獏
物心がついた頃にはあたしはそこにいた。
「謎の組織」。
自分の素性等一切知りはしない。
どこで生まれ、
誰から生まれ、
何故ここにいるのか。
理由等、意味等、「必要ない」と言われて育った。
与えられた名前。
「小中野彩華」という現実に所属する為に必要な名前と、
「獏」という、組織で生きる為のコードネーム。
獏は神様が動物の半端物で作ったと言われている。だから他の動物を繋ぎ合わせたようなデザインなのだと。
あたしを組織が遊びで作ったのと同じ様に。だからお似合いの名前だ。
獏は夢を喰べると言われているが、そんな事はない。
夢を利用する。夢を見る人間を利用して、唆してあたしは組織の理念を全うする。
ただ、獏個人が夢を見るのかどうか、それだけが知りたい。
あたしは夢を見る事があるのだろうか。
出来るのだろうか。
犯罪行為を愛し、その装飾に命を賭せ。
その行為にのみ意味があると育てられた。
但し、そこに何の理由も、感情も、存在してはいけない。
愛憎、理念、損得で起こる犯罪に価値等ない。
組織の人間はその事を「不純物が混ざる」と呼んでいた。
「純粋なる犯罪行為の崇拝」
謎を用意して、探偵達を欺く。
探偵は美しい犯罪行為を暴こうと目論む野蛮人共だ。
彼らは直ぐに動機がどうだとか、凶器がどうだとか、犯人がどうだとか、犯罪に余計な添加物を引っ付けたがる。全くもって節操がない。
謎は謎のままに、死は死のままに、それが一番輝いている状態。
邪魔をするな。
だが、探偵には利用方法もある。
それだけ謎が好きな、謎解きが大好物な探偵がどうやっても、頭を捻らせても解けない事件。それこそが、現実では組織の理論に則った「理由なき事件」となるのだ。
ただ殺した。
ただ奪った。
そのなんと美しい事か。
犯罪は悪い事?わけが分からない。
「良い」「悪い」ではない。
犯罪は行為こそが全てなのだ。
善悪等入り込む隙間などない。
謎解き等入り込む隙間などない。
あたし等入り込む隙間などない。
理由のないあたしが、
存在のないあたしが、
事件に介入する事により、全ては「無」となる。
犯人も、
探偵も、
消滅する。
では……一体あたしは何なのだろうか。
あたしは何の為に生まれてきたのだろうか。
そう思っていた。
だが、見つかった。
見つかる筈がない。
理由等ない、動機等ない、関連性等ない、あたしの存在が、初めて見破られた。
少年探偵、山之内徹。
ヤツには……あたしが視える。
あたしはヤツに何を望む。何を夢見る。それは……。
超越探偵 山之内徹 最終話「超越探偵の弱点」




