十四話 「湯煙・泡に包まれ・泡を吹く」
14話目となりました
湯煙の向うに見えるフローラが突然アキラが入浴中にも関わらず入ってきた。
「な・な・な・何をと突然!!」
慌てふためく初心な高校生…まぁそれも仕方が無い。仲間内からチキンの称号を
得ている男なのだから、動揺するのも無理は無い。
湯船にどっぷり浸かっているアキラから見ると、タオルを身体に巻きつける
フローラは非常に、際どい角度で下から見上げる立ち位置に居る。
「今日はお疲れでしょうから、お背中を流そうと思いまして
それに私も今日は少々汗を掻き過ぎましたから、一緒に流そうと…」
「あ~あぁ俺が長風呂だったかな。ゴメン!直ぐに上がるよ」
「良いでわ無いですか。私は貴方様の奴隷なのです。本来ならば全てのお世話を
するのが当たり前。せめて…今宵だけでもお背中を流させて下さい」
そう言われると断り難く出る事も叶わない。顔を真っ赤に染めながらアキラは
背中を洗ってもらう。
「お背中…広いですよネ。と言うか…私、殿方の背中をじっくり見たのって
初めてですけど、ウフッ。」
軽快に話をするフローラ。よくよく考えれば、彼女と出会ってからこんな風に
2人で話をしたことが無い。ロッテに劣らぬ美声の彼女。いつしか鼻歌交じりで
アキラの背を洗う。(あれ?さっきから背中に触れる感触が…)
「どうせですから、頭も洗いましょう」
返事をする前にシャンプーで頭を洗い始めるフローラ
「このシャンプーも石鹸もアキラ様がお持ちになった品は泡立ちが凄いですよね
『陽だまり』で使ってた頃、他の方が驚いていましたよ…次前洗いますから
此方を向いて下さい」
言われるまま動くアキラ。洗ってもらうが照れと嬉しさと羞恥心が
彼の心をコークスクリュの様にグルグルと掻き回されて行く。
ただ…彼女は洗うのが下手だ。シャンプーの泡が顔面いっぱいにまで広がり目を
開けては入られなかった。
「流しますね」
そう言って頭からズッポリとお湯を掛けられ一気に泡が消し飛ぶ
「ぷはっー」
と大きな息と共に眼を開くアキラ。目の前には要所要所に泡で身を包んだ
フローラが対座していた。
『クラ~』と一気に頭に血が上るアキラ。驚いたのは彼女だ。
「大丈夫ですかアキラ様!鼻血が!鼻血が!」
「…な、なんて格好で居るんだ」
「ですから、アキラ様の石鹸の泡が凄いですよ!と御見せしたくて」
「…いつのまにタオルを外したんだ!」
「お背中を洗っている時です」
彼女の台詞で、先程の最中に感じた…柔かい感触を思い浮かべるアキラである。
「き、君は顔に似合わず…無鉄砲と言うか大胆と言うか…ソレより早く」
そう言い掛けてアキラは後ろ向きになる。
「出来ましたら…私の背中…洗って頂けませんか?実は背を洗うのが苦手で…」
「・・・」
「アキラ様?「後ろ向いて!良いふりかえちゃ~駄目だからね」…ハイ♪」
ブツブツと小声でお経を唱えるアキラ。一心不乱に雑念を払いながらフローラの
背中を洗う。フローラは鼻歌を歌いだし上機嫌。そして風呂の向うから、
別の声が届く。
「フローラさんご一緒しても良いですか?」
シャロルの声だ。だが、雑念を払拭中のアキラにはその声は届かなかった。
「ハイ。構いませんよ。是非ご一緒致しましょう」
フローラの返事を聞いて風呂場に入るシャロル。彼女の目には、目つきが怪しい
アキラが一心不乱にフローラの背を洗う姿が飛び込んだ。
風呂場に冷たい風が舞い込み、我に返るアキラ。振り返れば、タオルで下だけを
覆ったシャロルが呆然と立っている。
「…本当にご一緒しても宜しかったのですか?」
