川原真由美の告白と「超越探偵 山之内徹誕生」
さて、いかがでしたか?番外編。
え?話と違う?
えーー、真由美は何も嘘は言ってませんよ。
真由美は嘘をつかないんだから
言った通りだったでしょう
真由美、過去編だなんて言いましたか?
「超越探偵 山之内徹誕生」ってタイトルなんだから、過去編に決まっているだろう?って?勝手に決めないで下さいよー。決めつけはよくないって、番外編本編でも語られていたでしょう?
真由美はちゃんと言ってますから。
――真由美からしてみれば過去の話だし、語られる物語の登場人物にとってみれば現在の話だし、物語を順番に読んでいる皆さんからすれば、未来の話、という事になるかしら。――ってね?
あとも全て嘘を言ってませんから。
徹君を創ったというのも、
二人の徹君というのも、
たくさんの私というのも、
まあ、嘘だと思うなら、もう一回冒頭を読み直してきてください。
色々とありまして、徹君の所を飛び出して「謎の組織」に入って、滅茶苦茶やって、気が付けばボスになっていました、と。簡単に言えばこうです。
で、ボスになった事だし、新しい徹君でもを創ろうかなと思って、今回の可愛い徹君の話です。
まあ、ちょっと素直で良い子過ぎたかな、とも思います。
だから途中で読んでいる人は「ああ、これは偽物だな」と気がついちゃったと思うけど、まあ、そもそも私最初から「徹君を創った」とかネタバレを言ってますから、騙される人もいなかったでしょう。 いやあ、最初から知っていて、本当に良かったですね。
ただ、昔の真由美と徹君を少しトレースしてあるから、初めての事件の概要だとかは、まあ似た様なものだったと思いますよ。
本物の徹君はガンガンハッタリ使いまくったけどね?
というかハッタリだけでなんとかした!って感じ。
え?その話が知りたい?
嫌ですよー。恥ずかしい。最後真由美が封印されちゃうんですから、徹君に。で、もう一人の真由美が生まれる。ただそれだけの話です。
これが、現在。
2014年12月の、
真由美と、徹君の現在。
皆さんにとってみれば本編から三年後の未来編という事ですね。
「超越探偵シリーズ」で言う所のクライマックスかもしれませんね。
ね?知れてよかったでしょう?
お得感あるでしょう?
真由美は嘘をつかないんです。
あ、でもタイトルは微妙に嘘だったかも
今回は「超越探偵 山之内徹誕生」というタイトルに見合った内容でも、なかったかもしれませんね。
「超越探偵 備前之内徹誕生」?でもこれだったらネタバレにも程がありますよね(笑)
んー。まあ。そこは目を瞑って下さい。それか誰かもっともらしい考察を考えて下さい。一番良い理屈か屁理屈を提示した人の意見を採用しますから♪
それでは、このまま真由美視点で終わりますね。
「謎の組織」のボス。世界の全てを支配する真由美が、この番外編を終わらせる。当然でしょう?その権利が真由美にはありますから。
おや?
電話が掛かってきました。
徹君からです。
真由美は電話を取ります。
「徹君、どうしたの?」
――よう真由美。久しぶりじゃねえかよ。
真由美と徹君の会話は、二年振りです。真由美が真由美として復活して以来。
――どうよ?元気にしてんのかよ?
「うん、元気だよ」
――そうか、ならいいんだけどよ。風邪引くんじゃねえぞ
「うん。ありがとうね。徹君は相変わらずだね。あ、でも金髪もピアスも長身も、似合ってないよ」
――うるせえよ。誰の所為だと思ってんだ。ていうか長身は仕方ねえだろうが、伸びちまったんだからよ。長身が似合わないってどういう事よ、ちょっとショックだわ。
「あはは」
――小さい俺いたけど、貰っていくな。
「いいよ。どうせ失敗作だし」
――あと昔のお前みたいなのもいたけど、話になんねえよ。あんなんじゃ。
「えー、そうかなあ。自信作だったんだけど」
――全然違うじゃねえかよ。もっと怖いよお前は。フィジカル弱過ぎるし。象を眠らせるスプレー如きで寝たぞ。お前なら象も喰べ散らかす勢いだったもんな、昔は。事件の喰べ方も野蛮だしよ。劣化ってもんじゃねえな。別物だありゃ。貰ってくぞ俺が。しっかりとマナー教えてやるからな。
「お嬢様みたいな感じにしてあげて。昔の真由美みたいに」
――ああ、お嬢様系になって子供が虫をバラバラにするような無邪気な冷酷さで謎を謎でなくしていく感じな。分かったよ。
真由美はそこで少し違和感を感じました。徹君のその言葉に。
今、徹君は物語を、超えたりしなかったでしょうか?
