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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
55/68

超越探偵の弱点⑰

 記者のおっさん……。まさか……コイツか?


 いや、そうだよな。今度こそコイツじゃないのか?

 ヤツは俺と会った事などないと言っていたが、それは嘘で、こいつが最後の最後の黒幕。

 今までだって散々怪しかったんだ。俺がケルベロスと電話をしている時コイツいたか?俺達と落ち合うまでの間何をしていたんだコイツは。コイツが今ここにいる意味と言えば……。


「や、山之内君?」

 いつの間にか俺はおっさんに近づいていた。

 おっさんは少し脅えた表情。

 俺は無言のまま片手で帽子を弾き飛ばす。

 なあ、お前が犯人なんだろう。

 今度こそ、その額に「犯人」の文字が書かれているんだ。

 そうでないと……俺はもうどうしようもないんだよ。

 超越探偵でもなんでもなくなってしまうんだよ。

 もう―――――伏線は一つも残ってないんだよ。

 俺は記者のおっさんの、露わになった額を見る。

「…………」

「や、山之内君?」


 その額には……何も書かれていなかった。


 …………シロだ。


 クソ!!この野郎!!!カッとなって、俺はそのままおっさんの胸倉に掴みかかる。

「ああ、もう何の意味があるんだよ!アンタは!!」

「や、山之内君!!??」

「トオル!やめろ!」

「山之内君、どうしたんだ」

 驚いた範人と無能刑事が二人がかりで俺を羽交い絞めにする。

「離せ範人!!」

「やめろ!!お前こそ自分が何しているのかを考えろ!!」

「ぐ……」

 ……範人の言う通りだった。……何やってんだ。俺は一瞬で我に返った。

 一体何をやっているんだ俺は。クソ!八つ当たりなんて。

 脱力した俺を範人と刑事は解放する。

「トオル。何でもお前が背負い込む事はない。お前は今日十分頑張った。後は警察に任せよう」

「そうだ。不甲斐ないかもしれないが、もっと私達の事も信用してくれ」

「……はい」

 そうか……。そうだよな。俺にも出来る事と出来ない事がある。それはそうだよな。無理なもんは無理なんだ。ケルベロスの仕掛けた策は、これは勝負でも何でもないじゃないか。卑怯にも程がある。俺と関係がない?会った事すらない?伏線もない?理由もなければ動機もない?ここではないどこかに爆弾をしかけた?日本のどこか?どうやって探すんだよ。そんなもん探偵の仕事じゃねえよ。推理しても意味がねえよ。そもそも推理する材料が一つも転がってないんだからよ。それを何でだろうな?意地になっちまった。柄にもなく熱くなって、どうしちまったんだろうな。記者のおっさんにも悪い事をしたな。「犯人」じゃないからキレるって……ハハ、なんなんだよ俺は。

「記者さん……すいませんでした」

 俺は深く頭を下げる。

「いや、気にしないでくれ、山之内君。僕は大丈夫だ」

 なんだよコイツ、良い奴じゃないか。それを俺は、意味がないとか、石コロとか、存在感ゼロとか、なんて酷いヤツなんだ。

 胸倉を掴んだ時に落としてしまったのだろう。床には帽子や電子メモが転がっていた。

 悪い事をしたな…………。俺はそれをしゃがんで拾う。

「……あ」


 その瞬間、俺の脳に電流が走った。え……?まさか……?


「おいおいおいおい、ひょっとして、だよな?いや、まさかそんな事……ええ?」

「山之内君?どうしたんだい」

 その考えに体が震える。ゾクゾクしている。ひょっとして……まさか。いや、まさか?まさかだよ。都合の良い様に物事を考えたらダメだ。ついさっきそれで痛い目にあったばっかりだろうがよ俺はもう。本当に懲りない。反省しない。しっかりしろよ、まさかそんな事があるわけないだろうがよ…………………。



 だが、それでも。


 それだったらこのおっさんに何の意味があるんだ。(・・・・・・・・・・)

