三話 「交易・儲け・落とし穴」
店先でソレも店主が店番しているにも関わらず、商品が消え去る事件が起こった
それも、アキラが買おうとした『魔法の巻物』を扱う魔術師の館が事件現場だ。
魔法のプロ相手に魔法的な仕掛けで事件を起こす。警備隊はお手上げとばかりに
頭を悩ませていた。だが、アキラとリオンは違う。彼等は人の眼に触れず、人に
動きを悟られず行動する奴を知っている。おまけに現場がアキラが向う店であれば、偶然が偶然に重なったとは考え難い。
「奴だな」
「どうする?」
「決ってる。とっ捕まえて、ギタギタだ」
「よし!準備に掛かろう」
アキラはさっき入った現金で次々と買い物を始めた。防具に武器に少々の薬草だ
ついでに、ゲテモノ趣味の金製の置物を2つ購入占めて5千$だ。
ゲテモノの割りに2つで1千$とはちと高い?と思いながらもアキラはソレ
等をリュックに仕舞い店を出る。
「どうする?」
「ん~ちょっくら一度帰るわ!『罠の仕掛け』を買って来る」
そう言って一人扉を潜った。リオンはお留守番だ。
突然、明の姿を見てアキ婆が驚いた。呼び止めるがソレを無視して明は自転車で
町へ向った。小一時間もしない内に婆の家に電話が鳴り響いた
「大門さんのお宅でしょうか?此方○○にある△△質店ですが、お孫さんが御宅
の金の置物をお売りに来てるのですが、未成年者でしたのでお電話しました」
一瞬何の事か理解できなかったアキ婆だが、機転を利かせ、問題ないと伝える。
それからまたまた、小一時間後。やっと明が家に帰ってきたのだ。
「明!あの電話はなんだい?ちゃんと説明しな!」
「婆そんな事より、聞いて驚け!借金返済が直ぐにもできるぞ!」
息を弾ませ明の言葉に婆の目が代わる。
ルトビアで和牛の評価を伝え、儲けた金で金の置物を購入。置物はさっきの質屋
で下取りだ。その価格が2個で合計約600万。『和牛』の購入価格を差し引け
ば、何と今回の取引で595万の儲けである。オマケにルトビアの金はまだ、
1万5千$程残っているから、このまま全額、金製の置物を購入・下取りすれば
一気に9000万円もの儲けになるのだ。
「凄えぇだろう!これで借金もチャラじゃねぇ!?」
「…辞めときな。アンタやっぱり健一の息子確定だわ」
(いやいや扉を潜れた次点で確定してるじゃん)
「幾つも金を売りさばけば、此処の家が知られるよ。大金が眠るこの家に見知ら
ぬ奴が押しかけて来るさ。オマケに住んでるのは年寄りが1人とのなれば、
悪い奴等も押しかけて来るさ。ああ言った輩は鼻が良いからね。所が私に
掛かれば幾ら来ようが、問題にならないね」
「なら良いじゃん。婆1人でも安心だ」
「本当に馬鹿だね。…襲ってきた連中は何処に消えたのさ。警察に引き渡すのに
何て言って、捉えたって言うのさ!?私らは井戸の扉が在る限り此処を離れる
訳には逝かないんだよ」
婆の話に納得する。目先の大金に混乱していたようだ。無謀な計画だと理解した
「…だから、やるなら一気にドバーッと派手に仕入れて大きく儲けな」
「って!進めるんかい!?」
「良いかい!儲け話ってのは、旬があるんだ。時期を逃したら不味いのさ!
