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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
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超越探偵の弱点⑦

 俺達は館内階段の前で橋本組と落ち合い、彩華を保護した事を告げた。

 その瞬間の橋本の顔を俺は注意して見ていたのだが、不可解な表情を一切見出せなかった。

 橋本は少女の頭を軽く撫でると、ポケットから取り出した飴玉を差し出す。

「うわーい。ありがとう」

 彩華はご満悦顔で飴をコロコロ舐めている。流石、なのか?

 そして、橋本組も二人、仲間が増えていた。誰の仲間だって?それは決まってんだろう。

「事件に巻き込まれた一般人だ。通路で出会ったから、連れてきた」

「増田でーす。宜しく」

「石橋です」

 二十代程の細身の若者二人、である。

 その額には、「犯人」と書かれていた。

 彩華の攻撃が、始まった。らしい。


 茶髪でいかにもチャラい感じの増田。俯きがちで暗そうな石橋。

 二人は知り合いだそうだ。買い物に来ていた所をテロに遭遇したとの事だが、当然怪しい。だって「犯人」だからな。

「あの二人、出会った時はどういう感じだったんだ?」

 オレはこっそり範人に出会った時の状況を聞く。

「二人とも勇敢だったな。オレ達がこそこそと行動している所に『おーい』って何の警戒もなく歩いて近づいてくるんだもんな」

 ううん……怪しい。怪し過ぎる。

「真由美は?」

「クロですね」

 即答であった。

「増田さんは普通のお兄さん。石橋さんからは……技術者の匂いがしますね」

 真由美の鼻は良く利くからな。情報として取っておこう。

「とにかく三階へ上がろう。そしてそれからお互いの報告だ」

 合流してからは、橋本が俺達を仕切り、上へと進む。


 二階で3人が増え、一気に大所帯になった俺達は、再び作戦会議をする為に、また一つの店舗、ブティックの奥にある従業員控えへと入ってきていた。二階にはフロア自体を巡回している見張りがいたわけだが、三階はやはりカフェの柔道部二人組だけの様だ。警戒して歩いたが、フロアに人の気配は無かった。

 ブティックの控え室は先程のブランドショップよりも倍以上広かったが、俺達の人数も増えている。置いてあった椅子に各々腰かけても、少し窮屈だった。彩華は範人の膝の上。何故いつもいつも、おのれ範人め……ぎりぎりぎり。

 というか、これ。俺、真由美、範人、記者のおっさん4人に対して、橋本、柳田、増田、石橋の「犯人」4人。彩華を含めれば「犯人」5人か。全員が今回の事件の犯人なのだとしたら、今襲われたら俺達は終わりだな。

 ひょっとしたら、そのつもりでこんな個室に俺達を招いてきたのかもしれない……。

 彩華との対決。まず最優先にクリアすべき問題は「生存」である。先だってそれ以外に考える要素はない。「爆弾発見」「組織壊滅」は二の次だ。とにかく命が一番。

 だが、どうすれば……。この状況自体が彩華にとって、「ジャイロマニア」にとってもチェックの状態なら、いつ殺されてもおかしくない。

 だが、どうなんだ?やはり橋本は違うのか?だから犯人達は迂闊に動けない、のか?

 そうでないと、多数決の原理として、おかしい。

 思考に潜っている中、柳田が俺に話を振ってくる。

「山之内君。さっきの話だが、皆も揃った事だし、詳しく聞かせてくれないか」

「ああ……そうですね」

 一瞬何の事なのか理解出来ずにポカンとしてしまったが、すぐに思い出した。おお、そうかそうか。それがあったな。俺が適当に言った「人質よりも価値のあるもの」ってヤツだな。それだけ気になるのか。さっき柳田にタネを蒔いていたのは正解だったかもしれない。「犯人」の人数が増えた今、どんな形であれ、ハッタリは効かせるだけ効かせておいた方が良い。

