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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
56/68

超越探偵の弱点⑱

 
























 ん?






 今のは何だ?







 俺は音のした場所を探した。





 まさか、





 誰か近くに犯人がいた、という事か。



「犯人」の上書きの音だよな、今のって。






 だが、見回しても、誰の額にも「犯人」とは書かれていない。





 違ったか。






























 それは電子メモだった。








 俺がついさっきゴミの様に投げ捨てた、電子メモから煙が上がっていた。


 壊してしまったのかと、床に正座して、電子メモを覗きこむ。

 確かに、電子メモから白い煙は上がっていた。小さな煙だ。

 そこの画面には「2000年」「2001年」「2002年」と、年代順にフォルダが並び、現在、「2011年」までの大枠が記されていた。

 煙はそのどの年代のものでもなかった。

 左下に「更に以前のフォルダへ」と書かれていた。

 ファイル量が画面に収まりきれなかったのだろう。


 そして、煙はその「更に以前のフォルダへ」から発生していた。


 俺はその画面を人差し指で押す。

 画面が一瞬で移り変わる。

 そこには「1990年」から「1999年」までのフォルダが、2000年代と同じ様に一個ずつ並んでいた。

 煙は「1999年」から上がっていた。


 俺は「1999年」のフォルダを押す。


 更に「1月」から「12月」のフォルダがズラッと並ぶ。


 煙の上がっている「6月」を押す。


 煙の上がっている「25日」を押す。


「6月25日」には更に多くのフォルダがあった。


「甘味処ささくら」「団子一番」「ダン・ピエール・ポルナレフ」「ダン万次郎漂流記」「団子団子革命(レヴォリューション)」等々。


 俺は煙の上がっている「打団段田団」のファイルを押した。


 ――――― ――――― ―――――


 1999年。

 日本の最北端。某道、某群での取材メモ。

 グルメ雑誌「ぐるっぺ」編集部よりの依頼。夏の団子屋特集


――某道の某群、で団子屋「打団段田団」を営まれておられます、段々畑秀作(「犯人」)さんです。宜しくお願いします。

(「犯人」):どうも、始めまして、段々畑秀作(「犯人」)と申します。

――私、早速御宅(「犯人」)のお団子を頂きましたけど。餡子の甘さと餅の爽やかさのバランスが、絶妙といいますか。  

(「犯人」):ありがとうございます。その感覚を得る為に試作を百個無駄にしまして、女房に怒られました(笑)

――なるほど(笑)この味を出す秘訣、みたいなものはありますか?

(「犯人」):秘訣、ですか。そうですね、いつも支えてもらっている皆様への感謝の気持ちを忘れずに、丁寧に餡をこねる、という事ですかね。本当にそれが一番大事です。

――なるほど。愛情が美味しさの秘訣である、と。

(「犯人」):そういう事です。


 ――――― ――――― ―――――



 ………………誰だよ。段々畑秀作って。知らねえよ。聞いた事もねえし。そもそも俺某道なんて一度も行った事ないから。そんな辺境の団子屋なんて尚更だよ。しかも1999年だろ?俺二歳だし。