今の徹君の言葉は、感想欄の言葉です。
OLDTELLER様から頂いた、感想の中にあった文言。
…………変ですね。
二年前、私が奥へと逃げて、真由美が復活してから、徹君と決別した時、徹君の能力の全てを奪っていきました。
だから、徹君に能力は一切ない筈です。
あの打ちひしがれた表情は、今思い出してもゾクゾクするぐらいの絶望でした。
それから徹君の話は一切聞かなくなりました。
それが一か月前、突然、特別指名手配犯として、世に出てきたのですから、驚きです。
それも、犯罪者達をどんどん解放していって、仲間にしているそうではないですか。今や犯罪者の希望の星です。
一体、何があったのでしょうか
今の発言と良い、この二年間で、いや、この一ヶ月間で、何があったのでしょうか?
能力を取り戻したのでしょうか。
……まあ、どうでもいいです。
どうせ、昔の徹君ではありません。
真由美の知っている、優しい徹君ではありません。
真由美は真由美と徹君でいたかった。
でも、もうそれも叶わない。
だから、真由美は新しい徹君を創ったんです。
――小さい俺の方は、まあ、そこそこ優秀じゃねえかよ。あれは俺のあの時よりよっぽど頭キレるぞ。というか、俺推理で負けたし。
「徹君の方が格好良いよ。『てめえみたいな化物は引っ込んでろ!俺が今からお前の前で起こる全ての事件を解いてやるからな』だよね?」
それで、真由美は封印されて、私が生まれた。徹君の側にいられる、川原真由美。
――ははは、よせよ。恥ずかしい。まあ、それもだんだん普通の真由美に慣れてきて、だれてきたんだけどな。
「その結果が今だもんね」
――まあ、近々会いにいくからさ。
「うん」
――だからさ
「うん」
――いい加減、泣くんじゃねえよ。
「泣いてないよ?」
――嘘つけよ。
嘘です。真由美の右目からは涙が流れています。
溢れて溢れて止まりません。
でもこれは真由美じゃないんですよ。
私なんです。
もう一人の真由美。
だから右目だけ。
本当に徹君が好きなんですね、この子は。まあ、あれだけのナイトに、五年間守ってもらっていたんですから、好きになっても仕方がないでしょう。
お姫様でもなんでもない癖に。
化物の癖に。
真由美と何にも変わらない癖に。
自分ばっかり……。
真由美には徹君との思い出なんてないんですから。化物の真由美には。
あーあ、羨ましい。真由美だって、徹君に愛されたかったのに。
愛したかったのに。
好きで、化物だった、訳じゃないのに。
人って勝手です。
――真由美?聞こえてんのか?
「……泣いているわけないじゃない」
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。
会いたい会いたい会いたい会いたい徹君。
真由美の中の私が叫び声を上げる。
うるさいよ、自分で引っ込んでおいて、黙っていてよと、真由美は窘めますが、私は聞いてくれません。
もう、仕方がないですね。
「それなら。いいよ、ちょっとの間、私に代わってあげるから」
大好きな徹君と、大好きな真由美ちゃん同士、お話でもしてなさいよ。真由美は知らないから。
――おいおい、何勝手な事してんだよ。今のは「お前」にも言ってんだよ。
その言葉で、真由美も私も、黙ります。「お前」?真由美の事?
――良いか、真由美、よく聞けよ。悪かったな、化物扱いしてよ。お前も、真由美なんだよな。というかお前が元々の真由美だもんな。俺が封印しちまっただけでさ。今回お前が俺を創って、更にはお前も創って、似た様な事件を創って、何がしたいのか初めは分かんなかったけどさ。お前は俺に、認めて欲しかったんだよな。存在を。どこかに別の俺達のストーリーがあるんだとしたら、見てみたかったんだろう?だから、悪かった。ゴメン。謝ります。やっと気が付いたぜ。でもこれ、中学生には気が付けないぜ。やっぱ高校生じゃなきゃな。
そう言って徹君はかかか、と笑います。
「何言ってんの。そんな筈ないじゃん」
徹君の言う通りでした。徹君が今言った全てが、真由美の行動の全てでした。
真由美は救われたかった。他の誰でもない、徹君に救って欲しかったんです。
化物の癖に……でも、化物だって、生きているんです。
今流れているこの涙は、誰の涙でしょうか?
今、どっちの瞳から涙が流れているのかは、言いたくありません。
それに、今更そんな事言われたって、真由美には、真由美にはどうしようもないじゃない!!!
「何を言ってんのよ!!ムシの良い話してくれてさ!!今まで散々放っておいて、別の真由美と、私といちゃいちゃして!!それでこんな事になって!どうしてくれるのよ!!手遅れなのよ!!真由美はもう徹君には会えない!!徹君は組織が、真由美が殺しちゃうんだから!!絶対!!!もう…………手遅れ……なのよ!!!!!」
もう、訳が分かりません。真由美と私が混じった様な感覚で、徹君を責め立ててしまいます。
早く電話を切らないと。
物語を終わらせないと。
だって、語り部は真由美なんですから。
真由美には、神の様な視点が備わっているのです。
それは最高の権利ですけど、
物語を終わらせなくてはならない、責任もあるのです。
徹君には構ってられません。
電話を切って、皆さんにご挨拶をして、この番外編を終わらせる。
それが、真由美がしなくてはならない事。
はい、決めました。
ですが、飄々と徹君は、こんな事を言ってきます。
――まあまあ、怒んなよ。謝ってんだからさ。それに、まだ全然手遅れじゃねえぜ。俺がいるんだからさ。あとさ、いい加減、俺人称でも語らせろよ。
「はあ?」
俺人称?何を言っているんだコイツは、馬鹿じゃないか、と――受話器越しの真由美は思った。
最高に格好良い俺様は、ニヤリと笑う。
――なっ………………!!!
