十三話 「急転・好転・動顚」
十三話です
リオンやタマランが猫科の人間なら、ヴァシムが連れて来た娘は昆虫だろうか
恐ろしく腰が細い癖に胸と腰は人並みに在る。オマケに小顔だ。
八頭身いや九頭身在るかもしれない。足の長さ等正直、
横に並びたくない気分にさせられる。
「名はシャロル。歳は15です。細工師で『錬金術』のスキル持ちです。
投擲や鞭と云った遊撃手的な動きが出来る娘です」
自慢げに連れて来た娘を紹介するヴァシムである。だが、アキラが求めるのは
鍛冶師を求めているのだから、当惑する。
「先程のロッテ様とアキラ様のお話を聞く限り、お求めの娘は、コチラが最適と
思えます。なぜなら、鍛冶師には付与カードを武器に合成する方は皆無に近い
からです。つまり鍛冶師とは鍛冶場で武器を造る者。具足師とは鎧、防具服を
造る者。そしてソレ等に付与魔法を付ける者を錬金術師です」
成程、確かにそう聞けばアキラが探しているのは錬金術師だろう。
そして錬金術師と云う職は無い。あくまでスキルの一つ。
まして、攻撃魔法に長け、付与カードを作れる魔術師は今まで聞いたことが無い
らしい。ろっては正に逸材と言える。で、あれば彼女の能力を引き出すのに
必要なのは錬金術の業を持つ者が相応しいと考えたって事だ。
「判った。ヴァシムさん有り難う。じゃ~彼女を引き取ろう。幾らかな?」
「御代は結構です。ロッテ様の事よろしくお願いします」
付与魔法と付与つき武器を探しに行ったアキラだが、蓋を開ければ新たに2人の
娘を連れ帰る事になり。宿で待っている者達は驚くほか無かった。
特に頭からフードを被っていたロッテを紹介するとタマランは髪の毛がケバ立た
せる程驚きを見せ、リオンは肩膝を付いて頭を垂れた。
「う~ん流石にアキラさんの部屋に後の2人追加するのは厳しいわね~」
とアデルが頭を悩ませる。ロッテは個室を求めるし、タマランは当然同室を断る
結果アキラはアデルの紹介で小さな家を借りる羽目になった
「これって…返って出費がデカクねぇ?」
と愚痴を零すアキラだが、ダンジョン攻略していけば黒字に転ずるだろうと
リオンの言葉で幕を下ろす。序に言えば、新居にはリオンとタマランは来ない。
『嫁候補達と親睦を深めろ』のリオンが一言で片付けたからだ。
「あぁ~家の世話は私の従姉妹にさせるから、お給金は弾んでね」
と家事一切を任せられる娘をアデルが世話をする事で、生活の不安は解消。
何せ、集まった奴隷達は誰も家事には不向きな者ばかりだから仕方が無い。
「じゃ~会議や集会はここで、食事は…デリーさん!リオン達も加わると
大所帯になるけど大丈夫ですか?」
「ハイ。実家は8人家族で家事は、私一人でしてましたから問題ないです」
デリーがアデルの従姉妹、人間族の女性で既婚者だ旦那は冒険者ギルドの職員
安月給な為、働き口を捜していたらしい。週五日で家事全般、これで月4百$
だから、多分安いのだろう。そして家賃がは月5百$日本円で約5万。
7LDK庭付き2階建て。日本なら超格安物件だ。
風呂とトイレとキッチンに早速ロッテに頼み込んで魔法カードを作成。デリーに
簡単な装具を作らせカードを付与。後で判った事だが、ロッテのカード作成は
どんな魔法でも可能で魔力は使い切った後は、消える事は無く魔力を補充すれば
何度も使える高度な魔法カードだった。
おかげで、労力の掛かる水汲みが不要でオマケに風呂も簡単に沸く。
トイレは乾燥方式を採用。紙は燃え、灰は庭の園芸に使えるエコ仕様だ。
1階にリビングと風呂・トイレそれとキッチンに食堂、そして空き部屋が1つ。
2階に其々の部屋を割り振る。一番デカイ部屋はロッテ。見晴らしの良い部屋が
アキラ。フローラはその隣。シャロルは角部屋と決まり、残りの2部屋は客間。
家具は備え付け、キッチン道具も揃っている。日用品の買い足し位で即入居が
出来た。ロッテが高級家具を所望するが、ここは賃貸だからと拝む倒し我慢
して貰ったが、天蓋付きのベットをヴァシムから買わされる事になる。
結局その後も色々とゴネル魔族の娘。気がつけばヴァシムのトコの家具一式が
部屋に埋め尽くされる形で落ち着いた。涙目のヴァシムには、分割で払うから
