転生悪役令嬢×転生従者=作戦会議
「ルナティアお嬢様。旦那様がお呼びです」
「……マジかよあの豚のとこか」
「豚宰相なんてテンプレですよね」
「そうそう、悪役令嬢転生もテンプ……ちょっと待て」
爽やかな朝、私は違和感を感じて彼を見た。…………昨夜、私に紹介されたダースティア・クロイネル。私の最萌えキャラのショタ時代の姿を。まだ短めの艶やかな黒髪と落ち着きのある漆黒の瞳がとても美しいですね。いやだがしかし。
「申し遅れました。前世は普通の男子高校生。趣味は妹に強制的にやらされてハマった乙女ゲームの悪役令嬢についてネットで大論争を引き起こすこと。現ダースティア・クロイネル5歳です。どうぞよろしく」
「…………あ、ども」
これが私とこれから長い付き合いになる彼の初めての会話だった。
「あんたとことんチートよね」
「お褒めに与り光栄です。今日も美しいですね、ルナ様」
「二言目で口説くのやめろホストかお前は」
麗らかな春の午後。私は優雅に紅茶を啜っていた。口説かれるのはルナ様教信者だから仕方ないとして、だ。そこそこ舌が肥えている私を満足させる紅茶を淹れる使用人10日目のそいつを見る。ちなみに紹介された夜を含めて、だ。
「さて。じゃあ状況確認といきますか」
コトリ、とティーカップを置き視線でダースに着席を促す。…………そう、これが私と彼が人の居ない場所で話す二回目の機会だ。あの時………2日目の朝、彼が言ったことはただ一つ。『人に認められ、二人きりで話せることが出来るようになるように実力を示します。だからそれまで待っていてください』と。………うん、一年くらいかかるかなーと思ってたわ、私。早かったね、メイド長に認められるの。
「私がしたいことはただ一つ。ヒロインを見て爆笑したい」
「トリップしてくるといいですね!俺も参加します!俺、ビッチって嫌いなんですよ!」
「ぐう分かる。後電波気持ち悪い」
「アレ単なる痛い子ですもんね。見てるとこう………辛い」
「話が分かるじゃないかダースティア・クロイネル」
「ダースでいいですよ。俺も一人称が俺になってますしルナ様って呼んでますし」
「うん、じゃあダースで」
『えっと………転生者?なの、ね?』
『はい。ルナティア様もでしょうか?』
『……うん。………良かった~味方がいてくれて』
『はい。俺も今まで誰も味方となり得る人がいなかったので本当に嬉しいです』
『そういえばなんで私が転生者って分かったの?』
『あぁ、詰んだって凄い小さい声で呟いていたのが聞こえました。五感は野生児並なんで』
『……………………あー、うん、そっか』
『それはそうとしてそろそろ豚の所に行ってください。ちょっと先輩を幻惑させて結界張ってってやってるんでそろそろ……』
『嫌だー、豚のとこ出荷は嫌だー』
『後暫くの辛抱です。俺も頑張りますから。ルナ様のお付きになれるように』
『おつき?』
『 人に認められ、二人きりで話せることが出来るようになるように実力を示します。だからそれまで待っていてください 』
「おいイケショタ」
「それ俺のことでしょうか」
「おうともさ」
私はひとまず紅茶を飲み干した後にダースに呼びかけた。こんなくっさい台詞吐いてたんだね。回想して砂糖吐きかけたよ。だってあのダース様だよ!?美しい麗しのダース様のショタ時代だからね!?サブキャラだけど。サブキャラだけど!
「さて、じゃあフラグをポッキンしていきましょうか」
「了解です。目指すはヒロインを見て大爆笑、そしてルナ様の断罪イベント(笑)を無くすこと」
お気づきであろうか。悪役令嬢(笑)に断罪イベント(笑)。何故(笑)が付いているのだろうか。答えは簡単。ヒロイン………ハッピーちゃんと呼んでおこう。ハッピーちゃんが「頭の中お花畑」とか「OBAKA」とか言われてるのに対し、ルナ様のあだ名は「被害者」、「愛しきツンデレ」、「あらすじ詐欺」。
………………要はツンデレってるけど善人。むしろ親が腐ってるのによくもあそこまで良い子に育ったと思う。ハッピーちゃんがルナ様を初っ端で「これはネット小説に出てきた悪役令嬢よね!私はこの人を倒せばいいのよね!」とか言って邪険にするけどもルナ様は中盤………イジメのようなことを(ヒロイン(笑)に)されながらも(!)なんと中盤までハッピーちゃんと仲良くなろうとしていた。マジ天使。そして何故か恋愛にうつつを抜かして守護者としての責務を忘れていた奴らに断罪イベント(笑)を引き起こされ、親の罪により一族郎党処刑となる。イミガワカラナイヨ。
───ちなみにそのアホ共のサボった仕事は誰がやったか、なんてもう目に見えているよね?そりゃルナ様もお小言言いたくなるはずよ。
ちなみに現在のダースのようにルナ様にハマった 人々をルナ様教と呼ぶ。ルナ様をまだ悪役令嬢なんて呼ぶお馬鹿さん達と話し合い(意味深)をしたりルナ様の魅力を語ったりするのが彼女らだ。ちなみにネットでいう腐女子と同じで幾人もの戦士(自称は自由です)が敗れていったという伝説まである。つまりちょっと危ない人。
私のお付き危ない人か。マジか。
ちなみにダースの原作の姿はあえてあまり書かないようにしています。原作では多分、一言で表すと冷血鬼畜眼鏡って感じです。