悪口×悪口=警戒心攻略
「怖がらなくていいよ、僕は今何も出来ないから」
上半身を水に浸し、私達のいる所へ向けて泳いでくる影。眼前の水槽の縁に両手が置かれたかと思うと、大きな音をたて彼の姿が現れた。
「あの王子………じゃないみたいだけど、何をしに来たの?報復?」
…………王子?報復?ん?アレ………?
「え、と………あの、シトリミヤ、さん。王子って誰ですか?」
嫌な予感がする。この国の王子は完璧超人の第一王子とアホの第二王子(私の婚約者候補)。まぁ間違いなく、うん。
「第二王子、だね」
「誰があんなアホのために報復に来るとでも?自業自得ですよ」
後者でした。
「ぷっあははっ!君、面白いね!あいつアレでも偉いんだろ?いくら本人がいないとはいえども……!」
「でも街では有名なんでしょ、アホ王子って」
「あ、ああ。馬鹿をやらかす度にまたかって言われる程度には」
「第二王子が第二で本当に良かったですよねー」
こうしてるとうちの兄様のテンパり具合とうちのお付きの図太さがよく分かる。………褒めてるんだよ?んで馬鹿王子、何したんだこの麗しの悪魔様(王子とは相性が最悪の属性なものの希代の天才とまで呼ばれる能力者)によぉ。
「あの、つかぬことをお聞きしますがあの馬鹿王子が何かしでかしたんで……?」
「ん?あぁ、俺が勝てるのはお前しかいないとか言って僕に勝負挑んできてね。最初に身分がどうとか言ってたから手加減してたのに気付かないんだもん。ウザくてぷちってしちゃった」
その時の光景を思い出したのかうふふ、あはは、と笑う麗しの悪魔様。お美しいです、だが超怖いです。
「それで?君達は何者だい?一応入るまでは警備が厳しくて王族以外入れないはずだけど」
「囚われの人魚がいると聞いて拉致監禁とかマジないわー、救いに行こうぜって感じで転移してきました」
「何言っちゃってんのダース!?」
身も蓋もない言い方すんなよアホ使用人。この人失敗したら即抹殺思考の危険人物なんだからな!?
あと兄様、目を剥いたあとに諦めたように遠い目しないでこいつ止めて!
「ふーん、じゃああいつの知り合いで報復しに来たってワケじゃないんだ」
「何であんなどうしようもない穀潰しごときのために俺が動かなければならないんでしょう」
「……………君、最高!」
………あれ?
「僕だってさ、この後の生活がかかってるからあいつの相手してたわけ。でもあまりにも弱いへなちょこ魔術使って僕に勝ったとか言ってるんだよ?ふざけんなって思うよね、ほんと」
「そもそも属性として水と炎は対極に位置していることを考慮せず言ってるとか超ウケるー、ですね。腹痛いです」
…………あ、もしかして。
「分かる、片腹痛いよね。やっぱり君、話合うね。最高」
「お褒めに与り光栄です。あんな最低な人種が俺の愛しのルナ様の婚約者候補なんて本当嫌で嫌で嫌で嫌で…………!それはもう抹殺したいくらいに!」
「誰がお前のだ。私は私のものだ。それと抹殺すんなよ?マジですんなよ?」
ちなみにこの会話中、シトリミヤ氏はずっと満面の笑み。………シトリミヤって普段から笑ってるけど時折満面の笑みを浮かべてね、それが本当に綺麗なんだよ。……ちなみに今、ずっとその笑顔。ダースと話し始めてから、ずっとそれ。
なんか間違えた気がする。………ね、兄様。遠い目しないでくださいよ。私もしたいですもん。
まさかシトリミヤの警戒心攻略が第二王子の悪口を言うことなんて、ねぇ。本当あの馬鹿王子何しでかしてんだよ…………………。
なんか間違えた気がしないでもないルナ様。ちなみにこのシトリミヤ君、かなり鬱憤溜まってるのでその発散相手が欲しかった時に来た同年代の人物=よし、愚痴ろう 的思考回路で行動しています。実は人間不信は馬鹿王子も影響してるんですよー、という原作で公表されなかった裏設定です。




