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そして狂った歯車(アリス視点後編)

この世界では祈りを捧げる治癒士と病気などを治す医者の二つは似て非なるものである。

治癒は祈りを捧げ、神の奇跡を起こす魔術。精神的なものや確率に左右されるものなどが含まれると成功しやすくなる“癒し”である。

医術は手術をしたり薬を作ったりという本格的なもの。これは魔術では出来ないものである。

……………………以上、シアン君談。



「町医者、というよりは駆け込みの治癒士ですね。確かに今まで何人か治癒はしていますし本格的にこれを仕事としても客に困ることは無さそうです。何故今まで気付かなかったのでしょう。アリスさんに指摘されてから漸く気付くだなんて僕としたことが。不覚です」

「シアン君、いい加減にしないと私が投げた石が降ってくるけどいいかな。今ポケットに沢山あるんだ」

「それは困りますね」


まったく困った様子なく言うのは止めてもらおうか。余裕過ぎて腹立つ。





「シアン君、この書類───」

「えいっ」

「ちょい!?え、これ気のせいじゃなきゃ神殿から──」

「勧誘でしょう?嫌ですよ。折角見つけた天職ですから」


そしてあの時から何年か経った今も彼は私が提案した町の治癒士を続けている。最近では腕の良さから神殿の幹部へとなってほしいと嘆願書が来る程だ。………ぶっちゃけ虐待フラグって折れてる気がする。



「それにここには貴方もいますしね」

「やっぱり気心知れてる人がいると楽なんだねー」

「はいはい。そういうことにしておいてあげますよ」


おいこらそこ。何で苦笑する。










と、ここまでの数年間の記憶を私の魔術……記憶魔術で圧縮させて脳内に送り込んで動画として見せると2人は微妙な顔になった。


「ねえダース。少し良いかしら」

「はい。ちょっと俺も泣きそうなんですけど構いません」


ここまでは聞こえた。


「シアン先生マジで可哀想なんですけどおい」

「俺も思ってます。教育間違えたと思ってます」

「それ私がお前とシトリに関して……たまに兄様についても常日頃から思ってることだからな。気持ち分かるか?」

「でも親戚一族で珍しい女の子だったもんで過保護に育てたらあそこまで脳筋鈍感に………。シアン様マジで不憫」


聞こえない。


「鬼畜様シアン様と呼ばれたあの方が途中から諦めてなかった?気付いてもらうの」

「たまに濁してはいましたけどね、まっっったくうちの愚妹は気付きませんでしたね!」

「ええ。清々しいほどスルーしてたわね」


聞こえないが2人のヒートアップが収まりルナ様がこちらを向く。



「ごめんなさい、こういう時どういう顔をすればいいのか分からないの……」

「悟った目をしながら諦めたように笑ったらいいと思いますよ、ルナ様」

「そうなの?……………そうよね。じゃあサクッと諦めましょう。無駄なことはしない主義なの」

「言ったのは俺ですが早過ぎます。もう少しシアン様のことを気に掛けてあげてください」

「心の中では応援しとくわ。でも今の段階ではとても…………」



2人が何を話しているのかは分からないが、確かにお兄とルナ様は仲が良いことが分かった。


………………それが、ルナ様に対する尊敬ではなくて“今のルナ様”に対する恋情だということも。











「世の中の恋愛小説見てると思うのよ。『かっこいい……けど私なんて見てもらえない……』とか言ってる女いるじゃない。二次元だと可愛いけど三次元だとうじうじうじうじちんたらしてウっザいって」

「リアルの恋愛の始まりを全否定していくその姿勢、嫌いじゃありません」

「結局さ、押し倒して既成事実作って責任取れって言ったらそれで終わると思うの。だから最終的に貴方の妹さんがあまりにもあれならそれの男バージョンをシアン先生に進めるわね」

「逃げてシアン様超逃げて」

「恋愛って駆け引きって言葉があるじゃない」

「はい、唐突に話が変わりましたがありますね」

「あれもさっき言ったようにやっちゃったら相手即座に瀕死状態じゃない?あと、上手いこと周囲から欺けることが出来るようにい

けば相手の社会的地位を交渉材料に脅せると思うの。これはシアン様には使えないかしら」

「ちょっと俺今から愚妹に逃げろと伝えたくなってきました」

「でもシアン様不憫でしょ?」

「……………確かにそうなんで最終手段の一つに加えましょう」


前世での保護者枠にあたる2人の会話は知らないアリスであった───。

保護者枠2人が暴走するレベルのアリスさんの鈍感さ。多分次に2人がシアンに会う時は生暖かい同情の視線を送っているでしょう。


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