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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
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超越探偵の弱点⑯

 携帯を取り出し見てみると、番号非通知。ディスプレイには「犯人」。……「犯人」?

「もしもし」

 俺は通話ボタンを押し、電話に出る。

「いやあ、どうも山之内君だね。初めまして」

「どなたでしょうか?」

 俺は相手が何者か尋ねたが、その質問は無視された。代わりに衝撃の言葉が告げられる。

「今君がいるショッピングモール、ではない。全く何も関係ない場所に爆弾を仕掛けた(・・・・・・・・・・)。あと三十分で爆発する」

「……な」

 なんだって……?

 一体何を言っているんだコイツは。関係ない場所に、だと?

「『ジャイロマニア』の残党の方ですか?」

「違う」

 即答で否定される。

「私は醜いテロ事件の犯人とは一切無関係だ」

「…………」

「『ジャイロマニア』とは一切関係がない。『獏』は基本その事件の犯人や組織に入りこみたがるが、私はそんな下等な奴等と行動は共にしない。目的が無ければ殺人を、犯罪を犯せない様な弱い奴等とは違うのだよ」

 獏……?

「殺人に意味等ない。犯罪に意味等ない。あるのは殺人という概念であり、犯罪という概念なのだ。動機や、証拠等といった人間の汚らわしい感情に塗れた行為等、価値はない。更にそれらを暴く事を生業とする探偵など、消滅にしか値しない」

 コイツは……イカレてやがる。

 そして、この歌い文句は……。俺は確信に近い推測を口に出す。

「ひょっとして貴方、『謎の組織』の方ですか?」

「ああ、ご明察だ。流石名探偵」

「そういえば彩華が言っていましたね。『上が別の謎も用意している』って。でもいいんですか?貴方の組織は探偵一人に刺客一人なんじゃなかったんですか?」

「ああ、そうだ。次にその話だった。君が促してくれるから私は楽だね。ではその話をするとしよう。『獏』は全然君を負かせられない。だから、うちとしてももう彼女は用済みなんだ」

 獏とは……彩華の事か。

「今日から私、『ケルベロス』が君の担当だ。そして、それも今日で終わる。私の勝ちでね」

「随分とせっかちですね。彩華はどうなるんですか?」

「君と一緒に爆発で死んでもらう、予定だったんだがね。帽子に仕込んだ四つ目の(・・・・)小型爆弾で。だが、どうやら気づかれてしまったようだね。そこは流石、『獏』と言った所か。いや、ひょっとして君なのかな、気が付いたのは」

 会話が聞こえているのだろうか。隣にいる彩華がビクッと震える。

 つまり、そういう事だったのか。組織からの……排除。

 別の謎。

 爆弾の数のズレ。

 彩華が「ジャイロマニア」に指示した筈の四つ目の爆弾は、「謎の組織」によって撤去され、別の小型爆弾を「ジャイロマニア」も知らない四つ目として、彩華の帽子へと移された。


 彩華が俺の為に仕組んだこの事件は、

「謎の組織」が彩華の為に仕組んだ事件でもあったのだ。


 俺達の対決には、最初の時点から、不純物が混じっていたって事か。

 こいつは、まいったぜ。

 そして、今の状況は何だ。何を言っているんだ。こことは、まったく別の場所に爆弾を仕掛けた?それは本当なのか?

 だが、俺はこのケルベロスという男が言っている事は全て本当なのだと、確信を持っていた。何故なら「謎の組織」には理由がないのだ。つまり嘘をつく理由もない。なんてこった。ようやく「ジャイロマニア」が何とかなったと思ったら、いきなり第二ラウンド突入かよ。どうすればいい?

 なんとかヤツから情報を入手出来ないか?絶望的だが、俺は一つ質問をする。

「一つだけいいですか?犯人さん、ぶっちゃけ貴方と僕って会った事ありますか」

 正直に答えるとは思っていない。だが、ケルベロスは直ぐにその質問に答えた。

「私と君とは一度も会っていない。断言しよう。だから君には私の正体が分からない。さあ、これで満足かね?」

 一度も会った事がない。これが本当なら……。

「少し調べさせてもらったよ。山之内徹君」

 俺の思考等おかまいなしにケルベロスは話を続ける。

「君の事件の解決率は高すぎる。君と出会った犯人は殆どの割合で逮捕されている。私は臆病者でね。そんな君には近づくのも恐ろしいんだよ。だから距離を置かせてもらった」

 満足気に語る声。そして俺は……とどめを刺される。

「私の存在について、爆弾の所在について、ヒントを与える気も一切ない。理不尽を肌で感じながら、三十分後に君の知らないどこかの場所で爆発が起きたニュースを知るがいい。多くの人が死ぬだろうね。多くの人間が苦しむだろうね。多くの人間が悲しむだろうね。それは全て、君の所為だ。君が私に負けた所為だ。いいね。これはそういうルールなんだよ」

