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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
46/68

超越探偵の弱点⑧

 そして俺達はブティックの控室を後にしたのだった。

 彩華が隣で俺に含み笑いをする。

「とりあえずは何とかなったみたいな、そんな感じね」

「ふん。」

 俺は軽く笑い返してやる。

「あいつらもお前が呼んだんだろ?お仲間か?」

 俺の言葉に彩華が目を丸くする。

「探偵って凄いね。いつも思うけど、アンタ見たら犯人って分かるの?」

「分かるよ」

「凄い自信だなー。うふふ」

 だから分かるんだって。

「でもあたしは知らないよー。へへん。あいつらは一般人かもよ」

 んなわけあるか。

「どうせ犯人を呼ぶんなら、この前の銅像の人みたいなのにしてくれよ」

「ぷ!!」

 彩華が思わず吹き出した。

「あはははは。最高だったでしょう!あの銅像のヤツ!」

「うむ。悔しいが、あれは秀逸だった。俺は舐めていたよ。銅像の可能性を……」

「あははは!!銅像の可能性だって!!変な事言ってるー。本当、あいつには笑わせてもらったよ!!」

 嬉しそうにケラケラ笑う彩華。今普通の人が俺達を見ても、お気に入りの殺人犯の話をしているのだとは夢にも思うまい。

 しばらく俺と彩華は大好きな銅像話に花を咲かせた。

「でもまあ、探偵の運というか、情報力というか。それは褒めてあげるわ」

 彩華は最高に楽しそうだ。こいつは本当に犯罪が好きなんだな。

「最初のピンチを乗り切ったご褒美に、ヒントをあげてもいいよ」

 こんな事を言いだす始末だ。

「お前なあ、俺に謎を解かせたくないんじゃねえのかよ」

「まあまあ、こういう時、犯人はだいたいヒントを与えるものでしょうがよ」

 こいつも、漫画の読み過ぎだよな。

「で、墓穴掘って探偵に謎を解き明かされるんだよな」

「あたしはそんな馬鹿じゃないよ。べろべろ~」

 おお……ハチャメチャに可愛いぜ。

「で、ヒントって何だよ」

 結局聞く俺。まあこれだけ難易度が高いんだ。ちょっとくらいヒントがないとやってられんぜ。俺に促された彩華が、口を開く。

「爆弾は四つある。以上」

 爆弾は四つ……。了解。

「でも、それだけでどこにあるのかは分からないわよね。ぷぷぷ」

 心底楽しそうに笑う少女。だが、他の条件はまだまだ手探りなのだが、「爆弾発見」に関しては、俺は超越探偵のままなのだ。

「じゃあ、このまま俺の反撃でいいか?」

「へ?」

「皆さん」

 俺はそこで皆を引き止め、小さな声だが、言った。

「ここです。この本屋に爆弾は百パーセントあります」

 そう、俺は宣言するのだった。

「へ……」

 彩華が間抜けな顔で突っ立っている。

 今言った通り、この本屋に爆弾はある。

 決定だ。

 何故かって?

 看板が「木村書房(「犯人」)」となっていたのだ。

 本日初めて俺の能力の有効活用ってわけだ。別にこの本屋が悪いわけではないのだが、無機物や人間以外の動物には、結果的に犯人となってしまったという事実が「犯人」という文字になって現れる。

 映画を観た後に寄った時には何も書かれていなかった。それ以降で俺が知った事件はテロ事件。つまりこれで決まりだ。

 というよりもそれよりも。

 実は、先程範人から受け取った全体地図を見て、分かっていたのだ。

 三階に一つと四階に二つ。

 店の名前にルビで「犯人」と書かれているのだ。


 あと一つは、地図に名前が載っていないのだろう。

 取り敢えず三つの爆弾発見は確定されたという事だ。


「ここに爆弾があるという結論に至った経緯を説明する推理も勿論ありますが、今は火急の状態ですので、割愛させてもらいます」

 と、断りを入れるのも忘れない。案外緊急事態ってのも、楽でいいかもな。

「うーん、山之内君、ここから店内全部を見渡せるけれど、本当にここなのかい?」

 柳田は爆弾よりも早く「ハラペーニョ」に辿りつきたくて仕方がないらしい。それとも爆弾がここにある事を知っていて、目を逸らさせようとしているのか?両方かもしれないな。

