第02.5話 コウ
目が覚めるとそこは白く広い場所だった。
「あれ?ここは何処?」
フワフワと気持ちがよくてまるで寝る前の夢と現実の間みたいな感じがする。
(私どうしたんだっけ?)
咲ちゃん達と朝錬の為に学校に向かう途中までは覚えてる・・・
けど、その後が思い出せない。
手や足の感覚は無い。
しかし痛みがあるわけでもない。
自分の姿を確認することも出来ない。
周りを見ると少しはなれた所で光る玉があった。
そして何かぶつぶつ言っている。
もしかして私もあんな状態なのだろうか?
「あのー・・・」
思い切って声をかけてみた。
本当は内心パニックになってるんだけど、
この心地よさと誰か居たという安心感で取り乱さずにすんだのだろう。
「はい?誰?というか玉?」
ああ、やっぱり私も光る玉なのか。
「あ~やっぱりそうなんですか・・・」
「やっぱり?」
「自分の姿が見えないので周りを見ていたらぶつぶつと喋ってる玉が居たので
もしかしたら自分もそんな感じになってるのかなと思って。」
私のほかに人が居た。よかった。
目の前のこの人は自分は死んだと言っている、けれど取り乱した様子もなく落ち着いている。
私には自分が死んだ理由とか思い当たらないのだけど
目の前のこの人はそれをすんなり受け入れている。すごいと思った。
「あ、すいません・・・そうですね先に名前ですよね。私は・・・」
自己紹介しておこう。そう思い名乗ろうとすると
「ストップ!」
「え?」
「死んじゃったんだしさ名前とか別に関係なくね?」
「んだなぁ~適当にお互い渾名で呼ぶとかどうよ?」
などと言い、どこかこの状況を楽しんでるようにも見える。
悪い人じゃ無さそうだし、その提案を受け入れることにする。
この人はセンさんでいいという。元の世界のネットで使ってたニックネームらしい。
私は最近はあまりゲームとかしないしそういう渾名が思い浮かばない。
でもお互い呼びにくいしなあ・・・あ、そうだ。
「では、私は【コウ】でお願いします」
「ほうほう、その心は?」
「光る玉なんで光で」
嘘なんですけどね。本名も光だからコウにしようと思った。
その後センさんと一緒にここが何処かを調べる為に散策してみることにした。
けどセンさんの横に小さい光る玉を見つけてからそれが気になって散策と言うよりその玉を見ていた。
センさんはそれに気づかずどんどん進んでいく。
あんなに周りを飛んでるのに気づいてないのだろうか?
もし私しか見えてなかったらおかしい子と思われそうなので黙ってみていたら
「なんだこれ?」
あ、やっぱり見えるんだ・・・
ようやくそれに気づいたみたい。
ずっと周りを飛んでたんだけど気づいてなかったみたい。
センさんが「なんか言え」とかとか言ってるけど話せるならさっき話していたと思う。
「もしかして話せないのでは?話せる私たちのほうがおかしいとか?」
「いい事言った!そうだよ、何で俺たち話せるんだ?」
話せないとは思っていなかったらしい。
この人ちょっと面白い・・・
センさんが小さい玉に話しかけた瞬間それはセンさんの体の中に吸い込まれるように消えた。
そしたらセンさんが独りで喋りだした。大丈夫なのだろうか?
AI?専務?そういう単語が聞こえてきたので、この人は社会人なんだ・・・
それに、私よりかなり年上になるのかな?喋り方は男の人っぽいよね。などと思った。
よく聞くとさっきの玉が融合してセンさんに話しかけてるらしい。
よかった。大丈夫そうだ。一人にはなりたくない。
何を話しているんだろう?
悪い感じは受けなかったけどこっちにも聞こえるようにならないのかな?
