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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
51/68

超越探偵の弱点⑬

 あれからしばらくの時間を待ったのだが、未だ三五十五に動きは無い。

 ひょっとしたらもう少し、時間が掛かるのかもしれない。

 だったら、それまでの間に、オレは脱出材料でも調達するか。

 とは言っても、このフロアを動かない方がいいだろう。役に立てばなんでもいい。トオルの策が働いた時、すぐにオレが脱出出来ればいい。何か良い物は無いか……。

 オレは考えを巡らす。そういえば、このフロアには家具売り場があったな。うん。余計な考えはいらない。トリックとかそういうのは、柄じゃない。目的を達成する為だ。それを重視する。

 そしてオレはこっそりと家具売り場に移動する。目当ての商品を手に取り、レジに代金を置いてくる。映画を観たが、まだ少し残っていて良かった。

 そして、オレが再びカフェの前に戻った時、ちょうど状況は動き出していた。



 さて、高らかに三つ目の爆弾発見を宣言した俺。

 結果は一体どうなったのか。

 その答えは、石橋が今、ゲームセンターのゲーム機の裏から見つかった三つ目の爆弾を解体している所だと言えば窺い知って頂けるだろうか。

 武闘派によって俺達に銃口が付きつけられる事はなかった。爆弾解体の手続きは何の問題もなく進められた。その瞬間、俺は胸を撫で下ろした。

 さっきの俺の演説が効いたんだな。そして、その内容が彼に確実に伝えられたのだろう。

 至って平和な時間が、ゲームセンターには流れている。

 橋本はまたまた真由美に話しかけている。

 橋本が君しかいないんだ、的な事を言い、真由美はまたまたー。お口が上手なんですからー、等と笑いながら返している。

 なんだ?ナンパされているのか?どういう状況だよ。

 橋本め、とんだロリコン野郎だぜ。

 俺は橋本への評価を更に上げざるを得なくなった。

 彩華は範人がいなくなったから、目に見えてつまらなさそうにぽつんと一人佇んでいる。範人め!!!!彩華に寂しい思いをさせやがって馬鹿野郎が!!!!男ならずっと一緒にいてやれよクソ野郎が!!何でいなくなっちまったんだよ!!!

 俺の範人へとの怒りはマックスとなった。

 そして俺は。さあ、なるようになれ、だ。ダメならダメで、考えよう。「生存」フラグはこれで一応立ったのだが、こうなったらコンプリートしたくなるのが性だよな

 

 さあ、再チャレンジだ。

 

 俺は再び、黒田の下へと歩み寄る。

「黒田さん」

「……」

 ジロリ、と目出し帽から覗く一瞥。それは、全く先程と変わらない対応。下から攻めていくという戦略に効果は無かったか……。そう落胆しかけた、その時であった。

「……何だよ」

 黒田が、返事をくれたのだ。

 おお……。おおおおお!!うおおお、滅茶苦茶嬉しい。俺はこの時、涙が出そうな程の感動を覚えた。攻略不可だと思われていたキャラクターが……。やはり彼は本人よりも、下から攻めるべきだったんだな。兄貴肌だもん。

 よし、この調子で攻めるぞ。見てろ、陥落してやるぜ。

「そういえば、あの田黒さんって、ちょっと偏屈ですよね」

 凄い勢いで首が俺の方を向いた。血走った眼で睨まれる。俺はおしっこを漏らしまくりたい気持ちをグッと抑え、気丈に話しを勧める。

「普通の人だったら我慢したり、笑って許せそうな事でも妥協しないというか、ダメな事はダメっていう、融通が効かないというか、空気を読めないというか……」

 俺は黒田の仲間の田黒に対しての批判とも取れる言葉を次から次へと口にする。目出し帽の上からでもみるみる額に血管が浮き出てくるのが分かる。こ、怖い。目は今にも熱線が出る勢いで赤い。