「範人」

 俺は範人に耳打ちする。

「爆弾はここにある。しっかり調べてくれ。くれぐれも気をつけてな」

「おう」

 そうして範人は店内へと入って行った。

「山之内君。ここがダメだったら早く次へ行こう。あと、暗号も早めに解き明かしてくれたら有り難いんだが」

「はい。暗号は今でも凄い勢いで脳内で考えている所ですよ。うんうん、あの♯Zがあのメガネ屋の事を示唆しているとして……」

「あったぞ」

 直ぐに範人が小さく声を出し、皆を呼ぶ。流石範人。何て仕事が早いヤツなんだ。

 文芸書の棚の下にある在庫を入れてある引き出しの中に、その爆弾は設置されていた。

 ドラマやアニメで見る様な、時計のついた配線だらけの感じではなく、もっとシンプルな造りだ。ちかちか緑色のランプが点灯している。

 似たような物を他の事件で見た事はあるが、アレは警察が近くにいたし爆発物処理班もいてくれたから気は楽だった。 

 今回そんな便利な機関は存在しないが、まあ、仕込んだ張本人の方々がいらっしゃるのだから、ひょっとしたら爆発物処理班よりも頼りになるかもしれない。

「とにかく、見つけたのはいいが、これはどうしようもないな」

 爆弾を眺めて橋本が冷静に判断する。

「そうですね。爆発物の処理にはそれなりの資格も技能も必要ですからね。私達ではどうしようもありませんね」

 柳田が頷きながら同意する。

 ふん、例文の様な説明をしやがって。

「とにかく場所は分かったんだ。警察や機動隊が中に突入した際にこの場所に爆弾があると教えられれば、それだけでもかなり有益な情報になる筈だ」

「そうですね」

 刑事二人がそう結論付けるが、ふん、そんなおためごかしはいらないよ。

 爆弾をどうにかされたら困るんじゃあないの?大事な大事な爆弾をよ。

 俺は少し能天気な気持ちで爆弾をジロジロ眺めながら、わざとらしく高めの声を放つ。

「いやー、これが爆発したら大変ですね!!」

「それはそうだろう。私達は愚か、もっと大勢の人が死ぬかもしれんからな」

 柳田が神妙に頷くが、俺は首を横に振る。

「いや、違いますよ。そうじゃありません」

「え?」

「それでデストロイコンピューター『ハラペーニョ』が壊れたらおしまいって事ですよ」

 あくまで優先順位はこっちに設定する。とんでもない化物がこの建物の中に存在するという想像を駆り立てる。

「それを極秘裏で開発、研究している政府や警察にとっても勿論ですが、『ジャイロマニア』にとっても大打撃ですよ。あーあ、何でこんな所に爆弾なんか置いちゃったんだろうな。不思議だな。まあ最初から引っかかってはいたんです。爆弾を仕掛けたなんてそんな真似を……。でもそれこそ警察に対する虚言ならば、なかなかの犯人だな、と。本当に仕掛けずに脅しとしてだけ使えばそれだけで政府、警察は一切身動きが取れなくなる。見事だなと思っていたのに……まさか本当に仕掛けていたなんて……愚かな」

「どういう事だ?山之内君。何がいけないんだ?」

 例の如く真剣な表情で柳田が俺に聞いてくる。

「いいですか?」

 ここから俺は表情を一瞬で真顔に戻す。声のトーンも低めに。

「今、外で警察がくすぶっているのは、全てデストロイコンピューター『ハラペーニョ』の為ですよ。決して人質が取られているからなんかじゃありません。間違えてはいけません」

 これは何度だって繰り返す。優先すべきは人質ではない。

「そしてこの爆弾が今爆発でもしたら、それは僕達の命は愚か、人質の命だって危ういかもしれません。ですが、そうでなくても。爆弾の威力が低く、僕達や人質が無事だとしても、この階は三階。僕の予想では『ハラペーニョ』が破壊される確率の方が高いでしょう。だったらもう誰が助かっただの、良かっただの、そんな平和な話ではありません。終わりですよ」

「終わり……?」

 軽い増田が似合わなく重い声を出す。良いね、良い反応だよ。

「はい、全員、おしまいです」

「どういう事だ?」

 石橋が小さな声だが、はっきりとした口調で真剣に聞いてくる。

「爆弾により『ハラペーニョ』の一部、若しくは全てが破壊され、その機密が少しでも館内の人々に洩れる様な事があれば、いや、希望を持たせる様な言い方はやめましょう。洩れる可能性があるならば確実に、と言いましょうか」

