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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
番外編 超越探偵 山之内徹誕生
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超越探偵 山之内徹誕生⑥

 僕は柄の悪い長身の金髪高校生を見上げる。

「やっぱり、貴方が、山之内徹……」

 僕の、オリジナル……超越探偵山之内徹。

「よう、俺の真似っ子チビちゃん。そうです。私が、山之内徹です。ってな!はっはっはっは!」

 何も面白くないのだが、本当に、楽しそうに大口を開けて笑う。

「ていうか最初に聞くけどさ。お前も山之内徹なの?まんま名前も一緒?」

「いえ、僕は備前之内。備前之内徹と言います」

「ぶほば!!」

 山之内徹が、吹き出す。

「備前之内、ですか?そりゃあまた、立派な名字だな。『超越探偵 備前之内徹』。ゴロ悪!!」

 ゲラゲラ笑いながら、山之内徹は僕の頭に手を置いた。

「にしてもよくも俺の能力を真似出来たもんだぜ、『謎の組織』は。どうよ?額に『犯人』の文字が見える気分は?」

「最悪です」

「そらそうだろうよ!!流石は俺だな!はっはっは」

 豪快に笑う。

「でも、ボスならこんな能力を与える事ぐらい、簡単ですよ」

「おおそうか。そらそうだよな。奪えるぐらいだから、与えられる、わな。で、チビよ。そのボス、真由美は元気なのかよ?」

 僕は大きく首を縦に振る。

「ボスは、真由美ちゃんは元気に決まってますよ。元気過ぎます」

「だろうな!はは!」 

 なんて楽しそうに笑う人なのだろうか。幼馴染が、敵になったというのに。

「で、結局お前は俺の、クローン?じゃねえよな?能力だけが一緒の、レプリカって所か?まあ、性格全然違うしね。俺の小さい時より上品な顔立ちしやがって。俺のハッタリにも助言にも歯向かってくれてさ」

 グジグジと文句を言い出す。意外と根に持つタイプの様だ。

「まあ、今や真由美率いる『謎の組織』だから、今も言った通りそれぐらい出来るだろうよ。でも、まさか真由美自身のレプリカまで用意してるとはな。あいつは一体何がやりたいんだろうな?」

「ボスは、真由美ちゃんは、自分だけの超越探偵が欲しい、みたいです」

「ハハハ!いやはや、いかれてんなアイツは!まったく」

 心底愉快そうに笑う山之内徹。

「ボスが、真由美ちゃんが何を考えているのかなんて、僕には分かりませんよ」

「まあ多分あれだ。俺を作って遊んでんだろう。そんだけだよ」

 それなら、納得出来る。ボスは、真由美ちゃんは、楽しくて、美しくて、優しくて、怖くて、冷酷で、残酷だから。

 僕は「謎の組織」に所属する人間だ。名前は備前之内徹。

 少し前に組織のボスに就任した真由美ちゃんの指令で、今回この実験に参加した。真由美と対抗する能力を僕が持っているのかという、実験だ。真由美ちゃんにとってみればそれこそ遊び、なのだろう。

 まさかそこに僕のオリジナルが侵入してくるとは、思いもよらなかった。

「だけどまあ、トップが変わっても子供に優しくないのは変わんねえなこの組織は。知ってる?子供は宝だぜ?」

 その言葉で僕は思い出す。重要な事に。

「ああそうだ。僕今撃たれたのに」

「ああ。俺が治した」

「治した?」

「ああ、回復魔法『ディオス』でな」

「本当ですか?」

「嘘だ」

 嘘だった。

「幻覚を見せた。俺の万華鏡写輪眼でな」

「本当ですか?」

「嘘だ」 

 嘘だった。

「撃たれた事実をなかった事にした。俺の発明品で」

「嘘ですね」

「嘘じゃねえよ」

 まったく、この人とは話にならない。僕は苛立ちを覚えた。

「一体、どういう事なんですか。僕は撃たれたのに――」

「――山之内じゃない、木部さんの発明だよ」

 その時突然、山之内徹の影が喋った。

「え?」

 僕は思わず影を凝視する。

 しばらく待っていると、ス、と影が勝手に動いた。 

 いや、影がそのまま現れたとしか、僕には見えなかった。

「あ、土田さん!何出てきてるんですか」

 山之内徹が慌てた様に影をたしなめる。影をたしなめる?影をたしなめるとは何だ?

「私は土田ではない、影だ。山之内徹の影。影は影であり、光と共にある。だが、光は影を憎むわけでもなく、無論影も光を憎まず、お互いが不干渉であり、尊重しあう存在。つつまり、山之内徹と私は、そんな関係なのだ」

「はいはい分かりました。分かりましたから」

 山之内徹は笑いながら影をなだめる。え?本当にこれ人なの?影だよね?

