超越探偵 山之内徹誕生⑧
ヘリから降り立った人物はとてもハンサムなお兄さんだった。
「トオル、大丈夫か」
「おう、範人、おせえじゃねえか」
「すまない。クロダさんが先に船の中枢を制圧した方が良いって。伏兵がいるかもしれないから。そこでクロダさんだけ置いてきた」
「そうか、黒田さんなら、間違いねえな」
徹さんは大きく頷く。黒田さんなら、間違いないらしい。
「お前は『正義の犯罪者』谷崎範人か?」
如月が、範人さんに向かって話しかける。
「……いや、ただの犯罪者だよ。オレは」
振り向いて、範人さんは答える。
「塔子、遊。お前達は徹達を守れ」
「はい!お兄様!」
いつの間にか僕達の傍らには、二人の少女が立っていた・
今の台詞からすると、範人さんの妹らしい。
「おのれ……範人!!」
そして徹さんが歯噛みする様な表情で範人さんを見ているのは何故だろうか。
対峙する犯人達と、範人さん。
「悪いな。うちのトップは荒事が苦手でね。オレが相手だ」
「ほざけ。お前達、撃て!」
号令と共に、範人さん目掛けて、銃弾が飛ぶ。僕は当然、その弾は目に見えない。
範人さんはその場を動いていない様に見えた。これはマズい。僕は先程自分が撃たれた時の胸の痛みを思い出し、戦慄を覚えた。
「範人さん!」
「大丈夫だよ。お兄様が銃如きにやられるわけないから」
僕の頭に手を置く少女。とは言っても中学生ぐらいなので僕にとってはお姉さんなのだが。
「私の名前は剣遊。お兄様の一番弟子さ!」
「遊ちゃんズルい!お兄様の一番弟子は塔子でしょ!」
徹さんの傍らについているもう一人の少女(再三言うが、僕にとってはこの子もお姉さんなのだが)が非難の声を上げる。ちなみに徹さんはその少女の足元にすがりついてブルブル震えている。なんだこの高校生は。
「塔ちゃんは、一番妹ってこの前決めたでしょ?で、城ちゃんが一番僕っ子。盾ちゃんが一番搾り。私だって一番妹が良かったんだからね。我慢してよね」
「それなら塔子だって一番搾りが良かったんだもん!絶対一番搾りが良いよ!」
一番搾りってなんだ?なんだかとても卑猥な感じがするけど、小学生の僕には分からない。
そんな会話をしながらも範人さんには銃弾の雨が降り注いでいる。そして少女達は飛んでくる流れ弾を腕に嵌めている手甲でカンカンと弾き飛ばして、僕達を守ってくれている。徹さんはその度に「ひいい!」と悲鳴を上げている。
そして、しばらくして、銃声がようやく止んだ。
「へへへ、蜂の巣にしてやったぞ」
ゆっくりと白煙が霞んでいく。
そして、その場所に範人さんは立っていた。元いた場所と変わらぬ場所に。
「……な!!なんだと!!」
犯人達は驚きの声を上げる。
「……銃は強い。それは知っている。人間が作った近接兵器の極みだからな」
範人さんはゆっくりと、犯人達に向かって、歩き出す。
「……銃は強い。だが、それを傲慢に使う人間は、等しく弱い」
犯人達は、その歩みに恐怖し、再び銃弾を浴びせる。
「弱い人間の放つ銃弾に、心は籠らない。そんな弱いモンが、オレに届くとでも思っているのか?」
範人さんの歩みは止まらない。そして銃弾は、当たらない。
犯人達の前でピタリと止まると、初めて構えをとり、言った。
「皆が言う。正義はオレと共にあると。違う、オレが正義と共にいたいだけなんだ」
「出た~!!お兄様のキメ台詞よ!!」
「お兄様……超絶格好良いです……」
遊さんと塔子さんがウットリした顔で範人さんを眺める。確かに、あれは格好良い。まさにヒーローの極み。
この絶対的存在感。
いるだけで決まる、超絶格好良い主人公の雰囲気。
「おい、お前それさっきの俺の時のヤツのアレンジじゃねえかよ。何で範人の方が上っぽく使ってんの?」
「あ、さっきのは後で編集で消しておきますから」
「クソガキが!!」
僕達の会話を余所に、戦いは続いている。
「撃て!撃て撃て!!」
犯人達は範人さんを至近距離で狙う。だが、その攻撃はあたらなかった。いや、そもそも銃弾は発射されなかった。