 俺はここで一旦、台詞に間を空ける。場に沈黙が流れる。

「その場合、犯人も人質も関係ない、全員始末される、という事だってあり得ます」

「な……いや、まさかそんな。この国でそんな大仰な事は……」

「昭和42年5月24日『桜松町銀行立て籠もり事件』昭和50年2月15日『帝福海峡バスジャック事件』昭和57年4月26日『龍猿ペンション事件』……」

 俺は適当な日付と適当な単語を連ねて、早口でまくしたてる。

「それらの事件は全て国家の機密厳守を第一に順守し、人質、犯人ともに殺害されています。当然、報道規制が敷かれ、殆どの人が知らないでしょうが。この国でも、触れてはならないものに触れてしまうと、それぐらいの凶行は起こり得るんですよ。平和な日常の真裏にどす黒い闇が隠れているものなんです」

「そんな……嘘だろ?」

 増田が絶望的な声を出す。ははは、嘘だよ。

「そして僕は今確信しました。犯人達は『ハラペーニョ』の存在に気が付いていません。知っているならこんな所に爆弾を仕掛けるなんて、身の毛もよだつ程に恐ろしい事、出来るわけがありません」

 俺は心底残念そうに首を横に振る。

「だから、尚更です。無知な犯人達の為に、全ての人々の命を救う為に、とにかくこの爆弾を処理してしまわないと。ひょっとしたら『ここに爆弾がある』という事実だけで政府は全てを消し去る悪魔の決定を下してしまうかもしれません。僕達の敵は当然テロリスト『ジャイロマニア』ですが、僕達を殺そうとする存在はそれだけではない。つまり四面楚歌の状態なんです」

 俺は拳を握り締め、唇を噛み締め下を向く。シリアスをアピールする。

 さあ、動け。石橋!

 だが、橋本が首を横に振る。

「だが、無理だ。僕と柳田にはそもそも爆弾処理の技能がない」

「いや、でも橋本さん……」

「柳田」

「……」

 柳田が何か言い出しそうになるのを、橋本が手で制した。

 どうした?ハッタリが足りなかったか……?

「あの……僕、それ解除出来るかも」

 その時、石橋が口を開いた。

「もともと僕がそれ……いや、僕そういうの好きで、ネットや本で研究したりしてるし、それにそれ、そんなに難しいヤツじゃないですよ。簡単な、爆弾だ」

「そうだな、石橋ならマジで出来ますよ。コイツこういうの得意なんすから!」

 増田もお得意のチャラい口調で合いの手を打つ。だが、その表情は少し焦っている様な。必死感がある。……ようし。かかったな。

 柳田も嬉々としてその尻馬に乗る。

「本当か?君達?」

「はい。大丈夫です」

「そうか、だったらすまないが……」

 俺のシナリオ通りに全て運びかかっていたのだが、この映画の様な不自然な構成に一人冷静さを欠いていない橋本が邪魔をする。

「待て、柳田。分かっているのか?彼らは一般人なんだぞ。前代未聞だ。どんな問題になるか……」

 橋本の言っている事は正論だ。そんな事を警察が一般人にさせるなんて有り得ない。絶対に有り得ない。

 だが柳田は食い下がる。

「橋本さん。山之内君の話、聞いたでしょ?『ハラペーニョ』が壊れたら大変な事が起こるって。一刻の猶予もありません。それにどちらにしてもこの爆弾が爆発したら、人質の命は無い。それだけは変わらないんですから」

 それは人質が本音か、建前か。どっちの立場の意見なのかな?柳田刑事よ。

 俺が既に「犯人」が分かっている事を、彼らは知らない。

 そんな俺がこんな緊迫した状況で嘘をつく理由はないのだ。

 完全に信用させている、と言っていいだろう。

「いいんですか?柳田……刑事?」

 石橋が、聞く。

「ああ。頼む」

 柳田は首を縦に振る。橋本は背中を向けた。

「僕は知らないぞ。柳田」

「はい。私が責任を取ります」

 それは一体どの立場の会話なのかね。お二人さん。

 だけど、今橋本が反対した感じは、結構普通の刑事の感じだったな。

 それはつまり、犯人ではないから?