「記者さん。これちょっと、見せてもらってもいいですか」

「あ、ああ、構わないよ」

 電子メモを操作して、俺はディスプレイを眺めていく。平静に。がっかりしないように。


 まさか―――


 いやいやいやいやいや。そんなだって。

 だけど、そうだ!伏線が無い筈がない。そうだ、おっさんはどこに行くと言っていた?何か必ず伏線があった筈だ。



 ―― ―― ―― ―― ――


「記者さん、これは?」

「ああ、それかい。それは新しく出来るテーマパーク『オリエンタルランド』の地図さ。アニメフェスの前に取材で行ってきたんだ。まだ一般公開されてないからね。貴重だよ」


「最近よく名前を聞くよ。新進気鋭の県会議員でね。徐々に影響力を広げていってるんだ。『オリエンタルランド』も細山田議員の発案だよ。『地域の活性化』らしい」

「へえ。まあ、選挙権を得たら、また思い出しますね」


 ―― ―― ―― ―― ――


 政治家の、取材に行くと言っていたじゃないか!!!

 そうか!それだ!!

 そして、「オリエンタルランド」だ!!!


 俺の閃きは、一瞬で確信に変わった。


 俺は「2011年」のフォルダ内にある「11月21日 細山田太光」というファイルを見つけ出すと、直ぐに開いた。

 そこに書かれた文章を、食い入る様に読む。


 ――――― ――――― ―――――


――細山田先生は新進気鋭の政治家として、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いですが、御成功の秘訣は?

細:いえいえ、そんな、飛ぶ鳥を落とすだなんて。恐縮です。それもこれも全て市民の皆さんと、諸先輩方のおかげです。こればかりは私だけの力では、どうしようもありませんから。

――ですが、細山田先生はどなたか特定の後ろ盾がある訳ではありませんよね。市民の方々にしても、先輩政治家にしても。

細:まあ、そうですが。つまり現代の政治に於いて大きな組織であったり、派閥の必要性はない、という事かもしれませんね。やはり地域に根差し、市民の皆様の隣で、頑張ってきたおかげ、といいますか。

――市民の方々の目線に立った、政治という訳ですね。

細:はい、その通りです。それこそが私のやり方です。

――素晴らしいですね。では、今後、某県をどの様に変えていかれるおつもりでしょうか。

細:……ええと、大屋さんでしたよね。突然ですが、大屋さんは、犯罪について、どう思われますか。

――犯罪ですか?

細:ええ。フリーの記者さんですから、そういう記事も取り扱われるでしょう。

――まあ、そうですね。ですが、別件でたまたま事件に遭遇する、なんていう事の方が多いように思いますね。最近、とても優秀な少年探偵と出会いまして。仕事のない時なんて、その子に密着しています。

細:ほう、それは興味がありますね。また取材終わりにでも、詳しくお聞かせ願えますか

――ええ、喜んで。

細:話を戻しますが私はですね、犯罪は、犯罪として存在するから、犯罪となりうると考えております。

――それは、いわゆる箱の中の猫的な話ですか?

細:箱の中の猫は死んでいますよ。私はね、そう思っています。ですが、死んでいても、気が付かれない。それはつまり死んでいないとみなされる事もある、という意味として、私はあの話を理解しています。

――なかなか興味深い意見ですね。死んでいると確信されていて、それでも死んでいない可能性の話にも、目を向けるという事ですか。

細:はい。観測されてこそ存在するという言葉がありますが、その逆に、観測されなければ存在しない、とも言えます。ならば、どこかに悲しみがあったとしても、観測されなければ、ないに等しいのです。その証拠に、我々は世界中の戦争や事件、事故を全ては知らない。つまり、生活しながらも、平気で事実を存在しないものと認め、有機物を無機物に、生を死に変えている、業の深い生き物なのですよ。ですが、そうでないと、生きていけないではないですか。聖人君子ではないんですから。

――仰る通りです。

細:はは、少し話が分からない方に飛びましたね。まあ、何が言いたいのかと申しますと、今私が進めているプロジェクトのコンセプトに繋がっていくのですが。

――プロジェクト、と言いますと「オリエンタルランド」の事ですか?