 それでも、更に俺は話しを続ける。

「でも、だからこそ何が言いたいのか、何が許せないのかが分かるというか。理想をしっかりもっているんだなあって所はありますよね」

「お……」

 思わず、声が出たといった感じの黒田。

「誤解されやすいタイプですけど、仲間思いというか、他人を放っておけないんでしょうね」

「おお……」

 黒田の目が見開かれ、両手がフラフラと宙を浮く。

「僕、思うんです」

 そして、俺は決めの台詞を言う。

「ああいう人こそが本当に優しい人って言うんでしょうね」

「そうなんだよ!!!あいつは融通の利かないヤツだって誤解されがちだが、そうじゃないんだ!」

 次の瞬間、俺は凄い力で両肩を掴まれた。

「お前、良い奴なんだな!!」

 うわあ。この人、思った通りだった。超仲間思い。

 俺は会話をして気付いたメンバーの特徴を更に挙げる。

「本田さんは一見ちゃらんぽらんに見えて、実は一番周りに気を使っていますし。周りの状況を判断して、このメンツでは軽い、潤滑油役を演じているんでしょうね」

「おお、そうなんだよ。分かってくれるか!アイツはそういうヤツなんだよ。適当そうに見えて人一倍周りに気を使うヤツなんだよ!」

 バッと目出し帽を剥ぎ、破顔して、俺に話しかける黒田。

 その素顔は思ったより人好きのする、優しい顔をしていた。

 というかこの人、目出し帽脱いじゃったよ……。

 まさに心の壁が取り払われた瞬間だった。

 ちなみに額には当然「犯人」の文字。

「お前、分かってんじゃねえかよ!!」 

 そして、何て嬉しそうに仲間の事を話す人なんだ。

 困った事に俺は少し好感を覚えた。

 そもそも黒田さん、あなたは二回目合流の五人組だから「後で増えた人間とは知り合いでもない設定なんですが」なんて無粋な事言えない。

 そういう人なんだ。こんな人の下で働きたいと思った。

 そんなこんなで俺はしばらく黒田さんと会話をしたのだった。


 そして、秘密兵器「ピニャコラーダ」の効力も、出てきた。

 その男がやってきたのだ。

 坊主頭で楕円形の顔をした男。

「田原です」

 三五十五キターーーーー!!!!!!!。

 よ!待ってました!!!

 三五十五と花園薫。これで、待ちに待った柔道組揃い踏みである。

 ようし、範人、お前んとこの門番もこれで何とかなった。

 後は頼んだぞ。



 オレの目の前で三五十五が動いた。

 携帯を取り出す。どうやらメールをチェックしているようだ。

 そして、席を立ち、どこかへと歩き出した。オレはその背中が消えるまで物陰に隠れて見送る。

 …………。

 …………。

 しばらく待ってみたが、新手がやってくる気配はなかった。

 これで、カフェは無人となった。

 オレは店内と外を繋ぐガラス扉を開け、テラス席へと走り込む。下を見てみる。流石は三階。結構な高さだ。周りに乗り移れるような建物もない。

 冗談で飛び下りられる場所ではない。

 用意しておいて良かった。俺は家具屋で購入してきた物をテラスのテーブルの上に置く。

 カーテンのセットだ。財布に持ち合わせが無くて一組しか買えなかったが、大丈夫だろう。一セットに2枚入っているから、繋ぎ合わせれば3メートル以上にはなる。

 俺はカーテンの先端と先端を注意深く、何重にも結ぶ。更に一本の長い布となったそのカーテンをテラス席の手摺に括りつける。

 トオルだったり津村だったら、知恵を凝らしたトリックなりで敵の目を欺いたり、颯爽と格好良く、とっくに地上に降り立っているのかもしれないが、オレにそんな真似は出来ない。自分の事は自分で分かっている。

 オレは、自分の出来る事を、とにかく堅実に、だ。

 トリックや飛び道具ではない。オレに必要なのは、現実を何とかする力。それを痛感している。オレに力があれば、実力があれば。銃を持った相手と渡り合える力が、技術が、俊敏さが、勇気が、あれば。クソ。分かってはいるんだが、その事が涙が出る程悔しい。欲しい、人を守れる力が。

「クソ!待ってろよ!!トオル!マユミちゃん!」

 悔しさを噛み締めながら、オレは手摺りに足を掛け、両手でカーテンを握りしめた。



 三階のカフェはこれで今無人になっているだろう。俺が出来る事は全てやった。後は範人を信じる事しか出来ない。

 三つ目の爆弾もそろそろ石橋は解体してしまうだろう。

 その間、周りを「犯人」で囲まれた場所で、俺は最後の仕上げの為に、忙しく動いていた。「犯人」達と片っ端から話をしたのだ。柳田には更に橋本への劣等感と、本人の自尊心をそれとなく煽る様な言葉を投げかける。柳田は目に見えて橋本への警戒を強めている様だ。

 ――「ジャイロマニア」って悪い人達じゃないと思うんです。しっかりとした理念があって行動しているというか。そこらへんのテロ組織とは一線を画すというか。とにかく格好良いですよね。あ、探偵の僕がそんな事言っていたなんて内緒ですよ。田原さんは一般の人だからかな。気兼ねなく話せますね。

 ――柳田刑事って警察では「裏切りの柳田」って呼ばれていてFF4のカインか柳田さんかってぐらい……。

 さあ、これで「生存」は何とかなるか?

「組織壊滅」も、紆余曲折はあったが、何とか布石は打ってある

 一番は範人が間に合う事なんだがな。どうやったって今の俺の筋のまま、俺の力だけでテロ組織の壊滅なんて不可能だ。だから、「ヒーロー」は範人に譲ってやったのだ。

「考え事かい?」

 後ろから声を掛けられる。振り返ると、橋本だった。

「色々と大変そうだね」

「まあ、ぼちぼちです」

 何の事を指しているのか分からない為、俺は適当にしらばっくれる。

 橋本は爆弾処理が始まってから、すっかり陰を潜めていた。やはり、柳田と衝突したのか。俺のお蔭か?

