だにリリと二人でひっそりとバルグフルの端っこに居た可能性がありますよ」

二人は固い握手をした。


「リリも! リリも! お兄ちゃんに出会えて良かったの! 一人は寂しいの。でも今は違うの! お兄ちゃんが居て、フィリアお姉ちゃんがいて、ラリーナお姉ちゃんが居る。さらに、リカードさんにゴンゾーさん。エリザお姉ちゃんにマーリカ。そしてアンナさん。みんなと居ると楽しいの!」

「そうですね。リリの言う通りです」

直哉はみんなに、

「ありがとう。俺は果報者だよ」

と言って、涙を流した。




直哉が落ち着いてから、塔の探索を開始した。

「入り口はガーゴイルを倒した時に開いたよ」

直哉は肯いて、

「中に何か感じる?」

みんなに聞くと、

「大きな魔力を感じます」

「近くに嫌な感じはしないの、でも奧からはもの凄く嫌な感じがするの」

と、返って来た。

直哉がリカードを見ると、行こうぜ! と訴えかけてきた。



「とりあえず、行きますか」

直哉の号令に、皆が続き塔の中へ入っていった。




◆古代王国の塔


中に入ると、入り口は大きなホールになっていて、天井は意外と低く、10メートルも無かった。ホールは奥行きが無く両端がそのまま塔の壁になっているようであった。窓が一切無いが、明かりは点されていて、明るさは充分であった。正面の中心部分にルグニアで見たダミーの扉の様な物がそびえ立っていた。

「あそこに何か写るのかな?」

慎重に近づくと、ダミーの扉が輝きだした。

低く重圧感のある声で、

「侵入者よ。名を述べよ」


「俺は直哉。勇者直哉」

直哉が大声で叫ぶと、他の仲間達は、慌てて戦闘準備を始めた。


「まさか、ちゃんとした返事が返ってくるとは、思わなかったぞ。そうか、直哉と言うのか」

そう言うと、正面に渋いおっさんが写った。

「こういう場合、綺麗なお姉さんが出てくるのが定石では無いのですか?」

直哉がボソッと言うと、嫁達から一斉に無言の圧力がかかった。

「ふはははは。面白い奴らが来たのぅ」

先程とは打って変わって、気のよいおっさんになった。


「さて、直哉とやら、ここへ何をしに来たのだ?」

「ここは古代王国の塔では無いのですか? それに貴方は、古代王国の生き残りですか?」

直哉の質問に、

「ふむ。ちゃんと、理解しているようだな。そうだ。ここは古代王国の時代に作られた塔だ。そして私は古代王国の時代に生きた男」

「と、言う事は、生霊ですか?」

「いや、お主はまだ会った事が無いのかな? 私はこのソラティア地方の管理者です」

直哉はその肩書きを聞いて、

「もし、管理者であるならば、今回の戦争を止めてもらえないでしょうか?」

「戦争?」

直哉は、そう遠くない時に起こるであろう戦いについて話した。


「しばらく、待つがよい」

そう言って管理者は姿を消した。

「直哉よ、管理者とは一体何者なのだ?」

リカードは直哉に疑問をぶつけた。

「管理者というのは、各地域ごとにその地域を繁栄させるために、色々と手を加えるシステムの一部だそうです」

「だそうですと言う事は、ゲームとやらの知識ではないのか?」

「はい。この世界に来てから知りました」

直哉の言葉に、

「そうか。オリジナルの物か。と、言う事はバルグフルにも居たのか?」

「俺は会った事は無いですが、ルグニアの管理者に各地域に一人は居ると聞きました」

リカードは直哉の言葉を聞いて、深く考え込んだ。



そこへ、おっさんが映し出された。

「待たせたな」

そういうと、深いため息を吐いた。

「システムから情報を貰ってきた。今回の戦いは、暴走した人間たちが起こす騒動である。各地方の管理者はこの戦いに手を貸す事は禁止する。戦いが終わってから、人々の再興に手を貸すように。との事だった」

「何だそれは!」

リカードは怒りを顕にした。

「自分の管理する地方の人々が傷つき倒れても良いと言うのか? そんなのは間違っている!」

直哉が横から口を挟んだ。

「管理者の介入が禁止されたのは、人々と同調して攻撃を加えないためですよね。管理者の攻撃はたとえ守るためであっても、地形を変えるほどのものだと思います。そんな物を乱打されては、普通の人はひとたまりもありません」

「そのとおりじゃ。そうならないように、現在の管理者は戦士や魔術師ではなく、商人や鍛冶職人等の、非戦闘員がなっていると聞く」

リカードはまだ怒っていたが、ゴンゾーとアンナに押さえ込まれていた。



直哉は情報をまとめ、

「それでは、俺達に手を貸してくれませんか?」

「ほぅ。何をして欲しいのだ?」

直哉の提案に耳を傾けた。

「俺たちは、今度の戦争のためではなく、ルグニアで起こった事件の犯人を倒すために動きます」

管理者は何かを見ながら、

「ふむ。確かエルムンドと呼ばれる男だったな」

「はい。その男と対峙させて貰えませんか?」

「倒してくれ、と言うわけではないのだな?」

直哉は頷いて、

「はい。それは俺たちで何とかします」


管理者はしばらく考えて、

「わかった。対峙する時間を作ろう」

直哉はその言葉を聞いて、

「ありがとうございます。それと、色々と聞きたいことがあるのですが、聞いても良いですか?」

「答えられる範囲で答えよう」

管理者と直哉の話は続いた。

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