 橋本の反応の方が刑事として当たり前の反応だからな。

 いや、逆に犯人だからこそ、柳田に俺の口車に乗るなと提言しているのかもしれない。正直犯人だとして、一番恐ろしいのは橋本だ。

 だが、ここでは柳田の意見が通った。もしこいつら全員が「ジャイロマニア」だとしたら、序列はどうなのだろうか?興味あるな。ひょっとしたらそれも突っ込み所なのかもしれん。

「10分。いや、7分でなんとかなると思う」

 石橋は早速鞄から何やら沢山工具を取り出してカチャカチャやりだした。

 ……あんた、ショッピングモールに何しに来てたんだよ、全く。いや、テロしに来てたんだろうけどさ。

 だがこれで「爆弾発見」所か「爆弾解体」まで何とかなりそうだ。

 俺の隣では彩華が憮然とした表情で立っている。頭を撫でようとしたら振り解かれた。へへ、ご機嫌斜めだな。

 さてと、じゃあ石橋が爆弾を解除するまでの間、どうしようか。このまま三階をぐるぐる回っても、仕方ないしな。

 ……ぐるぐる?なるほど。

 良いアイディアが浮かんだかもしれない。

 ぐるぐる巻きにするのは……こいつらの人間関係だ。

 それを何とか「組織壊滅」に繋げられないか?いや、まあ無理かもしれんが、時間があるんだ。アクティブにやってみよう。

 橋本は真由美と話している。

 記者のおっさんはいつもの様にカタカタしているし、彩華はいつのまにか範人と遊んでいた。おちゃらかほいをしている。

 いいな!俺も彩華とおちゃらかほいしたい!!全部遅出しで負けてあげて彩華の喜ぶ顔が見たい!!

 範人め!何度も言うが、お前の場所は俺なんだからな!!

 俺は範人への膨大な嫉妬の少量を、心の中で爆発させた。

 さあ、現状説明の続きだ。

 柳田は携帯をいじっている。

 増田は妙に無口になって、床に体操座りをしている。


 さて、俺は一体何をするかというとだな。

「橋本さん」

 俺は真由美と話している橋本を呼ぶ。

 さて、蛇が出るか鬼が出るか?

 俺はもう一歩……踏み入れる。

「どうしたんだい?」

「増田さん、石橋さんについてですが、どう思います?」

「怪しいな」

 おお、正直だな。

「そもそもこの時間までショッピングモール内を徘徊していた事がおかしい。山之内君は柳田と行動を取っていたから知らないかもしれないが、彼らは僕達を最初に見ても一切臆す事も無かった。この中には凶悪なテロリストが徘徊していて自分が殺されるかもしれないのに。そんな人間の取るべき行動ではない。それに石橋君。あの手際の良さ。まるで自分で仕込んだ爆弾の様に滑らかに処理している。うちの爆弾処理班よりも手際が良いよ。彼は明らかに犯人サイドだ。もし本当にただの一般人だったとしたら、今日にでもスカウトして署に連れて帰りたい程だよ」

 おお、先手を取られた。橋本、優秀だ。

 ここまでずばずば言うとなると……やはりこいつは事件と無関係?

 さっきからこいつの言う事におかしな点はないしな。

 ううむ。俺はこれを一体どう解釈すればいいんだ。

 課題を抱え、俺はそそくさと橋本の元を離れた。


 そして俺は次に携帯を扱っている柳田に声を掛ける。

「橋本刑事は、優秀ですね」

「ん、そうだな」

「やっぱり自慢の上司なんですか」

「まあ……そうだね」

 俺が気になったのは先程、柳田が石橋の爆弾処理を許可した事だ。

 どうやら刑事としての序列は橋本なのだが、「ジャイロマニア」では柳田の方が上みたいなんだよな。いや、二人が「ジャイロマニア」だと仮定したらだけどね。

 だったらどっちに転んでも良い様に布石を打っておくか。

「橋本刑事って、絶対に悪の組織とかに屈しなさそうですもんね」

「そうだね……」

「もし敵の組織に与していたとしても、それは潜入捜査だと思いますね。前回の事件でもそういう事やられていましたし(やってません)」

「そうなんだ?」

「ご存知ないですか?」

「私は一年前に配属されたばかりだからね、橋本さんともそれからの付き合いだ」

「ああ、そうなんですか?それでも橋本さんなら過去のそういう経験は、話しているものと思っていましたよ」

「……どうだろうね」

「柳田さんに言ってないとしても何か理由があるのかもしれませんね。あ!そういえばこの事実って、前の事件の際に僕だけがそれを見破って橋本さんに聞いた事でした。橋本さんからは『今後の捜査に関わるから、秘密にしてくれ』って頼まれていたんですよ。あーあ、忘れてたなあ。まいったなあ。柳田さん、僕がバラした事内緒にしておいてくださいね」