「柳田さんには先程ちらっと言いましたが、このショッピングモールには、とんでもない秘密が隠されているのです」

「秘密?何なんだい?山之内君」

 橋本が冷静な表情で尋ねてくる。

「それは……いや。言えない、やっぱりダメだ」

 一旦、焦らす俺。その間に内容を、何となく頭で構成する。

「おいおい、山之内君。聞かせてくれ。今回の事件の鍵になるかもしれないんだ」

 柳田が問い詰めてくる。おいおい、必死だな。これは思わぬ撒き餌になった。

「ですが、僕も最初は橋本さんも柳田さんもこの事実を知っていて、それでこのショッピングモールを見張っていたのだとばかり……でもどうやらご存知ないみたいで。更に一般人の皆さんも巻き込むわけには……」

 俺は神妙な顔で俯く。深刻で、驚愕の事実……を考えなくては。

「ダメだ。やっぱり絶対にダメだ。皆に迷惑がかかる」

「だが、山之内君……」

「この話を聞いたらもう後戻りは出来ませんよ?」

 俺はなるだけ低い声で、周りを威圧する様に言う。

「ここを無事に乗り切れたとしても、いつもの日常に帰れる保証はありませんよ。それでも聞きたいと言うのですか?」

「…………」

「それほどの秘密を共有する覚悟があるのならば構いませんが、いや、それでも僕が許される事はないか……」

 黙りこくる面々。話す内容は固まりつつある。

「……聞かせてくれ」

 俺の嘘の圧力にも負けず、口を開いたのは柳田だった。

「糸口になるなら、やはり聞かなくては。このままではどうしようもないんだから。誰も山之内君を恨んだりはしないよ」

 柳田、エラく押すねえ。それは刑事としての責任感かい?あるいは……。

「……分かりました。ではお話しましょう」

 何とも勿体ぶったな俺は。だが、重要な話という印象付けには成功しただろう。さて、始めるか。こういう場合、ハッタリは大きければ大きい程、嘘みたいであればある程良い。ここはガツンと、ワールドワイドで行こう。

「このショッピングモールには、日本が独自で開発した、デストロイコンピューターがあるんです」

 俺ははっきりと通る声で自信満々に言った。

「……デストロイ……コンピューター?」

「はい」

 それだけではなんのこっちゃである。ただわけの分からん言葉を放っただけ。俺はそれを補足する為、更にわけの分からん説明を続ける。

「独自の理論で構築・開発された超ハイスペックのマシンが可能にしたシステムにより、超圧縮された情報をネットを通じて世界中に放ち、相手方のコンピューターのあらゆるネットワークを支配する事が出来ます。情報を盗む事も全てを書き換える事も、当然、破壊する事も出来る。例えば某国の軍事コンピューターに入り込み、ミサイルのボタン発射ボタンを押すことだって簡単に出来ます。従来のハッキングとはアクセス方法が全く違います。従来のシステムを家の鍵を開けて、中に入り、家財道具を盗んでいく空き巣に例えるとしますと、デストロイコンピューターは目的の家の上から全く同じ家を作り、所有者だけをそっくり入れ替えるやり方が出来ます。そうやってまるまる手に入れる事が出来るんです」

 どうだどうだ?ちょっとぶっ飛び過ぎか?大丈夫か?だが、みるみると俺の大法螺話に吸い寄せられる「犯人」達。

「それって、どういうシステムなのかな」

 石橋が尋ねてくる。技術者の匂いがすると、真由美が言っていた。ああ、確かにそういうの詳しそうだねこの人。

「僕もそれに関しては門外漢なので、専門的な説明は出来ませんが、製作したチームの名前を挙げる事は出来ます。なんでも研究者、技術者の精鋭の中から更に精鋭を寄りすぐった、名称はPTA機関……」