「ええ。私達は共に同じ主に仕える奴隷。何を気にする必要がありますか
良かったら、シャロルさんもアキラ様に背中を流して頂けば」
「でわ、喜んでお受けいたします」
「…えっなんで?…ってか、シャロルって…着痩するタイプなんデスネ」
「私…正直疑ってました」
「何をですか?」
「だって、私を買って頂いたのに、一行にアキラ様はお声を掛けませんでしょ。
それに誰とも寝所を共に為さらないご様子だし…お顔もお体も素敵なのに…
もしかしたら、アチラ系のご主人様?ってガッカリしてました。
でも、お2人でご一緒にお風呂に入っているのを見て安心しました」
「あらあら、そんな心配なさってたんですか。大丈夫ですよアキラ様は少し
ナイーブな方ですけど、至極ノーマルな殿方ですよ」
フローラが湯船に浸かりシャロルの背を洗うアキラ。顔面真っ赤にしながら、
どちらを向いて良いか困りながら洗っている。そんな困り果てた主を無視して
話に花が咲く2人、大きな笑い声が風呂場に木霊する。
「おお~風呂場で女子会か~妾も参加するぞ~」
有無を言わさず風呂場に突入するロッテ。彼女の豪気な性格はタオルを肩に掛け
デーンと風呂場に乱入した。目のやり場に困っていたアキラの視線がロッテの
全身を捉えるのは当然の結果だろう。
「オ・オ・オ・オ・オヌシ!なななな何故風呂場におるのじゃ~」
アキラの視線に気付き慌てて両手で身体を隠すロッテ。しかしそれがバランスを
崩す。画して魔界の民、魔族の娘ロッテは、全身をアキラの視線に晒す羽目と
なった。
湯船に仲良く4人が並んで浸かっている。アキラ、フローラ、シャロル、ロッテ
の順番だ。中の2人は相変わらず話に花を咲かせ、両端のアキラとロッテは無言
で前を見据えていた。
「何故じゃ!何故ソチがこの場に居る。今は女子会では無いのか?」
「いや~何故って言われると…俺の方が何故って聞きたい気分で…」
「あら!?ロッテ様。これは女子会では無く親睦会です。アキラ様の誤解を解く
有意義なお時間ですわ。お蔭でシャロルさんの誤解も解けましたし」
「「ねぇ~!」」
「…そうなのか…だが、妾がヨモヤ、男と婚儀を前に風呂を共にするとは…」
「あら?ロッテ様はアキラ様とお風呂を共にするのは、お嫌いですか?」
「おお、お主等は何とも思わんのか?女子として恥じらいとか、未婚としての
貞操とか、持って居らんのか!」
「だって、私達は皆アキラ様の奴隷。所有物ですよ。主に隠し事等有りません
奴隷の本分としては、お世話の全部をしたいと思う位です」
「ロッテ様…もしかして肌を御見せる事が恥ずかしいのですか?」
「ばばばか、馬鹿を申せ!所詮コヤツはコヤツ程度じゃ。妾は妾ぞ!たかが
アキラに肌の一つや二つ。全てを晒した位で恥ずかしいなど、ああ在る筈が
無かろう。決してその様な事は無い!」
「そうですよね~だってもう既に全部御見せになったんです「シャロル!なな何
を申すか!アレは事故じゃ。妾の本意では無い!アキラお主も忘れろ!」
「じゃ~こうしましょう!これから毎日皆で風呂に入って洗いっこしましょう。
そうすれば、色んなお話出来ますし。楽しいですし。ねぇ~」
「良いですね~そうしましょう」
暴走するフローラとシャロルの発言に負けず嫌いのロッテは何も言えず、
アキラは既に完全にのぼせて意識混乱中。
かくしてチキン野朗はチキンのまま、淑女の罠に嵌り、夜毎風呂を共にする事に
なるが、その事は仲間内に知られる事は無いままチキンの称号は当分続く
十四話 「湯煙・泡に包まれ・泡を吹く」 完
如何でしたか




