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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
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超越探偵の弱点⑭

 問題という程ではないが、ある事実が発覚した。

 手摺りからカーテンを蔦って降りている途中なのだが、やはり少し長さが足りなかった。マンションや学校の三階だったら十分だったんだろうが、このようなショッピングモールは一つのフロアの天井がやけに高かったりするからな。

 建物の二階を少し超えたあたりで、カーテンは終わった。全体の長さの半分程度だったという事だ。もう1セットカーテンを買えていたら良かったのだが、財布には1セット分のお金しかなかったので仕方がない。

 オレは今宙ぶらりの状態。腕の力もまもなく尽きてしまいそうだ。

 事実は今述べた通りだ。どうするか、だが。簡単だ。

 この手を離せばいい。

 だから、問題でも何でもない。最初からこうなる事も予想がついていた。

 三階なら、死ぬかもしれないが、二階ぐらいの高さなら、しっかり足で着地すれば、骨折で済む。骨折程度で友達を助けられるのなら、上出来だ。オレは何度だって、この骨を折ってやる。

 それが今、オレに出来る唯一の事なんだ。

「モシャス!」

 そう叫んで、俺はその手を、開いた。



 俺達は六階に辿り着いた。

 大きな両開きの扉が待ち構えている。そこには「イベントホール」とだけ書かれている。「犯人」とは書かれていない。

 ……ここまで来ても、ないときたか。

 なんだかんだ言って、最終的にこの六階で「爆弾発見」と「組織壊滅」、更には「生存」を賭けた大乱戦が行われるぐらいに思っていたのだがな。

 まあいいか。ここで立ち止まっている暇はないよな。

「さあ、ここです。ここに『ハラペーニョ』があります」

 そう言って、俺は皆を見回す。

 俺。真由美。記者のおっさん。

 橋本「犯人」。柳田「犯人」。彩華「犯人」。増田「犯人」。石橋「犯人」。小笹「犯人」。笹原「犯人」。原田「犯人」。田山「犯人」。山本「犯人」。本田「犯人」。田黒「犯人」。

 黒田さん「犯人」。田原「犯人」

 14人の「犯人」か。なんともまあ、壮観だな。


 各々の「犯人」マークを眺めながら、苦笑いする。


 今からが正念場だな。

 このショッピングモールが「川原電機」の研究施設のお下がりである事は説明した。そしてこの六階には「真由美の秘密基地」が存在する筈だ。

 当時、秘密基地を持つ戦隊モノにハマっていた俺の為に真由美がおじいさまに頼んで、作ってもらったのだ。

 現状で言うなら、ホール内にある「照明室」。「照明室」の中のどこかの壁に、動く部分があって、それを押すと、秘密の扉が開き、「真由美の秘密基地」へと繋がっている筈だ。

 そこは確かに秘密の小部屋といった雰囲気で、特に意味のない、意味深な回路であったり配線が張り巡らせている。あの部屋があのまま残っていれば、それを「ハラペーニョ」だと言って柳田を騙す事は十分に可能だ。

 先に全員を部屋に入れて後ろからボタンを押せば、閉じ込める事が出来る。中からは開けられない構造になっている。

 但し、秘密基地が現れた時点で俺達は実質用済みになる訳だから、その瞬間が一番のチャンスでもあり、ピンチでもあるのだ。

 あとは、十人以上の大人があの小部屋に入る事が出来るかどうか……。

「あ、そちら、奥まで詰めてください。はい、あ、角が空いていますので、田原さん、あちらへ。黒田さんは上座で、はい」等と、適格な俺の指示がものを言ってくるな。うん。


 さて……やるか。

 と俺がそう決意した、その時だった。


 ――その光景に違和感を感じたのは。


 あれ?何だ?何かおかしな所があるんじゃないか?

 不思議な感覚。なんだろうか。14人?犯人の数か?誰か忘れているとか?

 というか、普段と違う点があるというか。

 そわそわするというか。

 うん、何かがおかしい。



 それは、彩華……だ。


 やはりさっき、彩華と会って直ぐに感じた違和感は、これだったんだ。


 彩華が「犯人」。


 これって……おかしいよな。

 いや、まあ「犯人」なんだけれど。

 それは別におかしくはないんだけれど。

 そうじゃなくて。

 さっきの黒田さんの件があったから、今これに気づけたんだが。


 彩華、帽子被ってるよ(・・・・・・・・・・)な。


――例の如くバクの帽子。そこには更に例の如く「犯人」――


 今日、出会った瞬間から、あいつは「犯人」だった。俺はそのまま普通に流していたけど、その時点で、違和感は生まれていたのだ。おかしいのだ。

 今まで、帽子を被っている彩華に「犯人」の文字が浮かんでいた事なんてなかった。彩華の「犯人」が分かるのは、帽子を脱いでからだ。

 当たり前だ。だって額を見ないとダメなんだから。

 それなのに何で俺は出会った瞬間から彩華に「犯人」の文字を見ているんだ?

 俺は彩華を見てみる。

 バクの帽子。そこに「犯人」の文字。

 やっぱり……。

 俺はようやく違和感の正体に気が付いた。


 簡単だ。彩華の帽子自体に「犯人」と書かれているのだ。


 あまりにも多くの額の「犯人」が重なり過ぎて、帽子にまで浮かんだのか?

