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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
57/68

超越探偵の弱点⑲

「刑事さん」

「ああ、なんだい?」

「日本最北端の某道警と日本最南端の某県警に今すぐ連絡を取ってください。某県警を優先的に」

 そして、と俺は言葉を続ける。

「『ハブセントラルビル』の映画館に、百パーセント爆弾は仕掛けられています。爆発物処理班を早急に、お願いします」

「ええ?」 

「道警には『ダディ団段』という団子屋の店主、段々畑秀作という人間の確保をお願いします。百パーセントの確率で爆弾を仕掛けた犯人です」

「ええ?山之内君?それは本当かい?」

 無能刑事が何度も素っ頓狂な驚声を上げる。そうそう、それだよ。それがいつものあんたの立ち位置だよ。いいねえ、なごむぜ。とかいって、次のエピソードあたりで、実は滅茶苦茶凄い人だってのが分かるんだろう?また土下座とか、嫌だぜ俺は。

「はい、ですから今すぐ警察の方々を僕の言った場所へと向かわせてください。早く。はいはい早く早く!」

「い、いや、だがだね山之内君。一体どんな根拠があってそんな……」

見たんですよ(・・・・・・)

 俺は間髪入れずに答える。

「え?……見た?」

「はい。日本最北端の某道に住む犯人が日本最南端の某県にある『ハブセントラルビル』に爆弾を設置するその瞬間を、僕は見たんです」

「見たんです」ずっと言いたかったこの台詞、やっと言えた。感動だ。何で俺はこれが言えなかったんだ。言えば良かったんだよ。

 それでも無能刑事は喰い下がってくる。

「いや、見たと言っても、どうやって……その時その場にいたのかい?」

「いいえ」

「いいえ!!??だ、だったらどうやって??」

「実はですね、僕には日本中の犯罪が分かるんです。究極の空間把握とでも言いましょうか」

 はっはっはっはっは。おいおい、一体俺は何を言っているんだ!ダメだよ適当な事言っちゃ。だが止まらない。止める気はさらさら――ない!!!!!

「これぞ僕の能力『万里眼』です!!!!!」

「『万里眼』!!??」

 新たな能力の登場に腰を抜かす無能刑事。

 まだまだ驚くのは早い。

「更にその能力は時間をも飛び越える事が出来ます。今じゃなくても良い。事件が発生してから時間を遡り、更には空間を飛び、犯人が爆弾を仕掛ける瞬間を目撃する事が出来るのです。人呼んで……」

「……人呼んで?」

「『絶対超越時間』!!!」

「『絶対超越時間』!!!!??????」

 目を丸くして驚愕し、ドカーンと床に倒れ込む無能刑事。

 範人は楽しそうに、真由美はニコニコしている。

 いいよ、全然。新しい能力でも何でも創ってやるぜ。無力な俺が、それでも何かを守れる能力なら、未来を創れる能力なら、幾らでも―――。


 そうして半ば強引に俺は刑事に犯人の確保を約束させ、警察に指示を与えてもらった。

「さてと……」

 そして、俺は真由美をちらりと見る。

「……一つだけ、たった一つだけ、頼ってもいいか?」

「勿論!!」

 眩しい笑顔を見せてくれる。

「俺と犯人とのホットラインを」

 真由美に携帯を渡す。

 真由美は即座にカチャカチャと番号を入力する。

「はい」

 両手で俺に差し出す。

「サンキュー」

 俺は迷わず受話器を耳に当てる。しばらくコールが続き、相手が出た。

「………………もしもし」

「もしもし、超越探偵の山之内徹です。またお会いしましたね、犯人さん」

「…………っっっな!!!???」

 受話器越しから犯人の動揺が伝わってくる。

「な、なぜこの番号が……?」

「貴方があまりにもアンフェアな真似をするもんですから、一回だけ、たった一回だけ、こちらもズルをさせてもらいました。悪しからず。でも、これからは全て僕の実力ですから。一対一の真剣勝負といきましょうか。あ、ですがその前に……」

