第九十七話 新たな力を求めて
◆直哉の屋敷
直哉は約束通りリンダ達に話をした。
「と、いう訳で俺は元の場所に帰る為に旅をしています」
直哉の言葉に、
「その様な事、本当に出来るのですか?」
「直哉様なら出来ると信じております」
流石に、理解が追い付かず、
「少し考えさせてください」
そう言って、リンダ達は街へ帰って行った。
直哉達が鍛練をしていると、レオンハルトが近衛騎士達を連れてやって来た。
「以前お約束したお手合わせをお願いしたいのですが、今、大丈夫ですか?」
レオンハルトの要望に、
「もちろんです」
そう言って、迎え入れた。
直哉達の手合わせを見るため多くの人が集まってきた。
直哉は剣と盾を装備して、マリオットの発動の準備を済ませた。
レオンハルトの方も準備が出来て、開始位置に立っていた。
武器は、パッと見は、何の変てつもない両手持ち剣で、それを地面に突き刺して待っていた。
(普通の剣? 嫌な予感がする。ギミックと腕前の両方を見極めないとダメか)
直哉は気合いを入れて、開始位置に向かった。
リカードが審判として声を掛けた。
「両者、用意はよいか?」
二人が肯くのを見ると、
「それでは、はじめ!」
合図と共に、レオンハルトが突っ込んできた。
直哉はその動きをしっかりと捉え、
(やけに突っ込んでくるな。魔力を感じるが、両手持ち剣のリーチを生かして戦うのではないのか? それとも、何かあるのかな?)
振り下ろされる剣を数歩右へずれて躱し、さらに、盾で外側へ弾きレオンハルトの体勢を崩そうとしたが、あまりにも抵抗がなかったため、直哉は逆に虚をつかれた。
その間に、レオンハルトは剣を振り下ろし、そのまま腕を前から後ろに回して剣を上段から横へ構え直した。
(何だ? まったく抵抗がなかったぞ? それに、あの剣の動きは両手持ち剣では不可能だぞ?)
普通両手持ち剣を上から振り下ろした場合、そのまま地面にめり込むのハズであるが、レオンハルトの剣は地面を通過して、元の位置へ戻った。
レオンハルトは更に、胴をなぎ払うように剣を振るってきた。
直哉は盾を使い、受け止めようとしたが、盾をすり抜けてきた。
「まずい!」
直哉はすり抜けてきた剣を確認してから、身体を動かして躱そうとしたが、流石に間に合わず、腕に大きな傷を負った。
「くっ! この傷の付き方は! マリオネット!」
直哉は回復用に珠と繋げて回復を始めた。
(ラリーナの銀狼の力と似ているが、ダメージ自体は物理ダメージだな。恐らく、魔力を込めると物理を通過する技だと思う。確か朧月という技だった気がする、攻略法は魔力を抑え、物理攻撃に戻った時に弾く事が出来れば何とかなるのかな?)
「もらった!」
腕にダメージを与え、勝機と見たレオンハルトがさらに斬りかかってきた。
今度は上段から、怪我をした左腕を肩口から切り裂こうとしていた。
直哉は、レオンハルトの挙動を魔力の動きを含めて観察しながら、その剣を見極めた。
「ここだ! 縦斬り!」
直哉の鎧を通過し、レオンハルトが魔力を抑えた瞬間直哉は剣を振り上げた。
バキン!
金属同士が激しくぶつかる音とともに、レオンハルトの剣を直哉が受け止めた。
「おぉー!」
「まさか! レオンハルト様の剣が受け止められるとは!」
「触ることの出来ない剣なのに!」
近衛騎士達から、どよめきの声が上がった。
レオンハルトも驚きの表情を浮かべていた。直哉は魔力を込められる前に、剣を上に弾きレオンハルトの右側へ回り込んだ。
「まさか、縦斬りからの連続技?」
レオンハルトがそう思った時には、
「四連撃!」
直哉の攻撃が、レオンハルトの急所を捉えた。
「そこまで!」
リカードの声と共に、直哉は攻撃を止めた。
「ふぅ。強かった」
直哉は、斬られた左腕のダメージを確認するべく武装を解除すると、ほとんど傷が塞がっていた。
「何とか、回復し終わりそうだな」
直哉の腕を見たレオンハルトは、
「まさか、あの攻撃で無傷だとは思わなかった」
そう言って、剣を収めた。
「いえいえ、無傷では無いですよ。ようやく回復が終わった所です」
直哉の身体の輝きを見て、
「まさか、聖騎士の技リジェネかな?」
「はい。レオンハルトさんの剣術は朧月ですか?」
レオンハルトは驚いて、
「まさか、この技を知っているとはね。直哉殿の強さはその知識量と、最適な対処法ですかな?」
朧月:魔法剣士の奥義の一つで、魔力を込める事で実体を持たない剣にすることが出来る。ゲームでは防御無効の効果だった。
(今回は、説明文通りの効果で助かった。防御無効だったら負けていたな)
