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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
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超越探偵の弱点⑪

「なっ……!」

 俺はなるだけ動揺を見せたくなかったのだが、この時ばかりは流石に無理だった。犯人自身から、直接命を狙われている事を告げられたのだ。

「あれ、いや、でも。何で?」

 上手く頭が回らない。順調だったのではないのか?

「武闘派はあまり頭を使わないからね。爆弾を解体しなくちゃならない事情も殆ど理解してないんじゃないのかな?僕とか橋本さんは事の重要さが分かるけど。そもそも柳田さんのリーダーシップがあっての今回の計画だったし。その柳田さんが裏切り者かもしれないってなると、連中、見境いがつかなくなってもおかしくないよ」  

 しまった。そうか、武闘派か。

 柳田と武闘派のパイプを希薄にしてしまったのか。

「増田さんで何とか出来ないんですか?」

 思わず情けない事を言ってしまう。俺は馬鹿か。

「ちょっとは山之内君の事フォローしたけどね、結局僕はただの人脈筋みたいな地位だから、あんまり効果はないかも」

 そんな……嘘だろ。

「それにこれ以上僕が君の肩を持つと、今度は僕に疑いの目が向けられるかもしれない。今君に話しかけているこの状況だって僕にとっては綱渡りなんだから」

「……それは、確かに。すいません。ありがとうございます」

「まあ、名探偵も色々大変だね」

 俺達の命の問題を増田は「ちょっと困ったね」的な表情で淡々と話す。完全なる他人事。俺はその現実感の欠如にこそ、どうしようもないうすら寒さと致命的な危機感を感じた。現実離れしているこの状況、だが……これが現実。

 そして、俺と増田の会話で、一切何の進展も起きてはいない。

 マジかよ……。これは、何て愚かな真似を。つまりは、俺は自分で自分自身の首を絞めてしまったって事じゃねえか。

 橋本との絡みや次々と仲間を呼び出せるこの求心力に柳田は「ジャイロマニア」の中でも結構な地位だと推測し、「柳田を貶めて、組織自体に亀裂を入れる」という作戦を考えた。そして、その読みは外れてはなく、柳田は実際組織の中枢核の人間の様だ。その作戦が今成功しつつあるのだ。それは、無論喜ばしい事ではある。

 だが、である。その結果、「柳田の影響力が薄れ、柳田の命令が遵守されない」状況が生まれつつあるのだ。「柳田の命令」=「俺達の命の保証」であるにも関わらず。

 考えれば分かる話だ。そもそも俺が柳田に「ハラペーニョ」等の話を振ったのは、情報を盾に柳田達から始末されるのを防ぐ為。その作戦は現在でも柳田には効いている。だが、柳田の力が弱まれば、柳田の意志は組織に反映されなくなり、別の勢力が支配権を握る事となる。それが、武闘派勢力。最悪だ。それを、俺は状況が自分の掌で踊っているかの様に錯覚して、快楽すら覚えていた。なんて救えないんだ。自分で自分を死に追いやっていただけじゃないか。クソ。

 頭のキレるヤツならこれぐらいの事態は見越して行動するんだろうな。多角的視野で。結局、至って凡人の俺にはこれが限界なのかもしれない。


 だが、それでもここで諦める訳にはいかない。考えて、行動して、詰まって、考えて、行動。それが山之内徹だろう。俺を誰だと思っていやがる。超越探偵山之内徹だぞ。


 しっかり反省をして、気を取り直して、整理しよう。

 さっきも述べたが、メンバーから柳田に対する不審が出始めているという事は、つまり俺の工作の効果が現れているという証だ。

「組織壊滅」の芽は育っている。その一因に関しては、悪くない。これはこれで生きにしよう。今更作戦変更なんてしてもそれこそ俺の信憑性を下げるだけだ。一度口から出たハッタリを撤回する事ほど屈辱的なものはない。

 という事は俺がやらなければならないのは「柳田を陥れ」るのと、自身の「生存」の同時遂行。 


 つまり今こそ、近づき難かった武闘派に、歩み寄る時なのだ。


「すいません増田さん。じゃあ一つだけ」

「なんだい?」

「武闘派の中でリーダーは誰なんでしょうか」

「ああ、それは当然……」

 フッと微笑を浮かべ、増田は武闘派リーダーの名前を教えてくれた。それは俺の想像通りの名前。

「黒田さんだよ」

 当然か。傷だらけの体格もそうだが、あの目つきは只ものではない。というか目出し帽で目つきしか分からない。

「ありがとうございました。何とか頑張ってみます。あと、柳田さんは裏切り者じゃないかもしれません」

「え、本当に!?」

 嬉しそうな声を上げる増田。この時点で、柳田を落とすのを一旦ストップさせておこう。

 さて、まずしなければならない事だな。

 俺は黒田に近寄る。うわ、俺と頭二つ分は違うな、こいつ。とにかくデカい。

「黒田さん、こんにちは」

 黒田はゆっくりと首を動かし、ジロリと俺を一瞥してから、ゆっくりとその首をまた戻した。

「……」

 無視された。しかも一度確実に目があった状態からの無視。超怖いし超心折れた。胃がズンと重くなった。いやあ、これは効くわ。だが、諦めずに俺は再びその大男に声をかける。

