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頼られるために、力を抑えて(シトリ視点)

満を持してシトリ君回です。

まだだ。まだ足りない。もっと強く。もっと大きな力を。もっともっと────!


「くそっ」


水球がまた弾けた。もう失敗は百なんてとうに越しただろう。でも───


「僕だって、ルナの役に立ちたいんだ」


姉であり妹であり、僕を救ってくれた彼女を助けたい。頼られたい。でも、力が足りない。

僕は世間知らずの人見知りだ。文字だって読めないし通常の水魔術はどの程度のものかを知らない。けど、本気を出した時のあの王子の恐怖に引きつった顔は覚えてる。………きっと、強いんだ、なんてことしか分からない。


「僕、だって………」


手を貸したい。出来ることは少なくても、頼られたい。







僕はいつも1人だった。海の中でも、城に居ても。

男人魚なんてものは滅多に生まれない。一族の掟で僕は海の中にある巨大な檻に入れられた。ずっとずっと外に出られない、なんて思っていた。


でも、ある日それは変わった。急になりひび割れた檻の形をした結界から外に出ると、そこには壊れた故郷があった。生まれた頃に見たかも知れない母や姉、妹達がいた町が、蹂躙されて……人魚が出す青色の血が………1人分、なんてもんじゃない──何人分かも分からない量が海の中に漂っていた。


その後のことはよく覚えていない。何故だか頭に血が上って暴れまわっていた。……………これは、人間による仕業で無いことなんてすぐに分かった。人魚達の死因は全て三つ叉の槍に刺されたものだったから、これが別の部族の同族の仕業だとは学の無い僕でも想像がついた。


暴れて、暴れて、暴れまわった僕は……気付けば地上にいた。これは後に門番から盗み聞いたことだが、敵部族の人魚は僕のことを持て余して人間に助けを求めたらしい。僕は強い。だからもしかしたら人間の求める“守護者”かもしれないと誘って。

麻酔、というものを打たれ動けなくなっている僕を人間達は………そうだな、ルナに教えてもらった言葉で“腫れ物に触るように”取り扱った。そして王城、という場所の「水籠の部屋」という場所に閉じこめられた。



たまに、食べ物が置いてあった。食べ物と、人魚の使う文字で書かれたメモ。そのメモで僕はある程度までの情報を知った。僕を閉じこめているのは人間の中で一番偉い王、という奴。人魚は海の中では海草を食べることやや海の水と触れることで栄養をとることが出来る。陸では飲まず食わずでは死なないが、体力だけは奪われていく。だから食べ物を食べて体力を付けないと動くことも出来なくなって………そのまま陸に居続けたら干からびているのに意識はある、なんてことにもなるらしい。それに、人魚と人間は文字は違うけれど言葉は同じだから会話には困らない、などということも教えてもらった。


そのメモを送って僕に常識を送ってくれた第一王子という人物は、見張りが付いたらしい。毎日置かれていた食事というものが良くて一週間に一回という頻度になった。


………まだ、大丈夫。そう思っていた時期に奴は現れた。



「お前が人魚だな」

「……………誰」

「俺はヴィラシア・ハイド。この国の王子。偉いんだぞ、敬え」


馬鹿じゃないの、なんて言葉は出さない方が良い。それくらい僕にも分かった。でも王子ってことは……第二ってことは僕を助けてくれている第一王子の弟だ。だったら………。



「俺と戦え」



その言葉に逆らうという選択肢は、無かった。





手加減して、手加減して、手加減して。毎日懲りもせず来るそいつの相手をして。たまに発生する巨大な魔力について門番の会話を盗み聞きしたりそいつを誘導尋問して聞いてみたり。………ちょうどその頃、第一王子からの食事の支給がパッタリと途絶えた。





そして、その日が来た。


「シトリミヤ・フーラーテ」


嗚呼、また呼ばれる。またくだらない愚かな奴が僕を呼ぶ。もう、動く気力も少ない。………邪魔だ、どうしようもなく邪魔なんだ。


「勝負だ、シトリミ───」

「死ねよ、屑ごときが僕に話しかけるな」


感情を抑えきれなくなった僕はその日、初めて手加減無しに王子を攻撃した。


結果は、酷かった。僕は無傷で奴はボロボロのどろどろ。僕はそれを見て殺しそうになるのを理性で押さえ込んだ。それは得策じゃないって、分かってたから。





水の中でうずくまっていると、安心する。母の温もり、なんて僕は知らないけど…………水の中はそれに似てる気がする。


─────そして、ルナ達が現れた。


水の中で聞くルナ達の声は楽しそうで……温かくて。それに近付きたくて、僕は気力を振り絞り外へ出た。体力は尽きそうだったけど……それでも。








「だから…………!」


水が、塊を作る。弾けないように、力を込める。込めて込めて、限界までそれを続ける。


「水龍の呪」


もう魔力が入りきらない、そこまで力を込めてから呪文を埋め込んだアクアマリンの欠片にその魔力を流し込む。


「封」


…………ようやく、出来た。


力を、抑え込めた。僕でも……こんな僕でも役に立てることが出来た。




「………疲れた、けど」


ルナはもっと、疲れてる。ダースも、ランスも。僕より頑張っている。



「まだ、やれる」


ルナは、僕達を守りたいって言った。だったら、僕に出来ることでルナ達を守りたい。そう思って始めたことだった。


───まずは一個。



「………僕、だって」


やれるんだ。そう分かったから……頼ってもらえるように、努力しないと。

このように重い内容を連続して投稿すると気が滅入ります。1000件記念が間にあって良かったです。このシトリ君が作っていたブツはいずれまた本編で登場するかと……。

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