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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
最終話 超越探偵の弱点
41/68

超越探偵の弱点③

 というわけで俺たちは三人でまず映画を観に行く事にした。そもそも範人は俺達を待っている間に映画を2本は観れたのだ。怒ってないとはいえ、こいつの意見を優先してやらないといくらなんでもあんまりだ。

 ショッピングモール内の映画館は五階に位置する。最上階は六階。六階には少し大きめのイベントホールが設置されていて、ミュージシャンがコンサートを開いたり、地域のイベントで使用されたりと用途は様々だ。

 五階にはエレベーターでサッと行けるのだが、真由美がこの建物の中心を貫いている吹き抜けが大好きなので、ゆっくりエスカレーターで上がる事にする。

「ああ、お兄様御覧下さい。もう一階の人達があんなに小さく見えますよ。おお、ゴマの様に……」

「ああ、本当にお前は吹き抜けが好きだな」

 こいつはこういう屋内に於ける開けた空間が好きなんだな。天井が開く車とかドーム球場とか。そもそもこのショッピングモールを吹き抜けにしたのも真由美だ。

「ここから身を乗り出したらと考えると……ああ」

「やめとけ」

 更になんちゃって破滅主義者な所がある。やってはいけない事をやりたがる。なのでカッターとか持たせたら心配でどうしようもない。生放送だと、脱ぎだしかねん。

「おお、ここだここだ。真由美、範人、行こうぜ」

 そして俺はかねがね範人が見たがっていた映画『ポシェットモンスター~暗殺の報酬~』のチケットを購入しようとチケット売り場へと足を進ませた……。

「おい、オレがいつアニメ映画を観たいなんて言った」

 と範人に襟首を掴まれる。

「いや、これ面白いって絶対。なあ観ようぜ」

「ダメだ。いや、アニメ映画を否定する訳ではないが、今回は別のヤツにしようぜ」

「ちぇ」

 4時間待たされても怒る事のない男だが、映画の選択にはこだわりがあるらしい。俺はしぶしぶ範人が推奨する映画のチケットを購入するのだった。

 範人の薦めた映画。それはなんて事のないアクション映画だった。

 ストーリ―も大味。ショッピングモールでテロに巻き込まれた主人公がその身一つでテロリスト達と対峙し、壊滅させるというまさに洋画!これぞ洋画!日本人よ、俺が洋画だ!と言わんばかりのシンプルなストーリーであった。

 ただ、内容は全然悪くは無かった。というか面白かった。何よりアクションが良い。主役の俳優はあまり見た事の無い若手を起用しているのだが、とにかく体が動く。キレが凄い。チーターの様なしなやかさと全身のバネを使って放たれる蹴りは芸術的とも言えた。勿論ワイヤーを使っているのだろうが、あの柔軟性、躍動感は俳優の素養によるものも要因として小さくはないだろう。

 格闘シーンでは常に俺の心臓は鳴りっぱなしだった。良質のアクションを堪能出来た。謎解きでないというのも個人的に嬉しかった。サスペンスやミステリー映画だと、始まって5分くらいで「犯人」が分かってしまうので、それ以上楽しむ気が失せるのだ。まあ範人は俺がそういうのが苦手だと知っているから、勿論そのへんも踏まえてのチョイスだろうが。

 映画館を出た瞬間、俺と真由美は思わず同時に溜息をついてしまった。

「いやあ……、良い映画だったな」

「ボク、ドキドキしましたよ」

「だろ?」

 そもそも範人はセンスが良い。こいつに薦められるものはどれもこれも質の高いものが多い。音楽にしろ小説にしろ漫画にしろ。

 ただ、センスは間違いなく良いのだが、当の本人に少し残念な部分がある。それだけだ。

「純粋なアクションであれだけ魅せられるってのはかなり高評価だな」

「そうですね。ストーリーはありきたりなのに、2時間持たせてるって凄いです」

「だろ、だろ?」

 ご満悦の範人。自分が薦めた物が認められたら嬉しいものだ。俺だって薦めたアニメが面白かったと言ってもらえたら天にも昇る気持ちになるからな。そいつの事を大好きになるし。逆に面白くなかったと言われたらそいつの事がゴミ虫に見えてきて、今後一生そいつと会話はしないと決定するしな。その点では記者のおっさんと俺の趣味は尽く合わない。だからあまり会話もしないわけだ。

