師匠×兄貴=常識人(多分この作品で唯一の)
「随分と可愛い嬢ちゃんじゃねーか、年いくつだ?」
「4つになりました。そろそろ5つです」
「随分と………しっかりしてんなぁ」
「私がガレイア家を継がなければなりませんから。不仲の両親ではこれ以上子供を増やすのは不可能。養子を取るにしてもプライドだけは無駄に高いあの豚共は許さないでしょうしね」
「………お、おぉ」
ダースに夜中に連れ出されたのはとある家。───攻略対象、ランスロットの隠れ家だ。ちなみに彼は後に王家でお抱えの暗殺者になったりする。
「俺、実は攻略対象と接触していまして。多分かなり仲が良い……いえ、多分身内の域なんです」
「ほう。んでもってそやつはどいつなり?」
誰かな、騎士団長とか医務室長とか平和な人種じゃないかな、なんて思ってた。
「ランスロット………後のサファイアの守護者で暗殺者見習い、です」
…………あれ、かなりヤバ気な2人のうちの1人だった。
「にしてもお嬢様が逃げ出して大丈夫なのかよ?」
「その辺はダースが」
「俺の闇魔術の腕を持ってすれば模写なんて簡単ですよ。しっかり姿を想像できるまで観察しなくちゃいけませんけど」
「あー、うん。じゃあ、俺みたいな野蛮人のとこ来てもいいのか?」
「ダースが貴方程信頼出来る人はいないって言っていたから。もしそれが間違いならそれまでよ」
「………………」
暗めの青紫の髪をオールバックにし、今照れて悶えている青年。現在13歳のダースの同居人兼師匠だそうだ。ちなみにダースが家に来る時には「俺の運命だから!俺は運命に従う!」「ふざけんなガキ」って喧嘩別れしてたらしい。そう、ここはダースの家inスラム。私はダースの能力を頼り家から脱走、闇魔術で証拠を隠滅しながらここにやってきたという訳だ。
「良いお兄ちゃんを持ったね……おばちゃん嬉しいよ」
「ルナ様あんた4歳、あんた幼女」
だってここに着いてダースの姿見た瞬間に「馬鹿っ」って叫びながら抱き締めてたんだよ?将来の腐向けな展開に乞うご期待だね。言ったらダースに殺されそうだし言わないけど。
「あー、んで、ルナサマ?あんたに聞きたいことがある」
「ルナで良いですよ。私の方が人生経験も少ないですし9つも違うのですから歯痒いです」
「そのルナ様の言動が既に4歳じゃないからだと思いますが」
「ダース、シャラップ」
「ウィッス」
かなり打ち解けている私達を彼──ランスロットは苦笑いしながら見守る。おかしいとは思うよ、使用人と主人にあたる娘。まだ10日前後しか経っていないのにここまで打ち解けるってのもね。まぁ同じ世界からやってきたっていう共通点が私達をここまで仲良くさせたんだけども。
「それで、聞きたいこととはなんですか?ランスロット様」
私は彼の瞳を──朱色と碧色のオッドアイを見つめる。確かこの瞳は強すぎる魔力を発現した場合になる色、だったはず。
「……………あんたは、ダースを大事にしてくれるか?」
えらく真剣な様子でそう問われる。
なんだ、拍子抜けだ。そんなの決まっているじゃないか。
「ダースを金で買ったのは私よ。私は主としてこの子を守る責務がある。ましてや貴方みたいな良い人に大事にされている子を奪いとったんだもの。絶対に幸せにしてあげるわ」
これがルナティア・ガレイアの使命だ。後ぶっちゃけるとダース様が一番好きだったけど攻略対象で一番好きなのはランスロット(不良系アニキ)でした。ランス様も幼少期時代の姿は麗しいですな。つか可愛い。
「…………ん、そっか。なら安心だ」
少し淋しげに笑うランス様に違和感を憶える。なんか忘れてるよーな…………あ。
「本題を忘れていました。実はダースを里帰りさせるのが本題ではないのです」
こらダース、あんたも「俺も忘れてた」とか呟くんじゃない。………さて、ここから先は私の戦いだ。
「ランスロット様。私に雇われてくださいませんか?ルナティア・ガレイアではなくただのルナティアに」
見た目は不良、中身はお兄ちゃん、その実は唯一の常識人にして苦労人、それが彼のはずです。しかしあのダースを育て上げた人物ですから精神力は強いはず。