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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
番外編 超越探偵 山之内徹誕生
63/68

超越探偵 山之内徹誕生④

「君は、僕?」

――ご名答。俺は山之内徹だ。つまり、俺はお前だよ。分かるだろう?

「……はい」

 僕はもう一人の僕と会話をしながらも、事態を理解しながらも、別段こういう事が起こってもおかしくない様な気もした。何故なら、ボスなら僕の中にもう一人僕を作る事ぐらい昼寝をするよりも、容易いからだ。

 いや、実際は違うとしても、それも可能だ、という話である。

――で、俺よ。この事件、どうすんだよ。証拠がどこにもねえじゃねえか。

 もう一人の僕の声は左耳から聞こえてくる。これが僕の右脳の人格で、今聞こえてきているこの声はさしずめ音楽……という洒落なら、面白いと思った。

「どうすると言っても、仕方ないですよ。なんとかして証拠を探さないと」

――はあ?お前本当に俺か?優等生ちゃんかよ。

 もう一人の僕の大きなため息が聞こえてきた。そして、心底見損なったような口調で提案してくる。

――おい、今すぐ俺に代われよ。お前じゃ荷が重いぜ。

「ダメだよ。そんなの。というか代わるって言ったって……」

 代わって解いたとして、それは結局僕じゃない訳であって……。

――いいか?俺の話をよく聞け。つまり、全ての証拠はヤツに隠滅されている訳だ。それでもお前はヤツが犯人だと分かる。それを今から皆にも分かりやすく証明しなくちゃいけない。

「ええ、だから証拠を――」

――ああ、証拠をでっちあげりゃいいんじゃねえか。

「は?」

 僕はもう一人の僕の言葉に思わず固まってしまった。

「でっちあげる?」

――ああ、簡単な話だろうが?証拠がない。でも犯人が分かっている。それなら証拠を創れば万事解決。犯人逮捕で正義は勝つってなもんだろう?

「いや、でもそれって、嘘の証拠って事でしょう?」

 そんなのは、正義ではないのではないか。

――証拠は嘘でも犯人は本物なんだから良いじゃねえかよ。何だ?お前は焼き肉食べる時に「この牛は事故で死んだ牛を使っています」と言われたら安心して食べて、後でその牛が悪い人間様がブッ殺して加工したものだったって分かったら、味が変わんのかよ?結果が変わんのかよ?死んだ牛の肉食って美味しかったっていう真実以外の何が残んだよ?なあ?

「それは……」

 もう一人の僕の理屈は理解出来る。犯人が本物なら過程がどうであろうと、問題ないだろうと言いたいのだ。誤認がない僕の能力なら、犯人を追いつめる為なら、手段を選ぶな、という意味だ。

「でも、それは最終手段として、今はやっぱり真実を……」

――はあ、まったく、悠長なヤツだねお前は?そんなんでお前のライバルちゃんは待ってくれんのかい?ええ?刑事ドラマよろしくシコシコ足で稼いで捜査して、得た小さな証拠から更に中くらいの証拠を見つけ出し、人から話を聞き、裏付けを取り、元々分かっている犯人に繋がる現実的なアプローチを、嘘じゃなく、真実の証拠を見つけだそうってのかい?ねえ、どんだけ時間かかんのそれ?

「……」

 痛い所を突かれた。

 そうなのだ。真由美は待ってくれないのだ。

「徹君。喰べていい?ねえねえもう真由美が喰べていいかな?」

 真由美はもう我慢の限界だ。もう一人の僕の言う通り。時間に余裕はない。

――ほらほら、ぼやっとしているとそのお姫様に全部食べられてしまうぞ。

「真由美やめて。もう少し待って。お願いだから」

「ほほーい」

 僕は泣きそうになりながら、真由美を止める。

 真由美に先を越されたら、そうなったら、僕は用済みだった。


 僕と真由美。

「謎の組織」が作りだした二人。

 それが額に「犯人」という文字が見える僕と、

 全ての謎を食べ尽くす真由美だった。

 

 この事件は組織の実験だ。いや、洒落でもなんでもなく。

 僕が探偵役で、事件を解決するか、真由美が謎の化身そのものと化して事件を滅茶苦茶に喰べ散らかすか。

 

