十話 「買い物・騒動・知人」
十話です
フローラがツインズでは無くエルフである事を隠しつつ、アキラは今後の方針を
話し合う。今回大きな出費が無かったとは言え、メンバーが4人に増えた事で
何かと出費が予想される。そこで本格的に冒険者依頼を受ける事に皆合意した。
「リオンと俺が前衛、タマランが中、フローラが後方支援。陣形はこれで
決まりだな。後はフローラの装備を揃えるだけか。回復魔法するなら
杖とかが良いのかな?」
「いえ、杖を必要とする回復魔法は学んでいませんので、弓が良いかと思います
後方からも十分狙えますし、皆さんの戦っている隙を突けると思います」
「了解。後は防具だけど…」
アキラがそう言ってフローラを見つめる。全身黒のエナメル調の女王様仕様の
格好に目のやり場が無い。パトリックがフローラ用に作らせた服の一つだが、
これが素材が良い為、防具服として十分な性能を誇っているのだ。リオンですら
『うむ。無駄なデザインだが、しっかりと防具の働きは在りそうだ』とお墨付き
が出たので、そのまま着用となったが…彼女が前衛自分が後衛で無くて良かった
と思うアキラである。
「それじゃフローラと弓を見てくる。二人はどうする?」
「ワシはこのまま残って待っておる」
「私もニャ~」
なるほど、今日はポカポカ天気。猫科の2人は揃って日向ぼっこですか。
武器屋でアレコレと弓を選ぶフローラ。ソレに対しアキラは周囲の視線が
気になって仕方が無い。此処は武器屋。荒くれ者が立ち寄る店だ。そんなトコに
艶かしい長い足とキュッと上がった小振りなお尻に、これでもか!って位に持ち
上げられ3割増しになった胸。そんなフローラをさっきからブタ野郎達の視線が
追っているからだ。
「アキラ様。短弓と長弓どちらが宜しいですかね?」
「え?あ、あぁー。フローラが使い慣れてるのは?」
「長弓ですね。的は絞りにくく扱いも難しいですが、距離が稼げましたから
あっ!でも皆さんとPT組むんですし、距離より正確さと取り回しを考えた
方が良いですね!…アキラさ・ま?…聞いてます?」
「あ~ゴメン!ゴメン!ちゃんと聞いてるよ。長弓が良いんだよね」
「もう~やっぱりお聞きに為ってないじゃ無いですか~」
と軽くアキラをポカポカと叩くフローラ。その仕草がまた可愛い。彼女の後姿に
熱い視線を送り続けていたブタ共が、ついに怒りをアキラに向ける。
「にーちゃん。ちょいと顔かしな」
2人の強面がアキラの肩をがっちりと掴み店の外へ連れ出し、フローラが
心配そうに付いていこうとすると、残りの独りが軽く押し止めた。
小柄なくせに上半身が異常に発達した2人。特に上腕二頭筋の太さはフローラの
細い腰周り位在りそうに思える。残った男もアキラを連れ出したこの二人も顔が
そっくり、三つ子っぽい。顔は大きくは無いが面の皮は厚そうで異常にデカイ顎
と覗かせる犬歯がギラリと光ってる。見た目は人間そのものだけれども、毛深い身体に髪を三人揃って染めているのか三色斑の毛色だ。
『あ~何かに似てるって思ったけど…コイツラ斑ハイエナにそっくりだな』
差し詰め太い腕とデカイ顎と光る犬歯がコイツラの武器か?と考えたアキラ。
「にーちゃんに特に怨みは無いが、あんな可愛い娘ちゃんとイチャついてるのを
見せ付けられると馬鹿にされた気分でよ~悪いが2~3発殴らせて貰うぜ」
ここまで理不尽な言い掛りも最近聞かない。返って笑いが込上げる。その態度が
男達の心の火に油を注ぐ事になる。
「あ~!兄ちゃんコイツ今笑った。」
「俺にもそう見えたぜ!容赦しないでブン殴れ!」
武器は無いと思っていたアキラ。だが男達のグローブにはナックルカイザーが
仕込んである。一撃を何なく避けると、男の拳が建物の壁にめり込んだ。
「本気かよ。そんなパンチ喰らったらリオンでも気絶するんじゃね?」
アキラの何気ない一言が男達の動きを一瞬止めた。その隙を逃さず、アキラは腰
に下げたバスターソードの柄で奴等の鳩尾を突く。
本来ならば、その一撃で倒れこむ筈だが、打たれ強いのかアキラの力が無いのか