「PTA機関?耳にしない名前だな。PTF機関なら知っているが」

 おお、似たような機関があったのか。ならこれは上手い事利用させてもらうとするか。

「ああ、それですそれ。PTFの中から最も優秀なメンバーを選びに選び抜いたPTE。その中に更に世界から集めたエンジニアを加えたPTD。そこから試験を行い再びにふるいに掛けて厳選されたPTC。更に半年の地獄の研修を終えたPTB。そしてPTBを何度も濾過を重ねた結果、抽出された一握り、ほんの一握りの人材と技術を有するチーム。それこそが……」

「PTA機関……」

 石橋がゴクリと息を呑む。こういう斜に構えて周囲に無関心を気取った人物程、ネームバリューや権威に弱いものである。 

「じゃあ、全てを破る事が出来るみたいだけど、セキュリティはどうなってんの?相手のどんなプロテクトも破壊出来るって事なのか?」

「先程も言った通り、相手のセキュリティを破る、という概念ではありません。デストロイコンピューターと銘打っていましても、アプローチとしましては、ハッキングというよりは再構築、リストラクチャラスに近い感覚ですね。従来のコンピューターはスペック的にも相手のプロテクトを破る方が楽で効率が良かったから、ハッキングや相手方のシステムに侵入をしていたのですが。だがデストロイコンピューターは破るよりもゼロから新しく創り出す方が楽なんです。信じられない程の大金持ちは誰かの何かが欲しい時、わざわざその家にコソ泥に行って、ピッキングをしたりしません。大金をはたいて、その家を丸ごと手に入れる。そして、更に強欲で狂った超大金持ちなら、自分が欲しがったモノそのものを『別の誰かが所持していた』という事実さえ憎む事になります。だから一度その家をありとあらゆる手を使って破壊しつくし、その残骸の上に全く同じ家を作りだすのです。デストロイコンピューターはその強欲で狂った大金持ちと言えるでしょう」

 おお、口からぽんぽん適当な言葉が出てくるぜ。これは死んだら地獄行きだな確実に。

「それ、何て名前なんだい?」

 石橋が観念した様に最後に名前を聞いてくる。

 よし、それじゃあトドめに最高に格好良い名前をでっち上げてやりますか。

 インパクトのある名前は……名前は。

 何かそれっぽい名前、あるだろう。何かそれっぽい名前。

 あ、あれ?

 名前…………?

 出てこないなあ。どうしたんだろう。

 名前名前名前…………。

 あらあらあらはらはらはら……。

「ハ『ハラペーニョ』という名前です」

「『ハラペーニョ』だって……それはあの唐辛子のハラペーニョかい?」

 ぎゃああああああああああああああああ!!!!

 おいおい、何で俺、言うに事欠いてハラペーニョなんて言っちまったんだ?もっと良い名前があっただろうが。「ニライカナイ」とか。あ、ニライカナイ良いじゃん。でも今更「あ、間違えました『ニライカナイ』でした」なんて言ったら信用なくなるよな。

「はい『ハラペーニョ』です」

 俺は肯定するしかなかった。一度口に出したものは、撤回出来ん。

「日本製ですから」

「????」

 混乱してわけの分からん事を言う俺。ハラペーニョって日本の唐辛子じゃなかったっけ?何言ってんだ俺。ああ、もう。

「なるほど」

 そこで、橋本がうんうんと頷いて見せる。

「橋本さん?」

 柳田が思わず橋本の顔を覗きこむ。

「ハラペーニョはメキシコ産の中辛の青色唐辛子。ギネスに認定されているブート・ジョロキアやハバネロに比べたら辛さの単位であるスコヴィル値も格段に少ない。だがそれを敢えて世界一のコンピューター、しかも『デストロイ』と銘を打たれているものにつけるとは。慎ましやかな日本のネーミングセンスと言った所か……」

「橋本さんの言う通りです。はいその通りです」

 おお……ナイス。サンキュー橋本。素晴らしいフォローだ。なんか俺自身聞いていてそういう気がしてきたよ。そうだよ、日本の研究者は謙虚なんだよ!!