 ボスはどちらを望んでいるのだろうか。当然、真由美の勝利を望んでいるのだろう。


 僕が負ける事が、組織にとっての有益であるのは分かっている。

 僕は仮想探偵なのだ。「謎の組織」にとって憎むべき存在。謎を解き明かす忌むべき職種。それが探偵である。その探偵を打ち負かす存在が、真由美。

 僕はいわばドリルを作っている工場が試作で穴を開ける為に作った、鉄板。弱い物では話にならないから、出来るだけ分厚い、強い鉄板にするのは当然だ。だから「犯人」が見えるという能力が与えられただけだ。主役のドリルは、真由美だ。

 

 だが、僕は僕の為にも負けるわけにはいけない。真由美より先に解かないと、僕は用済みになってしまう。

 僕が解き続けていれば、僕の価値は残り続ける。

 実験はまだ続けられるだろう。

 僕が真由美に負けるまで。

 とても分かりやすく、切実な話だった。

 

 だが、初めての実験で、実戦で、僕は苦戦している。犯人によって証拠は消されている。


 何も残っていないのだ。

 額に「犯人」という文字が浮かんでも、結局証拠がなければ、それは子供の妄言でしかない。

 

 とにかく、質問をして情報を増やさなくては。もう一人の僕の迷惑な忠告など聞いていられない。

「犯人さんの部屋はどこですか」

「どこでもいいだろう。君には関係ないよ」

「普段は何をしていますか」

「習い事だね。新たな散漫を編み出す為にね。今は目下どじょうすくい教室に通っているよ。あらよっと」

 そして犯人は口を滑稽に尖らせて、よいよいと踊り出した。

 最低な気分だった。

――ていうかコイツ腹立つな!ぶん殴りてえ!

 それに関しては僕も同意見だった。

――だけど、少し面白いのも事実ではある。友達の友達だったら、まだ笑って見てられるな俺は。 

 僕はその意見には賛同しかねる。

――さあさあ、困ってんだろう?だったら、ハッタリを使えよ。いや、俺だって正直言うとハッタリってあんまり好きじゃねえけどさ、もうそれしかないぜ。証拠をでっち上げるんだ。あいつも知らないような。例えばさ、あいつの指紋を今から盗んで、被害者の何かにつけたりさ。ああ、このアイディア良いねえ。それか逆で、あいつの持ち物を被害者の持ち物に混ぜるとかさ。監視カメラの歩数を絶対時感ででっちあげたりとか。なあなあ?

 それは、まさに僕にとって悪魔のささやきそのものだった。

 だが、簡単には乗れない。そんなハッタリ探偵は、僕はごめんだ。

「そうだ。海に証拠が――」

――あ、おい。お前。

 僕はふと思いつくと、プールサイドの外へと駆け出す。

 フェンスによじ登り、体を投げ出し、海を見つめる。犯人の捨てた髪の毛や付け爪、滑車がどこかに引っかかっているかもしれない。一縷の望みにかけたが、それらしきものは見当たらない。