 確実に、俺の人生で一度も出会った事の無い人物である。

 ヤツの言っている事は本当だったのだ。何の――伏線もなかった。


「犯人」が、分かった。


――だったら次は…………「爆弾」だが。いや、まさか、そんな都合の良い事が度々起こる筈もないよな。


――でも、試してみるだけならタダだ。


 俺はホールの隅っこで下を向いて「嘘だ嘘だ・・・・」と呆けた様に呟いている彩華の前へと歩み寄る。

「…………」

 思いっきりハグをした。ぎゅうっと。もう、愛しさを込めて。頬と頬がくっつく程に。

 悲鳴を上げるかと期待していたのだが、そんな余裕はないようだ。虚ろな目のまま、何の反応もない。

 さて、俺はわざとらしい口調で、彩華の状態を嘆き悲しむ。


「おお、彩華よ。可哀相に。仲間に裏切られ、満身創痍じゃあないか。それもこれも―――――ケルベロスによって、どこかに設置された―――――――爆弾の所為だ」


 ぼわん、と電子メモから再び煙が上がった。


 …………マジかよ。


 電子メモを覗きこむとそれはちょうど二十年前。「1991年」のフォルダから煙が上がっていた。

 当然、俺は生まれてすらいない。


 さっきと同じ様に多くのフローチャートをくぐり抜け、煙の所在地まで辿り着いた。


 1991年5月21日。

 日本の最南端、某県、某市の記事だった。


 ――――― ――――― ―――――


 1991年5月21日

 都市情報誌「マッピングライフ」編集部より依頼。


ハブセントラルビル(「犯人」)」建つ。

 1991年6月1日より、日本最南端の島、某県、某市に日本最高のビルが現れる。


 某県が水面下で着々と進めていたプロジェクト。それが「ハブセントラルビル(「犯人」)」の設立である。

 景観を損なう。市民の人数に見合った規模ではない。そんな物必要ない。多くの市民の反発を浴び、一度はその無謀な挑戦は、頓挫しかけた。

 だが、某県議会の日本一への羨望は、市民の意見よりも上だった。

 強引に工事を施工。その間行われた反対運動は百回を越し、住民と工事関係者の接触も、数回どころの騒ぎではなかった。

 だが、事態は急変する事となる。

 某県某市長の木島誠也氏が、反対派の説得に成功したのだ。

 市民への説明会を月に数度行い、熱心に理解を呼びかけた事等が、反対派の心象を和らげる要因となった。

 そして1990年12月24日、反対派は組織を解散。歴史的和解の成立となった。


 その日、「ハブセントラルビル(「犯人」)」は某県全市民の待望となったのだ。


 ショッピングセンター、ボーリング場、巨大図書館、映画館(「犯人」)等が立ち並ぶ複合施設。「某県に必要な全てが揃っています」というコンセプトで初年度の動員数、100万人を目指す。


 某県市民の期待を背負って立つ「ハブセントラルビル(「犯人」)」に、今日本中が注目している…………。


 ――――― ――――― ―――――


 何だよ、ハブセントラルビルって。一度も聞いた事がない。噂にも登った事がない。当然だろう。俺が生まれる前に建った建物だからな。当時は話題に登ったのかもしれないが、少なくとも俺はまったく知らない。

「ああ、ハブセントラルビルかい?」

 振り返ると、記者のおっさんが後ろから覗きこんでいた。

「懐かしいな。それって、一ヶ月でもっと高いビルが建って一瞬で忘れ去られたんだよね。本土の人は誰も知らないんじゃないかな、存在自体。でもそのビル、知名度は確かに直ぐに持って行かれたけど、地元では有名で、結構皆から愛されているらしいよ。丁度二十周年記念だかで、式典があっているみたいだし」

 全国紙では絶対に取り扱われないけどね、と記者のおっさんは笑った。

「ああ、あとその前に覗いていた記事だけど、「打団段田団」。団子屋の店舗が増えて、二号店『ダディ・団段』が五年前に出来た筈だよ。本店は二代目に任せて、段々畑秀作さんはそこで『団子ダディ』と名乗って、大盛況らしい」

 記者から語られる更なる詳細。

 いや、待て。

「え、でも、この記事十年以上前の記事ですけど……」

 俺の問いに、記者はきょとんとした顔をする。

「どういう意味だい?」

「いえ、ですから、十年以上前に取材しただけのお店のその、近況を、何故……」

「山之内君、君は事件の犯人が分かったら、そのまま放っておくかい?」

「え?いえ……」

「犯人を追及して、推理を披露するだろう。最後まで責任を持つ。それがプロの探偵、だろう?それと同じだよ」

「同じ……?」

「ああ」

 彼は当然の様に大きく頷いて、こう言った。

「一度取材したらその後も気にかける。僕はこれでも、記者のつもりだよ?」

「………………」


 俺は自分の手が震えている事にその時になって気が付いた。

 いつから震えていた?

 そうだ、電子メモから煙が出ているのを見た時から……。

 驚愕?