「主人公のチミルフのあの回し蹴りがさあ」

「はい、最高に格好良かったです。あ、でもボクはヒロインのチャイコフの踵落としが凄かったです。180度以上足上がってましたよね」

「ああ、ありゃもう芸術だな。芸術」

 俺と真由美は格好良かったシーンを羅列しては盛り上がる。

 その様子をニコニコ笑いながら範人も会話に混ざる。

「トオル、じゃああの店内でのカーチェイスのシーンは、どうだった?」

「あれも良かったな。店内で150キロ出すなよって思ったけど。お約束だけどバナナの皮で転ばせる所とかさ、センスあるよ」

「だろ?だろ?オレこれでもう13回目だぜ」

「……」

「……」

 俺と真由美の動きが同時に止まる。

「……ん?どうしたよ。トオル。マユミちゃんまで変な顔して」

「お前、今何て言った?」

「『オレがいつアニメ映画を観たいなんて言った』?」

「それは2時間前だろうが」

 面白いボケをするな。

「お前、何13回も観てんだよ」

 4時間待った挙句13回観た映画を観る男。もうこの時点で俺にはまったく意味が分からない。

 流石に俺達の奇異を見る目に気が付いたのだろう。範人はバツが悪そうに頭を掻きながら弁解するのだった。

「ああ、確かにな!それはオレも思ってたんだ!流石に13回は縁起悪いかなって」

「そんな事言ってんじゃねえよ!13回とか44回とか94回の話をしてるんじゃなくて!観すぎだって言ってんだよ」

「あれ?ダメか?」

 きょとんとした顔の範人。何故俺と真由美が不審な顔をしているのか1パーセントも理解していない顔だ。残念だ。なんて残念なヤツなんだ。

「いや……、厳密に言えばダメな事はないんだがよ。お前『観たい映画』って言ったじゃねえか」

「だから『何度でも観たい映画』を選んだんじゃねえか」

「……」

 落ち着け俺。範人は元来こういうヤツじゃないか。器を広く持とう。たとえマイノリティでも認めてやらねば、な。こいつにはこいつの理由で何度も観る必要性があったんだ。自分と違うからって相手を認められないのは、クールじゃないぜ。というか俺だって「耳をすませば」はそれこそ50回以上は観てるわけだし。まあ、そういう事だよ。それと一緒だよ。

「まあでも、気持ちは分からんでもないがな。かなりのアクションだったし、動きが速くて目で追えないシーンとかあったもんな。もう一度観たくはなるかもな」

 俺が真摯な気持ちでそう言うと、範人はいやいやと軽く首を横に振り、俺の意見を否定しながら笑う。

「いや。途中1時間ぐらいの所で、主人公が5人組と戦闘になるシーンがあるだろう?その時の3人目の小太りの敵の喉仏に突きを放つ時『モシャス!』って言ってんだよね。オレそれが気になってさー」

「超絶どうでもいい!」

「やっぱり今日も『モシャス!』って言ってたよ。『モシャス!』って一体なんなんだろうな、トオル。な!トオルよ!な!?トオル!?」

「どうでもいいしウザい!!」

 全く、残念なヤツだった。


「じゃあ次は買い物ですね。お兄様」

「ああ、そうだな」 

 さあて、ようやく当初の目的だ。映画を観た所為で(!?)もう随分な時間になっているが、俺達は目的地へと歩き始めた。

 下りも勿論エスカレーターだ。吹き抜け好きの真由美姫が御所望だからな。

 こいつは外の風景とかも好きなんだが、そもそもこういう所の二階から上には窓がないからな。それって、何でなんだろうな。

「真由美、何でデパートやショッピングモールには窓がないんだ?」

 俺はその疑問を丸ごと真由美に訊ねる。

「陳列スペースの確保上、窓があっても結局意味がなかったり、商品が陽に焼けて変色してしまうのが嫌だったりってのは各店舗側の考えとしてはありますね。モール全体で言えば時間を忘れる空間造りとか。でも、一番の理由は建築費用削減の為です。窓を設置しなければその分建物が『箱』に近づくわけで、そうなれば作るのは簡単になるわけです」

 考え込む事もなくサラっと真由美が答える。

「でも、従業員のバックスペースには必ず窓を付けないといけないって決まりもあるんだよな?」

 たしかそれは防災上、だっけか?