 すると、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。

「何してんだクソガキ、危ねえだろうがこら!てめえ死にてえのか、この野郎!」 

 柄の悪い金髪高校生が怒鳴っている。僕の脇を抱えて、降ろしてくれる。

「あ、ありがとうございます……」

 その時、メキ、という音がした。見ると僕の掴んでいたフェンスの金網部分が、そのまま一緒に捥げたのだ。

「うわ、ここフェンスが破れてんじゃねえかよ。危ねえな。何が超豪華客船だよ。まったく、老朽化甚だしいぜ」

 今破いたにも関わらず、金髪高校生はそう言う。自分の所為にされたくないのだろう。大声で叫んで、初めから破れている事にしたのだ。それは僕の為にも、ありがたかった。

 だが、証拠は結局見つからなかった。僕はとぼとぼとプールサイドへと帰る。

 僕の横を金髪高校生がイヤホンの紐(いつのまにか先端にイヤホンはなく、紐だけになっていた。つまりその紐だけになった紐)を指でクルクル回しながら一緒に歩く。

「で、どうだよ。少年探偵、証拠はあったのかよ?」

「……」

 僕はその言葉に何も言えなかった。


 帰ったら既にその時、真由美が動き出していた。


 犯人の正面に堂々と立っている。

 余裕の犯人は、屈んで、真由美に声をかける。

「なんだい?お嬢ちゃんも質問かい?今度は探偵の助手ごっこかな」

「うっせえよこのチ〇カス野郎がよ」

「なッ……」

 想像だにしなかった台詞に、犯人は目を見開いて真由美を見る。

「てめえみてえなクソ野郎に質問なんてある訳ないだろうがバーカ。まあこんなクソみたいな事件、喰べても仕方ないんだけどね。ねえ、あんたクソ喰べる?」

 美少女で間違いない真由美の口からは、別人の様な言葉が放たれる。

「それじゃあ真由美、推理しまーす」

 ヘラヘラ笑いながら、真由美が、化物が、動き出した。

「ええとね、如月源太郎。あ、あんた源太郎って言うのね。変な名前(笑)で、あんたのクソみたいな人生を推理するとね、誕生日は1976年5月15日の38歳。生まれた時は3254グラムね。ミルクの量は平均的だけど、生まれて1ヶ月経った後の6月24日だけ一回で1000ミリリットル飲んでるね。一体なんだったのこの日?で、一歳二ヶ月で歩いて、直ぐに喋り出して、まあ、順当な成長ね。お気に入りは白熊のぬいぐるみでそれがないと泣きだしてしまう。逆にそれさえあればいつもニコニコ。ふん、可愛いじゃないの。二歳の頃にベットから落ちて頭にたんこぶが出来て、その凹んだ形が今も少し残っている。小学校の時の初恋の人は三浦京子ちゃんで、結局好きとは言えずに引っ越して行っちゃったんだ。あ、ちなみにこの三浦京子ちゃん今はもう結婚して祇園京子になっちゃってるから。奈良在住だよ。京都じゃないのかよって突っ込みいれていいからね。中学校の時初めて付き合った新宮京子ちゃんは……ああ、もう死んじゃってるわ。8年前の9月11日に。交通事故だね。世は儚いね。高校二年生の時の彼女、柏木京子は、あら、今は独身だわ。あら、これはチャンスかもね。……ああ、ダメだ。この人3年後に死ぬから。別れた旦那に刺されてさ。ちなみに祇園京子も10日後死ぬからね。ははは、あんたに関わった女は皆死ぬね。貧乏神探偵じゃないのあんた。ていうか京子しか愛せないのあんた?京子マニア?そうだ、京子へ行こう、なんて。あら、何ジーッと真由美の事見てるの?しなくていいの?得意のあれ。ほらほら、散漫♪散漫♪ツイストでもフラメンコでもラインダンスでもなんでも来いよ。ホラホラ、ワンツー、ワンツ―、アンドゥ―トロワ、ワンタンメン、チャーシューメン♪やんないの?つまんないね。で、何で探偵になったのかは、ああ、警察学校に行ったはいいけど、途中で根性がなくて退学、それでも夢は捨てられず探偵に。とは言ってもこれあんたが勝手に夢の呪縛をかけてしまっていただけで、別にあんた自身なんでも良かったんだよね?意地になっていたんさ。俺はどうしても警察に、それがダメなら探偵にならなくてはならない!!って勝手に思い込んでいたのよ。本心では別に正義を愛している訳でもないし、悪を憎んでいる訳でもないもんね。それならさ、実家継いでさ、美容師になっていたら良かったのにね。美容室『ジューン』の跡取りだよ。ちなみに如月って二月だって知ってるよね?『ジューン』って六月なんですけど(笑)確かに美容室『フェブラリー』ってちょっと聞かないけどさ。でも六月って(笑)。面白いねあんたの実家。でさ、あんたそこそこ何でも器用だけど、どれも極める事は絶対に出来ない訳じゃん。でも、美容師の才能はあったんだよ?知らなかった?そうだよね。真由美と出会ってなかったからね」

「……おい」

「そして散漫探偵だけど、元々はそれって自前なのね。普通にあんたは人前だとテンパる人間で、目が泳いだり、手遊びしたり、動きが散漫になる。それを結局個性として突出して、まあ弱点を武器に変えたって言い方してあげるけどさ、散漫探偵になったって事か。最初の事件は依頼者『黒瀬由紀子』で浮気調査ね。まあ、探偵っつってもドラマや小説みたいにいつも殺人事件解いている探偵なんて、いるわけないしね。妥当なんじゃないの?」

「……おい」

「で、探偵になったはいいけど、一年が過ぎ、五年が過ぎ、いつの間にやらアウトサイドの方にふらふらと近づいてしまい。ほら、あんた自分の意志がないから。初めは金欲しさの犯罪紛いの運び屋や、情報屋。それからいよいよ本格的な犯罪に身をやつしてはや十年か。月日の経つのは早いね。無駄な人生なら尚更な!!!きゃはははははは!!」