直哉は冷や汗をかいていた。
「そういえば、手合わせ中にマリオネットと叫んでいたが、どういう技なのだ?」
直哉は、剣や盾を取り出して、操作した。
「こういう風に、物を動かす能力ですね。後は、義手等の作成が出来ます」
「こ、これは!? これを使われたら、流石に厳しかったと思うぞ?」
レオンハルトの言葉に、
「いいえ。あの速さに対抗するには、あれが精一杯ですよ。一度弾いて距離を取るか、始めから出していられれば、もっとやれたのですがね」
直哉は、そう言って、マリオネットを操作した。
「なるほど、通常の操作だと、軽いのですね」
「はい」
「始めから出した状態だと、うちの近衛騎士達と互角以上に戦える・・・、いや、距離さえ取れれば一方的な戦いになるのか」
レオンハルトは直哉の能力を分析していた。
その間に直哉は、リリやラリーナ、リカードにゴンゾーなどと手合わせをして汗を流していた。
「むー、また、お兄ちゃんに勝てなかったの!」
リリは頬を膨らませながら直哉に飛びついてきていた。
「いやぁ、まさか、複数の魔法を同時に留めながら、殴ってくるとは夢にも思わなかったよ」
直哉は本当に驚いていた。
「あれはね、お兄ちゃんが昔、複数の魔法を同時に使用して、新しい属性がどうのこうのって言っていたのを思い出したの。今のリリなら出来ると確信してやってみたらやっぱり出来たの!」
それを見学していたリンダが、
「あの。そのやり方を私にも伝授していただけないでしょうか?」
その提案に、
「わかったの! リリに任せるの!」
リリは張り切ってリンダに教えていた。
「まずは、魔法をぎゅーんってやって、むーって溜めて」
リリの説明を聞いて、
「その説明でわかるの?」
直哉は一緒に居たフィリアに確認した。
「どうでしょう? リンダは飲み込みが早いので、もしかしたら、わかるかも知れません」
そんな二人の会話に、
「いいえ。無理です」
リンダが泣きながら抗議してきた。
「ですよね」
直哉はため息を吐きながら同意した。
その後、すっかり拗ねてしまったリリを直哉がなだめながら、他の人の鍛練を見ていると、レオンハルトが、近衛騎士達を連れて来た。
「足手まといなのは重々承知なのだが、コイツらも鍛えてやってくれないか?」
「鍛練をして、己の力をしっかりと上げてください」
直哉はそう言って、近衛騎士達を鍛え始めた。
数日の間、各方面に放った情報収集者の集めてくる情報を、パルジャン達と直哉達で整理していた。
直哉は報告書を見ながら、
「やはり、ソラティアで大規模な召集が合ったようですね」
続けてステファニーが、
「しかし、召集された者のその後の行方が解らないのは不気味ですね」
動きを見ていたリカードが、
「城ではなく、施設に集められているか」
直哉は顔を上げて、
「恐らく、キメラ化で戦力を増強しているのだと思います」
リカードも続き、
「そうなると、かなり危険だな」
ステファニーは、
「アルカティアの方へ情報を流しておきましょう」
最後にパルジャンが、
「今後は、連携を蜜にして行こう」
そう言って話しを締めくくった。そして、更なる情報を待つだけでなく、自らを鍛え武具を揃え、来るべき決戦へ向けて準備を着々と進めていた。
パルジャンの人達と新しい街の人達は一体となって、街を発展させた。
「それでは、勇者様、俺たちは先に小さな村々の者を説得しに言って来ます」
ガリウスの言葉に、
「無理矢理は駄目だよ。この場所を教えるだけで良いからね」
直哉が釘を刺すと、
「心得ております。勇者直哉様の使いとして、恥じぬ働きをします」
直哉は、
「お願いします」
と、頭を下げた。
「俺ごときに、頭を下げてくださるなんて。もう死んでも構いません」
と、ガリウスは感極まった。
「いやいや。ちゃんと任務を果たしてください」
直哉が改めて言うと、
「承知いたしました。必ずや、この場所をお伝えしておきます。それと、合い言葉を」
そう言って、意気揚々と出て行くガリウス達を見送った。
直哉達は、エルムンドに対抗するだけの武具を揃えていると、斥候の者が慌てて戻って来た。
「勇者様。報告します。パルジャティアとアルカティアの間にある湖に、今まで見つけられなかった塔を発見いたしました。また、内部を探索しようと試みましたが、入り口に大きなガーディアンが守っているために、入ることが出来ませんでした」
「わかりました。皆で行きましょう。武具の新たな素材が手に入るかもしれません」
直哉達はパルジャティアの者に、新しく見つけた塔へ素材集めに行くと言い残し、探索に来ていた。