「それでも、フードコートには窓がある所が多いですね。このショッピングモールは一階だから関係ないですけど。あ、でも三階のカフェなんかはテラス席が欲しいって要望があって、特別に作らせたんですよ」

「ふうん」

 流石に真由美は詳しいな。「作らせた」だってよ。俺も言ってみたいぜ。

 俺達の前を降りながら話を聞いていた範人が振り返り、明るい声で言った。

「二人とも何を社会科見学みたいな話をしてんだ?窓がないのは何故かって?決まっているだろう。テロリストが現れた時、逃げ場を無くして臨場感を盛り上げる為だろうが!それぐらいの縛りがあった方がヒーローも活躍し甲斐があるしな!!」

 映画の影響もあってか、こいつまで津村君みたいな事を言っている。まあ中学二年生なら誰しもが、ではあるか。

 俺達はエスカレーターで三階まで下りてきていた。

 三階には本屋がある。「木村書房」。ちなみにバッグが置いてあるのは二階の雑貨屋。

「お、範人。本屋寄ろうぜ」

「これこれ、マユミちゃんの事考えろよ」

 仁王像の様にこちらを睨んでいる真由美。う、怖い。だが、それでも俺は……。

「岩村俊哉先生の大傑作『電撃ドクターモアイくん』立ち読みしようぜ」

「乗った!」

 範人が店内へと走り出す。

「範平太君までー」

 何気に範人も本能に従うタイプである。

「ひゃっほーーー!!」

「ムッシュムラムラハゲトビーーーン!!」

 奇声を上げながら本屋に飛び込む俺と範人。ちなみに後者の叫び声が範人である。いるよね。リミッター超えると訳分からなくなるヤツ。

 俺達は隅にあるマンガコーナーへと直行する。

 結局真由美も俺達の後についてきて、小説を物色していた。

「お兄様、コレが面白いんです。ボクお薦めです」

 陳列されている中から一冊を取り出し、俺に渡す。

「どれどれ」

 俺は目を通す。

 ――(「犯人」)が今からする話はある犯罪者(「犯人」)の話である。(「犯人」)がその事件と出くわしたのは二年前……。

「……お前、これ、一文字目から犯人分かってんじゃん」

「へへへ。面白いでしょ?」

 こいつ……やっぱ怒ってんな。

 語り手が犯人の小説程俺の能力を忌まわしく思う事はないな。最後の最後で語り手が犯人だったと分かるから衝撃的なのに……。

 そんな真由美のプレッシャーもあって俺達は立ち読みもそこそこに、三階から二階へと降りてきた。


 そこはとうとう目的の雑貨屋。

 の隣。

「さあ、真由美、好きなのを選んでいいぞ」

「わあい、ありがとうございますお兄様。ボク幸せです」

 少女の様に嬉しそうに下着売り場に駆け込んでいく真由美。

 ぶん殴られた。

 下着だらけのフロアをゴロゴロ転がる俺。痛いし、恥ずかしい。

「本当にふざけないで下さいお兄様」

「ごめんなさい」

「ボクだから構わないだけですよ。もしボク以外の女の子にこんな下種な言動をしたら、即効牢屋に入れられますからね」

「ごめんなさい。牢屋は嫌です」

 下着売り場で正座させられ、恥ずかしいやら情けないやらでマジでシュンとなる俺。

 これからは真面目に生きる事を誓った。

「よし、じゃあバッグ買って帰るぞ。ところで、今何時なんだ?」

 俺は腕時計を見た。ちょうど6時になる所だった。





 そして、事件が起きた。


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