 待てよ、何勝手な事言ってんだよ。そんな事があって言い訳ないだろうが……。

「推理等無価値だ。ミステリーなど無価値だ。どうせ探偵の君の事だ。どこかで会った誰かが、関わった誰かが、今回身近で行動していた誰かが黒幕、つまり私だと思っているのだろうが、そんな事は絶対に有り得ない。伏線等存在しない。どの糸も君と私を結ぶ事はない。君なりの言い方で言うなら『百パーセントの確率でない』とでも言うのかな?断言しよう。私は君の視界にも、思界にも入った試しすらない(・・・・・・・・・・)

「……」

 ……まいったぜ。やられた。

 これはつまり、俺の弱点どころか、致命的な問題じゃないか。ていうか、俺じゃなくても一体誰がこの事件をどうにか出来るというんだよ。会った事がない?見た事もない?勿論そんなヤツには「犯人」等浮かばない。浮かびようがない。いや、今実際に受話器の向こう側のケルベロスには「犯人」という文字が額に浮かんでいるのだが、それを俺が確認する手段がない。それが何よりの大問題なのだ。

 出会わなければ、俺が見なければ、意味がない。

 こいつは、彩華とは事件への便乗の仕方が全く違う。距離の置き方が更に、上を行っている。彩華が相手の動機を利用して自分の事件を起こすのに対して、このケルベロスは、全く違う場所で勝手に事件を起こすのだ。何の動機も意味もなく。犯罪行為にこそ意味があると。だったら、俺を巻き込むんじゃねえよ……。

「当然、『獏』も私の事は知らない。会った事すらなければ噂も聞いた事がないだろう。『獏』はそうやって育てられた。余計な自我等持たなければ、処分される事もなかっただろうに」

 最後は独り言の様だった。どちらにしても俺にそんな事を考える余裕などなかった。

「それでは、ごきげんよう。名探偵山之内徹君。君の存在に、意味などなかった」

 そうして通話は一方的に切られた。


「山之内君、どうしたんだね」

 刑事が真剣な顔で尋ねてくる。

「こことはまったく別の場所、どこの県の、どこかも分かりません、に爆弾を仕掛けたと。それが三十分後に爆発するそうです。また、『ジャイロマニア』とは関係ない別組織の人物だそうです。つまり、分かりやすく言うと、まったく別の事件です」

「何だって!!」

 無能刑事はとりあえず本署に連絡を入れる。だが、何のヒントもない状態で、どこで爆発が起きるか等、分かる筈もない。

 俺はただホールに突っ立っているだけだ。何もできやしない。俺の腕はもう完全に捥がれてしまっている。……出会った事がない、視界にすら入っていないだと?

「……彩華。ケルベロスって聞いた事あるか?」

 俺が聞いても彩華は泣きそうになりながら首を横に振る。

「ねえ、彩華はどうなるの??死んじゃうの?捨てられたの?」

 途方にくれる彩華。こいつは本当に何も知らないんだな。いや、知らなかったんだ。本当に無垢だったんだな。だから「獏」でいられた。そして、何も知らずに「処分」される所だった。

「クソ!!クソ!クソ!クソ!!!!!」

 俺は思いっきりホールの壁を殴りつける。何度も、何度も。

 俺の所為で……人が死ぬ。

 俺が負ければ……人が死ぬ。

 なんだよこの勝負。ふざけんじゃねえよ。

 クソ!!どうすればいいんだ!!姿無き犯人をどうやって捕まえれば、知らない場所の爆弾をどうやって見つければ、いいんだよ!!!!!クソ!クソ!クソ!!!!!!考えろ!考えろ!!探偵だろうが俺は!!!!!!!


「お兄様」

「真由美……」


 真由美はいつの間にか俺の後ろにいた。その表情は変わらない。こんな状況でありながら、不安気でもなく、いつもののんびりとした顔だ。だが、


「お兄様……ボクを、真由美ヲオヨビデショウカ……?」


 だがその目、その目は空洞の様になっている。

 枯渇している様に。闇を潤す何かを求める様に……。

 ああ、そうか。そうだよな真由美。

 お前は……渇いて、いつでも、地獄を、求める。

 俺にはもうどうしようもない。

 無理だったんだ。

 やっぱり無能だったんだ。

 過ぎた望み。

 変な力を持っているからって……。

 それだけで何でも出来ると思って、挫けて。で、何も残らない……。だったら、いいか。俺はもう、いいか。



 楽になって……いいか。




「真由美……たす……」





――俺は喉の奥まで出かかったその言葉を何とかして堪える。

――ダメだ。それだけはダメだ。正気になれ。何を考えているんだ俺は。誓ったじゃないか。あの日、俺は……。クソ!


 とにかく考えろ。俺に出来るのはそれぐらいだ。どこに爆弾をセットした?「ジャイロマニア」の誰かは本当に知らないのか?

 どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ爆弾はどこなんだよどこだどこだどこだどこだ。どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ。

 俺は訳もなくホール内をウロウロする。頭を掻きながら、イライラしながら。

 ホールには今誰がいる?無能刑事と範人、真由美、彩華。そして……。




――俺の目線に、記者のおっさんが入った。


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