 皆、俺の話を食い入る様に聞いている。どうやら、何とか信用させる事が出来たみたいだな。

 ひょっとすると、橋本は俺の味方なのかもしれない。

「だが、そんな、そんなものがあるなんて一切知らなかった」

「当然でしょう。そんなものを日本が研究、開発しているなんて他国に知れたら、すぐさまサイバーテロ国家のレッテルを張られてしまいます。知っているのはこの国の一握りの人間だけです」

 政府を相手取る様なテロ組織「ジャイロマニア」だ。それなら俺だって国家権力を使わせてもらうぜ。

「凄いなー」

「俄かには信じられんがな」

 能天気な増田と懐疑的な石橋。両極端な二人。だが石橋も俺との受け答えで、疑いながらも、興味を持ち始めているといった様子。

「犯人はきっとそれの制御を狙っていると思ったんですが、まさか人質を取るなんて……」

「山之内君、山之内君。気になる事があるんだが、いいかい?」

「はい柳田さん。何でしょうか」

「それ程の国家機密。何で君はそれを知っているのかい?」

 おお、それを聞かれたか。まあ聞かれると思っていたけどね。

「このビルを建設した会社の名前、知っていますか?」

「確か、神楽坂コンツェルン……だったかな」

「はい。政府御用達の民間企業です」

「だからといってそれが理由には……」

「更に、このショッピングモールの前にこの場所に何が建っていたか、ご存知ですか?地元の人なら知らない人はいませんけど」

 俺の言葉に増田が手を上げる。

「あ、僕地元だから知ってるよ。確か凄く大きな研究施設だったよね。何のなのかまでは興味なかったから知らないけど」

「電機会社の新商品開発であったり、社会貢献テクノロジーの開発等を行っている、施設だったね」

 橋本が情報を補足してくれる。

「はい、その通りです。元々その施設が秘密裏で行っていた実験が『ハラペーニョ』なんです。だが、その情報がある日どこかから外部へと漏れてしまった。焦った政府は大元である研究施設を潰す事にしました。ですが長年研究を重ねて出来上がった『ハラペーニョ』を捨ててしまうのは惜しい。いえ、惜しいなんてものではありません。捨てるなんて選択肢は無かったでしょうね。なんとしてでも、存命させたかった。そこで『ハラペーニョ』だけをそのまま残し、カモフラージュとしてその建物を丸ごとショッピングモールにするという、大胆な作戦に出たんです。誰もまさかそんな世界的な大発明がショッピングモールにあるとは思いませんからね。そういう意味では、目くらましは成功したと言えるでしょう」

 俺の説明を皆は黙って聞いている。先程よりも、真剣な雰囲気が上がったように思われる。

「山之内君の言っている事は荒唐無稽だが、ここで嘘をつく理由もない。真実なのかもしれない」

 懐疑的な表情だった柳田もこう言い出した。やったか?

「だが、何でそんな情報を君が知っているのか、という事なんだが」

 柳田がナイスパスを出してくれる。それを今から説明しようとしていたのだ。

「神楽坂コンツェルンなら、私のおじいちゃんが筆頭株主ですから」

 俺が言うより早くそこで真由美が手を上げて言った。俺は横目でそれを睨むが、ここは仕方がない。真由美の発言がある方が明らかに信憑性が増す。それにここの部分だけが、この話の唯一の真実なのだ。

 橋本が頷く。

「真由美ちゃんのお祖父さんは、『川原電機』の会長なんだ。ちなみにここに元々あった研究施設とは、『川原電機』の施設さ」

 話がピンときていない柳田や増田、石橋の為に橋本は説明を加える。柳田が驚き、得心いった風に頷く。それだけ「川原電機」という言葉には信憑性があるという事だ。

 実際、「川原電機」なら、俺が今言った程度の装置等、簡単に作ってしまうだろう。世界にその名を轟かせる会社だからな。

 ちなみに神楽坂コンツェルンは「川原電機」の子会社である。

 ショッピングモールに秘密裏に設置とは話としてぶっ飛び過ぎて、厳しいとは思うが、それを鑑みてもまだお釣りがくる程には、真由美が「川原電機」の身内であるという情報は、パンチが効いている。