アッチでバンバン金の置物買うのは良いけど、コッチで換金するのはお預けだ
キチンと魔法を仕入れて、アンタが立派な嫁を連れてくるまで、この話は
お預けだ。判ったね明!」
凄みを利かせたアキ婆の台詞に少しチビッた明。そこへチャイムが鳴り響く
「こんちわ~肉屋です依頼の肉20kgお持ちしました」
怒りを表すアキ婆。しかし明の姿はソコには無かった。逃げる足跡だけが婆ぼ家に響いている。
「遅かったな。ん?どうしたその顔の傷」
「な、何でも無い。ちょっと婆と意見がズレただけだ」
説教と切諫を受けたアキラ。それでもしっかりと仕入れた『和牛』20個に小分
けした合計20kg分リュックに詰めて運んできた。婆が貸してくれたリュック
何と魔法のアイテムだ。重さ・容量問わずバンバン入るから面白い。オマケに
鮮度が一切落ちないって言うから更に便利だ。
「首尾は?」
「問題ない。チャンと仕入れてきたよ。それよりアッチはどう?」
「こっちも変化は無い。相変わらず気配は感じるが姿は一向に見せておらん」
「んじゃ始めるか」
号令と共に2人は準備に入るリオンは枯れ枝を集め火を起こす。リュックから
BQセットを取り出すアキラ。それぞれテキパキと作業を進めていく。
30分もしない内に当たりは良い香りが漂う。BQセットでは持ち込んできた
『和牛』でステーキを焼いている。リオンがガーリックソース。アキラは卸し
ポン酢だ。香りに誘われ辺りが、ザワツキ出した。現れたのは通称『コボルト』
犬型の魔物だ。比較的動きは早いが弱いとされている。それが5頭の群れで
近付いてくる。リオンには造作も無いけれど、アキラには始めての戦闘だ。
リオンは大斧を構え襲ってきたコボルトに対抗した。
一振りで一気に2頭仕留めるリオンを見てアキラに火が付く
「俺も負けられねぇ~」
片刃の剣で群れの一頭と対峙するアキラ。だが、少し分が悪いか?相手は群れの
中でも一際大きな身体を誇る奴だ。
「ソイツはコボルトリーダだ。動きと強さは雑魚よりあるぞ!」
リオンの注意で気を引き締める。確かにリオンが相手している奴より剣の速さが
格段に違う。それでもアキラには掠る事無く、ヒョイヒョイと剣先を避けて行く
ギンザの時と同じ様に相手の動きがしっかりと見えるアキラには、余裕で相手の
動きに対処できた。剣を振り下ろす度に敵の後ろへ回りこみ斬り付けるアキラ。
決まったと思える剣先はコボルトリーダーに傷は与えても倒す事が出来ない。
アキラの剣は軽いのだ。これでは幾ら傷を増やしても相手を倒す事は叶わない
彼の弱点が露呈してしまった。凹むアキラに一瞬の隙が生まれる。
その時、忍んでいた影が動いた。リオンが叫ぶ。振り向くアキラ。だが、影は
アキラを襲わずステーキへ一直線へと駆け寄る。『和牛』と影が線上で結ばれた
時、偶然コボルトリーダーが道を塞ぐ。「和牛」は取られる事無く、再び影は姿
を潜める。
「何で今、俺には見えなかったんだ?」
戸惑うアキラ。ソレを逃さず襲い掛かるコボルトリーダー。しかし雑魚を既に
倒したリオンの大斧がコボルトリーダーを捉えている。
「ズサッ!」
一太刀でアキラが苦戦していたコボルトリーダーは真っ二つに切られて絶命した
辺り一面、血の海と化した扉前。予期せぬ戦闘は終わりを向え、潜む影とは何も
変らなぬ睨み合いが再開する。アキラの様子に気付いたリオン
「何を呆けておる。戦場で気を抜くと死ぬぞ」
「お、俺。何でさっきの奴の動きが見えなかったんだ。ギンザもコボルトも
しっかりと動きを捉えていたのに、奴の動きだけは見えなかった…」
自分の身体に何があったのか考え込むアキラ。リオンが落ち込む彼に声を掛ける
「うむ。とりあえず肉は無事だ。丁度良い具合に焼けておる。生気を養え」
「否、流石にこんだけ生臭くてグロテスクな光景で食欲無いわ~」
「ん?そうか?中々にこのガーリックソースとやらは旨いぞ!」
「…」
異世界人の食欲恐るべし。アキラは不安と知恵がまた一つ増えた一時である。
三話 「交易・儲け・落とし穴」 完
*金額修正しました
500万$→5千$ 100万$→1千$ 1500万$→1万5千$