「ちょっと失礼」と皆をその場に立たせたまま、俺は彩華の下まで行き、帽子をめくってみる。すると本人の額にはちゃんと「犯人」の文字。帽子にも「犯人」の文字。二つの「犯人」の文字。

「何すんのさ。えっち~」

 ああ、いつもの台詞だ。これだこれだ。

 この台詞とセットの「犯人」確認ではないか。

 おいおいおい、じゃあこれはつまり……そういう事か。

 初めて出会った、ザイツ監督の、船の時と同じなのだ。

 いやいや、マジかよ。今回は……爆弾だぜ。

「毒の容器ならまだしも……お前、何て真似してんだ」

「へ?なに?」

 こいつは……イカれてやがる。俺はそのまま彩華の帽子をひったくる。勿論、なるだけ丁寧に。

「いやあ、参った参った!」

 そのあまりにも大胆な行動に、俺は高らかに声を上げた。

「こいつはなかなかだったな、彩華よ。まさか最後の爆弾がこんな所にあるなんてな」

 俺に能力が無ければ気が付かなかった。まさか本人が最初から爆弾を所持して行動していたなんてな。これは、参った。天晴れなヤツだぜ、彩華。

「まあ、勝負はこれで俺の勝ちだな。だが、褒めてやるぜ」

 そう言って、彩華の頭に手を乗せた。そして、彩華は……。













「……………………………………………………え?」









 その時の彩華の表情は俺が初めて見るものであった。


 天使の様な笑顔で「きゃはは。正解」でも「悔しい。何で分かったんだ!」でもなく

 ポカン、としている。

 ただただ、呆然としている様にも見え、今にも泣き出しそうにも見える。

 それはまるで……迷子になった子供の様な表情。小学生低学年、年相当と言うか。

「………………………………………」

 俺は何故だかその沈黙に耐え切れなくなり、慌てて声をかける。

「おいおい、どうしたよ彩華。変な顔して」

「………………………………あたし知らないよ?」

 知らない?何言ってんだ?

「嘘付け、この帽子お前のだろ」

「知らないもん………」

 彩華の表情は変わらない。

「いやお前知らないって、そんな筈ないだろうがよ」

「あたしが四つ目の爆弾の場所に指定したのは家具売り場……あ」

 そこまで言ってから彩華は咄嗟に両手で口を押えた。そして俺に向かって、

「あーー!!危ない危ない。探偵、分からないからってあたしに嘘ついてんだな。騙されて本当の爆弾の場所を言ってしまう所だったよ、えへへ」

「いやいやだから違うって……」

 どうにも要領を得ない。一体どうしたっていうんだ。

 まあいい。この帽子が爆弾かどうかは確かめてみれば分かる話だ。

「石橋さん、この帽子。見てもらっていいですか?」

「うん、何だ?」

 石橋は俺から帽子を受け取り、慣れた手つきで裏返す。耳のあたりをまさぐり、腕時計サイズの何か小さな機械の様な物を取り出す。

「ああ。これは……さっきまでのとは規模や作りは違うが、小型爆弾だな」

「やっぱり……」

 見ると、石橋も少し驚いた顔をしている。石橋も知らないのか……。更には他の「ジャイロマニア」の面々も一同にポカンとしている。

 いや、だったら納得いくんだが、彩華が「ジャイロマニア」には内緒で用意した最後の爆弾って言えばな。それで「爆弾発見」は全て辻褄が合うんだよ。三つと四つの意見の違いのな。だが、彩華のこの反応は何だ?全く、辻褄が合った表情でも、態度でもない。

「解除は……ああこれは、簡単だよ。デジタル設定だから、時計のストップさえ押せば……うわ。これあと10秒で爆発するんじゃないか?」

 そう言うと、慌てた動作で石橋がスイッチを押す。

「ふう……これで大丈夫」

 帽子が爆発する事はなかった。石橋は続けて小型爆弾について話す。

「これ、規模は小さいって言っても爆発した時、この帽子を被っていたら、頭は吹っ飛んでいたぞ」

「え……」

「………」

 マジかよ。

 俺と彩華は、二人して、思わず黙りこんでしまう。どういう事だ。

「おい、彩華。どういう事なんだよ」

 詰め寄る様な口調になるが、彩華の様子はおかしいままだ。

「……そんなそんな。あたしは、だって……指示したよ……。家具売り場って……。あれ?何で?」

 ぶつぶつと、呟いている。

 一体全体何がどうなっているんだよ。

「この帽子はどうしたんだよ!お前のだろう?」

「知らない知らない、あたしは知らない。そんな帽子知らない……」

 そして、俺は思い出す。先月の雪山での彩華の言葉を。

――この帽子は、組織が支給してくれるんだ。

――ふーん。


 ……まさか、こいつは……。


 俺の中で一つの答えが浮かんできた、その時だった。


 まったく、俺は油断していた。それもこれも全てを同時に何もかも行おうとしていたツケだ。つまり、自分の所為。全てをほったらかしにして、彩華に気を取られ過ぎていた。俺は時間を止めているくらいの気分だった。自分が動き出さなければ、シーンが進まない、ああ、なんていう傲慢。普段の探偵ならそれで許されていたのだ。自分が主人公で、俺の指揮で時間は動く。

 だが、今回の事件はテロ。敵からしてみればそんなシーン分け等関係ないではないか。

 例え俺が少女と意味の分からないやり取りを始めても、「ジャイロマニア」にとって俺達が用済みなのは確かなんだ。

 だって俺はもう「ハラペーニョ」の場所がイベントホールだって、言ってしまっているんだから。油断していた。いや、甘えていたのかもしれない。

 俺が勝手に動揺していた所為で、勝手に幕が開いていた。役者がステージに上がっていた。まだ、ホールの中にも入っていないのに。だが、それは俺が勝手に考えた演出であり、そんなのヤツには関係のない事なのだ。

 多分、長い間待たされて、最後の最後までわけの分からない小芝居を見せられて、我慢の限界が来たのだろう。

 気が付けば――柳田が、懐に手を入れていた。

 次の瞬間、そこから銃を取り出していた。 



 狙うのは、裏切り者の橋本か、用済みの探偵か……。


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