細:ええ。悲しみも苦しみも認識されない場所。ただただ楽しみと喜びのみが顕在する場所。それこそが「オリエンタルランド」なのです。人々の幸せだけを箱に詰め込んだような、勿論、そうあって欲しいという、願望の話ではありますが。

――理想郷という訳ですか。

細:はい、その通りです。我々の理想郷です。

――我々?

細:ああ、私と、市民の皆様、という事です

――ああ、なるほど……。


 ――――― ――――― ―――――


「…………」


 何度も読み返した結果……そのページで「犯人」という言葉は一つも見つからなかった。


 …………違う。

 …………違った。

 細山田も、「オリエンタルランド」も、何も関係なかった。

 あれ?

 ええと……なら、別の記事。そう、別の記事だ!犯人が俺とは関係ないなんて嘘だ。


 俺は再び電子メモの別のファイルを食い入る様に読む。


「……………………」

 ……………………。

 ……………………。

 結果、ザイツ監督の時のメモも、津村君の時のメモも、村長の時のメモも、師匠の時のメモも、俺とおっさんが出会ってからの全てのファイルをザッと見てみたが、



 どこにもケルベロスらしき「犯人」と爆弾であろう「犯人」は見つからなかった。





「もう!!なんなんだよあんた!!!!」

「うわ!!!」

 俺は電子メモを床に叩き付けると、記者のおっさんを思いっきりぶん殴る。

「何考えてんだよ!!!何にも関係ねえじゃねえかよ!!一体何なんだよあんた!!この役立たず。いつもいつもそばにいるだけで!何の意味があるんだよ!!期待させんなよ!この無能野郎が!俺の目の前をハエみたいに飛び回りやがって、無能なら無能らしく、誰の目にも止まらず誰にも迷惑かけずに生きてくれよ!!本当、石コロだよ。足元に転がって、歩くのを邪魔する。蹴っ飛ばしても、思った所に飛んでいくわけでもない。本当、いい加減にしてくれよおお!!!!!!」

「何言ってんだトオル!!大屋さんに謝れ!!」

「そうだぞ山之内君!!」

 範人と刑事が再び俺をうしろから羽交い絞めにするが、今度は俺の怒りは収まらない。

「うるせえ!止めるんじゃねえよ!!俺は怒ってんだ!!こいつはいつもいつもいるだけの石コロ野郎じゃねえか!!石コロなら蹴らせろよ!!それぐらいしか役目はないだろうがよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ッッッッットオル!!!!!!!!お前は!!いい加減にしろ!!!!!」

「うわああ!!」


 怒った範人に軽く投げ飛ばされ、俺は床をゴロゴロ転がり、壁にぶつかって止まった。



「はあはあはあはあはあ……」

 大の字になって天井を仰ぎみる。疲れた。もう、休ませてくれよ。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 静寂が胸に響く。

 皆の視線が俺に突き刺さる。


 ああ、もう、クソ、格好悪い。

 勝手に期待して、勝手にキレて。

 再び期待して、更にキレて、ぶん殴って。

 最低野郎だな、俺は。まったく。

 ホント、最低野郎じゃないか。


「あー……と」

 俺はそのまま体を起こし、胡坐をかいたまま、記者に向かってぺこりと頭を下げる。

「ええと……とんでもない事を言ってしまい。スイマセン。ホント、何度も何度もスイマセン」

「いや、気にしなくていいよ。山之内君の言う通りだから……。僕は何の役にも立たないからね」

 そう言って記者のおっさんは、寂しそうに笑った。

 その表情を見て、酷い事を言ってしまったと心が痛む。

 だが、今のは俺の本音だからな。

 それに関しては、本音を言った事に関しては、謝らない。




 ああ、もう。なんだよ。


 事件が解けずに、関係ない人間に八つ当たり。


 最低にも程がある。


 最悪の気分だった。


 こんな気持ちにさせられるのも、誰が悪いんだ。そうだよ、あいつが悪いんだよクソ。


 何もかも。謎の組織の、


 ――――ケルベロスが悪いんだよ。


 


 


 


 


 


 








 どこかでぼわんと、


 


 


 


 

 音がした。


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