 研究施設が元々ここにあったというのも、当然真実であり、それを上手く利用出来そうだと思い、俺はこんな話を始めたのだ。

 吹き抜けや研究員の気分転換用のテラス等は真由美のアイディアだ。それが現在ショッピングモールに名残りとして残っている。

「『川原電機』か。なるほど、それで山之内君は『ハラペーニョ』の情報をその会長から聞いていたのか」

「まさか」

 とんでもないと俺は首を横に振る。

「そんな重大な秘密、いくら僕が超越探偵だからって、直接真由美のお祖父さまから教えて貰えるわけがありませんよ」

 実は、と俺は顛末を話し始める。

「先日、真由美の家に遊びに行って真由美や範人の家の居候、塔子ちゃんっていうんですけどね。その子と一緒にケイドロをやっていて、僕が泥棒役だった時にお祖父さまの金庫を暴いたんです。僕の中ではルパン的な泥棒設定でしたので、なるだけデカイ事をしたいと思いまして。そして、警察役の真由美がそれを手にして、『まさか、真の敵は、国家……』的な感じでケイドロ自体は最高に盛り上がったんですけど。まさかその情報がここで役立つ事になるとは」

「何とも壮大なケイドロだね」

 橋本が苦笑を浮かべる。勿論全て作り話であるが。

「さて、これで僕がデストロイコンピューター『ハラペーニョ』を知っているというその経緯、理解できたでしょうか」

「あ、ああ。よく分かった。すまない。何度も質問してしまって」

「いえいえ、確かににわかには信じがたい話ですからね。無理もありませんよ」 

 柳田もやりこめる事に成功した。

 真由美のじいさんが爆発的な大物だったおかげだ。

 百の嘘を成功させるには、その中に真実を一つ入れてあげればよい。一粒の真実は嘘を活性化する。

「犯人達も当然このショッピングモールに『ハラペーニョ』がある事を知っている事でしょう。でなければこんな小規模な都市のショッピングモールを天下の『ジャイロマニア』がターゲットにする筈がありません。ね、柳田さん」

「あ?あ、ああ、その通りだ。山之内君の言う通りだ。その通りだ」

 大きく頷く柳田。少しバツが悪そうな顔をしているが何故だ?ふふふ。

「だから、人質に何の意味もありません。一切無意味なんです」

 俺はばっさりと言い捨てる。何も知らないフリで犯人の意図を切り捨てる。

「人命は優先されるべきではありますが、問題がこのショッピングモールとなれば話は変わります。どれだけの被害が出ようが、ここの中枢にさえ打撃を与えられなければ、この国にとって何の問題もないに等しい。それ程重要なシステムがここに存在しているのです。どこで嗅ぎつけたかは分かりませんが、今回のこの事件、戦後史上最大の事件となるかもしれませんね」

 皆の息を呑む音が聞こえる。

「だから人質はブラフで、今まさに『ジャイロマニア』は『ハラペーニョ』を前面に出して警察と交渉している事でしょう」

 増田の視線が柳田や橋本へとキョロキョロと飛ぶ。それは「そうなんですか?大丈夫なんですか?」と訴えている様にも見える。

「あと、一応念の為にこれも考えておきますか」

 俺はとんとんと話を進める。

「それは何もかもが偶然だった場合です。これは万が一、億が一の確率なんですが。『ジャイロマニア』がこのショッピングモールを襲ったのは、ただの偶然で『ハラペーニョ』の事は知らなかった。まあ、そんな事はあり得ないんですが」