 感動?

 尊敬?

 畏怖?

 圧倒?

 呆れ?

 分からない。

 これはそれらの、様々なものが混ざった震えだ。生まれて初めて味合う類の震え。俺はこの感覚を、一生忘れる事はないだろう。


「ええと……大ドリアン北川ソドム彦麻呂さん」

「大屋だよ。大屋圭吾」

「大屋、圭吾……」


 俺は口の中でその名前を反芻する。


 大屋、圭吾。


 大屋、圭吾。


「大屋圭吾さん」


「……ようやく、名前で呼んでくれたね。山之内君」


 大屋さんは、そう言うと、嬉しそうに笑った。


「っっっっっっ!!!!!!すいませんでしたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 次の瞬間、俺はとてつもない土下座をしていた。床に頭を擦りつけ、地面を舐める勢い、いや、地面を舐めていた。べろべろと舐めさせて頂いていた。

「や、山之内君。な、何を!!!」

「大屋さん!!!!今まで数々のとんでもないご無礼、どうか、どうかお許し下さい!!!!この山之内徹が全て、間違っておりました!!!!」

 ああ、とんでもない下っ端感。だけど、仕方ない。この人に、大屋圭吾さんに比べたら、俺なんて、下っ端も下っ端。鬼の様に下っ端!!超越探偵如きが―――敵う筈もない!!

 とんでもない人物が、目の前にいるのだから。


「殴られたぐらいで、そんなに。僕は一切気にしていないよ。君の様な中学生が探偵をやっているんだ。とんでもないプレッシャーなんだろう。仕方がないよ。僕が至らなかったんだ。申し訳なかった」

 そう言って頭を下げる大屋さん。器超デカい!!!中学生に殴られてこんな事言える?マジ……格好良過ぎるんですけど!!!


 メモばかり取りやがって、と思っていた……。

 事件にも口を出さないし、いるのかいないのか分からない存在感……。

 石コロだなんて言って馬鹿にしていた……。

 こんな大人にだけは絶対になりたくないと、思いっきり見下していた……。



 だけど、


 だけど、





 ―― ―― ―― ―― ――


「はあ、なんだかんだで凄いんですね。記者さんって」

「どこでも行くよ。興味のある事なら。全国津々浦々。勿論、仕事でもね。最近はそっちの方が多くなってきているけど。本当なら今は一年程山之内君に密着取材したいくらいなんだ。全ての取材をキャンセルして、そうしようかなんて、本気で思っていたりするんだけど」

「ははは、ご勘弁を」

 マジ勘弁してくれ!それだけは!土下座するから!


 ―― ―― ―― ―― ――


 何を失礼な事を考えてたんだよ、俺は。そのおかげじゃねえかよ。本当、罰当りにも程がある。


 ―― ―― ―― ―― ――


「そもそも僕は二十年前から『川原電機』の電子メモのヘビーユーザーでね。新機種が出るとデータを移し替えて使用しているんだ」

「へえ、じゃあ初代から使っているんですね。凄いデータ量なんじゃないですか?」

「ああ。でも今持っている新機種のデータ総容量に対して、半分しかメモは入ってないんだよ。宝の持ち腐れも良い所さ」

「そうなんですか」


 ―― ―― ―― ―― ――


 俺は傍らの真由美に尋ねる。

「ちなみに、新機種の容量って?」

「1000テラだよ」

「1000テラ!!!!???」

 1000テラて!!!!!

 俺は気絶しそうになった。

 その半分って、500テラかよ!!

 500テラの文章データ……。マジかよ。

 テキストデータの容量じゃねえよ。

 動画データかよ。馬鹿じゃねえのこの人。500テラあったら映画何個入ると思ってんだ。

 情報の宝箱やで!!!!

 俺は感動で涙ぐんでいた

 凄い。凄い!凄い凄い凄い!!!