 俺は受話器を耳から外し、そのまま、いまだにぼーっとしたままの彩華の下へと向かった。

「…………?」

「彩華、お前を認めてやるよ」

「??なに……?」

 不思議そうな顔を浮かべている彩華を俺は、

 ―――思いっきり平手で引っ叩いた。

「!!??」

 一瞬、何が起こったか分からない顔を浮かべる彩華。

 だが、その天使の様な顔がみるみる歪んでいく。

「うわああああああああああああん!!」

 大泣きする彩華の前にしゃがみ込み、しっかりと目を見て、俺は言う。

「これで懲りたか。もう悪い事はしませんって言え!!!」

「わああああああん。も、グス、わ、わるいことはしまぜん」

 ひいひい言いながら、必死で俺の言葉を復唱する。

「一生しません!!」

「い、グス、いしょうしません!!」

「絶対にしません!!」

「うう、グス、ぜ、ぜたいにしません!!」

「おにいちゃん大好き!!」

「お、おにいいいちゃんだいいすぎい!!」

 ははははは。最高に可愛いぜ。

「よし、良い子だ。約束だぞ」

 俺は彩華の頭を撫でると同時に、再び受話器に耳を当てた。

「これで彩華は僕のものです」

「…………」

「貴方の組織は『謎の組織』でも何でもない、ただの便乗組織だ」

 返事はない。俺はそのまま喋り続ける。

「崇高な考えなんてない。ただただ自分の意志で犯罪が行えないから、誰かの背中に、陰に隠れて、犯罪で遊んでいるコバンザメだ。何がケルベロスだ」

「…………」

「犯罪を舐めるな。人間を舐めるな。全ての人間に生きる理由があり、殺す理由もあり、謎を作る理由もあり、謎を解く理由もあるんだ」

 全ての犯罪に理由があった。俺はそれを、解いてきた。そうだ。だから俺は犯人が分かっていても事件を解くんだ。理由が、あるから。それが、俺が事件を解く理由だ。

「そこから離れた貴方の組織は美しくなければ崇高でもない。ただの空っぽな箱だ」

 ふざけた組織が。そんな箱が、俺に敵うとでも思ったのか。

「彩華を僕の担当から外すべきではありませんでしたね。彩華は僕にずっと勝てなかったかもしれませんが、僕も彩華にはずっと勝てなかった。僕が幼女を捕まえるわけがないんですから。痛み分けで終えていれば良かったのに。山之内徹という超越探偵をおたくの小中野彩華は一生封じ込める(・・・・・・・)事が出来たというのに。それって凄い功績ですよ?」

 俺は深い溜息をつく。 

「それをまあ……あーあ、貴方の所為ですよ。崇高な組織とやらに怒られてください。あ、でも大丈夫か。貴方が僕の担当なのも、今日で終わりですから。貴方の存在も、犯罪も、僕に見破られる為に存在するんですから」

「……強がりもそこまでにしておいた方がいいぞ」

 久しぶりに開いた口。少し落ち着きを取り戻した雰囲気。

「どうやって私のこの番号を入手したのかは分からないが、それが一体何だと言うんだ?そちらの現状は一切変わってないじゃないか?いいのか?そんな所で私と無駄話をして。爆弾はあと十五分もすれば確実に爆発するんだぞ」

 低く凄む。だが、俺は聞いていない。効かない。

「『現楽村連続殺人事件』『全国スキー客連続殺人事件』『替え玉受験制裁殺人事件』『人気声優連続絞殺事件』『翔丹生ダム首なしライダー事件』『抗松屋レストラン街連続食い逃げ事件』『斎宮ノ宮神具窃盗事件』『軽陣町謎の霧雨事件』『塔衝館塾数学テスト全員100点事件』『千載村村長幽体離脱もどき事件』……」

「おい、一体何を言っているんだね?」

「あれ?知らないんですか?僕の事を調べているって言ったのに……残念ですね」

「何だそれは?一体……何の事件なんだ?」

「今言ったのはですね――」

 そう、今言ったのは――

「―――僕が出会ってもいない犯人を捕まえた事件ですよ」

「…………」

「ねえ、犯人さん。いや、『ダディ団段』の店主、段々畑秀作さん?あ、今は団子ダディさんですっけ?」

「!!!!!!!!?????????ば!!馬鹿な!!!!!!!!」

 叫び声とともに凄まじい動揺が受話器越しに伝わってくる。

「犯人は、百パーセントの確率で、段々畑秀作さん、貴方です」

「な、何だ貴様……何故……」

 その時、受話口の向こう側から誰かが扉を激しく叩く音が聞こえてきた。

「おお、良かった。道警の方は実に優秀ですね。逃げられていたらどうしようかと思ってましたよ。そこまでアンフェアじゃなくて助かりました。まあ、何の証拠もない訳ですから、逃げる必要もありませんか。折角繁盛している2号店まである団子屋さんですからね」