 まあ、これが事実なんだがな、「ハラペーニョ」なんてありませんから。

「あり得ないんですが、もしその場合……僕達が先に『ハラペーニョ』を押さえてしまうんです」

 最終的にもって行きたかった流れに話を落ち着けていく。

「その場所は、『ハラペーニョ』はどこなんだ、山之内君?」

 柳田が俺に喰らいついてくる。近いよ、もう。ていうかとうとう言い出したよ「ハラペーニョ」って。何言ってんの?それって食材の名前だぜ?俺のハッタリがいよいよ浸透してきた証拠だ。

 まあ場所は気になるよな。どこにあるのか?偶然そんなモノがある場所を現場に選んでしまった「ジャイロマニア」ならどう思う?なんとしてでも手に入れたいと思うわな。だが、ここで教えたんじゃ意味がない。言った途端、俺達が用済みになってしまうかもしれない。

「とりあえず上の階であろう、という事だけは分かっています。今の所、それだけです」

「それは何故だい?全て分かっている訳ではないのかい?」

 橋本が聞いてくる。

「先程、真由美のお祖父さまの金庫を暴いたと言いましたが、その場所に関しては全て暗号化されていて、このショッピングモール内という所までしか解読出来ていないんです」

 残念そうに、俺は答える。さあ、これならどうだ?

「あの暗号が解けるのは、日本でも僕程の探偵を置いて他にはいないでしょう。いや、僕にしか解けないと、言い切れます」

「……そうか」

 神妙な顔で俯く柳田。どうだ。これで俺達を泳がすしかなくなったな。俺の話を信用するならだけどね。なんとしてでも「生存」フラグを立たせるんだ。

「でも、その暗号だか?書類だかチラっと見ただけなんでしょ」

 軽い口調で増田がツッコんでくる。

「覚えてるの?覚えてなかったら用済みだよね」

 痛い所を突くなあ。ていうか「用済み」って何だよ?サラッと怖い事言うなよ。だが、そんな内心は見せない。俺は涼しい顔だ。

「ああ、それは僕には『シャッターアイ』がありますから」

 ……やむを得ん。新能力追加だ。

「『シャッターアイ』?」

「カメラのシャッターを押すように見た物を丸々記憶する能力です。記憶容量は30枠ですがね」

「すげーね君、ゲームみたいじゃん」

 増田が心底尊敬した視線を投げかけてくる。実はこれ某少年漫画で使われてたネタだけどね。

「というか少年漫画だな」

 ぎくり。石橋だ。だが、俺はそのまま続ける。

「その能力でいつでも僕は暗号を脳内に引き出せますので……」

 そして俺は全員を見回し、言った。 

「爆弾を探しながら、頭で暗号を解き明かし、『ハラペーニョ』も捜索する。それを同時に行いましょう」

 ここでとうとう俺は、この状況を支配する事に成功した。

 山之内劇場、一幕終了といったところか。

 命の抑止力だ。俺を殺すと後悔するぞ、と。俺を生かす価値を与えた。まあ、ハッタリだらけだったが、よくもこう口が回ったもんだ。

 何とか、なったのか、どうか。それは俺にも分からない。

 彩華との勝負の前、俺にはこの事態がどうしようもない事の様に思えた。

 中学生の妄想の様な事件。現実には何の力も持たない自分への憤り。探偵の必要な事件ではない、と事件の所為にもしていた。正直、自分には関わりの無い、ぐらいに思っていた。

 そこに彩華が来ての宣戦布告。

 この事件が、彩華が俺に用意したものだと分かった。中学二年生ではとうてい解決出来ない。俺にとっては弱点だらけ、畑違いだらけの不平等条約。だが、探偵としての舞台が用意されているのならば、上がるしかない。その時点で、動機付けが完成してしまった。何故なら、俺は超越探偵なのだから。

 気が付いたら、俺の震えは止まっていた。

 中学二年生の妄想で出来上がった様なこの状況を、なんとかする。

「ヒーローシナリオ」は無理だ。俺にはやはり、口から出まかせしかない。

「ハッタリシナリオ」で何とかしてみせる。


 ―――ハッタリの時間は始まっている。


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