僕には何が起きたのか分からなかった。
範人さんが、5人をすり抜けたようにしか見えなかった。
次の瞬間、全員がゆっくりと倒れていった。
「安心しろ。傷一つつけていない。どこかに痛みを感じる事すらないだろう」
範人さんは、そう言って笑った。
「トオル。怪我はないか」
「ああ、ご苦労さん」
僕達の下へと歩み寄ってくる範人さん。そして、僕を一瞥すると優しく話しかけてくれる。
「お前が、トオルのレプリカの子かい?」
「はい範人さん!はじめまして!備前之内徹と申します!」
「おいおいおい。随分、懐いてんじゃねえかよ」
「備前之内……。じゃああれだな、マサムネさんの所で面倒見てもらわないとな。トオル」
「ああ、そうだな。俺もそう思っていたんだ」
「あれ?僕……?」
いつのまにか、徹さんの傘下に入っているような話である。
徹さんは呆れた様に僕を見て、言った。
「お前な。このまま組織に無事帰れるわけないだろうがよ。俺のとこに来いよ。その能力の使い方を教えてやるからよ。いや、使えなさを教えてやるから」
「マサムネさんは良い人だから、直ぐに馴染むよ」
範人さん……。なんて良い人なんだ。僕は範人さんの下が良かった。
「で、そのマユミちゃんみたいな女の子は?」
「そうだチビ。こいつの苗字は?」
「彼女は虹村。虹村真由美です」
「虹か。じゃあ黒田さんとこだな。彩華もだけど。おい、彩華、真由美のちびっこだけど、お前に任せて大丈夫か?」
――たっぷり苛めてやるよ。きゃぴぴ♪
更に徹さんは寝ている如月の下へと行き、見下ろす。まさか、彼も拾って帰るつもりなのだろうか。
「散漫探偵の名前は、確か如月だったよな」
「じゃあヤヨイ姐さんとこだな。ちょうど変わり種を探していたもんな」
「だけど睦月が黙っていないだろう。探偵枠は別に足りていない訳じゃあないし。探偵がチビとこいつとで二人増えたら、津村君もまたバランスが取れないって困るだろう。まあ、チビは正宗さんの所だから、フィジカル超鍛えられるか。探偵じゃなくなる可能性の方が高いかもな。でも如月は、俺達の所で生き残りたいなら頑張らないとな。ま、それこそ弥生姐さんの再生工場で良かったって事じゃねえの。性根から叩き直してもらうか。よし、それじゃあ撤退だ。皆、アジトへ帰るぞ!!」
徹さんが高らかに宣言する。
僕は真由美を背負い(範人さんが代わると言ってくれたけど、丁重にお断りした)皆と共に歩き出す。
「さてと。んじゃあ、連絡しとこうかな」
徹さんがスマホを携帯から取り出す。
「え?誰にですか?アジトにいる人にですか?」
違うよ、と首を振った。
「お泊りさせる時は保護者に連絡しないと、ダメだろう?」
そう言ってスマホを耳に当てた。
「よう真由美。久しぶりじゃねえかよ」
「どうよ?元気にしてんのかよ?」
「そうか、ならいいんだけどよ。風邪引くんじゃねえぞ」
「うるせえよ。誰の所為だと思ってんだ。ていうか長身は仕方ねえだろうが、伸びちまったんだからよ。長身が似合わないってどういう事よ、ちょっとショックだわ」
「小さい俺いたけど、貰っていくな」
「あと昔のお前みたいなのもいたけど、話になんねえよ。あんなんじゃ」
「全然違うじゃねえかよ。もっと怖いよお前は。フィジカル弱過ぎるし。象を眠らせるスプレー如きで寝たぞ。お前なら象も喰べ散らかす勢いだったもんな、昔は。事件の喰べ方も野蛮だしよ。劣化ってもんじゃねえな。別物だありゃ。貰ってくぞ俺が。しっかりとマナー教えてやるからな」
「ああ、お嬢様系になって子供が虫をバラバラにするような無邪気な冷酷さで謎を謎でなくしていく感じな。分かったよ」
「小さい俺の方は、まあ、そこそこ優秀じゃねえかよ。あれは俺のあの時よりよっぽど頭キレるぞ。というか、俺推理で負けたし」
「ははは、よせよ。恥ずかしい。まあ、それもだんだん普通の真由美に慣れてきて、だれてきたんだけどな」
「まあ、近々会いにいくからさ」
「だからさ」
「×××××××××××××」
ありがとうございます。次で最後です。