男は倒れる事無く此方を睨んでいる。
「動きは良いようだな。その分痛い思いが増えるだけだぜぇ」
台詞を終える前に連携で襲い掛かってきた2人。流石三つ子だ、息の合った攻撃
でアキラに息つく暇を与えず連続パンチを繰り出してくる。
真理のスキルは以前の相手の動きを読むよりも範囲も効果も高い。連続パンチは
掠る事無く空振りに終わった。だが、相手も伊達にイチャモン付ける奴でも無い
2人とも息を切らす事無く不敵な笑みをアキラに向けて立っていた。
「兄ちゃん…コイツ全部避けやがった」
「ああ俺達の攻撃全部避けたのはあの人以来だな。こりゃ~あの姉ちゃん以上に
楽しめそうだ。…おいお前!しっかり遊ばせてもらうぞ」
そう言って兄ちゃんと呼ばれる男は、アキラとサシで向かい合う。その間に弟は
店に残ってる男を呼びに走って行った。
三人揃った男達。きっとこれが本当の戦うスタイルなんだとアキラは気合を
入れ直す。フローラの姿が無い。心配するアキラに男が応える。
「安心しな。もう姉ちゃんに興味は無い。お家に返って貰ったよ。それより
テメェの動きが俺達の技に何処まで耐えられるか楽しみだ。
精々派手に踊って見せてくれ」
いつの間にか、路地裏は荒くれ共の人垣が出来ている。アッチでは賭けまで
始まっている。『まったく。何処行ってもこの世界はこんな感じかよ』と悪態を付くアキラ。
「あ~でも参ったな。奴等のパンチは避けれても、コッチの攻撃も効かないん
じゃ終わんねぇ~しな。人が少なきゃ隙を突いて逃げれるんだが…」
ブツブツと喋りながら6つに為ったパンチをヒョイヒョイと避け続けるアキラに
観客達がうぉ~。と歓声を上げ喜んでいた。
「くそ~コッチは見世物じゃねぇよ」
と吐き捨てるアキラに一発もパンチが当たらない男達も苛立ちを見せだした。
「くそ~いい加減当りやがれ!」
大きく振りかぶった腕がガシッと握られる音がする。
「誰だ邪魔する奴は!」
振り上げたこぶしを捕まれたまま宙に持ち上げられ文句を言い出す兄貴分。
自分を持ち上げる相手を見つめ固まっしまう。
「相変わらず人騒がせな奴等だな。バル久し振りだな」
「「リオンの兄貴」」
残りの2人が巨体の男の名を叫ぶ。アキラと戦う三兄弟。その長兄を吊り上げて
いたのは、アキラの護衛兼指南役の仲間リオンである。
「兄貴…いつこの町に」
ぶら下ったままの長兄が申し訳なさそうにリオンに笑い掛けている。その後姿は
まるで子犬が尻尾を振っている様で滑稽な姿に映って見えた。
騒動はリオンの登場で静けさを取り戻す。フローラがリオンを呼びに行ってくれたお蔭で、事は丸く収まり始めたのだ。人垣はリオンの睨みで解散。
三兄弟はアキラとフローラの前で正座している。まるで叱られている腕白子犬が
並んで居る様にしか見えない。
「…で、コイツが長兄のバル。コッチが次兄のブル。で最後がボルだ。
それで、こっちはアキの孫アキラとその嫁候補のフローラだ」
仲裁約のリオンが正座する三兄弟とアキラ達に紹介をしていくと三兄弟は改めて
腰を抜かした。
「ええぇ~コイツ、否この方は、あの…アキさんのお孫さんですか?」
「ああ、そうだ。今回は来てなくて良かったなお前等」
婆の名を聞いて警戒を強めた三人だが、リオンの台詞で緊張を解く。婆の知らない過去を思うアキラである。
荒くれ三兄弟。ルルガンを拠点にそれなりに名を売っている冒険者。過去に婆と
リオンにコテンパンにされた経緯があるらしく、それ以来頭が上がらない。
アキラに喧嘩を売ったのは、最近、町の南に出没したダンジョンで思いの外成果
が上がらなかった憂さ晴らしらしい。その言葉にリオンの眼が光ッた事をアキラ
は逃して居なかった。
「ほ~お前達でも梃子摺るダンジョンか…楽しそうだな」
リオンの不適な言葉がアキラに向けられる。
「あぁ~やっぱり!?」
と肩を落とすアキラである。
十話 「買い物・騒動・知人」 完
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