と承諾を結んで一応の解決となる。
シャロルに小さな卓上炉を購入。これで皆の分の装飾品も追々造れるだろう。
先ずは、今身に着ける防具と武器に其々、耐火・耐熱と石化・麻痺・沈黙を
それぞれ付与してもらう。リオンのハルバートには麻痺を付与。タマランの
ナイフには沈黙。アキラのバスターソードには毒。フローラの弓には忘却。
シャロルの鞭には石化。そして皆の盾や鎧には、耐火耐熱を施した。
隊列はリオン。アキラ。タマラン。シャロル。ロッテ。フローラの順で決まる。
魔法攻撃は熟練者だと無詠唱で行なうらしいが、一瞬足元に魔方陣が
浮かび上がる。そこを遊撃のタマランとシャロルが優先的に攻撃する事で、敵の
魔法を阻止する狙いだ。リオンとアキラが前衛で敵の盾を潰し、フローラの矢で敵に隙を与えず、ロッテの魔法で大打撃。ダンジョン攻略はこうして始まった。
「今だ!」
アキラの合図でフローラが矢を放ち魔物の詠唱を止めると間髪入れずロッテが
火の魔法を放った。
立ち込める煙が消えると魔物の姿は無い。代わりに壁に煤がこびり付いている。
此処は、町の南のダンジョン。3兄弟が苦戦した迷宮だ。アキラ達は今2階の
フロアーを攻略中である。目標の魔物集団は5階。まだまだ先だが、新設した
ばかりのチームには連携プレイに慣れる為、良い具合に訓練となる。
「ロッテ殿の火力は凄い…が、コレでは魔物を倒した証やら金に換わる品まで
灰になってしまうな。潜る度に赤字では、今後の攻略に支障が出るぞ」
とリオンが釘を刺す。
確かにロッテの火力のお蔭で、スイスイと1階フロアーは攻略が済んだ。だが、
リオンが指摘する通り、冒険者は只、魔物を倒すだけでは金に成らない。
討伐依頼や部位集めの依頼でも倒した魔物から収穫が在ってこその話だからだ。
「むむ。妾の力が強すぎると申すか。ならば、より強きモノを倒すがよかろう」
相変わらずの我侭娘のロッテだ。ここは早めに修正しなければと悩むアキラ
「ロッテ様。冒険者は倒した魔物から戦利品を獲る事で糧を得ます。それは、
アキラ様も同じ事。アキラ様が替えを得る事が叶わなければ…ロッテ様が
お気に召した『から揚げ』もその内食べれなくなります」
フローラは別の角度からロッテを攻めた。細身の魔族ロッテ。
見た目にも関わらず彼女はアキラが新居祝いに料理した『から揚げ』が
大のお気に入りだ。滴り落ちる肉汁に塩み加減。カリッと香ばしい衣。
黙っていれば、一日中食しても飽きないと豪語する。
「何?から揚げはアキラの持つリュックから、無造作に限りなく出てくる物では
無かったのか?…それは…拙い。うむ…不本意だが、妾は少し力を抜こう」
フローラやっぱり君は賢いよ。
火の魔法から水の魔法に替えた事で魔物は焼け崩れる事が無くなり、代わりに
体内の水分が異常沸騰する所謂蒸し焼き状態で死滅する。残骸を埋める作業が
増えたが、蒸し焼きの為、解体処理は格段に早く片付いた。
「よし2階フロアーも完了だ。続きは明日行なおう」
無事収穫を得られるようになり、連携もサマに成った事で、一区切り付け帰る
今夜の夕食にから揚げが無い事でロッテが爆発しかけたが、明日は倍の量を準備
すると約束を交わす事で落ち着きを取り戻す。
「ふぅ~やっと一息つけたな」
温かい風呂に浸かるアキラ。女性達と共に暮らし始めたが今だ、慣れず片身が
狭い生活を送っている。特にロッテの気難しさには、頭を悩ませるばかりだ。
そんな彼の憩いの時間が風呂なのである。女性ばかりの家の中で唯一独りに
なれる一時、この時彼は、素の高校生男子に戻る事ができるのだ。
「アキラ様」
ドアの向うからフローラが呼ぶ。いつも彼が風呂に入ると、こうして来ては
一声掛けて着替えを取り替えるのだ。
「湯加減は如何ですか?」
「うん。良い湯だよ」
「今日はお疲れになったでしょう」
「…そ~だね。少しハードだったかな」
「でわ、お背中流しますね」
彼女は、そう言うと風呂のドアが開き、風呂場にフローラが入ってきたのだ。
十三話 「急転・好転・動顛」 完
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