場所は数ある湖の一つの岸にある塔で、高さは低く、周りの木々と同化していた。
「あれは、分かりにくいね」
直哉はそう言って、近づいていくと、
「近くに、入り口を守るガーディアンが居ます」
斥候の者から、注意を促された。
直哉が、その方向を見ると、バルグフルで見た魔物がいた。
「あれは見た事あるな、ゴーレムだね」
直哉のつぶやきに、仲間達が反応した。
「ようやく、リリのサクラが元通りになるの!」
「私のエンジェルフェザーもですね」
「私にも造ってもらえるのかな?」
嫁達はもちろん、
「わらわも欲しいのじゃ」
「ご主人様。・・・いえ、何でもありません」
エリザやマーリカ、
「何のことだ?」
リカードまで期待しているようであった。
「石をなるべく傷つけず、さらにコアを取り出すように破壊してください」
直哉の無茶な注文に、
「コアの場所はわかるかい?」
ラリーナが聞いてきた。
「調べてみるよ。マリオネット!」
直哉は、マリオネットの糸を飛ばしてゴーレムにくっつけた。
ゴーレムはピクッと反応したが、それ以上は動かなかった。
ゴーレムは庭で見たときと同じで、違うのは、胸の部分に太陽の様なマークが付いていた。
「あの印は何処かの国の印でしたっけ?」
直哉の疑問にゴンゾーが、
「拙者の記憶では、今は亡き古代国家の紋章だと思います」
「と、いう事は、古代国家時代からの遺産があるかもしれませんね」
直哉の推測に、
「強力な武具がある可能性が出てきましたね」
一同は心を躍らせた。
「見つけた! あのマークの内側にコアがある」
直哉の知らせに、
「良し来た! 突っ込むぜ!」
「同じく!」
「お伴します!」
「私も!」
リカードとラリーナが同時に突撃し、ゴンゾーとアンナが慌てて追いかけていった。
「あ、いや、作戦を・・・・」
直哉の言葉は、青空へ吸い込まれていった。
「お兄ちゃん。どうするの?」
「リリとマーリカで動きを止めます。リリは、水と氷で両腕と両足の動きを鈍らせて、マーリカの土でその場に沈み込ませられれば、後は、あの突撃組に任せましょう」
「わらわは達は?」
「俺とフィリアとエリザ、そしてリンダさん達は周囲の警戒だね。古代国家が本物なら、ガーディアンがアレだけって事は無いと思う」
直哉の言葉に、その場の皆が肯いた。
リリが魔力を練り始め、
「水を司る精霊達よ、我が魔力と共にその姿を現せ!」
膨大な魔力を集めていった。
「凄い・・・・」
傍にいたリンダが驚いていた。
「氷を司る精霊達よ、我が魔力と共に敵の動きを止めよ!」
さらに、他属性の詠唱を始め、
「ま、まさか! 同時詠唱? いや、魔法貯蓄ですか!」
リンダが驚愕の声をあげた。
リリから、膨大なエネルギーが吹き荒れる。
「ストリングウォーター!」
物凄い水がゴーレムにまとわりついた。
「フリーズ!」
その氷ごとゴーレムは両腕と両足を封じ込まれた。
動きが遅くなったゴーレムにマーリカの忍術が炸裂した。
「土遁! 土石波壁!」
地面がぬかるみ、ゴーレムは沈み混んだ。
両腕を含めて沈み込み、丁度、胸の部分が目の前になった。
そこへ、ラリーナ達が飛びかかった。
「リズファー流、瞬迅殺!」
ラリーナ、リカード、ゴンゾーの連続攻撃で、コアの部分がえぐり出され、吹き飛んだ。
「ピッピッピ」
不気味なカウントをしていたゴーレムがその動きを完全に止めた。
キラメキながら消えていくゴーレム。
消滅したその場には、大量のゴーレム岩と念動石が二個残されていた。
「よし! いい感じのドロップ量だ!」
直哉はそう言って、ゴーレムのドロップアイテムをしまって、塔の攻略に入った。
まずは、塔の入り口を見て、
「入り口に石像が二体居ますね」
「あれは、ガーゴイルの可能性が高いね」
「空に逃げられると厄介だな」
「室内であれば、高さを制限できたものを・・・」
と、皆で相談していると、直哉が、
「高さを制限するなら、戦闘前に空間を遮断するか!」
「どうやるの?」
リリを筆頭に皆は興味を持って聞いてきた。
「まずは、リリ、フィリア、マーリカの魔法と術で、周囲に風、光、水、氷、土の壁を作ります」
「フムフム」
「さらに、周囲に俺の防衛網を張って、動きを完全に止めます。何処まで動いてこないかはわからないので、行き当たりばったりですが」
「やって見る価値はありそうだな。しかし、リリちゃんの負担が大きいが大丈夫なのか?」
「まだ、大丈夫なの! やって見るの!」
直哉の作戦を実行するべく、皆は配置についた。