「なあ、返してもらったぜ。『超越探偵シリーズ』はさ、主人公視点が売りなんだからよ。じゃないとこの物語は盛り上がらないんだぜ?――(ダッシュ)で語るのって、脇役っぽいじゃーん。」
――え?……何?どういう事?
真由美はまだ視点を取られて動揺している。俺は気にせず話し続ける。
「いくら番外編だからってよ、俺視点がないと、読者も離れていくってもんよ。当然だろう?主人公はこの俺、山之内徹なんだからよ。さあ、PV稼ぐぜ!読者の皆様!第7回アルファポリスミステリー小説大賞、宜しく!!」
――もう…………一体、何を言っているのよ?
真由美の困惑した声が耳に響く。
高校二年生の俺を舐めんなよ。物語の視点変更だってお手の物。メタ発言だってしちゃう。
全てを…………超越してやるぜ。
「おい、いいか真由美。よく聞け。『超越探偵』ってのはな、ただ額に犯人が見えるだけの代物じゃねえんだよ。それをお前に教えてもらったんだ。能力を奪ってくれて、ありがとうよ」
そうだ、俺は自分がただの高校生だと気が付いた。絶望に打ちひしがれた。
そうしたら、周りには俺より凄い人達がいっぱいいた。
つまり、俺一人の力で出来る事なんざ限られてんだよ。
だから、今までの「超越探偵」っていうのは、お飾りの、嘘っぱちだ。
「超越探偵」なんてものは、存在しなかった。
――今まではな。
俺は、俺達は、これから本当の「超越探偵」になる。
高らかに宣言する。
「いいか真由美。超越探偵というのはな、
捜査を超え
推理を越え
真実を越え
倫理を越え
犯罪を越え
罪を越え
罰を越え
正義を越え
悪を越え
憎しみを越え
愛情を越え
苦しみを越え
喜びを越え
希望を越え
絶望を越え
時間を超え
時空を越え
作品を超え
物語を超え
全てを越えて、川原真由美、お前を攫いに行く。
それが超越探偵山之内徹の『超越』の意味だ。
さあこれが本当の『超越探偵 山之内徹誕生』だよ。
ハッピーバースーデーを歌ってくれよ!盛大に!」
それが俺が今から「超越探偵」を名乗る理由だ。
「分かったか!ちゃんと歯を磨いて、お風呂入って、ぴかぴかにして、待ってろよ!」
受話器越しの向こうからはもう、何だかグスグス涙混じりの嗚咽と鼻水をすする音ばかりが聞こえてくる。その状態がしばらく続き、俺は待った。
返事がきた。
――……待ってる。……待ってるからね。徹君。…………あのね、大好き。
俺は、ゆっくりと笑う。その告白に、胸が満たされる。
「ああ、俺も……愛しているぜ」
そして、俺は通話を切った。
チビが見上げていた。
「かか、お前には、まだ早いよ」
頭をくしゃくしゃにする。
チビはうっとうしそうにその手を払いのけた。
さっきの真由美はどっちだったんだろうな。
まあ、どっちでもいいか。どっちの真由美も、真由美なんだから。
俺は空を見上げて、仲間の下へと歩き出した。
――― ――― ―――
「マリーアントワネット号殺人事件」
この事件は世界を裏から操作する秩序の担い手、「謎」のバランサー、川原真由美率いる「謎の組織」と稀代の大悪党、犯罪者集団を束ねる「犯罪者たらし」こと、山之内徹の最終決戦、その一ヶ月前の出来事であった。
ご愛読、誠にありがとうございます。
「超越探偵 山之内徹」番外編《未来編》「超越探偵 山之内徹誕生」でした。
あれが、山之内徹の最終形態だと思って頂いて、構いません。
ですが、本編であそこまで行く事はないと思います。
ジャンルが変わってしまいますので(笑)
まあ、リクエストが多ければ、あの先まで書く事もあるかもしれませんけどね。「超・超越探偵」はいつものノリでお送りしようと思っています。
一応叙述のヒントは作中に幾つか転がしてありますが(GDPや如月の誕生日の逆算で2014年と分かる等)あとは真由美が最後に言っていた事とか。ですがまあ、卑怯にも程がありましたね(笑)
解説や言い訳は後日、感想の返信や、あとがきの加筆でやろうかと思います。
最後に、遅くまで更新を待って下さった読者様と、いきなりメタ登場させて頂いたOLDTELLER様に、深くお詫びと、御礼を申し上げて、「超越探偵 山之内徹」ファーストシーズンの全てを完結、とさせて頂きます。
誠に、有難うございました。




