紫水晶の人形の少女(ランス視点)
「師匠、紹介したい人がいます」
「新しく出来た友達………か………」
俺の言葉はそこで途絶えた。そこに居たのは薄紫がかった銀髪に濃い紫の瞳の少女。ボロボロのマントを羽織っているものの、その高貴な気品は滲み出ている。間違いなく、この場に居るはずの無い気配。
「俺の雇い主のルナ様です。ルナ様、こちら俺の師匠のランスロットです」
おずおず、と俺を見上げた彼女はまだ大分小さい。ダース拾った頃くらいかなーなんて考えながらどうしようかと悩む。ダースは無駄に賢かったがアレは例外中の例外だからな。
「お初にお目にかかります。ランスロット様。突然の夜分遅くの訪問、申し訳ございません。私、ダースの主人、ということになっております、ルナと申します。よろしくお願いいたします」
あ、この人もダースと同じ“ホンモノ”だ。
話していくうちに分かったことがある。簡潔に言うと噂に違わぬ両親、噂に違わぬ哀れな娘、だ。
この国の宰相であるガレイアは現在の妻とは不仲。また、妻も理想の王子様(笑)を待っていたのに嫁がされたのが豚宰相。だからそれとの子は愛せない。よってその娘であるルナティアは幼い頃からメイドらに育て上げられていたという。
「どうかなされましたか、兄様」
嗚呼、この目か。俺が違和感を感じたのは。人形めいたその表情に違和感無く溶け込む無感情な目。妙に達観しているこの紫水晶の瞳。
あの時、俺に兄様と抱き付いて来た時、こいつの身体は震えていた。こいつは変に策士だからあの
家族が欲しいのくだりは演技だったのかもしれないな、と今では思う。……………でも。
「ルーナ」
「はい、何でしょう兄さってうわぁ!?」
テーブルの反対側にいたはずの俺に後ろから抱き締められ、ルナは思わず小さな悲鳴をあげていた。
「うぐ。兄様、苦しいです」
「いいじゃん別に。お前があんまり甘えてくれないからお兄ちゃん寂しいぞー」
「甘えてます!…………これでも」
あの震えは、俺の服に付いていた涙の跡は、そして何かを堪えるようなその声は。きっと本人も意図していなかっただろう。………人肌に飢えていた、なんてきっとこいつも思いもよらなかったはずだ。
あの朝、小さく俺の手を握っていたことも。「行かないで」、なんて寝言で呟きながら涙を流していたことも。
ダースは未だに使用人として一歩引いている節がある。ならば。
「ルナ、昼寝しよーぜ」
「………ぎゅってしてくれるなら、30分だけいいですよ」
身分を気にしなくてもいい。そう望ませた“家族”としてこいつを甘やかそう。空白の独りの時間を埋めるように、家族としての愛を注ぐように。
いち早くルナ様が家族の愛に飢えていたことを見抜いたからこそのここまでの気の許し方。ちょっとヒーローのダース君出てないけど大丈夫かな……?次は人魚回です。予想を裏切り割と逞しい子になってます……。