 ケラケラ笑う真由美。犯人はそれを眺めながら、茫然と立っているだけだ。

「……お前、それ……何やってんだ……?」

 やっと搾り出したその問いに、真由美はあっけらかんと答える。

「きゃはは、決まってんじゃん?推理だよ」

「…………そんなのが…………推理な訳があるか!!」

 犯人が苦痛の表情で叫ぶ。

「ねえ……昨日の夜はよく眠れた?」

「……あ?」

 犯人との会話を無視して真由美は心底楽しそうに話しかける。

「昨日の午後八時の事を言ってんだよ。あんたが人を殺す時、必ず深酒するじゃねえかよ。泣きながら。四年前の8月26日に死んだ母親の写真に謝ってさ。泣くぐらいの半端な気持ちで殺人してんじゃねえよこの腰★抜★け★野★郎★が♪」

「な……なんで?」

「だから言ってんじゃん。推理だよ、真由美の推理。ほらほら『証拠は?』って言ってごらんなさいよ。そしたらこう答えてあげる『証拠はあんたのクソみたいな人生が教えてくれるさ』ってね」

 真由美はケラケラと笑う。楽しそうに、嬉しそうに。世界を謳歌している。

「……やめろ……もう、やめてくれ」

 犯人は苦しそうに顔を歪めて、がくりと地面に膝を着く。


 その表情はもはや事件どころではない。そうだろう。人生を寸分違わず推理され、丸裸にされているのだ。しかも遊び半分で。いや、遊び全部で。

 

「きゃははは!何やってんのさ!まだまだ何も始まってないよ。これからあんたの人生で死ぬ程格好悪かったベスト10が始まるのにさ!では第10位は!ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ………………小学生の頃、帰りの会でうんこを漏らした瞬間!」

「真由美!!」

 僕はそこでとうとう耐えられなくなり、真由美を制す。

「真由美、やめろ。もうやめろ!」」

「うるせえよ!!」

 ぐりんと首だけ僕に向けて、真由美が叫ぶ。

「何言ってんだよ!てめーがノロノロしてっからこうなってんじゃねえかよ!ほら、やるなら早くしろよこのノロマが!」

「……」

 僕はその眼を見れない。見ると、犯人と同じく、取り込まれてしまう。事件等どうでもよくなる。気が付けば、何もかもを失い、何を失ったかも分からなくなるのだ。

――全ては謎に帰す。

「ああ、悪かった。今から推理するからさ。少しだけ時間をくれないか?」

「……いいよ。徹君の言う事だからね。でも、あんまり真由美を待たせるとアレだぜ――」

 真由美の顔を……僕は怖くて見れない。

「――徹君も、喰べちゃうよ?」

 怖い。この子は確実に……化物だ。

「……ああ僕の推理は、終わっていない」

 僕は無感動にそう言うと、憔悴した犯人と向かいあう。 

「続けます。先程も聞きましたが、犯人さんのお部屋は、何階ですか」

「……4階だよ。407号だ」

 今度は素直に答えてくれた。次に副船長の方を向く。

「副船長さん。被害者の部屋は?」

「515号のVIPルームだよ」

「その部屋って、大体どのへんですか?」

「ああ、あそこだよ」

 副船長が指を差して教えてくれる。その部屋の窓は丁度、バチカン市国の国旗がある辺りだった。

――VIPルームかあ。良いよなあ。そこら辺に果物やシャンパンが転がってんだろう?後で行ってみようぜ。ゲーム機とかないかな。アニメのDVD見放題とか、最高じゃん。

 もう一人の僕はVIPルームへの羨望を抱えているようだ。

 そして、僕は考える。今回の事件の真相を。

 組織にいる人間のなかで、僕だけに許された特権。それが謎解きだ。

 消された監視カメラ。

 捨てられた髪の毛、

 付け爪、

 滑車。

 びしょびしょの犯人。

 プールサイドで繰り広げられる推理劇。

 破れたフェンス。

 

――落とした、婚約指輪。

 

「……そうか」

 僕はそこでようやくある事実にたどり着いた。そうか。そういう事だったのか。

 真由美の見ているこの緊張感の中で、よく辿りついたものだ。自分で自分を褒めてあげたい。

 それとも僕は、追い込まれて力を発揮するタイプなのかもしれない。


「真実はいつも、一つ」

 僕はどこを見るわけでもなく、そう呟いた。

――真実は一つなわけねえじゃねえかよ。おい。真実は無限大だろ。

 僕はもう一人の僕の声を無視して、始める。

 さあ、真実の時間だ。

――おいおい、ハッタリの時間の間違いだろう?


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