「な……何故だ」

 それは、聞き飽きた言葉。犯人なら必ず言う言葉を俺は耳にする。

「確かに僕と貴方は一度も出会っていない。それは愚か僕は貴方を見た事も聞いた事もなかった。百キロ以上離れていて、一生会う事もなかったでしょう。接点はなかった。ですから貴方の言う通りです。僕たちは出会っていなかった。貴方を知りもしなかった」

「だ、だったらどうして……」

「読んだんですよ」

「……読んだ?」

「覚えてらっしゃいますか?12年前に、まだ貴方のお店の名前が『打団段田団』だった時。グルメ雑誌の取材で訪れた、記者の名前を。大屋圭吾さんと仰るんですけど」

「はあ?大屋?誰だそいつは?知らんぞ」

「ああ、そうなんですか?大屋さんは覚えてらっしゃいましたよ。貴方の事。それでも貴方、プロの団子屋ですか?僕に負ける筈です。大屋さん?足元にも及びませんよ」

 恐ろしいのは大屋さんは無意識だということだ。ただメモをしただけ。膨大なメモを。

「ですが今度は覚えておいて下さいね。『最高のフリー記者 大屋圭吾』の名を。貴方を追い詰めた人の名前です」

 大屋圭吾。凄い人だ。

 無能なんてとんでもない。石コロなんて、とんでもない。

 いや、最初は石コロだったのかもしれない。だけど、彼は決して努力を止めなかった。自分を磨くのを怠らなかった。そして今は、最高に光り輝くダイヤとなった。

 この事件を解決に導くのは彼だ。


 最後の最後で、一番良いところを持っていく。これではまるで、俺の思い描いていた「ヒーローシナリオ」の主人公じゃないか。

「貴方が大屋圭吾さんと出会い、今僕の横には大屋圭吾さんがいる。ああ、なるほど。これはこれは、最高の伏線ですね。つまりは僕の方がアンフェアだったという事ですね。犯人さん、どうもスイマセンでした」

「な、何を言っているんだ??わ、わけがわからん……」

 ははは。それはそうだろうな。

 だがケルベロスこと段々畑秀作はまだ負けていないつもりなのか、俺に向かって強気で言い返す。

「だ、だが、私を捕まえるだけでは意味がないぞ!!爆弾が!!まだ爆弾がある!!爆弾の場所が分かる訳がない!!!」

「ああ、『ハブセントラルビル』の映画館ですよね」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!な!!」

「日本の最北端の方が最南端に爆弾を仕掛ける。しかもノーヒント。制限時間は三十分。犯人さん、今までこんなやり方で『さあ、勝負だ、探偵よ。分からないか。ふふふ、私の勝ちだ』って言ってらしたんですね。ちなみに赤ん坊相手に柔道勝負を仕掛けて『背中が床についているな。ふふふ、私の勝ちだ』と悦に入っている人ってどう思います?」

 俺は笑いながら、犯人を馬鹿にする。

「何故だ!!何故!!??何故私だと分かった!!??」

 半狂乱の犯人。無理もあるまい。

「聞きたいですか?最後の最後でこの台詞だとあんまり決まらないんで、これは言いたくないんですけどね。出来ればお会いして言いたかったんですが……」

「な、何を言っている?」

「何故貴方が犯人だと分かったのか?簡単です。だって―――ルビに書いてありましたから」

「ル……ルビ!!??」

「今度から僕と対決する時は、文章にも残らない様にしてください。さようなら」

「……な、に…を…??」

 もう、混乱し過ぎて言葉にならない犯人。

「あ、あと、ずっと言おうと思っていたんですが……」

 更に俺は、言いたくて言いたくてたまらなかったその一言を口にするのだった。

「『謎の組織』の、『事件には関係ないが、謎の提供や犯人へのサポートはする』っていう立ち位置、『金田一少年の事件簿』の高遠遙一さんと被るんで、早急に止めてもらっていいですか?只でさえ僕『謎は全て解けた』を使わせてもらっているんで、肩身が狭いんですから」

「!!!!!!!??」

 ああ、すっきりした。そう、慇懃に俺は締めくくるのだった。


 タイミングよく、受話口の向こう側から警察が扉を破って押しかけてくる音が聞こえた。


 こうして、事件は終結した。


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