「黒田さん」

「……」

 今度は一瞥もない。ガン無視。それはそれで超ショック。道を聞いていたとしたらもう別の親切そうな人を探すか、案内板に頼るレベルだ。そもそも目だし帽を被ったゴツい体格の人間に道を聞いたりしない。だが、今回は命が関わっているんだ。

「黒田さん。実は凄い情報がありまして……」

「……」

 ダメだ。何を言っても無視される。

 犯人に嫌われるのは慣れているが、この威力は半端じゃない。普段の犯人の十倍は効く。これが武闘派の重厚感か……。

 だが、諦めない。褒めて伸びるタイプかもしれん。

「いやー、黒田さんって凄いハンサムですよねー」

 俺は思いっきり低姿勢で、だが変に高い声で話しかける。

「最初見た時、役所浩二かと思いましたよ、いや本当、冗談じゃなくね」

「……」

「渡部篤郎にも似ているとか言われた事ありませんか?」

「……」

 ……ダメだ。

 今にも襲い掛かってきそうな目つきで俺を睨み付けてくる。全ての会話を無視。褒め殺しも効かない。黒田の俺への好感度は最悪だ。

「ときめきメモリアル」どころじゃない。「どきどきバイオレンス」だよこれじゃ。あとそもそもジャンルは恋愛シミュレーションじゃなく格ゲーね。格ゲーのキャラを落とすなんて出来るのかよ。俺は絶望的な気持ちに陥る。

 緊張のあまり汗が顔から流れてきた。俺はポケットからハンカチを取り出し、その汗を拭う。

「……」

 次の瞬間、黒田が目出し帽の中から俺を更に十倍程の物凄い勢いで睨みつけてきた。な、なんだ?ど、どうした。

 黒田は俺の手元を見ている。俺のハンカチを。

 そこで気が付いた。よく見ると俺が汗を拭いているのはハンカチではなかった。

 これは、Tバックだ。

 そういえばさっき、下の階で彩華を助ける時(?)に下着ワゴンに突っ込んで、咄嗟に手に取った下着を悔しさと共にポケットに入れたんだった。あの時は修羅場でじっくり見る余裕はなかったが、こんなにお洒落でエキゾチックなTバックだったんだな。

 というかマズイ。今も修羅場だった。マズイマズイ。よりによってこんなガチガチの硬派な人間の前でTバックを出すなんて。最悪だ。俺の馬鹿野郎。せめてふんどしだろうがよ。なんで俺は下着売り場でふんどしを咄嗟にポケットに入れてこなかったんだよ。悔やんでも悔やみきれない。

「あ、あはははは。あら、ハンカチかと思ったら、間違って妹のTバックを持ってきてしまいましたね。あははは。ははは」

 麻美子はTバックなんていやらしい下着は穿かないが、ここは仕方がない。

 だが結局俺の苦しい言い訳は、殺伐とした雰囲気を増す要因となるだけだった。

「ええと、あ、田山さんって、『YAWARA!』の花園薫に似てますよね。僕好きなんですよね。パッとしないけど、結構泣けるエピソードがあって……」

 つい、別の人間の話をしてしまった。こんなの引っかかるわけがない。俺らしくもない、動揺しまくりだった。

「……」

 当然ながら無視。だが。偶然なのかもしれないが。たまたまそう見えたというだけで、俺が黒田を見ている角度の問題だけかもしれないのだが。態度は変わらない。無口。無反応。だが、今少しだけ、雰囲気が和らいだような……。どういう事だ?気のせいか?

「やっぱり『YAWARA!』はいいですよね。スポコン漫画の金字塔と言いますか、一時代を築いたと言えるでしょう」

「……」

 まさかの「YAWARA!」好きかと思ってその括りで話題を振るが、さっきの様な雰囲気を俺は感じなかった。

 コイツ……ひょっとして、兄貴肌タイプなのか?


 だったら、このイベントは、まだかもしれないな。


 別のアプローチの方が効果的かもしれん。

「すいません。黒田さん。出直しますね」 

 来る順番を間違えた。まるでドラクエみたいだ。

 城の前に立っている門番。何度話しかけても絶対にそこを通してくれない。百回話しかけようが千回だろうが、それは一緒。何故なら、その前にやらなければならないイベントがあるから。

 

 恋愛シミュレーションでも、格闘ゲームでもなく、まさかのRPGなのかよ。


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