「……ああ、分かったよ」

 疑心暗鬼を軽く滲ませた瞳で柳田は頷いた。橋本がクロならこれで柳田はヤツを疑うだろう。で、橋本がシロでも、ちょっとのわだかまりで最初のターゲットを橋本にしてくれたら、俺達の生存率が上がるからな。ふふふ。悪く思うなよ。

 さあ、お次は増田だ。

 俺は増田の前に立つ。俺を見上げる体勢の増田。

「増田さん」

「ん?何だい、山之内君?」

 コイツには……直球勝負だ。

「貴方犯人ですよね?」

「ギク!」

 ギョッとした表情で固まる増田。というか今コイツギクって言った。分かりやすいヤツだ。

「心配しないでください、誰にも言いませんから」

 俺は増田を安心させるようにしっかり目を見て、優しく、話しかける。それでも増田はまだ俺を警戒している。

「それに、ここには貴方のお仲間さんがいっぱいいるでしょう。別に僕一人にバレたからって何て事ないじゃないですか。」

「……どうして分かったんだい?」

 恐る恐るといった感じで、増田は俺の顔を見て、聞く。

「だって顔に書いてありますから」

「……!!」

 増田は咄嗟に額を押さえる。ビンゴ。

「言いませんよ」

 俺は増田に笑いかける。

「何でだ」

「だって貴方良い人ですから」

「山之内君……」

 増田の頬がみるみる赤らむ。はは、こいつちょろいわ。

「で、お聞きしたい事がありまして。どうして僕達に合流したんですか?」

「あ、それは柳田さんから連絡があって、呼ばれたんだ」

 あっさりと味方の名前を漏らす。

 はい、柳田決定。

 じゃあもう一つカマをかけてみるか。

「で、柳田さんからメールがあったんですか?『橋本さんと合流しろ』と」

「……その通りだよ。凄いね君」

 はい橋本も決定。

 さっきまでの俺の「橋本が犯人でないと仮定して……」みたいな頭脳戦は一体何だったんだ?まあ、そうだろうとは思っていたが、結局そうでしたか。

 橋本も……か。なんとも早い真相解明だった。しかもこんなチャラ男に。

 順番間違えたな。最初にこいつに聞いておけば良かった。まあでも柳田に施した橋本への心理操作は結局、あれで上手くいきそうだな。

 今回の事件の難易度を考えたら、悠長に「犯人当て」等している場合ではない。知り得る情報は、どんな手段を使ってでも、手に入れる。

 だが、今の増田の口振りだと、彩華が俺を困らす為に仲間を呼んだという事でもなさそうではある。本人も言っていたし、今までの彩華の事件への関わり方を見てみても、事が起こってからあれこれ陣頭指揮を執るタイプではないからな。ある意味納得がいった。

 それに「ジャイロマニア」から顔も覚えられていないみたいだし。津村君の時と同じで、ネットだけの繋がりとか?それはないか。

 そして、柳田の二階での行動は何だったんだろうか。橋本は愚か、柳田も確実に犯人なのだ。なのに、仲間である犯人の一人を柳田は俺達の目の前で倒した。

 俺の情報をまだ聞いていなかったから?信用させる為?まあ、理由は考えればたくさんあるか。まあ、俺からしてみればあそこで正体を現さないでくれて大変有り難かったんだから、これ以上考えても仕方がない。

 よし、それならそれでその事をプラスにすればいいのか。そう思いたつなり俺は増田の前で少し首を傾げ、不思議そうに声を出す。

「だけどおかしいですね」

「え、何が?」

「柳田さんが犯人なんて事は絶対ありえないんですけどね」

「え、何で?」

 その問いに俺は即答する。

「僕は探偵ですよ?」

「探偵……?」

「解いた事件は数知れず、小さな頃からうんたらかんたら……」

 色々とうんたらかんたら言う。

「何よりの証拠に増田さんが犯人なのを当ててみせたでしょ?」

「た、確かに!」

「ね?」

「……」

「例え柳田さんが犯人一味だとしても。ははーん、それは潜入捜査でしょうね」

「そうか……。そうなのかな?」

 揺れる増田。コイツは傍からみても分かりやすすぎる。

「まあ、増田さんからしてみれば切実ですよね。確かな情報が分かったら増田さんには教えてあげますよ。僕達、友達じゃないですか。ニコリ」

「山之内君……」

 増田は目に涙を浮かべて俺を見た。

 はい、増田完了。

 俺は他にもちょっとした情報を増田から聞き出した。

「組織壊滅」の良い筋が浮かびそうだ。


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