「もしかして話できるんですか?いいなー・・・私も話してみたいです」
と言ったら出来るとの事。
そしたらセンさんは私に寄り添うようにくっついてきた・・・
男の人が私にくっついてる・・・そう思ったらかなり恥ずかしかった。
下心的なものは無いといってるけどそうじゃなく、
男の人にくっつかれる事なんて無かったし、話す事もほとんど経験が無かったのでただ恥ずかしかった。
「おし、繋がったか?」
『YES』
「あ、聞こえました」
『ちなみに、声に出さなくても大丈夫です』
と女の人っぽく、だけど少し機械的な感じの声が聞こえた。
呼びにくいからとアイという名前になったみたい。
アイさんは元は機械らしくセンさんとくっついてしゃべれるようになったらしい。
それから私達は散策を再開するとここに入れと言われるような鎖の付いてないドアがあった。
センさんは入ってみると言うし、守ってくれるという。
私はその言葉だけでこの人を信用していいと思った。
普段ならこんなにもすぐ男の人を信用することは無いのだけど
センさんのその言葉は頭で考えるよりも心が信用してしまった。
この人についていこう。そう決めた瞬間だった。
入ってみるとそこは現実味の無いような世界
ああ、やっぱり私も死んだのかな、天国という言葉が似合う幻想の世界で思わず
「きれい・・・」
と呟いてしまった。
下でセンさんの声がしたので見てみると
センさんが半透明で水色のカブ?になっていた。
「あ~・・・コウちゃん?」
なんて声をかけてくるし間違いない。
カブの葉っぱの部分がニョロニョロ動いてる。ちょっと気持ち悪い・・・
センさんの姿はローパーと言うらしい。ローパーって何だろ?
私は普通の人の姿だと思うけど、何か人外になってたりするのだろうか?
アイさんに聞いてみよう。
『コウはエルフというものが一番酷似しています。』
私はエルフというのになったらしかった。やっぱり人では無いらしい。
エルフと言うのは何処かで聞いたことがあるような気がする
何かのゲームの中に入ったようなことをセンさんは言ってた。昔やったゲームでそんな種族が居たような?
センさんはよほど自分の姿が気に入らないのかアイさんにやり直しが出来ないか食い下がってる
けど、入ってきたドアがないし無理だと思う。
ニョロニョロしてる(触手)部分が長くなったり短くなったりしてる。
うん、慣れてくると案外可愛いかも?
センさんは身を守るためのスキルが備わってないのかとアイさんに確認する
なるほど、どんな危険があるか判らないからもっともだと思う。
センさんのスキルはよくわからないけど
私は剣と魔法が使えるようになってるらしい。
剣なんて使ったこと無いんだけどな・・・
とりあえず移動しようとしたんだけどセンさんは移動があまり得意じゃないみたいなので抱き上げて移動することになった。
軽いから全然苦にならないし、なにより何故か抱っこしてる時の方が安心できた。
しばらく歩くと木に穴の空いた所を見つけたのでセンさんに報告
ここを拠点にするという。
センさんは毒が効かないみたいなので自分が食料を探してくると言って出て行った。
私は掃除を任されたので穴の中を掃除をしておく。
「んー火を起こせるように葉っぱや木の枝とかも集めておいたほうがいいかな」
そう思い穴の裏手に枝などを集めつつ掃除を完了させる。
センさんは居ないけどアイさんが話し相手になってくれたので退屈はしなかった。
まだ少しだけどセンさんと一緒に居て判った事がある
センさんは一定以上ビックリすると関西弁になる事がある
普段は少しくらい驚いてもカッコつけて平静を装ってるっぽい
なんだか小さい子みたい、今度指摘してみようかな?
そんなことを思い洞の中を掃除する。
少ししたら大きな葉っぱやキノコなんかを持ってセンさんが戻ってきた。
その葉っぱを使って水の入れ物を作るらしく
新しい葉っぱを私の魔法で取って欲しいという事で大きな木の下へとむかった。
場所をセンさんに言われてアイさんに魔法をどうやったら使えるかを聞いたら
『集中して風を切るイメージをしてください』
風を切るといわれてもピンとはこなかったのだけど
私はアーチェリー部だったので試合の前のように目を閉じ集中をする。
すると使い慣れた弓が出てきた。
手に取る事ができそうなほど浮かび上がってきた時に
『それを使ってみましょう』
とアイさんに言われそれを手に取り構える。
矢をイメージして弦を引きしぼり一気に解き放つ
矢のイメージが余りよくなかったのか風の塊のようなものが飛んでいった。
葉っぱが何枚も落ちてきたので目標のものは取れたようで何よりだ。
センさんは触手で器用に発破を水筒みたいにして近くの川で水を汲んできた。
あとから聞いた話だとその川には大きな魚が居て危ないのかもしれない
次は私もついていこう・・・