―――――なんて格好良い、大人なんだ。


 ―― ―― ―― ―― ――


 俺は、記者に声を掛ける。

「記者さんは、いつもメモを取っていますよね」

「あ、うん。そうだね」

 曖昧に頷く。

「どんな事件の渦中でも、自分の命が危なくても、よくそんな冷静にメモばかり出来ますね」

 いつもは漫画とかゲームの話しかしないが、珍しく少し突っ込んだ話をしてしまった。特に理由も、興味もないのに、柄にもない。

「僕は記者だからね。ただ、この目で見たものを見たまま記録する。それが仕事さ」

「そうですか」

 それで会話は終わりだった。


 ―― ―― ―― ―― ――


 …………この目で見たものを見たまま記録する。それが……仕事さ。


「大屋さん、握手してください」

「あ、ああ」

 俺は強く、これでもかと言っていいほど、大屋さんの手を握りしめる。二十年以上、メモを続けてきたその指は、思いの外硬くて、ごつごつしていた。


――「真面目で堅実な人が、何事でも一番偉いし、凄いって事だよ。絶対」


 真由美、お前の言う通りだったぜ。


 超越探偵なんて、偉そうにふんぞり返って。

 俺なんかより百倍も凄い人が、能力も何も持たなくても、最高に格好良い大人が、目の前にいるじゃねえかよ。

 不可能だと思っていた。この謎を解くなんて。動機もなければ伏線もない謎。純粋な混ざりっ気ゼロの「謎」。

 伏線はあった。犯人と俺と、じゃない。

 だがずっと、俺の周りに。

 それは――――大屋圭吾、この人の存在。


 俺は最早流れる涙を止めようともしない。ボロボロ涙を零しながら、大屋さんの手を強く握りながら、想いを伝える。

「貴方がここにいてくれたから、そして、貴方が今まで堅実に、真面目に、記者としての仕事を誇りに思い、飽きず、めげず、選り好みせず、職務を真剣に全うしてくれたおかげで、今回の事件を解く事が出来ました。僕みたいな、何の礎もないただの子供では、生意気な中学生では、一生かかっても解く事の出来なかった事件です。本当にありがとうございます」

 深々と頭を下げる。大屋さんはよく分かっていないようで、困惑顔。

 俺は更に声を掛ける。涙声でお願いをする。

「貴方が今日、僕の傍にいれくれて、本当に良かった。これからも、僕の傍にいて下さい。お願いします」

「……!!ああ、喜んで!」

 そこで初めて大屋さんも感極まった様に、俺の両手を握りしめた。


 真由美の言う通りだった。俺達、こんな所で、相性ぴったりじゃないか。何でも見たら「犯人」が分かる探偵と、何でも見たものをメモする記者。

 こいつは―――最高のタッグだ。


「ちなみに大屋さん!」

「なんだい、山之内君」

「FF4!」

「ローザ」

 リディアだろうが!パーティー全員大ピンチの時に突然大人バージョンになって帰ってくるんだぞ!!滅茶苦茶格好良かっただろうが!

「きまぐれオレンジロード!」

「ひかるちゃん」

 鮎川に決まってんだろうが!!ツンデレの走りだぞ!!鮎川まどか、マジ最高。

「化物語!」

「戦場ヶ原さん」

 八九寺ちゃんに決まってんだろうがよ!!小学生でツインテールで阿良々木君も溺愛してんだぞ。彼女こそがメインヒロインに決まってんだろ!!

 はあはあはあはあはあ……なるほど。


 相性は抜群かもしれないが、やっぱり、この人とは、超絶気が合わないぜ!!


 さてと。 

 俺は片手で、流れ落ちる涙をサッと拭う。 


 お膳立ては上々だ。


「――謎は全て解けた」

 いつもの様に、淡々と、何事もなかった様に、不愛想に。不謹慎に。

「お兄様……」

「トオル……」

 真由美と範人が俺の顔を見る。

 いやはや、心配をかけちまったなあ。でも、もう大丈夫だ。

「行くぞ!」

「はい」

「おう」

 ここからは俺の時間だ。この超越探偵山之内徹の、本日最後のハッタリによるハッタリの為の――――ハッタリの時間だ!!!!!!!!!


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