 影でなく、人だとしたら……何だこの人は。全裸で、全身を真っ黒に塗っている訳か。

 まさか、今までずっともう一人の僕、つまり僕のオリジナル、山之内徹の影になっていたというのか。そんな馬鹿な……。と思いながら、誰一人彼の存在に気がつかなかったという事実。それは、驚愕の事実。僕は既にこの土田という人物を尊敬していた。

「賢き少年よ。これが木部さんの発明品『10秒ルール』だよ」

 そう言うと土田さんは僕に近未来の腕時計の様なデザインの、道具を渡す。

「あ、ありがとうございます……」

 影にしか見えない土田さん(本当に土田さんか?影じゃないのか?)に礼を言う。

 その時計は秒針しかなく、数字は10までしかなかった。

「原理はというとな。まあ、タイムマシンの様に見せかけておいて実際は未来で起こりうる可能性を皆に見せる暗示の様なもので、それこそ万華鏡写輪眼はあながち間違いでもないのかも……」

「ほら、土田さんは影に戻って。俺の影武者なんでしょうが」

「武者ではない。私は純然たる影であり、つまり影とはこの世の理を示す存在……」

 土田さん(いや、影?だよね?え?土田さん?あれ?土田さんって、誰?)は何かブツブツ言いながら元の場所、山之内徹の影へと戻っていった。

「そういう訳で、お前の命は俺が助けたって訳だ」

 僕はまったく状況が掴めない。

「推理も助けてやったしな」

 混乱しているが、それに関しては聞き捨てならない。

「というか、あなたの声、ずっと邪魔だったんですけど。一体何のつもりだったんですか?」

「お?気が付いてたのかよ?組織が作り出した自分の中のもう一人の自分だとか、勘違いしてんじゃねえかと思ってたぜ」

「まさか、そんな訳ないでしょう」

 あんなの、声がしてすぐに気が付いていた。というか気が付かないわけがない。

「首を絞めながらネクタイにマイクを仕込み、耳の穴に指を突っ込みながらイヤホンを入れられた事に、気が付かない訳ないじゃないですか」

 僕を何だと思っているのか。この暴力金髪高校生が。

「あ、そう。そうですか」

 僕の左耳にあったイヤホンを受け取ると、今度は自分の耳からイヤホンを取り出した。その小さな塊だけで無線の機能がついているのだろう、傍から見ると耳栓としか思えない。スマホをマイクにして、僕と喋っていたのだ。

 山之内徹は、ただの紐になってしまった物の先端にイヤホンを再び装着させ、肩にかけた。

「というか、何で敵である僕の味方をしたんですか?」

「敵かどうかは分からねえじゃねえかよ。自分なんだから。つまりあれか、ゼミのCMとかのあれか?『敵は、ライバルではない。自分だ』的なヤツか?」

 全然違う。

「でも、推理は僕の勝ちだったみたいですね」

「へん、おそれいったよ。俺の負けだ」

 サラッと言われたその言葉が、震える程に嬉しかった。

……やった。

「オリジナルに勝った!やったあ!!僕はオリジナルに勝ったぞ!!」

「うるせえな!いきなりテンション上がんじゃねえよ。仕方ねえだろうが。俺にはもう裸眼じゃ『犯人』は見えないんだからよ」

「え?」

 僕は思わず聞き返す。あ、そうだ。そういえば、そうだった。超越探偵は、死んだって。

 だから僕が、新しい超越探偵なんだって、真由美ちゃんは、言ったんだ。

「だけどよ」

 山之内徹が、口を開く。

「確かにお前は凄くて、俺に勝ったかもしれねえが、俺達には(・・・・)、勝てるかな?」

 山之内徹はそう言って、にやりと笑う。

俺達は、超すげえぜ(・・・・・・・・)。だから地の文の時は呼び捨てじゃなく、『徹さん』にしとけよ」

「……?」

 僕には言っている事の意味がよく分からなかった。


「いつまでお喋りをしている」

 そこには、銃を構えた犯人が立っていた。すっかり存在を忘れていた。

「ああ、おっさんわりいわりい。ていうかそっちこそ何勝手に割り込んでんだよこのボケが!!ええ!!」

 徹さんが悠然と振り返って逆に悪態をつく。

「いやあ、口が悪くて悪いね、心の声を隠すのやめてさ。はー、楽チン楽チンだぜ」

 その表情は不遜。その態度は横柄。その姿は威風堂々。

「じゃあ、始めるとしますかね」 

 首を左右に傾けながら、両手首をバタバタと揺らす。その所作には緊張感の欠片もない。

 だが、なんなのだろう。この存在感は。

 いるだけで決まる、主人公の雰囲気は。

 徹さんは、金髪をかき上げ、犯人を見据えると、こう言った。


「さあ、ハッタリの時間はおしまいだ。これからはお前達には手痛い――リアルの時間だぜ」




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