「皆とは楽しそうにしているのに、僕とはお話してくれないのかい?」

 こいつ、分かっているのか?橋本は敢えてパスしていたのだ。コイツは変に勘ぐると逆に怪しまれそうだからな。

「どうやら山之内君からは嫌われてしまったようだな」

「そんな事ないですよ。僕はツンデレですから」

 俺がそう言うと、橋本は口元をフッと上げた。

「ふふ。二年前と変わらないね。君は、どこか飄々としていて、憎めない。そして、底が知れない」

「どうも」

 俺は適当に頭を下げる。

「だがね、やはり、一般人に協力を仰ぐのはね……」

 浮かない顔で石橋の爆弾解体作業を遠巻きに眺める。

「橋本さんも、柳田さんも、どちらの意見も理解出来ますけどね」

 俺は優等生みたいな事を言う。

「まあ、山之内君に頼りきっている時点で、そんな事は言えないんだろうけど」

 そうして、橋本は、その場を離れた。その間際。

「分かっていると思うが……柳田には気をつけるんだ」

「え……」

 俺が聞き返した時には、橋本は背中を見せていた。


 ……まったく。一体、どっちなんだ、彼は。敵か味方か分からない。

 増田から聞いた情報では確実に「ジャイロマニア」の一員なのだ。

 だが、増田の事を一瞬で売ったし、結構俺のハッタリの肩を持ってくれたりもする、様な気がする。俺が柳田に言っている様に、本当に潜入捜査なのか?嘘から出たマコトってヤツか?分かりにくいのが一番困るんだよな。シロかクロかはっきりと判明している方が断然楽だな。


 それからしばらくして、困った事がもう一つ起きた。

 唯一俺の能力が役に立っている「爆弾発見」だが、最後の爆弾がまったく見つからないのだ。あれから俺達は既に五階まで上がってきている。三階で一つ、四階で二つ見つかったので、最後は五階かな、ぐらいに思っていたが、甘かった。

 五階は映画館しかないわけで、その看板は一つだ。

「ニコニコシネマ」と書かれた看板には、爆弾を示す「犯人」の落書きがない。これで五階は終了だ。まさか今更下の階って事はないだろうな?

 館内案内図を隈なく見てみても、四つ目の爆弾だけは発見出来ない。

 一階なのか?二階から下を窺うチャンスしかなかったが、ざっと見ても「犯人」と書かれた店舗は無かったよな。二階はもっと確実に無いと言える。地下の可能性もあるが、それで、建物毎壊れたら「ジャイロマニア」も困るからな。

 そして俺を不安にさせるのは、柳田が言っていた爆弾が「三つで終わり説」の所為でもある。

「増田さん」

 気になる俺は増田に爆弾の数について確認を取ってみる。

「確か、爆弾は三つの筈だけどね。山之内君が四つにこだわる根拠も分からないし」

 増田も柳田と同じ事を答える。武闘派の田山にそれとなく聞いても、「勘だが、三つだと思うぜ」と答えてくれた。

 ううむ。一体これはどういう事だ?

 今回の事件のコーディネーターである彩華は、爆弾は四つあると言っている。

 だが、犯人一味は三つと言う。

 柳田の雰囲気もさっきの三つ目の爆弾処理後から少し違う。爆弾解体は全て終了。目指すは「ハラペーニョ」のみといった風に息巻いているのだ。

 六階、なのかな。

 六階は「爆弾発見」よりも「組織壊滅」のステージとして使おうと思っていたんだが。まあそれは勝手な俺の都合か。犯人グループをイベントホールで仲違いさせて、その混乱に乗じて俺達は脱出、ってのを考えているんだが。

 まあ、爆弾に関しては彩華に直接聞いてみるか。

 俺は映画館の外にあるソファに腰かけている彩華に話しかける。

「彩華。本当に爆弾は四つなんだろうな?」

「そうだよー。嘘つかないよお。ぷぷぷ。探偵が悩んでる悩んでる」

 心の底から楽しそうに笑う彩華。憎たらしい程可愛いな。

 ううむ……確かに四つなんだよな。じゃあ一体その爆弾はどこなんだ?

 ……こうなったら六階しかないか。

 六階のホールには「スタッフルーム」だったり、「舞台裏楽屋」等の、案内図に記載されていない部屋もあったりするだろうし、ひょっとしたらそこかもしれない。

 六階に最後の爆弾があり「ハラペーニョ」もある、と言い張る。

 行き当たりばったりは今に始まった事でもないしな。これでとにかくなんとかやってみるか。

 俺は最後の仕上げの為に再び増田に話しかける。

「増田さん。僕の推理によると、十中八九柳田刑事は警察の味方です」

 そう伝えた。増田は残念そうな顔を浮かべていた。

 こいつはアラームだ。けたたましく鳴いてくれよ。

 さて、駒の配置はこんなものでいいのではないか。


 そして俺は全てを動かす覚悟を決めた。


「柳田さん」

 俺は柳田に声を掛ける

「暗号が解けました」

「本当かい?」

 凄い勢いで喰い付いてくる柳田。俺はゆっくりと頷く。

「ええ、全ては……」

 全員の注目が集まる中、俺は上を指差す。


「六階ホールにあります」



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